【完結】愛され妻は演技です 〜愛されない公爵夫人は「旦那様溺愛計画」を実行中〜

針沢ハリー

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28.素敵な企みは、ぜひ異世界展開に!


 表面上は、ただただ和やかに三人でお茶を飲みつつ、私はメレディス様とドラスゴー公爵夫人の話に耳を傾けていた。

 何でも、公爵夫人のお母様がメレディス様と同じ国の出身で、お二人は親戚だったらしい。そういえば、メレディス様も先ほど、そのようなことを言っていた。

 それにしても、ドラスゴー公爵家はファルケン公爵家の政敵なのに、一緒にお茶をしていてもいいのだろうか。
 こういう場合の身の処し方を知らない、弱小伯爵家出身なのがつらいところだ。


 二人は私と夫人の出会いの場である劇場について話し出していた。

「ミレニアも夫人も劇場にいらっしゃったのね。私も行ってみたいわ」

「あら、妃殿下。それは王太子殿下にお願いされるとよろしいわ。ご一緒に行ったら楽しそうではないですか」

「でも、殿下はいつもお忙しくて。最近子供と家族の時間を過ごしてくださっているのに、これ以上は……」

「殿下のご都合がつかなかったら、私がご一緒させていただきます。そうだわ。その時はファルケン公爵夫人もいらしたらよろしいわ」

 急にこちらに話が振られて、心臓が変な音を立てる。

「ええ。ぜひ」

 そうとしか言いようがないので、私は微笑みながらそう答えたけれど、きっと実現はしないのではないだろうか。

(いったい何が起きるというのかしら……。最悪の場合は逃げ出せば……。でも、クライドがいる場所までたどり着ける気がしないわ)

 私が王宮内の道や建物を思い浮かべていると、ドラスゴー公爵夫人が話し始める。

「我が国にいらっしゃった妃殿下のお力になりたいと思いつつ、私も身重になってしまいまして。しかも、今回は起き上がれない期間が長く、たまにお手紙をやり取りしていただけだったのです。でも先日、ミレニア様とのお茶会についてお手紙で書いていらしたので、お話ししてみたいと思っておりましたのよ。あら。お名前を呼ぶのは失礼でしたわね」

「いえ、お気になさらずに。ミレニアとお呼びください」

「ありがとうございます。お話ししたかったのですけれど、劇場ではそんな時間もございませんでしたし、私たちが公の場で話せることなど、たかが知れているでしょう?」

「ええ、まあ。そうですわね」

 私は本当に相槌を打つのにさえ怯えていた。彼女が自分の名前を名乗らなかったのは、ただ忘れているだけだろうか。

 もしかしたら、ファルケン公爵家の方が家格が上なので、私が彼女を名前で呼ぶのは失礼に当たらないのかもしれない。
 無事に帰れたら誰かに聞こう。

「妃殿下はミレニア様の物怖じしない性格に感心しておいでだったの」

「お恥ずかしいです。失礼な態度をとってしまいまして」

 何かあったら旦那様に押し付けようと思っていただけだったのに、変に褒められている気がする。
 メレディス様は「ミレニア。失礼ではなかったわ。あなたのおかげで私は自分の間違いに気づけたのですもの」と微笑んで下さる。

 でも、夫人の意図が分からなくて、とてもいたたまれないし、どんどん怖くなってくる。
 とはいえ、怖がっていても何にもならないので、本当に褒められたのだと思い込むことにして、今日の目的を聞いてみる。

 物怖じしないと思われているのなら、今更怒られはしなそうだ。あれが嫌味でなかったら。

「今日は、その、どのような理由があってこちらに……?」

 ドラスゴー公爵夫人は私の言葉に、楽しそうに笑いながら言った。

「私は伝書鳩なのですわ」

「伝書鳩……? それは、どういう……」

 私が戸惑っていると分厚い封筒がテーブルの上に置かれた。私のカップのすぐ横に。

「あの。これは……?」

「ファルケン公爵からは何もお聞きではないのね?」

「はあ……。何も……」

「大切にされておいでね。でも、もう少し知らせてもいいように思いますけれど」

 私は、クライドはいつも言葉が足りないと思っていた。
 とはいえ、そういう人なのは仕方がないし、あのお美しい顔に免じていろいろと目をつぶって差し上げている。
 でも、それにも限度がある。

「ドラスゴー公爵夫人、お教えくださいませんか。もし私にも関係があるのなら」

「多少はあるのではないかしら。でも、ご夫君はミレニア様を巻き込まずに解決なさろうとしているようですから。無理に知る必要はないように思いますけれど」

(自分から話を振っておいて? それはあんまりではないかしら。本当に何を考えているのか分からない方ね)

「夫の考えは知りませんが、私は知りたいと思っております。教えてくださいませ」

 ドラスゴー公爵夫人はにっこりと微笑むと話し出した。
 最近の国王陛下の発言や、亡くなったクライドのお父様である、前宰相の考えを説明される。
 私は罠の可能性も考慮して、話半分で聞いていた。でもそんな私に、彼女は笑いながら言う。

「お信じになれない? 時間が経てばお分かりになると思いますけれど、私たちの家は、世間で思われているよりもずっと深い繋がりを持っておりますのよ?」

「……信じるための根拠をお教えいただけるでしょうか」

「言葉で言うのは難しいの。ですから、本日はきちんと証人に居ていただいておりますでしょう?」

 私は、小さくうなずくメレディス様を見た。確かに、メレディス様が私に罠を仕掛ける理由はない気がする。

「分かりました。ここからは、きちんとお聞きします」

「……聞いていた以上に面白い方だこと……」

 そう言って笑う彼女から、最近のクライドを取り巻く状況や、しようとしていることを聞く。

 そして私は気づいた。

(それって……。アレではないかしら。よく小説であった……)

 あるキーワードが私の脳裏で光り輝く。そして、小説で読んだいくつかのそういった場面が頭の中を駆け巡った。
 私はすっかり怖さなんて忘れ去って、いくつかのパターンを思い描いていた。

 そんな素晴らしいイベントから私を排除しようとしていたクライドには、罰として私の思い描くシナリオに、しっかりと巻き込まれていただこう。

「あの。一つお願いがあるのですが……」

 私はドラスゴー公爵夫人にとあるお願いをした。
 夫人は無言で聞いていたけれど、その横ではメレディス様が驚いたように目を見開いている。

「それは……。何か楽しいことをお考えね? お任せくださいませ。では、その書類はファルケン公爵にお渡しくださいね」

 ドラスゴー公爵夫人は、私のお願いを聞き入れてくれると、にっこりと微笑んだ。

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