11 / 11
11.想像と違った新婚生活②★
しおりを挟む余計な時間を取られたせいで、私が帰宅したのはいつもより遅い時間だった。
仕方なく妻に先に夕食を済ませておいて欲しいという伝言を屋敷に届けさせていたから、私は一人で夕食をとり、湯あみを済ませると、すでに寝支度をしているはずの妻に声をかけに行く。
まだ仕事をしなければならないから、先に寝るように言うだけのつもりだった。
ところが、ベッドの脇のソファで寝巻きにガウンを羽織った彼女が本を読んでいるのを見た途端に気が変わってしまった。
寝支度をしているから、その柔らかくて長い髪は下ろされている。そして、私に気づいた彼女が微笑みかけてきた。
「旦那様! お帰りの時に、ちょうど湯あみをしていたのです。出迎えられず申し訳ありません」
「いや。夕食に遅れた私が悪い」
私がそう言うと彼女は、ふわふわとした邪気のない顔で笑う。
「私は父と一緒に食事をした経験がありません。いつも仕事や仲間たちとの会合だとかで帰りが遅くて。ですから、そんなに気に病まれる必要はないのです」
「そうか」
私はなぜか彼女の隣に腰かける。すぐに部屋を出て行かなくてはならないというのに。
そして何気なく彼女の手元を見た。
「……っ!」
彼女が読んでいたのはあの本だった。ちょうど男女がまぐわい合う絵が描かれたページが開かれている。
性行為をするだけの友人関係、とはいえ夫婦だからそんな定義が必要なのかは分からないが。とにかく、そのような関係だと割り切ってしまえば、その行為はただただ気持ちがいい。
いろいろと試している最中だが、彼女も楽しんでいるように見える。
そして、これまでその行為は、彼女が実家から持たされたという、その本に全てを頼っていると言ってもいい。私は心から妻の両親に感謝していた。
「またそれを読んでいたのか……」
「はい。いろいろ試してみたいのですけれど、まだ通常の体位しかしておりませんでしょう? 旦那様のご希望は? 私は他にもしてみたいことがあって」
妻はどこまでも無邪気だ。はしたないと言えなくもないが、私は気にならなかった。
それよりも、仕事をしようという意欲が削がれて行くのが問題だ。
「まだ私を夫として失格だと思うか?」
私は楽しそうに本をめくる彼女に思わずそう聞いてしまった。彼女は首をかしげながら私を見た。
「いいえ。だって政略結婚ですもの。もちろん愛があるほうが素敵ですけれど、人の心はままならないものでしょう? こうして夫婦らしい状況でいるのですから、これ以上は無理をなさる必要はありません。私は今の暮らしで満足していますから」
私は、「愛さなくてもいい」と言う彼女の言葉に救われてきた。
私は、初夜のあの日、妻となった女性に向き合おうと思っていた。
しかし、それをしてしまったら、自分の気持ちを殺してしまうような気がした。だから彼女をろくに見ることもできないまま逃げだしたのだ。
それなのに、結局は肉欲に負けて毎日妻を抱くようになった。ひどい夫だろうと思うのに、彼女はほんの少しも気にした様子を見せないし、はっきりと「このままでいいのだ」と言う。
こんな男に嫁がされなければ、妻は心から愛してくれる夫に出会えたかもしれない。
このファルケン公爵家は礼儀や所作にとにかく厳しいところだと、父の後妻である義母に連れられて、この屋敷で暮らすことになった姉はよく言っていた。
私はここで育ったので、その辺りの感覚がよく分からない。
もし、彼女がそういった苦労をしているのなら、それを取り除いてやりたいと思って私は彼女に聞いた。
「不自由はないか?」
彼女は首をかしげて少し考えた後、また微笑みながら言った。
「いいえ。皆親切ですし、お菓子も作ってくれますし」
「……それならばいい」
彼女が我が家に持ち込んだ菓子の数々は、どれも斬新で美味しい。仕事中の差し入れも最近の楽しみの一つではある。
だが、それよりも、今は別に欲しいものがある。
彼女の華奢な体を引き寄せて口づけると、彼女も私の首に、小さくて温かい手を回してすがるようにしてくる。
すっかり慣れた、舌を絡ませ合う口づけをし、彼女を裸にする。体中を好きに触ると甘い声が漏れてくる。
彼女の足の間に触れると、もう潤滑油を使わなくても大丈夫なほどに濡れていた。その様が欲望を膨らませる。
「旦那様……。今日こそしてみてもいいですか……?」
彼女は最近、私の男根を舌や手で刺激したがっている。
確かにあの本にもそういった場面が描かれている。しかし、そんなことをつい先日まで純潔だった彼女にさせてよいものだろうか。
私がそう言うと、彼女は悲しそうな顔をする。
「あの、いつも気持ちよくしていただいてばかりなので、私にもさせてください」
けなげな様子を見せる彼女の言葉に、私は思わずうなずいてしまった。
彼女は見た目は華奢ではかなげだ。しかし、意志が強く、非常に柔軟な考え方をする。多少しつこいが、それも含めて好ましいと思う。
私が自分自身を取り出すと、彼女は目を見張った。すでに十分な力を蓄えてしまっていたからだろう。
しかし、彼女はそれに躊躇を見せながらも触れてくる。何度か上下にしごかれると、簡単に快楽に襲われる。
