【完結】愛され妻は演技です 〜愛されない公爵夫人は「旦那様溺愛計画」を実行中〜

針沢ハリー

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40.(終)ありきたりなハッピーエンド


 当代のファルケン公爵の第一子である、元気な女の子が生まれてきてくれたのは、冬の足音が近づいてきた頃のことだった。

 それから五か月近くが経ったけれど、まだ寒さが残っているので、私と小さな娘が過ごす部屋の暖炉の中では赤々とした炎が燃えている。

 実家からついてきてくれたメイドのユリヤは「お母様になられたのですから、少しは落ち着いてくださいませ」とやや口うるさい。

 基本的に乳母任せの子育てで、私は主に遊び担当だ。だから落ち着くもなにもないと思うのに、一体何を注意されているのかよく分からない。

 まだ赤ちゃんだから、グルグル振り回したりは当然していない。
 せいぜい、自由に動けなくて暇そうなので、目の前でおもちゃを振りまくっているくらいなのに。


 そして、クライドは想像していた時よりもずっと子煩悩だった。朝も夜も、時間があれば私たちと一緒にいる。

 アマンダと名付けた娘は、髪はクライドと同じ金色で、瞳は私と同じハシバミ色だ。
 この色の組み合わせには、小説の主人公にもなり得そうな華やかさを感じる。

 あとは顔がなるべくクライドに寄ってくれたらいいと、こっそりと思っている。自分に似ていたら、それはそれで可愛く思うのだろうけど。

「アマンダはあまり泣かないな」

 娘を慣れた手つきで抱きながらクライドが言う。

 始めは娘を抱かせると「どうやって動いたら……」と固まっていた彼を思い出すと笑ってしまいそうになるけれど、今ではもう立派なお父様だ。

 乳母やメイド達も、アマンダはあまり泣かないし、育てやすい子だと言う。
 私もそうだったらしく、私が生まれた頃の様子を母達から聞いているユリヤは、「アマンダ様は奥様に性格が似ておいでなのかもしれませんね」などと言う。
 それは、少し心配だと私は思った。

 けれど、よく考えたら、前世の記憶を思い出すまでは、私はそこまで変わってはいなかったと思う。
 貴族の令嬢らしい趣味よりも外遊びが好きで、お母様にはよくお小言を言われていたけれど。


 ちなみに、王太子殿下とメレディス様の二人目のお子様は男の子だった。

「メレディス様と、子供たちが幼馴染になったら将来的に結婚もあり得ますね、なんてお手紙で盛り上がっていて」

 私がアマンダに微笑みかけながら、そんな微笑ましい話をすると、クライドが眉を跳ね上げる。

「王室に嫁がせる!? それはだめだ。苦労はさせたくない」

 私は本当に気楽に言ったのだけど、彼は今から真剣に娘の結婚相手について考えているらしい。

「そういえば、ドラスゴー公爵家のお子様たちとも年が近いですね」

「そちらこそ認められないな。両家で手を組んで王家に刃向かう気かと疑われるだろう」

「ああ。なるほど」

「いや、そうでなくても、よほどアマンダに見合う者でなければ……」

 気が早すぎることを考え込み始めた彼の眉間にしわが寄っている。
 気になってしまって、私がついついそのしわをのばしていたら、アマンダを抱いたままの彼にキスをされる。
 軽く唇が触れ合っただけなのに、とっても幸せな気持ちになる。


 娘を抱きながら微笑む彼を見ていると、こんなありきたりなハッピーエンドも悪くないと思えてくる。

 これは今の私にとっての現実だから、この先、子供のことで悩んだり、クライドと喧嘩をしたりもするのだろう。
 でも、それはそれで楽しみだ。

 そして何よりも、夫の地位や立場を考えれば、またそのうち、小説の世界のような楽しいことが巻き起こるのではないかなんて、少しだけ期待をしてしまっている。


 娘を抱いているクライドが、声を低めて言った。

「ミレニア」

「どうかしましたか?」

「アマンダが寝てしまった」

「あら。なんて可愛いのかしら」

「寝顔がそなたによく似ている」

「ええっ! クライドに似ていますよ?」

 私たちは一緒にアマンダの寝顔をのぞき込む。
 私には、この可愛らしさはクライドにそっくりだとしか思えない。

 視線を感じて顔を上げると、彼と目が合って微笑まれた、と思ったらいつものように彼の顔が近づいてくる。
 私たちは、間にいる娘を起こさないように注意しながら、何度も小さなキスをした。

 とはいえ、アマンダを少し押しつぶす形になってしまって、少しむずがりだした彼女を慌てて揺かごに寝かせる。
 アマンダは、起きることなく、そのまま眠っていてくれた。私はほっとして、彼女を布で包むようにする。

 その時、私はいいことを思いついた。眠っている娘の頬を軽く撫でると夫を見上げる。

「クライド。私が以前お話ししたのを覚えておいでですか? この先何をしていきたいか。私はあの時は、何も考えつかなかったのですけど」

「ああ。何か思いついたのか?」

「私はこの幸せな時間がずっと続くように生きていこうと決めました」

 クライドは「ははっ」と声を立てて笑った。

「それはいい考えだと思う。私もそうしよう」

「ええ。お願いします!」

 とはいえ、今の私にできることは限られる。
 突然何かが起こっても、家族が幸せでいられるために必要なことが何かを考えて、私はある覚悟を決めた。

「そうとなれば、私はもっとお勉強をしないといけません。領地経営は最低限しか教わりませんでした。お勉強はそんなに得意ではないですけれど、楽しくなるような勉強方法を考えます! 何があっても、私が何とかしますから」

「そうか。頼もしいな」

「そうでしょう? あ、クライドも楽しめることを見つけて下さいませね」

「それは、もう見つけてしまったと思う」

 彼が穏やかに微笑んで、娘と私を交互に見る。私はとても嬉しくなった。

 そして、もう何度目か分からないキスを、愛する夫と交わしたのだった。




              終わり



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針沢
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