Route 365 男と少女と車

堂場鬼院

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第2話 無謀なチャレンジ

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 二人を乗せた車はまっすぐな道を走っている。土のにおいはいよいよ濃くなり、カーラジオは切られ、代わりに少女のかしましい声が鳴っている。

「今日はほんといい天気よね。おじさんどこいくの?」

「マキラ州」

「へえ~、ずいぶん遠くまでいくのね。なんで?」

「お前には関係ない話だ」

「脱いでいい?」

「脱ぎたきゃ脱げ。車から放り出してやる」

 ぬかるみが、道路いっぱいに広がる場所まできた。4WDはガタガタ揺れながらも難なく進んでいく。

「お前はどこまでいくんだ」

「決めてないの。だからおじさんについてく」

「ばかいうな。家出娘か?」

「帰る家なんてないの、わたしには」

「家は一つじゃない。親と一緒に住んでた場所以外にもあったはずだ」

 ライカンがそういうと少女はムッとした表情になる。

「そんなこと訊いてどうすんの? それこそ『お前には関係ない話』よ」

「そういう口の利き方は気に入らないな。歳相応の話し方ってもんがあるだろう」

「はーあ」

 少女はぷいと窓の方に顔を向けて何も話さなくなった。ライカンはほっとして運転に集中した。

 しばらくいくと、ハリケーン「サマンサ」の爪痕が深いところにきた。道路が土砂で寸断され、バリケードが並んでいる。バリケードの先には、川の本流から溢れた水が支流となり、本来道路が走っていたところを横断するように流れている。賢い人間なら迂回することを考えるだろう。

「あ。あのトラックだ」

 前を向いた少女がいった。先にやり過ごしたあおり運転のトラックが、土砂にほぼ突っ込む形で止まっていた。あの様子では、前輪は支流に水没しているに違いない。いけると思ったのか。あまりに無謀なチャレンジだった。

「ここで待ってろよ。絶対に動くな」

「はーい」

 ライカンは車から降りると、トラックの前に一人佇む運転手の男に近づいた。

「あんた、なかなかのチャレンジャーだな」

 男が振り返った。髭面の肥えた男だった。

「だろ? いつもはいけるんだぜ? だがこいつはどうしたこった! うんともすんtもいわねえ」

「運がなかったな」

 ライカンはそういって煙草を差し出した。男はぷくぷく太った指でそれを挟むと、ライターで火をもらって口にくわえた。

「あんたいい奴だな。どこのモンだ」

「運び屋だよ。その辺の」

「俺も似たようなもんさ」

 二人で並んで煙草を吹かしながら、傾いたトラックに目を移す。

「ウインチで引っ張ってやるよ」

「そうか? だとしたらありがてえ」

「ただ、引っ張り上げた後が問題だ。支流は渡れないし、迂回するとなるとだいぶ引き返さないとな」

 ライカンの言葉に男はため息を吐いた。

「そうだな……ちぇっ、めんどくせえ」

「まずはワイヤーを取り付けよう」

 4WDの前部からワイヤロープを引き出し、トラックの後部に取り付ける。二台を結び付けるとライカンは運転席に戻った。

「降りてこないのはお利口さんだったな」

 少女は毛布にくるまったまま目を輝かせた。

「降りてってつば吐きかけた方がよかった?」

「長生きするよ、お前は」

 4WDはじんわりバックした。トラック前方がやや横滑りし、すぐに安定して後輪が道路に落ち着いた。

 支流から完全に引き上げ、ライカンは車を降りた。

「ありがとう。感謝するぜ」

 男が手を差し出したので、ライカンは握り返した。

「今度は慎重にいけよ。お互い、『サマンサ』から逃れたんだから」

「ああ、そうだな。肝に銘じるよ」

 二人は別れた。ワイヤロープを巻き戻し、ライカンも運転席に戻る。

「おじさんって不思議な人ね」

 支流を横に見ながら泥道を進んでいる途中、少女がいった。

「あんな嫌な奴なんか助けなくていいのに」

「確かにその通りだな」

「なんで助けたの? 見栄?」

「お前に見栄張ってどうする」

「じゃあどうして?」

「さあな。見て見ぬ振りができないってやつなのかもな」

「ふうん。じゃあおじさん、長生きできないね」

「長生きより大事なことはある」

 泥道をようやく抜けると、ガソリンスタンドが目に入った。敷地内にはコンビニも見える。

「ありがたい。ちょうどケツが痛くなってきたところだ」

「おじさん、痔なの?」

「黙ってりゃ可愛いだけなのにな、お前」

 砂利でガタガタの斜面を下り、道路を渡ってガソリンスタンドの敷地に入った。騒がしいBGMが大音量で流れている。ライカンは給油を終えた後、コンビニの駐車スペースに止めて外に出た。

「待ってろ。なんか着るもの買ってきてやるから」

「あるかな、服。可愛いのにしてね」

「贅沢いうな。適当に買ってくる」

「早く戻ってきてね、待ってるから」

 ライカンが車から降りると、風に乗って紙が一枚飛ばされてきた。足元にまとわりついてきたそれを、何気なく拾って読んでみる。

『バーミヤン州の皆さまへ 空き巣ならびにコンビニ強盗が多発しております 警察によるパトロールも行っておりますが十分にご注意ください バーミヤン州知事』

 災害に乗じた犯罪も多いこの世の中だ。世知辛いが仕方がない。

 ライカンは車に電子ロックを掛けると、コンビニへ向けて歩き始めた。
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