彼女は私の顔を見て微笑むと、舌を伸ばしてきた。本にあるように舐め上げたかと思うと鈴口を吸われる。
初めてされるその行為に、欲望は高まり続けてしまう。
私のものをほおばるように口で刺激していた顔を、頬に触れて上げさせると、とろりと溶けたようなハシバミ色の瞳に出会った。
欲望を隠さない彼女は、口で私を搾り上げながら、それから顔を離す。
「旦那さま。気持ちいいですか?」
「……っ」
思わず、彼女を押し倒して、まだ何もしていない秘部に触れる。充分に濡れているように思えて、欲望が抑えられなくなる。
悪いと思いつつも、そのぬかるみに己を進めていく。彼女が顔を苦痛にゆがめたらやめようと思っていたものの、彼女は感じ入った声を上げながら私を呑み込む。
「あ、んんっ、はぁ、あっ、だんな、さまぁ」
「……気持ちいいか……?」
「はい、もっと奥にください……ああっ!」
私は理性を失って、思うままに腰を振り立て、彼女の中にきつく絞られて果てた。体中が熱かった。
首を引き寄せられて彼女に口づけをする。しばらくその感触を楽しんだ後に顔を離すと、彼女は眉を寄せていた。不満そうに見える。
「旦那さま、ひどいです」
私は彼女の意思を無視した真似をしてしまったかと思って謝ろうとした。しかし彼女は舌を伸ばして私の唇を舐めてから言った。
「他の体位を試そうと申し上げたでしょう? 途中で止めてくださると思いましたのに」
「……それなら問題ない。まだ終わらない。どうしたい?」
「え、あ、なんで、また大きく……?」
まだ彼女の中に入ったままの男根が再び力を持ったのに、彼女は戸惑っているようだ。しかし、これは彼女の言動のせいだ。
「どうして欲しい……?」
「では、後ろから入れていただきたいです!」
「……はっきり言い過ぎている気がするのだが」
「え? でも言わなければ伝わらないのではないでしょうか?」
(確かに……)
私は恥じらいを持たない彼女も嫌いではない。むしろこのような場面では好ましい。
「では、後ろを向いて膝をついてくれ」
彼女は微笑みながら言った通りの格好になると、「場所を間違えないでくださいませね?」などと言う。理性が飛ぶからやめて欲しい。
「少し口を閉じていてくれ」
「え? でも、もし……。あ、ん、入ってくる、んんっ」
私は本で読んだ通りに、彼女の細い腰をつかんで、己自身をその体に埋め込むと、どんどんと中に分け入った。
いつもとは違う角度で締めつけ、絡みついてくるそこに与えられる快楽に、思わず欲望を全てぶつけてしまいたくなる。
彼女も背を反らして喘いでいるから、悪くはないのだろう。
先ほどの反省を生かしてゆっくりと動いていると、振り向いた彼女に「もっとぉ」とねだられる。そこで、またしても理性が飛んだ。
彼女の膣内を余すところなく擦るように動いて、嬌声を上げさせて果てると、シーツに沈み込んだ彼女の腰を強引に持ち上げて、もう一度同じことを繰り返す。
彼女は「も、むり」などと言いながらも、中をうねらせてこちらを止まれなくする。
そうして私は、物足りないながらも、三回目に果てたところで、彼女を解放した。
少し二人で呼吸を整えた後、彼女は言った。
「旦那様、ひどいです」
「……先ほども同じことを言っていたな」
「そうでしたか? でも、私、自分の手で旦那様にもっと気持ちよくなっていただけるようにしようと思っていましたのに……」
「…………」
「私ばかり気持ちよくされてしまって、ひどい……んっ、ぁんむ?」
私は妻の口を唇でふさいだ。
あまり無理をさせるなと周囲から釘を刺されているから、三回だけで止めているのに。その苦しみを彼女は分かっていない。
しばらくそうしてから唇を離すと、彼女はぐったりとしている。確かに彼女はあまり体力がないから、無理はさせない方がよさそうだ。
彼女の隣に横たわってこのまま眠りに落ちようとしていると、おもむろに彼女が言った。
「夜会ではきちんと腕を組むのですよ、旦那様」
そうだった。彼女は私に愛している振りをするようにと言っていた。だがその程度のことは言われなくてもするつもりでいた。
彼女は「それから愛おしそうな目で見つめろ」だとか、「たまに耳元で何か話せ」と注文が尽きない。
「分かった……。それよりもその呼び方が問題では? 旦那様と外でも呼ぶのか?」
「え、あ……。では、何とお呼びいたしましょう。あなた……とかでしょうか」
「いいんじゃないか」
妻は「あなた……。あなた? あなた!」と何やら言い方の練習をしている。
少々変わってはいるが、媚びてくるばかりの令嬢たちよりはずっといい。
思わず「結婚相手がそなたでよかった」と言いかけ、私は我に返った。愛してもやれない相手に何を言おうとしていたのだろうか。
妻は「あなた……」と言い続けていたが、やがて、まぶたが重たそうな、眠気と戦う表情をしたと思ったら、彼女はすぐに寝た。
私もそれを確認するのとほぼ同時に眠気にあらがえなくなり、彼女と自分に掛け布をかぶせると、仕事のことなど忘れて眠りに落ちた。
3
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
【完結】離縁されたので実家には戻らずに自由にさせて貰います!
