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第165話 母の行方

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俺達は転移陣を使い、無事に精霊界に辿り着いた。
足を踏み入れると綺麗な花が咲き乱れ、
古民家が見える。
更に妖精達が目の前を羽ばたいていた。


「賢者の家も素敵だけど、
 精霊界も綺麗ですね……」


マリアとユーリも目を輝かせて、
精霊界の景色を目に焼き付けている。
しかし、綺麗な景色の中をいきなりイフリートが通過して驚いてしまった。
そして俺達に気付いたのか、足を止める。


「お前達は……」


今にも一触即発の雰囲気だったが、
イフリートを静止する人物が現れた。


「馬鹿者!客人に無礼だぞ!」


「ち、長老!」


炎の精霊王イフリートを一喝した人物が現れる。
白髪の老人男性だが、圧倒的な魔力を放っていた。


「私の名は、精霊界の長老オリジンだ!
 それと同時に、無属性魔法の精霊王でもある」


精霊界の頂点に君臨する長が、わざわざ入り口まで迎えに来ている。
その切り替えと思考の速さに驚いていた。


「ふふふ、不思議に感じるだろうが、
 私には君達の思考が読めるのだよ」


スキルを使って相手の思考を読めると言う。
オリジンはアウラの思考を読んで、
即座に状況把握をしたのかもしれない。
当然女神や俺達の素性も明らになっている。
隠し事ができない中で、賢者が口を開いた。


「ほう……ならば、この男のスキルで、
 一番恐ろしいスキルはなんだ?」


賢者がオリジンを試すように、
俺のスキルの質問をする。
そして頭の中で思い描いているのは、
もちろん休憩スキルだ。


「それは、闇の精霊魔法かな?」


「ほう、素晴らしいな……」


賢者が賢者と呼ばれるに値すると、
俺は改めて痛感している。
この会話の中でオリジンのスキルは、
精霊の読心だと推測できた。
それと同時に俺達の情報は、まだ全てを掴まれているわけではない。


「貴方達に女神様が付いていると聞きましたが……」


「隠し事は出来ないな……
 コイツが女神だ」


賢者は、そう言葉を発すると、
ユーリを指差して女神だと主張した。
咄嗟のことにユーリは、驚愕して目を見開いている。


「くれぐれも女神様に失礼のないようにな」


「は、はい!
 承知いたしました……」


するとオリジンだけでなく、
周りにいる精霊達が集まり始める。
瞬く間に集団となり、ユーリの前で跪いてしまった……


「あの……その」


目をぐるぐる回しながら、ユーリは焦り出す。
魔女と虐げられてきた自分が、神様のように崇められるのに慣れないのだ。


「ところで、協力してほしいと、
 水の精霊が言っていたが……」


「はい……最近になって、
 魔王軍も瘴気対策を始めたのです……
 ここもそろそろ狙われてしまいます」


「それを救って欲しいという事か……」


瘴気がある限り、精霊界に魔王軍は侵攻できない。
今まで守ることが出来たが、
最近になり、それを覆す存在が現れたのだ。


「最近新たに四天王に就任した女魔族アデル、
 魔導具使いで一気に四天王になった」


その知性とスキルによって、
強力な魔導具を開発して、戦力を強化している。
今では四天王に選ばれるまでに至った。


「アデルの魔導具によって、
 瘴気が抑えられそうになっている……
 奴らが攻めるのも時間の問題なんだ」


「分かった……
 私たちの条件を聞いてもらえたら、
 助けてやろう……」


賢者は、エメリから得た情報をもとに、
母上について事細かく説明を行った……


「そのような女性は、精霊界におりませんぞ?」


「なんだと?」


オリジンは、嘘をついているようには見えない。
精霊界に母上が来ていないのは事実のようだ……


「もう一度……その女性の特徴を教えてください」


「そいつはな……」


賢者は再度母上について特徴を説明しているが、オリジンからは予想外の言葉が出てきた。


「魔王軍と人間の交戦が、リールであったのは聞きましたが、捕らえられたと……」


「は?」


預言者エメリから聞いた話と異なる内容に、俺達は困惑している。
もしかしたら母上は、最初から魔族に捕まった可能性が高い。


「その情報について知らないか?」


「風の噂で聞いたのですが……」


俺達は、大きな勘違いをしていた……
最初から母上は、精霊界に来ていない。
精霊の森まで逃げたのかもしれないが、
そこで捕まった可能性が高いのだ。


「魔導具使いのアデルは、
 強力なスキル持ちがいたら、
 必ず隷属の首輪で手駒にします!
 もしかすると……」


「まさか!クレアが……
 クレアが敵に回るとでも言うのか!」


賢者は、怒りを露わにすると、
俺達も同じように感情を抑えきれない。

そして、アデルの情報を把握して、
賢者はもう一つの策略に気付いてしまう。


「精霊界に行くよう仕向けたのはエメリだ!
 まさか!あいつに嵌められたか」


「賢者、それって……」


賢者は、ため息を吐き、
更に眉間に皺を寄せながら口を開く。


「ここに誘導されたんだよ……
 魔導具使いの四天王アデルと、
 クレアが攻めてくる……」


「母上が……」


俺達は、唖然として途方に暮れてしまう。
愛してやまない母上が、攻めてくるのだ……
そしてそれを目論んだのは、預言者エメリに違いない。


「賢者……
 俺はあいつらを許さない……」


俺は魔族を……
四天王アデルも、預言者エメリも……
俺は決して許しはしない。


「あぁ、私の大事な弟子を返してもらうさ……
 そういうことだから、オリジンよ……
 解決まで精霊達の力を貸してもらうぞ」



俺達は魔界に来て直ぐに、
エメリの策略に嵌められてしまった。
そして魔王軍が、すぐに精霊界に攻めてくる……
母上が操られていたとしても、必ず救ってみせる。
レガードで今も待っている家族のために……
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