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番外編② 君が笑顔でいるように 〜エンシオの幸福〜
番外編②-1 襲撃
しおりを挟むエンシオは、国軍の三部隊を率いて、救援要請のあった国境付近の町へ急行した。
着いた時には賊は引き上げようとしているところで、町のあちこちから火の手が上がっているのが見えた。
盗賊が戦利品を奪った後に、面白半分で火をつけるのはよくあることだ。そしてこれが、一番厄介なのだ。
エンシオは小さく舌打ちをした。
軍団長の証である、赤い羽飾りが付いた兜をかぶるエンシオの横に、三人の部隊長が駆け寄ってきていた。彼らの兜の上では青い羽飾りが揺れている。
「賊を捕えろ! それができなければ、殺せ!」
エンシオはそう叫ぶと、部下たちが呼応する。
彼らが打ち合わせ通り、馬を走らせて三方に散るのを見届けて、その一つの最後尾につく。
エンシオは過去を思い出していた。家族を亡くした、昔の記憶だ。あれから十五年は経つというのに、それは生々しく思い出される。
あの時は、正規軍同士の小競り合いだった。エンシオはエイノール王国の端の小さな村で暮らしていたが、そこが戦場になったのだ。
エイノール王国の敵側に雇われた傭兵たちも、敵の兵士たちと同様に略奪をし、その傭兵たちに母と姉を殺された。そして、エンシオは下働きとして、家族の仇たちの元で働かされることになった。
あの頃の自分の無力さに沸いた怒りのままに馬を走らせたエンシオは、金目の物を持ち、女を連れ去ろうとする賊を目がけて突進し、剣を突き立てた。
周囲でも部下たちが、同様の光景を繰り広げている。
そして、エンシオは大声を張って、火から逃れる住民たちに、町の西側へ向かうように言った。
「あっちだ! 逃げろ!」
それは自分たちがやってきた方向だった。そこでは今頃、衛生兵達によって怪我人を治療するためのテントが準備されている。
エンシオは盗賊たちを見つけては始末し、時には助けた女や子どもを西へ走らせた。
火を消そうとする男たちを見て、おそらくそれは止められないだろうと、「お前たちも逃げろ!」と言って回る。
皆、何らかの怪我や火傷を負っていた。
そうしているうちにも火は広がっていく。もう、人の手でどうにかできる状態ではなかった。
あらかた賊を退治した後、周りを見回す。味方の兵士たちは、無駄とは知りつつも懸命に火を消そうとしている。
町の中心部らしき大通りの両脇に並ぶ建物は石造りのものが多いが、看板の類や、窓の中の布類に火がついているのが見えた。
ざっと走り回って確認したところ、町の外側に行くにつれて木造の建物が多くなっていく。それらは、ほとんどが焼け落ちてしまうだろう。
石造りの建物は、どれだけ使える状態で残るだろうか。
町の中をもう一周し、隊長らと情報を交換する。賊は捕えるか殺すかしたが、火はやはり消える気配がないという。
逃げ遅れた住民たちが、一体どれだけいるのかはまだ分からない。
兵士たちの指揮を取る立場のエンシオは、隊長たちに無理はするなと言い残し、西に向かおうとしていた。
逃げた住民たちの状態を確認しなければならない。
そんな、周囲をうかがいながら馬をゆっくりと走らせていた時、子どもが泣き叫ぶ声が聞こえた。声の方向を見ると、男児二人が誰かの名前を呼んでいる。
「ライラ姉さん!」
彼らが呼びかける先には崩れかけ、火が燃え移った木造の建物がある。
馬から飛び降り事情を聞くと、床下に一緒に隠れていた姉が、二人を先に逃した後、建物から出てこないのだと、泣きながら彼らは口々に言った。
落ち着かせて詳しく聞くと、入り口から隠れていた場所の間には、距離はほとんどないと言う。
エンシオは彼らに、もし自分が出て来なかったら、西へ行ってそれを兵士に伝えるように言った。
そして、兜の上からマントを被り、火除けにすると、彼らが指差す狭い通り道を進む。
彼女はすぐに見つかった。倒れた家具に足を挟まれている。服や髪に火がついているのを、マントで叩いて消してから、その家具を担いで転がし、彼女を抱き上げた。
今にも崩れるかもしれない建物から、急いで外へ出る。呼吸はずっと止めていた。
「姉さん!!」
彼らに言って、少し離れた場所に馬を引かせて、自分は少女を抱いて運ぶ。
少女に意識はない。そして、顔や腕に火傷を負っている。だが、呼吸はあった。
「一緒に来い。町外れに怪我人を見てくれる場所がある」
ぐったりとした少女を馬の背に乗せ、小さい方の弟も乗せて、姉を押さえさせる。
馬を引きながら、エンシオは大股で歩く。大きい方の弟は一緒に歩いていたが、彼はほとんど走っている状態だった。だが泣き言も言わずについてくる。
エンシオは燃え盛る町の外に出ると、ようやくまともに息ができた。
部下たちも皆、戻ってきつつある。
少女とその弟たちを衛生兵に引き渡した時、部下が呼びに来て、国王の到着を告げた。
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