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番外編② 君が笑顔でいるように 〜エンシオの幸福〜
番外編②-2 不幸な現実
しおりを挟むアルベルトの元へ行くと、この町の持ち主である領主も同行していた。
アルベルトと一緒に来たブラントと視線で会話をする。「ひどい状況だ」と。
アルベルトはこの国の国王にまで成り上がった、元傭兵だ。
その国王がこんな町のためにやって来たのは、この街を襲った盗賊が、盗賊を装ったどこかの国の兵士ではないかと疑ったためだろう。
アルベルトが国王になって三年以上になるが、その間、領主の手に余るほど大規模な盗賊の被害はなかった。
「数は多かったが、奴ら、ろくに統率が取れていなかった。剣もほとんど使えない。兵士だとは思えなかったぞ」
エンシオがそう言うと、アルベルトは頷きつつも考え込んでいる。
盗賊の人数が多かったのを、訝しんでいるのではないかとエンシオは思った。
盗賊の集団をいくつか集めて、金で雇い、この町を、ひいてはエイノール王国を攻撃させた者がいたとしても驚きはしない。
エンシオと三人の部隊長からの報告を受けた国王アルベルトは、四人に「今は休むように」と言うと、領主との話し合いを始めた。官吏も王宮から連れてきている。
この有様では、領主は住民たちに、この町を一度捨てさせるかも知れない。散り散りになった住民たちは、移住先に落ち着いて、たぶんこの町には、ほとんど人がいなくなる。
今まで戦場で何度も見てきた光景だ。
そして、安全な町や街に移り住んだ者たちの中でも、親を失った子どもたちは悲惨だ。
運良くどこかに弟子入りでもできればいいが、それは、そう簡単なことではない。
だいたいは、移住先で家もなく、路上で生活するようになる。そして、生きるために悪さを働いて、そこにもいられなくなる。
その子どもたちの行き着く先は、まさにこの町を襲った盗賊たちのような無法者の端くれになるか、エンシオのように傭兵団にでも入るかだ。
しかし、傭兵団は人殺しの技術を持つ他は、盗賊たちとほとんど違いがない。どの国からも受け入れられない、はみ出し者たちだ。
エンシオは翌日、火が見えなくなった町を見つめていた。
火は消えたように見えても、どこで燻っているか分からない。兵士たちが水の入った桶を持って、町の中をうろついているのはそのためだ。
「ねえ、そこの兵隊さん!」
急に子どもの声が聞こえて、もしや自分に向けられたものかと振り向くと、そこには昨日会った兄弟がいた。
「昨日、姉さんを助けてくれた兵隊さんだよね。その、青い羽飾り」
兄の方が、エンシオが抱えている兜を指さしている。「そうだ」と認めると、彼らは破顔した。
「姉さんを助けてくれてありがとう!」
「姉さん、兵隊さんにお礼が言いたいって。呼んできてって言ってるんだ!」
彼女は火傷を負いながらも、生きて夜を越えた。エンシオは少しだけ心が軽くなった気がした。
「意識が戻ったか。よかったな」
エンシオが二人の頭をグリグリとなでると、彼らはうれしそうに頷いた。
彼らに手を引かれて、怪我人たちが寝かされているテントの一つに入り込む。
そこには所狭しと怪我人が寝かさられ、形ばかり作られた通路を衛生兵たちが動き回っていた。
弟たちから「ライラ姉さん」と呼ばれていた少女は上体を起こして、包帯が巻かれた左腕を支えつつ座っていた。
エンシオは彼女を見て、死んでいった姉と彼女が重なって見えた。
この感覚は初めてではない。これまで自分が実際に戦った戦に巻き込まれた住民の中には、彼女のような年頃の娘はたくさんいた。その亡骸もよく目にした。
しかし、生き残った彼女は、包帯を巻かれたのとは逆側の顔を綻ばせた。きっと痛むだろうに。
「あなた様ですか。私を助けて下さったのは。ありがとうございます。私、あの時のことは何も覚えていなくて」
そう言う彼女は少し喉が痛そうだ。煙を吸ったせいだろう。
「気にするな。そのために俺たちが来たんだ」
「本当にありがとうございます。それで、あの、図々しいのですが、一つお願いしたくて……」
「何だ?」
「父が、いなくて。あの時、外に出ていたんです。弟たちがテントを全部見て周りましたが、どこにもいなくて。でも、他の場所にも怪我人がいるのかも知れないと思ったんですけど、ここにいる兵隊さんは自分の持ち場のテントのことしか知らないらしいんです。でも、あなた様なら知っているだろうと思ったんです。兜に羽飾りが付いていたと弟たちが言ったので。たぶん、偉い方ですよね?」
エンシオは、彼女に真実を伝えるか一瞬悩んだ。嫌な役回りだが、行きがかり上、自分がするしかない。
「怪我人用のテントはここらにある六つだけだ。怪我が軽い者は兵士と協力して火が残っていないか見回っているはずだ」
エンシオは視線を流して、このテントの中を見た。
女は怪我人の世話をする手伝いをしているか、怪我をした子どもを抱えて茫然としているかだ。そんな者たちは、このテントの中にもいた。
「最終的に確認するのは領主の仕事だ。だが……あんたらの父親が動けるんなら、あんたたちを向こうから探しに来ているだろう」
彼女の瞳に涙が溜まっていく。しかし、最後まで伝えてやらないといけない。少しでも早く傷が癒えるように、きちんと知った方がいい。
「だから、どのテントにもいなくて、探しにも来ないなら、きっともう生きていない」
エンシオの前で、三人は同時に泣き出した。
おそらく同じように希望を捨てきれずにいて、エンシオの話を聞いていた周囲の怪我人たちも、すすり泣き始める。
エンシオは彼らを少しだけうらやましく思った。自分は、家族を亡くした時、しばらく泣くことはおろか、喋ることさえほとんどできなくなっていた。
エンシオは彼らを置いてテントを出た。国王であるアルベルトから、何か命じられるかも知れないから。
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