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16.気まずいお茶会、かと思いきや①
王太子妃殿下とのお茶会の日は、空に薄くたなびく雲が美しい日だった。
私たちは思っていたよりも早い日程での招待に、準備に追われた。
とはいえ私はユリヤや他のメイドたちに任せてばかりだったので、生活にほとんど変わりはなかった。
私はいつの間にか作ってもらっていた大量のドレスの中から、落ち着いた青いドレスを選んだ。無難だと皆から勧められたからだ。お人柄も分からない方とお会いするのだから冒険は出来ない。
そもそも王太子妃殿下も王太子殿下から命じられて私と会うのだと思う。
あちらも乗り気ではないのだろうから、とにかく失礼だけはないようにしなければいけない。ずっと無言だったとしても、決して笑みを絶やすまいと私は心に決めていた。
王太子妃殿下からの招待状があるうえに、ファルケン公爵家の家紋が入った馬車に乗った私は、すんなりと王宮の門をくぐった。
旦那様も今は同じ王宮の中でお仕事中のはずだ。とはいえ、王宮はとにかく広い。バカでかい。
それ一棟でいったい何人が暮らせるのだろうと思うくらいの大きさの建物がいくつも連なっていて、それぞれに名前がついているらしい。私は聞いたことがないけれど。
とはいえ、招待状にあったので、王太子殿下たちが住む建物の名前は覚えた。黒曜石の館と呼ばれているらしい。
王宮はとにかく敷地が広いので、そのお屋敷までは、そのまま馬車での移動になる。王宮の表側は比較的厳めしい様子の建物が多い。
けれど、奥に進むにしたがって、庭園が見えてくる。
そして、様々な年代に建てられたのだろう様式の異なる建物が、広い間隔をあけて点在する区域に入り込む。王族たちの住まいなのだろう。
貴族たちが王宮に部屋を与えられることもあると聞くけれど、そんなこととは関係のない家で生まれ育ったから、私にはよく分からない。
私は馬車止めで馬車から降りて屋敷の中に案内された。その立派な調度で飾られた廊下を歩く。
女主人が外国の方だから、住まいにもその片鱗が見えそうなものだけど、雰囲気も飾られている物も全てこの国のものだ。少し意外だった。
妃殿下は思ったよりも肩身の狭い思いをしているのではないかと、ふと思う。
妃殿下はお国から連れてきた、妃殿下と雰囲気の似ている侍女たちを連れて姿を現した。
侍女は皆、無表情だ。妃殿下のお顔も、このお茶会を楽しみにしているようにはとても見えない。
「本当にいらしたのね」
「ご招待、感謝いたします」
(ご自分の感情はともかく、招待主が言う台詞ではないわね。きっと王太子殿下に言われて、嫌々招待状を出されたのだわ)
妃殿下は黒髪と黒い瞳が神秘的な、冷たさを感じるほどの美しい女性だ。
噂には聞いていたけれど、きつい物言いをされる方だった。内心ビクつくのは致し方ないと思う。
私は精一杯、淑女を演じた。母の友人たちを思い出し、余裕のある貴婦人に見えるように微笑みを浮かべる。
私はお茶会が行われるという庭に案内された。
そこには、太い木々の枝に日除けの布が張り渡され、テーブルセットが用意されていた。
温室や庇の下ならばともかく、完全に外でのお茶会はこの国では聞かない。妃殿下のお国の習慣だろうか。
室内よりも人目が少なくなるのが少し怖い。
(もし虐められたら、それはそれで異世界小説っぽいと思いましょう! いや、それでも怖い物は怖いわ。嫌なことをされたら旦那様に言いつけてもいいのかしら)
席に着くと香り高いお茶が目の前に置かれる。
お茶菓子も見慣れないものが多いけれど、とても美味しそうだ。果物を使ったお菓子が多い。「これも妃殿下のお国の……」と思ったところで、急に妃殿下が侍女を下がらせた。
私は、自分から声をかけるわけにもいかず、妃殿下よりも先にお茶に手を付けるわけにもいかなかった。
ただじっと座っているしかない沈黙の時間が流れた。
ところが、侍女たちが離れた場所にある日除けの中に入り、近くに人がいなくなると、妃殿下は急にそわそわと落ち着きをなくす。
人嫌いとも聞いているから、知らない人間と二人きりになるのが嫌なのだろうか。
(だったら、なぜ人払いをしたのかしら……)
私がそんなことを思っていると、急に妃殿下が話し出した。先ほどよりも声が優しい気がした。
「殿下とファルケン公爵が友人同士だから、私もその夫人と懇意にして欲しいと言われたの。ご迷惑でしょうけれど、お付き合いいただくしかないわ」
私は迷惑ではないと、とても丁寧な言葉で、貴婦人の演技で安心させるように言ってみた。
妃殿下は迷惑なのかもしれないけれど、私はいろいろやらかしてお友達を作れなかっただけだ。前世の記憶を取り戻した後の自分のはしゃぎっぷりが恨めしい。
だから、友達が欲しくないわけではない。
「私を嫌っておいでではないの……?」
「殿下……? あの、私は何か失礼をいたしましたでしょうか? 私は殿下を嫌ってなどおりません」
(嫌うほど知りませんので。怯えてはいますけど)
妃殿下は瞬きを何度かすると、頬を染めてこちらを見てくる。その様子はとても可愛らしかった。
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