【完結】死に戻ったお飾り王妃は、愛を知らない成り上がり国王の最愛になる

針沢ハリー

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番外編② 君が笑顔でいるように 〜エンシオの幸福〜

番外編②-4 王妃と復興計画②

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 広間には勢の人々が集まって来ていた。
 テーブルが寄せられて、資料が並べられる。書記の姿もあった。

 料理人の中でも若手の何人かが名乗りをあげた。彼らは近年試験に受かって王宮に勤め始めた地方出身の者たちだと言う。
 パン焼き窯職人は今この王宮にはいないものの、彼らは窯の修理をしたことがあるから構造は分かるらしい。作っているところを一から見ていたという者もいた。

「石窯は作れますよ。でも、レンガは持っていくのが大変だ。近隣の村や町で先に作らせられませんかね。日干しレンガでいいので」

 若者たちの声に、中年の官吏が紙にペンを走らせながら言う。

「それはこちらで何とかしよう。エンシオ軍団長。使いの兵士を何人か出していただくかも知れないが」

「それは大丈夫だ。国王の許可さえ出れば」

「軍団長! 水場はどうでした? 大きな町だったらしいから、水源はきちんとあるんでしょうが」

「大河の支流がある。井戸も、半分は無事だった」

「よし。水に困らなきゃ、何とかなる。パンやスープが作れれば……。材料を集めるなら、あの辺りだと……」

「それよりも、焼けちまった畑に育ちの早い作物を……」



 その横では、別の官吏が「大工はどれくらい残っているのか。今動ける町の人間の職業を調べさせましょう」と言うのに、何人もからほぼ同時に声が上がる。
 声の持ち主は若手の官吏で、試験を通って王宮で働いている地方出身の平民たちだった。

「大工仕事なら、たいがいの男はできますよ。王都じゃないんだ。自分の家は自分で建てるんで。ただ、大きな建物を作るなら、職人の一人は連れて行かないと。後は、人数がいるな。人手が足りなければ、俺も行きますよ」

「馬鹿を言うな。そんなことをしていたら、王宮の仕事が回らなくなる。近隣から集めるのが現実的だ。賃金は発生するが。もちろん資材もだな。その試算は……」

 彼らは町の生き残った人の数や世帯数を口にしながら、建物に必要な資材の計算式で紙を埋めていく。


 感心しながら彼らのペンの動きを見ていたマリアーナは、先ほど広間を出て行ったアークラが戻ってきたのに気づいた。
 彼はマリアーナに目礼すると、近くの机を陣取る。彼は部下を連れてきていた。そして、手に紙とペンを持った官吏もいる。

「軍のテントは数十は出せますよ。町の人間の分と、雇って連れてくる人手の分と……」

「後は怪我人がどの程度かの資料が……。ああ、そこにあるか? 見せてくれ。なるほど。衛生兵はどちらにしろ送ることになっていますが、少し増やしましょう。後は、医者も連れて行けませんかね」


 マリアーナは次々と立てられていく計画の数々に目が回りそうだった。
 横を見ると、エンシオも疲れた顔で、でもどこか希望を取り戻したような瞳で彼らを見ていた。

「エンシオ。怒っていらっしゃらない? 現実を知らない者の言葉に。それに、体は無事でも、心に傷を負った方たちを働かせるのは酷だとも思うの。でも、その町を捨ててしまったら……」

 エンシオがマリアーナの言葉を遮るように話し出した。その無礼を咎める雰囲気は、現在の王宮にはない。

「いや、働かせた方がいい。怪我人に無理はさせられないが。働ける者は、動いていた方が考えなくて済むんですよ。失ったものの大きさを」

 マリアーナは彼の過去を本人の口から聞いたことがあった。
 彼は母親や姉を殺した人たちの元で働いていたと言っていた。それはどんなに辛いことだっただろう。彼の言葉には実感がこもっている。


「王妃様! 国王陛下へ届けさせる、この再建計画書にサインを。発案者として。そうすれば、陛下は拒否できないでしょう?」

 そう言った官吏の言葉に、広間中から笑いが起きる。

 いつからか、アルベルトがマリアーナにはめっぽう甘いと言う話が出回っていたようで、よくこのように笑いの種にされる。
 しかし、その声に嘲笑の陰はないので、マリアーナはただひたすら恥ずかしいだけだ。
 そんな内心を隠しつつ、マリアーナは彼らがまとめ上げた書類の一番下にサインをしたのだった。
 

 即刻、エンシオの部下のうち、今回は王都に残っていた休息の取れている兵士たちがアルベルトの元へ向かい、翌朝には戻ってきた。アルベルトからの了承のサインを持って。

 そうして、大勢の、部署も身分も超えた人々が一緒になって立てた計画が動き出したのだった。


 ◆


 アルベルトが帰って来たのは、それから二日も経ってからだった。エンシオは入れ違いで出発している。

 彼は、マントや軍服を脱ぎ捨てると、子どもたちを抱きしめ、侍女たちに二人を連れて行かせる。
 そして、ようやくマリアーナを抱き寄せてくれた。

「あんたは、変なことを思いつくな」

「あら。変だったのかしら。今までとは違っただけではなくて? それに、あなたも何か考えてはおられたのでしょう?」

「働き口がある場所を探してから、領地を超えて住民を移動させようとは思っていた。領民が減るのは領主は嫌がる。だが、税金をしばらく一部免除にでもすれば、首を縦に振っただろう。あそこはあの辺りでは比較的大きな町だったから、仕事にあぶれる者が大勢出ただろう。そうすると治安も悪くなるからな」

 マリアーナには、故郷を追われる人の気持ちは分からない。家族を失った人の気持ちも。

「それでも、よかったのでしょうけど……」

「でも、あんたは町を再建すべきだと思ったんだな」

「ええ……」

 家も職も失って、物乞いや犯罪者にならざるを得ない者がいると聞いては、黙っていられなかったのだ。

「辛い思いをした方たちが、また笑顔を取り戻せる日が来るといいと思って。でも、そのためには、知った人が近くにいた方が、いいのではないかと」

「あんたらしくて、いいと思うぞ。だが、宝飾品を売る必要はない。国の予算から出せる」

「ええ。その方がいいわ。私の名前は出さない方が……」

 マリアーナは旧王家の出身だ。王宮では最近はそれほど嫌な顔はされない。
 でも、旧王家や、かつてこの国の政治を担っていた大貴族たちからの被害を被っていたのが、今回盗賊の襲撃を受けた町のような、王都から離れた場所に住む人々だったのだろう。
 そういう人たちから、よく思われていなくても仕方がない。

「そういう意味じゃない。これからは、今回の仕組みを、各地に適用できるように制度を整えようと思う。だから、国の仕組みにした方がいいんだ」

 アルベルトはそう言いながら、力強く抱きしめてくれる。マリアーナも彼の広い背中に腕を回した。

「俺は国王になった時、国を、民を守ろうと誓った。でも、その方法は昔のやり方を、ある程度はなぞらなくてはいけなかった。なんせ俺はただの軍人だ。こっち方面は官吏任せだったし、官吏もいまだに昔の資料を参考にしている。それ以外の国の動かし方を知らないんだ。あんたに教えられたな」

 マリアーナの考えは、ほんの思いつきだった。何も知らなかったからこそ、これまでの常識を破れたのだろうか。

 マリアーナは、微笑んだ彼の茶色の瞳を見つめながら、おりて来た口づけを受け止め、彼と微笑み合った。

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