【完結】死に戻ったお飾り王妃は、愛を知らない成り上がり国王の最愛になる

針沢ハリー

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番外編② 君が笑顔でいるように 〜エンシオの幸福〜

番外編②-3 王妃と復興計画①

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 マリアーナは、子どもたちと一緒に客を迎えていた。元侍女のセシリアだ。今では友人と言った方が正しい。

 マリアーナがアルベルトとの間に授かった第一子は男の子で、リカルドと名付けられた。まだ一歳で、何にでも興味を示すやんちゃ盛りだ。
 第二子は女の子でフローラと名付けた。まだ乳飲み子だ。
 マリアーナは歩き回るリカルドを眺めつつ、よく寝ているフローラを抱いていた。

 セシリアも子どもを二人連れている。お互いの子どもたちの年は、ほとんど同じだ。
 セシリアの夫で、官吏のクスター・サイシオ子爵も少し離れた席からこちらの様子を見ていた。

 アルベルトが盗賊の襲撃を受けているという場所へ兵士を連れて行ってから、四日目のことだった。

 王宮内は静かだけれど、子どもについての話が途切れると、どうしてもその話題になる。

「大事ないとよろしいですわね。王妃様」

「ええ。本当にそうね」


 そこに、王都に残っている軍団長のアークラと一緒に、アルベルトに先んじて出発して行ったエンシオが顔を出した。
 彼も軍団長の一人で、一番初めに、その襲われたという場所に到着したはずだった。

「アルベルトから、王妃様に手紙ですよ。官吏たちへの報告書を持ち帰るついでに渡せと」

 エンシオは憔悴しているように見えた。いつもの、少しわざとらしさすら感じる、瞳が見えない笑顔すらない。それだけ余裕がないのだろう。軍服には所々焼けたような跡がある。

 マリアーナは夫からの手紙を開いた。細かな文字で綴られたそれを読む。
 町の人の約半数が亡くなり、それ以外にも怪我人が大勢いるという。

 彼らは移住をさせられることになりそうだと、アルベルトは書いていた。
 石造りの建物は残ったものの、それ以外の、主に住民たちの家が燃えてしまい、町としての機能が維持できないのだそうだ。

「ひどい状況だったのね……」

「……そりゃ、戦場だの、盗賊の襲撃現場で、ひどくないことなんて、まずないんでね。俺は数日中には、また戻ります。それまでに手紙の返事を書いておいて下さい」

 マリアーナは手紙を読みつつ、彼がそう言うのを聞いていた。
 そして、ふとした疑問をぶつけた。

「他の場所に移住すると言うけれど、そのあと、その方達はどうやって生活していくのかしら」

 アークラと顔を見合わせたエンシオが、「そういう人間の一部は他の場所に溶け込んで生活を始めます。それができない者は物乞いになる。それか……」と中途半端に答える。
 でも、それが全てを物語っていた。

 マリアーナは王妃だ。この国の民を守る責任がある。王女だった時にはそこまで考えが及ばなかったけれど、この何年かで、その心づもりは多少はできたつもりだ。

「おかしなことを言っていたら、そう言っていただきたいのだけれど。本当に町を捨てるしか、方法はないのかしら」

「あ? 簡単に言わないでもらいたいですね。もう、あそこは生活できるような状況じゃないんだ」

「でも、それは移住してもそう変わらないのではなくて? 移住先の、どこかは知らないけれど、そこで自力で生きて行かなくてはいけないのならば、元の町でそうしたら駄目なのかしら」

 眉を寄せて怒鳴りそうな顔になったエンシオをアークラが肩を叩いて落ち着かせる。そして、アークラが話し出した。

「実のところ、援助が大変なんですよ。領主がその負担を嫌がる。だったら、生活できる可能性のある場所に連れて行って、自力で何とかさせる方が楽です」

「援助とは、町から瓦礫を取り除いて、新たな家を建てるというだけではないわね?」

 アークラは眉根を寄せた。彼も多くの戦場を見てきたはずだ。そして、その場所で暮らしてきた人たちのその後の人生にも触れたに違いない。

「ええ。瓦礫を取り除くのは、消火や、敵の残りが隠れていないか確かめるために兵士がしますよ。家を再建するのは、領主がするか、住民たちがするか、諦めるかです。それよりも、しばらくは食料や医薬品や、何もかも運んでやらねばなりません。建築用の資材もね。そして何よりも健康な人間が必要だ」

「物を買うのや、人を雇うのにお金がかかるのね。でも、資材や食料は運ばなくてはいけなくても、生き残った町の人たちの中には、働ける方は一人も残っていないのかしら。いろいろな職人たちが」

 今度は現場を実際に見たエンシオが答えた。

「いや、そこそこ大きな町だから、全員がいなくなったわけじゃないだろうが、怪我人は多い。それに生活に必要な設備がない。石窯が壊れりゃ、パン職人がいてもパンは焼けない」

「では、例えばですけど、窯を作って、材料や職人を送れば、町でも生活が再開できるのかしら。怪我人はどの程度のお怪我かは分からないけれど、軽い方なら治っていくのでは? 幸いこれからは温かくなりますから、しばらくはテント暮らしもできるのではなくて? 石造りの建物も使えるのでしょう?」

 アークラが首を振った。

「王妃様。簡単におっしゃいますが、そのための金を負担をするのは領主です。あそこには、そんな余裕はない」

「お金は作ります。宝物庫に私個人の持ち物として残していただいたものがあるから、それをお金に変えましょう」

 そこでエンシオが素っ頓狂な声を出した。

「はぁ? なんで、あんたがそこまで……。これは領主の責任でやることで……」

「あら。あなた方はその領主にはその資力がないと言ったわ。移住させても、その後の面倒を見る気がないのだとも。では、他の人間がやればいいのではなくて?」

「それは……」

 言葉に詰まったように、エンシオが黙り込んだ。
 その横で、あごに手を当てて考え込んでいたアークラが「官吏を呼びましょう。その方が話が早そうだ」と言う。

「料理人たちも連れて来てくださらない? パン焼き窯の作り方を知っている人がいたら、それに必要な材料が分かるかしら。それとも、王宮には窯を作る職人がいるのかしら。その場合は、その方たちの方がいいわね。それから庭師も。畑も焼けてしまったのでは?」

「あ、ああ。畑も半分近くが焼けていた。残った方も、どうせ、収穫できるまでには時間がかかるが」

 そこで、それまで黙って聞いていたサイシオ子爵がおずおずと手を挙げる。マリアーナが頷くと彼は話し出した。

「でしたら、最適な者たちを知っています。エンシオ軍団長には、現地の状況を知るためにご同行いただいた方がいいでしょうね。その報告書があっても、現状を知らない者には、実情が伝わるとは限りませんから」

 マリアーナは部屋を出て行こうとする彼らの後を追いたかった。
 でも、子どもたちを置いていけないと、腕の中のフローラを見つめる。
 すると、セシリアがフローラを受け取るように手を伸ばしてきた。とはいえ、彼女も赤子を一人抱いている。

「王妃様。お子様方は侍女と私が」

 その声に、侍女長や侍女たちが動き出して、マリアーナの手から赤子を抱き取る。

「お願いするわ」

 マリアーナが追いつくと、三人とも意外そうな顔をする。
 しかし、サイシオ子爵が、「大勢を集めたいのですが、広間の解放をお許しいただけますか?」と聞いてくれた。

「ええ! もちろんよ!」

 マリアーナは、はっきりとそう答えた。

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