13 / 42
13.愛され妻を演じます!
私はようやく挨拶を終えて、旦那様と飲み物を飲んでいた。あまりお酒に強くない私はジュースをもらった。
旦那様は毎日寝酒を飲んでいるから知っていたけれど、お酒に強い。もう何杯もグラスを空にしている。
そして定期的に微笑み合い、旦那様が私の手を握ったりしてくれるおかげで、この夜会では仲睦まじい様子を見せつけることに成功しているようだった。
周囲からの視線も和らいだ気がする。
そんな中、疲れて少し気が抜けそうになるのを、必死で耐える。もうじき夜会も終わりの時間だった。
この時間になると、各所で若い友人同士などの集団が出来ている。私は結婚前からその仲間には入れなかった。
見知った令嬢たちを見つけたけれど、仲がよかったわけではない。彼女たちの視線を感じる。私の置かれた状況を羨み、悪口に花が咲いていることだろう。
私がちびちびとジュースを飲んでいると、旦那様が小声で「もう少し辛抱してくれ」と言ってきた。
何事かと思って旦那様の視線の先を追うと、ファルケン公爵、つまりは旦那様を頂点とする派閥の中で強い力を持つノルベル侯爵と、その娘であるアデライン嬢がこちらに向かってくるのが見えた。挨拶に来たのだろう。
ちなみにこの令嬢が、ほぼ確実にファルケン公爵夫人になるだろうと言われていた女性だ。アデライン嬢は私と同じ年で、豪奢な金色の髪を美しく結いあげている。とても華やかで羨ましい。
型通りの挨拶を交わすと、アデライン嬢が私には目もくれず旦那様に話しかけた。
「公爵閣下はどんな色も着こなされますのね。素敵です」
(つまり、私には似合っていないと言いたいわけね)
私は彼女とは何度も夜会やお茶会で顔を合わせている。とはいえ、派閥の末端に近い家の出身だから、直接会話をしたことはない。
彼女の取り巻きたちにからかわれるばかりだった。
私は旦那様の腕に手を絡めながら、こちらを見ようとしない彼女に声をかけた。
「わざわざ作っていただきましたの。私の瞳の色で。ねえ、あなた」
「当然だろう」
「ふふっ。ありがとうございます」
私に調子を合わせてくれる旦那様の微笑みもなかなか板についている。私も彼に微笑んでから、アデライン嬢を見る。
彼女の顔は一瞬険しくなった気がしたけれど、すぐに微笑みを浮かべたのはさすがだった。
「まあ。公爵夫人は大切にされておいでですのね」
「閣下、よいご縁だったようで、このノルベルも安心いたしました」
愛想笑いを浮かべてそう言ったノルベル侯爵は恰幅のいい男性だ。お父様よりも年上だろう。
その人は表情を読ませない瞳を私に向けたかと思うと、瞬時に旦那様に笑いかけ、別れの口上を述べると、娘を連れて去って行った。
(完全に値踏みをされていたわよね)
ノルベル侯爵の力は大きい。
とはいえ私が公爵夫人でいる限り、表立って私に何か言ったりはしないだろう。でも、感じはとっても悪かった。
それは令嬢の方も同じだ。これまで私のような弱小貴族の出身者に散々肩身の狭い思いをさせてくれた。
一瞬だったけど、そんな彼女に悔しそうな顔をさせられて、この場でなかったら拳を握って喜んでしまっていたと思う。
前世で読んだ小説の中のように悪役令嬢然とした人は現実にはまずいないけれど、彼女はなかなかその素質を持っていそうだった。
前世で売れない女優だった私は、舞台や映画のオーディションで、もしくは出演の決まった舞台のけいこ場で、セクハラやパワハラを受けていた。それを思い出してしまう。
その時は声を上げることが出来ず、それに甘んじていた。
この世界でも、初めは歳の近い令嬢たちに馴染もうと頑張った。けれど全て失敗した。
そして、おべっかばかりを言いたくなくて、最近は彼女やその取り巻きからは距離を置いていた。
それでも攻撃対象にはなるものだ。私は全く目立たない存在だったから、陰で笑われるくらいだったけど。
彼らが遠ざかると、また旦那様が耳元でささやいた。
「そなたは侯爵令嬢と面識が?」
「ええ。まあ。私が挨拶をしようと近づいても、取り巻きの令嬢方に嫌味を言われてしまって、お話をする機会もありませんでしたけれど。でも今日はとてもすっきりしました。公爵夫人を無視は出来ませんものね。初めて会話らしきものをしました」
「いい性格をしているな」
「ありがとうございます」
「褒めていないぞ」
「あら、褒め言葉でしたよ。昔から苦手だったのです。身分の低い相手にはどんな態度をとってもいいと思っていらっしゃるようで」
旦那様は「そなたは変わっているな」と言って笑う。
「嫌ですか?」
「別に構わない。どうせあちらからは文句は言えない。こちらの方が身分が上だからな」
