【完結】愛され妻は演技です 〜愛されない公爵夫人は「旦那様溺愛計画」を実行中〜

針沢ハリー

文字の大きさ
14 / 42

14.どこかに行った、溺愛計画


 「困ったわ。最近旦那様のノリがよくて……」

 私はその日、溺愛計画がうやむやになってしまっていると、ユリヤに反省の弁を述べた。

「初めから、そんなものはなさらなくてもよかったと言うことではないでしょうか」

「あら。あれがあったから、普通に会話が出来るようになったのよ」

 旦那様に頑張って接触し続けた結果、今では特に閨の方がとても楽しめている。少し旦那様がしつこいけれど、気持ちがいいので、まあいいだろう。
 溺愛計画の意味がなくなっているのは、目的を達成したということだろうか。

 とはいえ、夫という名のセフレが家にいるだけで、真新しい動きもなくてつまらない。
 私は、また趣味の芝居を見に行くことにしようと思いついた。

 前世で末端の女優だった私は、今の身分では絶対に女優になれない。だから芝居を見に行くことで、その欲求をごまかして暮らしていた。
 結婚後は忙しかったし、旦那様を愛しているお芝居をしていて楽しかったので、すっかり劇場から足が遠のいていた。

「そうだわ。せっかく旦那様と普通にお話ができるようになったのだから、お芝居を観に行きたいと頼んでみようかしら。旦那様がお忙しいなら、一人で行ってもいいし」

「そこは是非とも旦那様と一緒に行かれるべきですわ。奥様。しっかりお誘いするべきです。ご一緒したいと」

 ユリヤが妙に力強く言う。

(そうだったわ。外では愛され妻の演技を続けるのですもの。一人で行ったりしたら旦那様との関係が悪化したのではないかと疑われてしまうかもしれないわね)

「じゃあ、旦那様にお茶をお持ちしようかしら。お菓子もね。用意してちょうだい」

「かしこまりました。では他の者を呼んでまいります」

 私はメイドたちに化粧を直してもらうと、お仕事中の旦那様の元へ向かうべく立ち上がった。


 始めの頃は「邪魔だ」と追い払われていた旦那様の執務室へは、いつからだったか、出入りを制限されなくなった。
 今では旦那様は、お菓子を持って行くと一緒にお茶を飲んでくれる。お菓子目当てだろうけど。

 でも今日はいつもとは違った。どうやら旦那様の方から私に話があったらしい。

「夜会でそなたは自分が言ったことを覚えているか? 王太子ご夫妻についてだが」

「はい。妃殿下は、王太子殿下をずいぶん気になさっているようにお見受けいたしました」

 旦那様は頷くと、私が王宮に招かれているのだと言い出した。

「殿下は妃殿下との関係に悩んでおられる。夜会でそなたが言ったことをお伝えしたら、ぜひ妃殿下のお気持ちを聞き出して欲しいと仰せでな」

「お気持ちを聞き出す? 殿下を好いておいでかどうか確かめろと言うことでしょうか」

「そうだ。妃殿下は母国からお連れになった侍女にしか心を開かれないらしい。だが、いつまでもそれでは困るだろうと。そなたとは年も近いし、話し相手にちょうどいいと殿下はお考えのようだ」

「殿下がおっしゃっておいでならば、お断りは出来ませんね。でも、自信はありませんよ?」

「形だけでいい。とりあえず、近いうちにあちらからお茶会の招待があるはずだ」

「かしこまりました。出来るだけのことはしてみます」

 そう言いつつも、私は困っていた。前世でも恋愛経験はほぼないし、今世では恋愛経験がないどころか同年代の友人すらいない。
 でも、妃殿下もこの国にはご友人がいないらしい。私がうまく気持ちを聞き出せなかったとしても責められはしないだろう。

 話は終えたとばかりに、旦那様は私が持ってきた、ナッツや干しブドウをたくさん入れてもらったパウンドケーキを食べ始めた。これも前世の記憶をもとに再現してもらったお菓子だ。

 旦那様は食事もよく食べる。多分私の倍は食べている。だから、寝室であんなに元気なのだろうか。

 そろそろ夜の回数を減らして欲しい私は旦那様がケーキをもう一切れ取ろうとするのを、手を伸ばして遮った。

「旦那さま。最近、少々食べ過ぎなのでは?」

「……王宮で強制的に鍛えさせられているから大丈夫だ」

 それは初耳だ。でも以前、王太子殿下に付き合わされているとは言っていたかもしれない。
 旦那様は机に向かってばかりいるとは思えないような、とても筋肉質な体をしているから、相当鍛えているのだろう。

