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ルドガー
7話 アダムとエリック
****
「へぇ~それでご主人はなんて?」
「ああ、よろしくお願いしますって喜んでくれたよ」
部屋に戻ったルドガーは、宿屋の主人に提案した件をエリックにも伝えた。アダムにはすでに報告済みであり、了承も取っている。掻い摘んで言えば、「自分たちが警護するから、契約を結ばないか」ということだった。
「ここは街と街の間で往来にはちょうどいいし、宿っていう拠点があれば次の依頼が楽になる。腕の立つ冒険者と契約している宿屋となれば、一般の客も増えるだろうしな。主人は好きなように使ってください、だとさ」
宿屋の主人にしてみれば、それは願ってもない提案だったのだろう。簡易的だが契約書も用意できた。冒険者が個人で企業と契約することはあまりないが、彼ら一行はたまにこうして店舗やギルドと契約を結びながら旅を続けていた。
アダムも、それはいい案だと承諾した。ルドガーは少しだけ肩の荷が下りた気がした。
「それはいつから?」
「うん?ああ、一応来月からということになっているが、主人のご厚意ですぐにでも好きなようにしていいと言われている」
「やったー!あとで夜食食べに行こー!」
「……エリック。君、もしかして大食漢だったりする?」
あれだけ食事を取ったというのに、エリックはまだ食べたりないらしい。もし本当に大食らいなら、今後の金策を考えなければいけない。エリックの食事代は、……うん、アダムに稼いでもらおう。ルドガーはそう決めた。しかしルドガーの決心はエリックに届かなかったようで、金糸雀色の目を大きく見開いて不満を訴えていた。
「俺、自分で稼ぐよ?皆が出払ってる時とかさぁ、客呼んでもいいし……娼館?っていうのに登録したらいいんでしょ?」
「何言ってるんだ、絶対駄目!だからね!」
エリックは自分の身体を甘く見積もり過ぎている。原因はパーティーのメンバーにあるのかもしれないが、ルドガーはそれらを棚に上げ、「それでは君を連れていく意味がない」と叱り飛ばして、エリックを力いっぱい抱き締めた。
「ちぇ、俺も何か役に立ちたいのになぁ……」
「エリックはいてくれるだけでいいんだよ。そのために一緒にいるんだから」
子供を可愛がるように、まんまるの頭を優しく撫でる。漆黒の髪は指通りがよく、さらさらとしていた。
ルドガーはエリックに対する感情が、情欲よりも愛玩へ偏ってきている気配を感じ取った。このままエリック相手に勃たなかったらどうしよう、と自分で自分を心配していると、ふふ、とエリックは笑って同じ力で抱き締め返した。
「ルドガー、優しいね。そういうとこ大好き」
「……アダムに怒られちゃうから、あんまりそういうこと言わないで」
「え~?アダムは怒んないよ」
そう言われると、そういうものかと納得してしまう。
今やエリックは、アダムの良き理解者となった。もちろん、エリックの知らないアダムの情報や一面もたくさんあるのだが、もっと深いところで彼らは繋がっている気がする。だからこそ他人の介入を拒まないのだろうか。もともとはその目的で同伴を許したとは言え、心の通い合った者同士、以外と身体を繋げることに、何も思わないのだろうか。
ルドガーは、アダムに関して言えばそこだけが分からなかった。アダムはああ見えて、割りと分かりやすい性格をしている。気分がいいときも、不機嫌なときも、こうすれば喜ぶだろうな、ということもなんとなく分かっていた。ただエリックとの関係だけは、理解出来るとは思えなかった。
「……俺なら、好きな人は俺だけを見てて欲しいって思うけどな」
「ルドガーは、そういう人が好き?」
「うーん、……いや、分かんないや。ごめん、今の忘れて」
エリックを、ひいてはアダムを否定する訳ではない。エリックもそれは知っていて、悪戯するように聞き返したのだ。
エリックは引っ付いていた身体を離すと、ルドガーの唇に触れるだけのキスをした。謝罪代わりに与えられたそれを、ルドガーは喜んで受け入れた。その先が欲しくなり、腰を抱いて深く唇を重ねる。舌を潜り込ませると、体温の高いエリックの舌が絡みついてきた。ぞわりと下半身に一瞬で熱が走った。
――前言撤回。全然勃つ。
「ん、なに……?」
頭の中で思ったことだったが、口に出してしまっていたようで、エリックが聞き返してきた。シーツの海に痩躯を沈めながら、ルドガーは「なんでもない」と答えた。
身体を重ねるのは気持ちいい。エリックは少し子供すぎるし歳が離れているけれど、自分の役割を理解している聡明な子だ、とルドガーはエリックを高く評価している。身体の相性はもちろん、エリック自身を可愛いと思うことも多々あった。それでも、『友愛』の延長線上に過ぎない。
アダムと袂を分かつつもりも、刃を交えるつもりも毛頭ないが、もしかしたら、その思考こそが無意識に邪魔をしているのかも知れない。そんな考えが浮かんでも、確かめるための術も、度胸も、ルドガーにはなかった。
「……ふふ」
「なに?どした?」
不意にエリックが含み笑いをしたのが気になって、思わず脱がしていた手を止める。どこかくすぐったいところに当たったのかな、なんて、暢気なことを考えていた。
「ルドガーもなかなか、……んふ、ひどいよ」
「……俺が?どうして」
少しキツめの口調になってしまったのは、ルドガーにも分かっていた。聞き捨てならない言葉だったせいもあるが、身に覚えがないからだ。さっきは優しいと評価したその口で、「ひどい」だなんて。どういう意味だろうか?
