【完結】愛され妻は演技です 〜愛されない公爵夫人は「旦那様溺愛計画」を実行中〜

針沢ハリー

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19.不思議な存在①


 この日私は王宮で御前会議に出席していた。
 国王陛下を中心に、各部署の役職者が集められている。これは定期的に開催されるものであり、今回に関しては急ぎの議題があるわけではない。

 宰相や副宰相たちは国王陛下のすぐそばの一段低い席に並んで座っている。彼らに垂直になるように長テーブルが置かれ、私たち一介の役職者が席についているわけだ。

 私の位は国務副大臣にすぎないが、家格のせいで、いつも国王の近くの席に座ることになる。すると、珍しくある人物と目が合った。

 私と次の宰相の地位を争っていると言われるドラスゴー公爵だ。

 彼は三人いる副宰相のうちの一人であるため、国王陛下の一段下の席に座っている。だから、私が陛下の方向を向くと自然と彼が視界に入ってしまう。

 私と彼は話すことすらめったにないのだが、互いの派閥に属する貴族たちは仲が悪い。
 自分たちが担ぎ上げる人間と宰相の座を奪い合うことになるだろう相手に好意を持てと言う方がおかしいのだと父にはよく言われていたものだ。

 私は彼と意見を異にするだけで、彼に対する敵対意識は持っていない。

 だが派閥同士が対立関係にあるのだから、私個人の意見は求められていないのだろう。


 これは私の曽祖父の代から、ドラスゴー公爵家と我が家が宰相の地位を争ってきたせいであるが、他の家が宰相を輩出しなかったわけではない。

 現に、前宰相であった私の父が死んだ後は、その時の副宰相の一人がその地位を得た。だが彼には周囲を動かせるだけの派閥がない。暫定的な人事だった。

 ドラスゴー公爵は非常に強固に領地の拡大を主張する男だ。戦いを厭わず、軍事費を増やせとよく言っている。

 私はこの国は今は内政に力を入れるべきだと思っている。王太子も同じだ。
 だから私は王太子が国王に即位した時のために自分の派閥を維持しなければならない。

 少しでも高みを目指さなければならないと言う思いは、それを呪文のように唱えていた父が死んでからも、私の中に居すわっている。


 やがて御前会議が終わると、派閥の集まりとなる。
 ノルベル侯爵他、いくつかの家が御前会議に出席していたので、それに合わせて他の家の者たちも集まる。

 父の時代からの習慣であり、私は廃止してもいいと思っている。しかし、派閥内の結束を、と言われればむげに出来ずにいた。

 とは言え、特に実りのある話し合いがされているのはほとんど見かけない。いくつかの家が派閥内の主導権争いで鞘当てをしているだけだ。

 その中心にいるのはノルベル侯爵だ。その彼に追従する家がいくつかある。
 派閥同士でも派閥内でも、なぜそうも争えるのか分からない。

 そんな中、義父のルドラー伯爵はいつものように隅の方で腕を組んでいる。彼は決して偉ぶったりはしない実直な人物だ。だからこそ私は彼の娘との縁組を受け入れた。

 妻となった女性とは形ばかりの夫婦でいればいいという気持ちだったが、今ではそうとも言えない。彼女は私にとって、今までにない存在なのだ。


 私は声の大きいノルベル侯爵らを冷静に見つめる。一歩引いて見るのを忘れるなと言ったのも父だ。味方と敵は表裏一体な場合が多々ある。それを見極めなければならない。

 私は頃合いを見計らって、この会の解散を命じた。

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