「旦那様もいい性格をしておいでです」
「あなた、では?」
「あ……」
旦那様は小さく笑って、私を見おろした。やはり笑顔が眩しい。旦那様がいつもこんな笑顔でいる人だったら、簡単に恋に落ちてしまっていただろう。
帰りの馬車では旦那様も「疲れたな」といつもよりも砕けた態度だった。打ち解けるのはいいことだ。まだまだ本当の夫婦には程遠いけれど。
(違った。私たちは友達だった)
その晩、当然だけれども、私は疲れきっていた。だから私は、ベッドに横たわった時に伸びてきた手をつかんで、彼の体の横に戻した。
「今日は無理です。もう眠たくて」
「寝ていてもいい。好きにする」
「眠れるとは思いませんけど!」
「仕方がないな……」
旦那様は、がっかりしたような顔でため息をついている。
いくら、つい最近まで童貞だったとはいえ、少し元気過ぎはしないだろうか。おかげで私は毎日くたくただ。
寝ようとしていた私は、それで話は済んだと思って目を閉じかけた。
ところがベッドが揺れたかと思ったら、彼にキスをされていた。舌をからめとられて口の中を舐められると、彼の舌は出て行った。
「おやすみ」
旦那様はそう言うと、私とは逆の方に寝返りを打った。その広い背中が見える。
私はいささか混乱し、結局空が白むまで眠ることが出来なかった。
あなたにおすすめの小説
【完結】無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない
ベル
恋愛
旦那様とは政略結婚。
公爵家の次期当主であった旦那様と、領地の経営が悪化し、没落寸前の伯爵令嬢だった私。
旦那様と結婚したおかげで私の家は安定し、今では昔よりも裕福な暮らしができるようになりました。
そんな私は旦那様に感謝しています。
無口で何を考えているか分かりにくい方ですが、とてもお優しい方なのです。
そんな二人の日常を書いてみました。
お読みいただき本当にありがとうございますm(_ _)m
無事完結しました!
【完結】隣国のモフモフ騎士団長様、番ではない私でよろしいのですか?
こころ ゆい
恋愛
※最終話に、3/11加筆した分をアップしました。
※番外編書きたい気持ちがあるのですが、一旦、恋愛小説大賞の締め切りに合わせて、完結とさせて頂きます。🌱
※最後、急ぎ足で駆け抜けたので、説明不足や誤字脱字多くなっているかもしれません。都度見つけ次第、修正させて頂きます。申し訳ありません。💦
ジャスミン・リーフェント。二十歳。
歴史あるリーフェント公爵家の一人娘だが、
分厚い眼鏡に地味な装い、常に本を読んでいる変わり者。皆が自分のことをそう言っているのは知っていた。
モーリャント王国の王太子殿下、コーネル・モーリャントとの婚約が王命で決まってから十三年。王妃教育を終えても婚姻は進まず、宙ぶらりん状態。
そんな中、出席した舞踏会でいつも通り他の女性をエスコートする王太子殿下。
それだけならまだ良かったが、あろうことか王太子の連れた女性が事件を巻き起こす。その最中で言い渡された婚約破棄。
「....婚約破棄、お受けいたします」
そのあと、ジャスミンは一人旅に出てある人物と出会った。
これは、婚約破棄された女性が獣人国で知らぬうちに番と出会い、運命に翻弄されていく物語。
裏切られた令嬢は、30歳も年上の伯爵さまに嫁ぎましたが、白い結婚ですわ。
夏生 羽都
恋愛
王太子の婚約者で公爵令嬢でもあったローゼリアは敵対派閥の策略によって生家が没落してしまい、婚約も破棄されてしまう。家は子爵にまで落とされてしまうが、それは名ばかりの爵位で、実際には平民と変わらない生活を強いられていた。
辛い生活の中で母親のナタリーは体調を崩してしまい、ナタリーの実家がある隣国のエルランドへ行き、一家で亡命をしようと考えるのだが、安全に国を出るには貴族の身分を捨てなければいけない。しかし、ローゼリアを王太子の側妃にしたい国王が爵位を返す事を許さなかった。
側妃にはなりたくないが、自分がいては家族が国を出る事が出来ないと思ったローゼリアは、家族を出国させる為に30歳も年上である伯爵の元へ後妻として一人で嫁ぐ事を自分の意思で決めるのだった。
※作者独自の世界観によって創作された物語です。細かな設定やストーリー展開等が気になってしまうという方はブラウザバッグをお願い致します。
夫に顧みられない王妃は、人間をやめることにしました~もふもふ自由なセカンドライフを謳歌するつもりだったのに、何故かペットにされています!~
狭山ひびき
恋愛
もう耐えられない!