「だって、俺とアダムが好き合ってるの知ってて、俺を抱くんでしょう?それってすごく、……ひどいよね」
ルドガーの腕の中のエリックは、くすくすと無邪気に笑っている。小動物のように小柄で、可愛い顔をして、何も出来ない子供の癖に、一番心臓を抉るような言葉を言い放った。悪気はない。いや、もしかしたらあったのかもしれない。ベッドの上での睦言のように、悪趣味な冗談だったのかも。ルドガーは鈍い痛みを覚えるような衝撃を受けたにも関わらず、灯ってしまった情欲の炎が消えることはなかった。それどころか、燃料を投下されたように激しく燃え滾り、早くこの細い身体をめちゃくちゃにしてやりたい衝動に駆られた。そう思うことすら、エリックの計算のうちだったのだろうか。
ルドガーはエリックの思惑通り、言葉を発しないまま、獣のようにただエリックの身体を求めた。喉は枯れ果て、全身が疲弊し、朝が訪れても、その行為は終わらなかった。気付けばいつの間にか気を失ったように倒れ込み、汗と体液に塗れて眠りに落ちた。ルドガーは暖かいものに包まれて覚醒した。それが自分を抱き締めたまま眠るエリックの身体だということに気付いたのは、それから間もなくのことだった。
「へぇ~それでご主人はなんて?」
「ああ、よろしくお願いしますって喜んでくれたよ」
部屋に戻ったルドガーは、宿屋の主人に提案した件をエリックにも伝えた。アダムにはすでに報告済みであり、了承も取っている。掻い摘んで言えば、「自分たちが警護するから、契約を結ばないか」ということだった。
「ここは街と街の間で往来にはちょうどいいし、宿っていう拠点があれば次の依頼が楽になる。腕の立つ冒険者と契約している宿屋となれば、一般の客も増えるだろうしな。主人は好きなように使ってください、だとさ」
宿屋の主人にしてみれば、それは願ってもない提案だったのだろう。簡易的だが契約書も用意できた。冒険者が個人で企業と契約することはあまりないが、彼ら一行はたまにこうして店舗やギルドと契約を結びながら旅を続けていた。
アダムも、それはいい案だと承諾した。ルドガーは少しだけ肩の荷が下りた気がした。
「それはいつから?」
「うん?ああ、一応来月からということになっているが、主人のご厚意ですぐにでも好きなようにしていいと言われている」
「やったー!あとで夜食食べに行こー!」
「……エリック。君、もしかして大食漢だったりする?」
あれだけ食事を取ったというのに、エリックはまだ食べたりないらしい。もし本当に大食らいなら、今後の金策を考えなければいけない。エリックの食事代は、……うん、アダムに稼いでもらおう。ルドガーはそう決めた。しかしルドガーの決心はエリックに届かなかったようで、金糸雀色の目を大きく見開いて不満を訴えていた。
「俺、自分で稼ぐよ?皆が出払ってる時とかさぁ、客呼んでもいいし……娼館?っていうのに登録したらいいんでしょ?」
「何言ってるんだ、絶対駄目!だからね!」
エリックは自分の身体を甘く見積もり過ぎている。原因はパーティーのメンバーにあるのかもしれないが、ルドガーはそれらを棚に上げ、「それでは君を連れていく意味がない」と叱り飛ばして、エリックを力いっぱい抱き締めた。
「ちぇ、俺も何か役に立ちたいのになぁ……」
「エリックはいてくれるだけでいいんだよ。そのために一緒にいるんだから」
子供を可愛がるように、まんまるの頭を優しく撫でる。漆黒の髪は指通りがよく、さらさらとしていた。
ルドガーはエリックに対する感情が、情欲よりも愛玩へ偏ってきている気配を感じ取った。このままエリック相手に勃たなかったらどうしよう、と自分で自分を心配していると、ふふ、とエリックは笑って同じ力で抱き締め返した。
「ルドガー、優しいね。そういうとこ大好き」
「……アダムに怒られちゃうから、あんまりそういうこと言わないで」
「え~?アダムは怒んないよ」
そう言われると、そういうものかと納得してしまう。
