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1.大嫌いな婚約者
しおりを挟むイザベラは不機嫌だった。目の前に大嫌いな婚約者がいるからだ。
侍女によって繊細に編まれて垂らされた金色の髪が肩にかかるのが煩わしい。
イザベラはそれを肩から弾き落とした。
彼のこともそうやって視界に入らないように出来ればいいのにと、切実に思う。
ノグリーダ帝国皇帝の第一子であり、正妃の一人娘であるイザベラは、数ヶ月後に結婚を控えている。
三年の婚約期間をおいて降嫁する皇女の伴侶となるのは、ユペール侯爵家嫡男のフェルナンドだ。
彼は文官として王宮で役職についている。
イザベラよりも五歳年上で、この年二十三歳になった。
フェルナンドは銀色の髪に緑の瞳を持つ美男子だが、イザベラの好みではない。
イザベラは騎士のようなたくましい男性を好ましく思っているのだ。
「相変わらず、あなたは頼り甲斐のない見た目をしているわね」
優雅にお茶に口をつける彼に、イザベラが唐突に声を掛けるのはいつものことだった。
身分上、彼の方から声を掛けることは基本的にできない。皇女が特別に許しを与えない限りは。
そしてイザベラがそれを許したことはこれまでにない。
「ご心配なさらずとも、初夜の寝室で殿下を抱き抱えられる程度の力はございますよ」
「なっ……っ!!」
「それをご心配になったのでは?」
「違うわ! あなたのような文官ではなくて、武官の方が結婚相手だったらよかったのにと思ったのよ!」
フェルナンドは音を立てずにカップを置くと、いつものように穏やかに微笑みながら答える。
「残念ながら、武官の家柄で、殿下と同年代で、家格が釣り合う独身の者は現在おりませんね」
「知っているわ! それくらいっ」
「ご同情申し上げます」
イザベラはフェルナンドと話しているといちいち神経を逆撫でされる。
声を荒げるなんて淑女としてあるまじき振る舞いだ。とても子どもっぽく見えるだろうことはイザベラにも分かっている。
そして、自分はただの淑女ではなく、皇帝の娘なのだという矜持も持ち合わせている。
それなのに、彼と話しているとそのような大切なことさえ忘れてしまうのが、また腹立たしいのだ。
イザベラは立ち上がりながら言った。もう彼と同じ部屋にいたくない。顔も見ていたくない。
「もう、あなたとはお話ししたくないわ。お帰りいただける?」
「ですが、本日こそ殿下のお部屋の内装を決めていただきませんと」
彼はテーブルから離れてひっそりと立っていた二人の人物にちらりと視線を向けた。
二人はユペール侯爵家の人間だ。
イザベラとフェルナンドの会話に顔色を無くしながらも、無表情を貫いている。
イザベラと視線を合わせられる身分ではない二人は床を見つめて立っていた。
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