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あなたと一緒に夢をみる
54.(終)交わしたかった言葉
しおりを挟む塔の外には、一緒に塔から出たマウリ以外の三人の姿があった。
アークラが「雪が降りそうなので、そろそろお戻りになるように伝えにきたのですが」と、早く王宮内の暖かい部屋へ戻ろうと言って歩き出す。
マリアーナはそれを聞いて心が躍った。
「雪が降ったら素敵だわ。昔から、部屋の中から見るだけで……。ずっと触ってみたかったの」
「だめだ。今回も部屋の中から見てくれ」
「本当に……? でも、子どもの頃から、ずっと、雪に触ってみたいと思っていて……」
「体が心配だ……」
そう言ったアルベルトが立ち止まって、マリアーナはまた抱きしめられてしまう。
四人以外にも人がいる通路でのことで、マリアーナは少し恥ずかしかった。
すると、マウリの叫び声が辺りに響いた。
「あ~~! 暑い暑い! 暑苦しい! そんなに雪に触りたきゃ、アルベルトが室内に持ってってやればいいだろ!?」
「なるほど……。マウリ、珍しく頭が冴えているな? そうしよう。今回はそれで我慢してくれ、マリアーナ」
「珍しくはねーだろ! むかつくな! 言いつけてやる」
マウリが誰に何を言いつけるのか不思議に思っていると、彼は微笑みを浮かべていたエンシオに向かって言った。
「おい、エンシオ。アルベルトのやつ、戦場へも王妃様を連れて行くとか言ってたぞ!」
それを聞いたエンシオの笑いが瞬時に消える。
「……は? あんな間抜けに刺されかけといて、何言ってんの? 言ったよね。そのお姫様がいると、あんたはおかしくなるって」
その横ではブラントが大きく頷いている。「夜に一人で馬で駆け出したりね」と、マリアーナにも思い当たる発言をする。
エンシオの怒りは治らないようで、どこ吹く風と涼しい顔をしたアルベルトに向かって言う。
「気が散るんだって分かってんだから、王宮に置いて行った方がいいんだよ! だいたい迷惑だろ。素人に野営をさせるとか、しんどいだけだろうが!」
確かにマリアーナも、生活面はともかく、戦う兵士たちの邪魔はしたくない。アルベルトを見上げながら、彼に言う。
「アルベルト。そういった時は、お役にも立てませんし、私は王宮におります。お帰りを待っていますから」
「それはだめだ。大切なものは身につけておかないと……」
「え……?」
彼に抱きしめられたまま、彼の言う意味を完全にはつかみかねて、周りに助けを求めようとした。
でも、周りの四人の視線はアルベルトに集中している。何とも言えない笑顔だ。
「あの、どういう意味か……」
「あんたの代わりはいないから。失くしたら困るものは近くにおいておく」
マリアーナは顔から火が出るかと思った。
彼が傭兵時代の癖だと言って、やり取りしていた手紙すら持ち歩いていたのを思い出してしまったのだ。
「あの、持ち運べる物と、人間の私とでは大きさが違って……。同じように考えるのはよくないと思うのですけれど」
アルベルトにはそれで納得して、「戦場には連れて行かない」と言って欲しかったのに、微笑むだけで何も言ってくれない。
エンシオは「馬鹿じゃないの?」と呆れ声で、マウリは「しばらく放っておくぞ」と言って歩き出す。
ブラントもそれに続いて「今は何を言っても無駄だね」と言い、アークラは「まあ、よかったですよ。アルベルトが愛する人を見つけられたんだから」と、マリアーナが恥ずかしくなることを口にしながら、ゆっくりと歩き出した。
マリアーナはアルベルトに抱きしめられたまま、去って行く四人の背中を見ていた。
アークラはああ言ったけれど、アルベルトからもはっきりと言われたことはないし、自分からも、「愛している」と言えたことがない。
試しに「……愛してくださっているの……?」と聞いてみるけれど、アルベルトは何も言わない。
でも構わない。そういう人だと知っているし、大切に思ってくれているのは分かっている。
でも、マリアーナは自分からは伝えておこうと思った。彼にはきちんと知っておいて欲しかった。
「私は愛しています。あなたのことを。誰よりも」
彼の体が揺れて、抱きしめられる腕に力が入ったのが分かった。それと同時に、彼がゆっくりと体を離した。
「帽子を取ってくれ……」
「え、あ、はい?」
マリアーナは戸惑いながら、帽子を手に持った。その途端に口づけられる。
帽子を落としてしまって、それが床を転がっていく。
そして、額に彼の額が押し付けられる。彼の目元は薄く色づいていた。
「俺も、愛してる……」
「……はい……」
そんな、彼からは聞けないだろうと思っていた言葉に、胸が苦しくなって、目頭が勝手に熱くなる。
みっともなく泣いてしまわないように、にじんだ涙を拭こうとしていたのに、彼に口づけられて、結局、涙をこぼしてしまった。
二人はしばらくの間、たまに人通りのある通路で、何度も口づけを交わし合ったのだった。
終
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
読了ありがとうございます!
お気に入り登録や❤️もありがとうございました。
楽しい場面よりも、しんどい場面の方が多かったこのお話を最後まで読んでいただき、感謝の気持ちでいっぱいでございます。
この後、ヒーローの側近のエンシオが幸せになる「後日談 兼 番外編」が続きます。
そちらも、お暇つぶしにでもお読みいただけますと幸いです。(8話で2万文字ほどありますが……!)
お付き合いいただき、本当にありがとうございました!
針沢
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