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あなたと一緒に夢をみる
53.大きな夢の先
しおりを挟むマリアーナはアルベルトに連れられて、少し前まで大勢の貴族やマリアーナの家族が囚われていた塔に向かっていた。
三つある塔のうち、一番大きいものの屋上から見られる景色が素晴らしいのだと聞いて、何気なく「行ってみたい」と言ったらアルベルトが翌日には時間を作ってくれたのだ。
「前を歩け。落ちてきたら受け止めてやる」
「大丈夫でしょう。まだ歩きづらいと言うほどではありませんもの」
マリアーナは階段を一段一段踏みしめながら進む。
以前に来た時とは、まるで気分が違う。あの時は目隠しをされていた。不安で仕方がなかった。
でも今は、すぐ後ろにアルベルトがいてくれるから、何も怖いことはない。
やがて階段が途切れ、ホールのような場所に出た。
扉を開けてもらって外に出ると、そこには、王宮やその周りの林や森、庭園、そして、そのさらに向こうの街を含む景色が広がっていた。
澄みわたった青空が天高くどこまでも続いている。
マリアーナはこの王宮で生まれ育ったのに、こんなに素敵な場所があるだなんて知らなかった。
屋上は凹凸になった石の壁で囲まれていた。壁の凹んだ場所に近づいて、そこからアルベルトと二人でその景色を見る。
マリアーナは分厚い上着を着ているのに、さらにアルベルトの上着にも包まれている。
後ろから彼に抱きしめられているのだが、なぜか上着を開いた彼に、その中に閉じ込められて、自由に動けなくされてしまったのだ。
アルベルトが腕をまっすぐ伸ばして地平線の向こうを指差す。
「この向こうにはベランク王国がある」
彼はその場で、腕の中にいるマリアーナごと、くるくると一周回る間に、周辺国の名前を全て挙げていった。
このエイノール王国が内陸の、周囲を多くの国に囲まれた国だというのがよく分かる。
マリアーナも、彼の上着から腕を出して、ある方角を指差した。
「ご存知? あちらにずっと行くと、その先には海があって、海を渡ると、その向こうにはベランクよりももっと大きな国があるのですって」
「ほう。面白そうだな。行ってみたいか?」
あまりに現実味がなくて、マリアーナはクスクスと笑う。
「私たちが海まで行くのには他国を通らなければいけないわ。海にたどり着けるかも分からないと思いますけど」
「夢は見たっていいだろう?」
彼は少年のような顔で言う。
「孤児同然の傭兵が、国王になったんだぞ? 実現が不可能なことなんて、この世にはないと思わないか?」
「ええ……。そうね」
マリアーナが出していた腕は話している間に、また彼の上着の中にしまわれてしまっていた。
マリアーナは彼の行動に微笑みながら、自分も彼と同じ夢を見たいと思った。
「そうね。きっと実現できるわ」
そう言って彼と微笑み合う。
後ろから抱きしめられているので、振り返ってばかりで少し首が痛いと訴えたら、前から抱きしめられて、口づけられる。
でも、二人とも毛皮でできた大きな帽子を被っていたので、それがぶつかってしまった。
ずれた帽子を直してもらっていると、扉の方からマウリに呼ばれる。そろそろ戻る時間だ。
マリアーナの体が冷えるのを心配したアルベルトが、あらかじめ時間が来たら知らせるように彼に言っていたのだ。
もう戻ろうと歩き出したマリアーナに、彼は言った。
「ベランクは海に面しているな」
「え……?」
彼は不敵な笑みを浮かべていた。無邪気そうなのに、野心的なその顔に胸が高鳴る。
「まさか……。ベランク王国を……?」
「そうすれば海に行けるぞ」
「……さも、今思いついたかのようにおっしゃるけど、まさか、ずっと前から……?」
「何の話だ」
「だとしたら、急にベランク語の読み書きを教えろと言った意味が分かるわ……」
彼は入り口に向かって歩きながら、前を向いて微笑んでいる。
マリアーナは彼の夢の大きさに少し呆れた。でも彼ならやり遂げるかもしれないとも思う。
そんな夢を見られたら、きっと楽しいのだろう。
「いつか海を見ましょうね」
「海の向こうにも行きたい」
「ええ。それも素敵だわ」
マリアーナは階段を下りる間も彼と夢を語り合った。
実現可能な夢も、どうなるか分からない夢も、全てに価値がある気がする。
「一緒に行ける場所には、私も絶対に連れて行ってくださいませね?」
「連れて行く。どこへでも。戦場にもだ」
マリアーナはまた笑ってしまった。彼が冗談を言っているのかと思ったからだ。
でも、その表情はとても真っ直ぐで、そして、優しげに微笑んでいた。
マリアーナはその顔を見て、何があってもこの先の人生は彼と同じ、壮大な夢を見てみようと心に決めた。
非力で何の才能もない自分だけど、それでも一歩ずつ進んでいけばいい。置いていかれそうになったら、少し急がなくてはいけないだろうけど。
スカートが邪魔で、階段を下りるのに少し遅れてしまったマリアーナの前にアルベルトの手が差し出された。
彼はこちらの様子を気にしていてくれて、待っていてくれた。
マリアーナは、急ぐのをやめて、彼と手をしっかりと握り合ったのだった。
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