今やエリックは、アダムの良き理解者となった。もちろん、エリックの知らないアダムの情報や一面もたくさんあるのだが、もっと深いところで彼らは繋がっている気がする。だからこそ他人の介入を拒まないのだろうか。もともとはその目的で同伴を許したとは言え、心の通い合った者同士、以外と身体を繋げることに、何も思わないのだろうか。
ルドガーは、アダムに関して言えばそこだけが分からなかった。アダムはああ見えて、割りと分かりやすい性格をしている。気分がいいときも、不機嫌なときも、こうすれば喜ぶだろうな、ということもなんとなく分かっていた。ただエリックとの関係だけは、理解出来るとは思えなかった。
「……俺なら、好きな人は俺だけを見てて欲しいって思うけどな」
「ルドガーは、そういう人が好き?」
「うーん、……いや、分かんないや。ごめん、今の忘れて」
エリックを、ひいてはアダムを否定する訳ではない。エリックもそれは知っていて、悪戯するように聞き返したのだ。
エリックは引っ付いていた身体を離すと、ルドガーの唇に触れるだけのキスをした。謝罪代わりに与えられたそれを、ルドガーは喜んで受け入れた。その先が欲しくなり、腰を抱いて深く唇を重ねる。舌を潜り込ませると、体温の高いエリックの舌が絡みついてきた。ぞわりと下半身に一瞬で熱が走った。
――前言撤回。全然勃つ。
「ん、なに……?」
頭の中で思ったことだったが、口に出してしまっていたようで、エリックが聞き返してきた。シーツの海に痩躯を沈めながら、ルドガーは「なんでもない」と答えた。
身体を重ねるのは気持ちいい。エリックは少し子供すぎるし歳が離れているけれど、自分の役割を理解している聡明な子だ、とルドガーはエリックを高く評価している。身体の相性はもちろん、エリック自身を可愛いと思うことも多々あった。それでも、『友愛』の延長線上に過ぎない。
アダムと袂を分かつつもりも、刃を交えるつもりも毛頭ないが、もしかしたら、その思考こそが無意識に邪魔をしているのかも知れない。そんな考えが浮かんでも、確かめるための術も、度胸も、ルドガーにはなかった。
「……ふふ」
「なに?どした?」
不意にエリックが含み笑いをしたのが気になって、思わず脱がしていた手を止める。どこかくすぐったいところに当たったのかな、なんて、暢気なことを考えていた。
「ルドガーもなかなか、……んふ、ひどいよ」
「……俺が?どうして」
少しキツめの口調になってしまったのは、ルドガーにも分かっていた。聞き捨てならない言葉だったせいもあるが、身に覚えがないからだ。さっきは優しいと評価したその口で、「ひどい」だなんて。どういう意味だろうか?
「だって、俺とアダムが好き合ってるの知ってて、俺を抱くんでしょう?それってすごく、……ひどいよね」
ルドガーの腕の中のエリックは、くすくすと無邪気に笑っている。小動物のように小柄で、可愛い顔をして、何も出来ない子供の癖に、一番心臓を抉るような言葉を言い放った。悪気はない。いや、もしかしたらあったのかもしれない。ベッドの上での睦言のように、悪趣味な冗談だったのかも。ルドガーは鈍い痛みを覚えるような衝撃を受けたにも関わらず、灯ってしまった情欲の炎が消えることはなかった。それどころか、燃料を投下されたように激しく燃え滾り、早くこの細い身体をめちゃくちゃにしてやりたい衝動に駆られた。そう思うことすら、エリックの計算のうちだったのだろうか。
ルドガーはエリックの思惑通り、言葉を発しないまま、獣のようにただエリックの身体を求めた。喉は枯れ果て、全身が疲弊し、朝が訪れても、その行為は終わらなかった。気付けばいつの間にか気を失ったように倒れ込み、汗と体液に塗れて眠りに落ちた。ルドガーは暖かいものに包まれて覚醒した。それが自分を抱き締めたまま眠るエリックの身体だということに気付いたのは、それから間もなくのことだった。
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