山葵
恋愛
「キリア、俺と離縁してくれ。ライラの御腹には俺の子が居る。産まれてくる子を庶子としたくない。お前に子供が授からなかったのも悪いのだ。慰謝料は払うから、離婚届にサインをして出て行ってくれ!」
夫のカイロは、自分の横にライラさんを座らせ、向かいに座る私に離婚届を差し出した。
婚約者が私のことをゴリラと言っていたので、距離を置くことにしました
相馬香子
恋愛
ある日、クローネは婚約者であるレアルと彼の友人たちの会話を盗み聞きしてしまう。
――男らしい? ゴリラ?
クローネに対するレアルの言葉にショックを受けた彼女は、レアルに絶交を突きつけるのだった。
デリカシーゼロ男と男装女子の織り成す、勘違い系ラブコメディです。
【完結】好きでもない私とは婚約解消してください
里音
恋愛
騎士団にいる彼はとても一途で誠実な人物だ。初恋で恋人だった幼なじみが家のために他家へ嫁いで行ってもまだ彼女を思い新たな恋人を作ることをしないと有名だ。私も憧れていた1人だった。
そんな彼との婚約が成立した。それは彼の行動で私が傷を負ったからだ。傷は残らないのに責任感からの婚約ではあるが、彼はプロポーズをしてくれた。その瞬間憧れが好きになっていた。
婚約して6ヶ月、接点のほとんどない2人だが少しずつ距離も縮まり幸せな日々を送っていた。と思っていたのに、彼の元恋人が離婚をして帰ってくる話を聞いて彼が私との婚約を「最悪だ」と後悔しているのを聞いてしまった。
追放された悪役令嬢は辺境にて隠し子を養育する
3ツ月 葵(ミツヅキ アオイ)
恋愛
婚約者である王太子からの突然の断罪!
それは自分の婚約者を奪おうとする義妹に嫉妬してイジメをしていたエステルを糾弾するものだった。
しかしこれは義妹に仕組まれた罠であったのだ。
味方のいないエステルは理不尽にも王城の敷地の端にある粗末な離れへと幽閉される。
「あぁ……。私は一生涯ここから出ることは叶わず、この場所で独り朽ち果ててしまうのね」
エステルは絶望の中で高い塀からのぞく狭い空を見上げた。
そこでの生活も数ヵ月が経って落ち着いてきた頃に突然の来訪者が。
「お姉様。ここから出してさし上げましょうか? そのかわり……」
義妹はエステルに悪魔の様な契約を押し付けようとしてくるのであった。
1度だけだ。これ以上、閨をともにするつもりは無いと旦那さまに告げられました。
尾道小町
恋愛
登場人物紹介
ヴィヴィアン・ジュード伯爵令嬢
17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。
ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。
シェーン・ロングベルク公爵 25歳
結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。
ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳
優秀でシェーンに、こき使われている。
コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳
ヴィヴィアンの幼馴染み。
アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳
シェーンの元婚約者。
ルーク・ダルシュール侯爵25歳
嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。
ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。
ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。
この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。
ジュリエット・スチール公爵令嬢18歳
ロミオ王太子殿下の婚約者。
ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳
私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。
一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。
正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?
あなたに嘘を一つ、つきました
小蝶
恋愛
ユカリナは夫ディランと政略結婚して5年がたつ。まだまだ戦乱の世にあるこの国の騎士である夫は、今日も戦地で命をかけて戦っているはずだった。彼が戦地に赴いて3年。まだ戦争は終わっていないが、勝利と言う戦況が見えてきたと噂される頃、夫は帰って来た。隣に可愛らしい女性をつれて。そして私には何も告げぬまま、3日後には結婚式を挙げた。第2夫人となったシェリーを寵愛する夫。だから、私は愛するあなたに嘘を一つ、つきました…
最後の方にしか主人公目線がない迷作となりました。読みづらかったらご指摘ください。今さらどうにもなりませんが、努力します(`・ω・́)ゞ
悪役令嬢の涙
拓海のり
恋愛
公爵令嬢グレイスは婚約者である王太子エドマンドに卒業パーティで婚約破棄される。王子の側には、癒しの魔法を使え聖女ではないかと噂される子爵家に引き取られたメアリ―がいた。13000字の短編です。他サイトにも投稿します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる