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マリアーナは運命に逆らう
8.二度目の初夜②★
しおりを挟むマリアーナは必死で自分の体を制御しようとした。でも、初夜を迎える恐ろしさに手の震えが止まらない。
情けないところを見せたくなくて、胸の前で両手をぎゅっと握りしめる。
そんなマリアーナを見て、彼は不思議そうに首をかしげた。
「どうした?」
マリアーナは何か変わるかと思って「痛いのは嫌……」と言った。少しだけでいいから、ゆっくりしてもらえるだろうか。
彼は眉を上げると、少し身を引いた。小声で「処女なんだな……」とつぶやくのが聞こえる。
「あ、当たり前だわ! あなたは今とても失礼な発言をしたのだと分かっていらっしゃるの!?」
思わずいつもの調子で答えてしまったのに気づいたけれど、もう遅い。気分を害したら、記憶にあるよりも酷くされるかもしれないのに。
謝ろうとしたその瞬間、彼が楽しそうに笑った。
彼のそんな澄んだ声を聞くのは初めてだった。
「手の震えは止まったな。起きろ。ここへ」
彼は自分の膝を叩いている。
気づくと彼に言われた通り手の震えは止まっていた。大きな声を出したからだろうか。
笑顔のままでいる彼は、先ほどより恐ろしくない。
おずおずと近づくと力強い手に引き寄せられた。そして太ももをなでられる。
「俺の膝を跨げ。そう。そのまま……」
膝立ちになっていると、大きな手に腰を支えられて、首すじに何か温かいものが触れた。
それが彼の唇だと気づいた時には寝巻きのリボンが解かれ、肌があらわになっていた。
慌ててそれをかき合わせようと手を動かすと、不満そうな声が聞こえる。
「何をしている? その手は俺の肩でもつかんでいろ」
「え、あの、なんで……?」
マリアーナは本当に戸惑っていた。あの記憶の中では、抵抗するマリアーナは、忌々しそうに睨まれながら、いきなり貫かれた。彼に触れられたのは、大きく開かされた足だけだった。
それで事足りるのだ。子種を胎に注ぐだけならば。
「あのな、あんたが痛くするなと言ったんだろう? 黙ってつかまっていろ」
「あ、でも、んんっ」
マリアーナは彼が着ているガウンに必死につかまって、胸に触れられ、腰をなでられるのに耐えた。
痛みではないけれど、むずがゆいその感触に体は揺れる。
「んっ……、ふっ」
「……おい、驚くなよ? 広げないとな」
「え? あっ、やぁ!」
足の間の秘部を彼の大きな手で、なでるように触れられて、体がまた恐怖を思い出す。
その時に何かが体内に入ってきた。痛くはないけれど、知らない感覚に目をきつく閉じる。やはり怖いものは怖い。
「ん、なにっ……?」
「指で広げるだけだ。痛くならないように」
「ゆび……? あ、ん、ふっ」
彼は何度もマリアーナの中を指でこする。次第に水音がしてきて、マリアーナは慌てた。
粗相をしたのかと思ったのだ。
「あ、だめっ、私、粗相をっ」
マリアーナは涙さえ浮かべて彼の腕の中から逃れようとしているのに、彼はまた楽しそうに笑った。
「これでいい。ここは濡れていないと痛いんだ。指を増やしても平気そうだな? 痛いか」
彼はまたマリアーナの肌のあちこちに触れて、あのおかしな感覚をたくさん与えてくる。
始めは指の本数を増やされて痛みを感じたけれど、それも次第に気にならなくなる。
「んっ……あぁっ」
「あんた……。ああ、これは情緒がないってやつか? 俺はあんたを何と呼べばいい?」
マリアーナは始め、何を言われているのか分からなかった。
「呼ぶ……?」
「もうあんたは王女じゃない。王妃と呼ばれたいか?」
マリアーナは王妃になった実感を持っていなかったし、何よりも頭が働いていなかった。「マリアーナ」としか答えられなかった。他には何も思いつかない。
「名を呼ばせる……? それは、意外だな」
彼はそう言いながらもマリアーナに触れて、痺れるように甘い感覚を与えてくる。
「では、あんたも俺をアルベルトと呼べ。陛下なんて呼ばれるのは堅苦しい席だけでいい」
「あ、ある、べるとっ、もう足が……」
マリアーナは彼の首につかまりながら膝立ちをしている。でも、それが辛くなってきていた。
ところが、そこに彼の男根があてがわれた瞬間、あの時の痛みを思い出して、足が震える。
無様な様子は見せまいと思っているのに「怖い」とつぶやいてしまった。
でも、「大丈夫だ。もう充分にほぐれている」と言われながら、首筋や胸に口づけを落とされる。
その行為に、また体があの甘い痺れを拾った。
「自分で腰を下ろせ。痛ければ一度止めればいい。自分でした方が怖くないだろ?」
マリアーナは他の方法を知らない。彼に言われるままに恐々と腰を下ろした。
先ほどとは比べ物にならないような質量が体の中に入ってくる。
初めは入り口に痛みが走ったけれど、胸をいじられながら「そのままだ。先を入れてしまった方が楽だと思うぞ」と言われて耐えた。
「っ、あ、はぁ、」
一度入ってしまうと、確かにそれ以上痛くはならなかった。
揺さぶられて、わけが分からないうちに彼が唸った。中に子種が注がれたのだと気づいたのは、彼が動きを止めたからだ。
そこで、これは子を作るための作業だったのだと思い出した。
でも、何か別のもののような気がしてしまった。あの記憶とはあまりにも違いすぎたから。
その温かさと、肌の触れ合いになぜか涙が出そうになる。きっと、あの恐ろしい記憶のようにならなかった安堵の涙なのだろうとマリアーナは思った。
やがて二人で横になると、大きな体が覆い被さってきた。彼から、やけに大きな心臓の音が聞こえる。鼓動がとても速い。
そして、自分も同じだった。息をするので精一杯だ。
呼吸が整うと彼は起き上がって、脱ぎ捨てていたガウンを手に取った。
あの記憶の中では、初夜の後、彼はすぐに寝室から出て行った。
今日もそうなのだろう。
そう思った瞬間、マリアーナは彼のガウンをつかんで引き止めていた。
彼は驚いたような顔でこちらを見ている。
一人きりになれば、明日には殺されるかもしれない。
もし、あれが彼が命じたものでなければ分からないけれど、マリアーナが今まさに従順な態度をとったことで、彼がこちらをすぐに処分する必要はなくなったのではないだろうか。
しかし、一方で、他の人がさせたことならば、あの危険は常に付きまとうことになる。
「一人にしないで……」
「……誘われるとは思わなかったな……」
彼はそう言うと、またマリアーナの肌に触れる。
マリアーナは、まだそばに誰かがいてくれるのに安心して、もう恐ろしさを感じなくなった、彼の筋肉で覆われた首に縋りついた。
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