「ずるい。私は公爵家に来てからお菓子の食べ過ぎで太ってしまいましたのに」

「自分でも食べていたのか。私のためじゃなかったのか?」

 旦那様はからかうような顔で笑う。最近よく見られる笑顔だ。その美しすぎるお顔がまぶしい。

「笑顔が素敵です。もっと笑っていらしたらいいのに」

 私がそう言うと、旦那様は驚いたように目を見開いて、なぜか笑顔を引っ込めてしまった。そして、少し低い声で言った。

「前にもそう言ってくれた人がいた」

 そして、口を滑らせたというように、気まずそうな顔をする。

 私はその理由に思い当たった。
 最近すっかり忘れていたけれど、旦那様は「もう誰も愛さない」と新妻に言うほど愛した人が過去にいたのだ。いや、もしかしたら今も愛しているのかもしれない。

 私は、たまたま家令が席を外していて二人きりなのをいいことに、思い切って聞いてみた。
 責めるつもりも忘れろと言うつもりもないから、なるべく軽い口調を心掛ける。

「ああ、以前おっしゃっていた、かつて愛したという方ですか?」

「……どうにもならないこともある」

「分かります。私もこんなに愛する振りを頑張っているのに、旦那様から愛していただけませんもの」

(ん? 私は旦那様に愛して欲しかったのだったかしら)

 私は一瞬考えてしまったけれど、すぐに旦那様の笑い声が聞こえきて、慌ててそちらを見る。彼はまたあの笑顔で笑っている。

「楽しんでやっているだけのくせに」

「あら、それでもですよ。それに、恋らしきものはしています。ご自分のお顔は鏡でご覧になるでしょう?」

「それはそうだろう。何を言っているんだ」

「あら、やっぱりお分かりでないわ。そのお顔で微笑まれたら、ときめくくらいはするんです!」

 その美貌を褒められ慣れているはずの旦那様は、「そうか」と何やら得意そうな顔をして手招きをしてくる。
 私は向かいの席に座っていた彼の横に移動して、少し口をとがらせながら座る。からかわれているようなのが悔しい。

 そんな私に彼は「では、こうしたら?」と言いながらキスをしてきた。フニフニと唇を食まれる。
 彼は、面白そうな顔で笑っている。やっぱりからかっている。

「からかうと酷い目にあいますよ!?」

 私はやり返してやろうと、彼の唇にキスを返した。そしてその唇に舌を潜り込ませて、彼の口の中を舌でなぞる。
 気持ちがいいけれど、だんだん恥ずかしくなってきてやめる。

 私は立ち上がると彼の方を振り返らずに、すぐに執務室を出た。


 最後に見た彼の目元は欲望を宿しているかのように赤らんでいたと思う。
 やり過ぎただろうか。

 でも、こんな関係も悪くない気がする。友達以上恋人未満という感じで。すでに夫婦だけれども。

 私はまるで本当に恋をしているようで楽しかった。

 この時の私は知らなかった。この後、あんなことになるなんて。

感想 3

あなたにおすすめの小説

【完結】無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない

ベル
恋愛
旦那様とは政略結婚。 公爵家の次期当主であった旦那様と、領地の経営が悪化し、没落寸前の伯爵令嬢だった私。 旦那様と結婚したおかげで私の家は安定し、今では昔よりも裕福な暮らしができるようになりました。 そんな私は旦那様に感謝しています。 無口で何を考えているか分かりにくい方ですが、とてもお優しい方なのです。 そんな二人の日常を書いてみました。 お読みいただき本当にありがとうございますm(_ _)m 無事完結しました!

【完結】隣国のモフモフ騎士団長様、番ではない私でよろしいのですか?

こころ ゆい
恋愛
※最終話に、3/11加筆した分をアップしました。 ※番外編書きたい気持ちがあるのですが、一旦、恋愛小説大賞の締め切りに合わせて、完結とさせて頂きます。🌱 ※最後、急ぎ足で駆け抜けたので、説明不足や誤字脱字多くなっているかもしれません。都度見つけ次第、修正させて頂きます。申し訳ありません。💦 ジャスミン・リーフェント。二十歳。 歴史あるリーフェント公爵家の一人娘だが、 分厚い眼鏡に地味な装い、常に本を読んでいる変わり者。皆が自分のことをそう言っているのは知っていた。 モーリャント王国の王太子殿下、コーネル・モーリャントとの婚約が王命で決まってから十三年。王妃教育を終えても婚姻は進まず、宙ぶらりん状態。 そんな中、出席した舞踏会でいつも通り他の女性をエスコートする王太子殿下。 それだけならまだ良かったが、あろうことか王太子の連れた女性が事件を巻き起こす。その最中で言い渡された婚約破棄。 「....婚約破棄、お受けいたします」 そのあと、ジャスミンは一人旅に出てある人物と出会った。 これは、婚約破棄された女性が獣人国で知らぬうちに番と出会い、運命に翻弄されていく物語。