隣国から嫁いで五年。一度も国王である夫から関心を示されず白い結婚を続けていた王妃フィリエルはついに決断した。
わたし、もう王妃やめる!
政略結婚だから、ある程度の覚悟はしていた。けれども幼い日に淡い恋心を抱いて以来、ずっと片思いをしていた相手から冷たくされる日々に、フィリエルの心はもう限界に達していた。政略結婚である以上、王妃の意思で離婚はできない。しかしもうこれ以上、好きな人に無視される日々は送りたくないのだ。
離婚できないなら人間をやめるわ!
王妃で、そして隣国の王女であるフィリエルは、この先生きていてもきっと幸せにはなれないだろう。生まれた時から政治の駒。それがフィリエルの人生だ。ならばそんな「人生」を捨てて、人間以外として生きたほうがましだと、フィリエルは思った。
これからは自由気ままな「猫生」を送るのよ!
フィリエルは少し前に知り合いになった、「廃墟の塔の魔女」に頼み込み、猫の姿に変えてもらう。
よし!楽しいセカンドラウフのはじまりよ!――のはずが、何故か夫(国王)に拾われ、ペットにされてしまって……。
「ふふ、君はふわふわで可愛いなぁ」
やめてえ!そんなところ撫でないで~!
夫(人間)妻(猫)の奇妙な共同生活がはじまる――
王妃候補に選ばれましたが、全く興味の無い私は野次馬に徹しようと思います
真理亜
恋愛
ここセントール王国には一風変わった習慣がある。
それは王太子の婚約者、ひいては未来の王妃となるべく女性を決める際、何人かの選ばれし令嬢達を一同に集めて合宿のようなものを行い、合宿中の振る舞いや人間関係に対する対応などを見極めて判断を下すというものである。
要は選考試験のようなものだが、かといってこれといった課題を出されるという訳では無い。あくまでも令嬢達の普段の行動を観察し、記録し、判定を下すというシステムになっている。
そんな選ばれた令嬢達が集まる中、一人だけ場違いな令嬢が居た。彼女は他の候補者達の観察に徹しているのだ。どうしてそんなことをしているのかと尋ねられたその令嬢は、
「お構い無く。私は王妃の座なんか微塵も興味有りませんので。ここには野次馬として来ました」
と言い放ったのだった。
少し長くなって来たので短編から長編に変更しました。
目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです
MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。
しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。
フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。
クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。
ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。
番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。
ご感想ありがとうございます!!
誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。
小説家になろう様に掲載済みです。
悪女役らしく離婚を迫ろうとしたのに、夫の反応がおかしい
廻り
恋愛
第18回恋愛小説大賞にて奨励賞をいただきました。応援してくださりありがとうございました!
レジーナブックス様から書籍が4月下旬に発売されます!
王太子妃シャルロット20歳は、前世の記憶が蘇る。
ここは小説の世界で、シャルロットは王太子とヒロインの恋路を邪魔する『悪女役』。
『断罪される運命』から逃れたいが、夫は離婚に応じる気がない。
ならばと、シャルロットは別居を始める。
『夫が離婚に応じたくなる計画』を思いついたシャルロットは、それを実行することに。
夫がヒロインと出会うまで、タイムリミットは一年。
それまでに離婚に応じさせたいシャルロットと、なぜか様子がおかしい夫の話。
そのご寵愛、理由が分かりません
秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。
幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに——
「君との婚約はなかったことに」
卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り!
え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー!
領地に帰ってスローライフしよう!
そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて——
「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」
……は???
お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!?
刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり——
気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。
でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……?
夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー!
理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。
※毎朝6時、夕方18時更新!
※他のサイトにも掲載しています。