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31.楽しくないお茶会は、最高の舞台です!①
私はノルベル侯爵家のアデライン嬢に招待されて、派閥内の夫人や令嬢たちが集まるお茶会にやってきた。
私はかつての「弱小伯爵家の地味令嬢」の演技中である。
ファルケン公爵家に嫁いで夜会での態度が大きくなっていたのに、隣に夫である公爵本人がいなくて自信を無くしている年若い女、を目指している。
しかし、これはさほど難しくはない。
社交界にデビューした直後にはしゃぎすぎ、場違いな振る舞いをして周りをドン引きさせた後、馴染めなくて所在なげにしていたかつての自分そのものと言えるからだ。
思い出したら悲しくなったので、それはもう忘れよう。
ファルケン公爵夫人という肩書きは、派閥の令嬢や夫人が集まる中で一番格上である。臣下の中で最上位の家なのだからこれは誰にも動かせない。
だから、私が案内された席は一番いい席だったけれど、会を開いたノルベル侯爵家のアデライン嬢は私に簡単に出席の礼を述べた後は私を無視している。会話の中心は彼女と彼女の母親の侯爵夫人である。
私はずっと下を向いていた。それが彼女たちが期待していた私の姿のはずだ。きっとアデライン嬢やそれに加担している方々は私を見て楽しそうに笑っているのだろう。
顔を上げて周りを見渡せないのが残念だ。
「そういえば、ファルケン公爵夫人。最近公爵家はずいぶんと殺伐としたご様子だとか」
「……何のお話ですかしら……?」
私は、王太子妃のメレディス様とのお茶会の席で、ドラスゴー公爵夫人にお願いした。それが実行に移されて、しかも目論見通りにしっかりとアデライン嬢たちの都合のいいように解釈されているのを知って、内心で笑いをこらえる。
私はドラスゴー公爵夫人に「ファルケン公爵夫妻不仲説」を流してもらったのだ。
それと国王陛下の退位の可能性を考え併せてノルベル侯爵はクライドに働きかけてきた。
そして今、私の後釜に座ろうとするアデライン嬢が私をお茶会でいびろうとしている、はずである。
ご本人ではなく、周りの楽しそうな声が聞こえる。
「やはり、ファルケン公爵家ほどの家に嫁ぐとなると大変でしたでしょう? ご実家の家格を考えますと。ねえ」
「公爵閣下と並んで見劣りのしないようになさるのにもご苦労が多かったのでは? まあ、どんなに努力をしたところで……」
私は想定内の台詞に多少のダメージを受けつつも、しっかり演技を続けた。いや、ダメージを負えば負うほど真実味が増すだろう。
私の顔は自然に下を向いてしまうから……!
「ファルケン公爵夫人は、ご自分でお茶会を開かれませんのね。私どもは、ご招待をお待ちしておりましたのに」
「公爵閣下のためを思えば、派閥内の結束を固めようと、妻としても行動なさるのではないでしょうか」
「それが出来る方が公爵夫人になられればよろしかったのに」
「公爵閣下もお考えをお持ちなのでは?」
「私だったら自ら身を引きますわ。あまりにも恥ずかしくて」
私はこういった社交の場では、昔から、ここまであからさまではないにしろ、いろいろな陰口を言われていた。
それに何を言われるかは想像がついていたので、ダメージは負うものの、これっぽっちも気にしていない。
でも、女優魂に火がつくくらいにはイライラさせていただいた。
私は持っていたカップを、手を振るわせながらソーサーに戻した。ガシャンと音が鳴る。
そして、何も言葉を発しないまま、ハラハラと涙を流した。
涙を流すのは特技だ。前世で女優をしていた時も、練習するまでもなく、あまりにも自由自在に涙を流せたので自分でも驚いたくらいだ。
それが今の体でも同じだったのは幸いだった。先日練習をしようとして気づいたのだけど。
「まあ。どうされましたの? ファルケン公爵夫人」
そう言ったのはアデライン嬢だ。私は「哀れで身の程知らずな女」の演技で彼女を見た。
アデライン嬢は戸惑った声を出していたものの、その顔はとても満足そうだった。そして言った。
「今までお気づきではなかったのでしょうか。口に出していないだけで、皆思っていたでしょう。なんと釣り合わないお二人かと」
私は立ち上がると、「なぜ、そんな酷いことをおっしゃるのですか!?」と周りが驚くほどの声量で言った。
それが合図だった。
急に部屋の外が騒がしくなり、クライド、さらには王太子殿下と妃殿下が兵士を連れて入ってきた。
この家の家人はどうしてよいのか分からないようで、オロオロと動き回っている。
私はアデライン嬢を見た。目と口を見開いている。彼女のそんな間抜けな顔は初めてみた。他の夫人や令嬢方も同じ表情だ。
でも、本当の見せ場はここからなのだ。クライドには特訓の成果を見せていただこう。
「ミレニア!!」
再び嘘の涙を流す私に、クライドが必死な形相で走り寄って来て、抱きしめてくる。
「愛するミレニア。いったい何があった?」
彼は周りを睨みつける。
もちろんこちらも演技だ。昨夜何度も練習をさせた。少し台詞が棒読みだけれども、彼のそんな様子を初めて見た人たちは驚いているので、合格点を差し上げよう。
メレディス様もやや早歩きでやってきた。
「お邪魔するわ。なぜ私の大切なお友達が泣いているのかしら」
この台詞は私発案のもと、「お友達と申し上げてもいいかしら」と可愛らしく言うメレディス様がアレンジを加えて下さったものだ。
彼女はもともと冷静な物言いをされる方なので、普段通りに言っていただいている。とっても自然だ。
ちなみに王太子殿下にも台詞はあったものの、少し声に出してもらったら演技のセンスが皆無だったので、妃殿下に味方するように彼女の腰を抱きながら立っていてもらうだけにした。美男美女なので、それだけで見応えがある。
演技とは知らない皆様は大変混乱している。
ある人は深々と淑女の礼をし、アデライン嬢はまだ口を開いたまま固まっていた。
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