裏切られた令嬢は、30歳も年上の伯爵さまに嫁ぎましたが、白い結婚ですわ。

夏生 羽都
恋愛
王太子の婚約者で公爵令嬢でもあったローゼリアは敵対派閥の策略によって生家が没落してしまい、婚約も破棄されてしまう。家は子爵にまで落とされてしまうが、それは名ばかりの爵位で、実際には平民と変わらない生活を強いられていた。 辛い生活の中で母親のナタリーは体調を崩してしまい、ナタリーの実家がある隣国のエルランドへ行き、一家で亡命をしようと考えるのだが、安全に国を出るには貴族の身分を捨てなければいけない。しかし、ローゼリアを王太子の側妃にしたい国王が爵位を返す事を許さなかった。 側妃にはなりたくないが、自分がいては家族が国を出る事が出来ないと思ったローゼリアは、家族を出国させる為に30歳も年上である伯爵の元へ後妻として一人で嫁ぐ事を自分の意思で決めるのだった。 ※作者独自の世界観によって創作された物語です。細かな設定やストーリー展開等が気になってしまうという方はブラウザバッグをお願い致します。

夫に顧みられない王妃は、人間をやめることにしました~もふもふ自由なセカンドライフを謳歌するつもりだったのに、何故かペットにされています!~

狭山ひびき
恋愛
もう耐えられない! 隣国から嫁いで五年。一度も国王である夫から関心を示されず白い結婚を続けていた王妃フィリエルはついに決断した。 わたし、もう王妃やめる! 政略結婚だから、ある程度の覚悟はしていた。けれども幼い日に淡い恋心を抱いて以来、ずっと片思いをしていた相手から冷たくされる日々に、フィリエルの心はもう限界に達していた。政略結婚である以上、王妃の意思で離婚はできない。しかしもうこれ以上、好きな人に無視される日々は送りたくないのだ。 離婚できないなら人間をやめるわ! 王妃で、そして隣国の王女であるフィリエルは、この先生きていてもきっと幸せにはなれないだろう。生まれた時から政治の駒。それがフィリエルの人生だ。ならばそんな「人生」を捨てて、人間以外として生きたほうがましだと、フィリエルは思った。 これからは自由気ままな「猫生」を送るのよ! フィリエルは少し前に知り合いになった、「廃墟の塔の魔女」に頼み込み、猫の姿に変えてもらう。 よし!楽しいセカンドラウフのはじまりよ!――のはずが、何故か夫(国王)に拾われ、ペットにされてしまって……。 「ふふ、君はふわふわで可愛いなぁ」 やめてえ!そんなところ撫でないで~! 夫(人間)妻(猫)の奇妙な共同生活がはじまる――

王妃候補に選ばれましたが、全く興味の無い私は野次馬に徹しようと思います

真理亜
恋愛
 ここセントール王国には一風変わった習慣がある。  それは王太子の婚約者、ひいては未来の王妃となるべく女性を決める際、何人かの選ばれし令嬢達を一同に集めて合宿のようなものを行い、合宿中の振る舞いや人間関係に対する対応などを見極めて判断を下すというものである。  要は選考試験のようなものだが、かといってこれといった課題を出されるという訳では無い。あくまでも令嬢達の普段の行動を観察し、記録し、判定を下すというシステムになっている。  そんな選ばれた令嬢達が集まる中、一人だけ場違いな令嬢が居た。彼女は他の候補者達の観察に徹しているのだ。どうしてそんなことをしているのかと尋ねられたその令嬢は、 「お構い無く。私は王妃の座なんか微塵も興味有りませんので。ここには野次馬として来ました」  と言い放ったのだった。  少し長くなって来たので短編から長編に変更しました。

目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです

MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。 しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。 フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。 クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。 ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。 番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。 ご感想ありがとうございます!! 誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。 小説家になろう様に掲載済みです。

悪女役らしく離婚を迫ろうとしたのに、夫の反応がおかしい

廻り
恋愛
第18回恋愛小説大賞にて奨励賞をいただきました。応援してくださりありがとうございました! レジーナブックス様から書籍が4月下旬に発売されます!  王太子妃シャルロット20歳は、前世の記憶が蘇る。  ここは小説の世界で、シャルロットは王太子とヒロインの恋路を邪魔する『悪女役』。 『断罪される運命』から逃れたいが、夫は離婚に応じる気がない。  ならばと、シャルロットは別居を始める。 『夫が離婚に応じたくなる計画』を思いついたシャルロットは、それを実行することに。  夫がヒロインと出会うまで、タイムリミットは一年。  それまでに離婚に応じさせたいシャルロットと、なぜか様子がおかしい夫の話。

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。