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色付く日常

オレンジ色の光の中で

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そうして久しぶりに子供のように夢中に坂を駆け上がると、

開けた景色の奥に小さな公園が見えた。



丁度良い場所を見つけた。



この時間帯ではもう子供も引き上げただろうし、

そもそも子供が使っているのかも分からないほどこじんまりとした公園であった。



近寄ってその公園に入ってみると

本当に小さな敷地に少しの遊具があるようなミニチュア公園だ。



しかし、それは自分が大きくなってしまったからかもしれないという

哀愁が漂ってきた。



小さい頃の自分であればこの広さでも十分に思えたのかもしれない......



久しぶりのダッシュの次に公園に入っていくことが昔を思い出させたようだ

過去には公園は広く思えたものだが、

学年が上がるにつれて外で遊ぶことも減って公園など見てもいなかった。



砂場には懐かしいおもちゃが転がっている。

最近の子供はこんなところではもう遊ばないかと考えていたが、

どうやら失礼な思い違いをしていたようだ。



色が捌けていないし、ついさっきまで遊んでいた子供が置いていったのかもしれない。



ベンチもあるが自然とブランコに座っていた。

揺れて軋む音まであの頃のままに感じる。



一本だけ植えられた少し大きめの木が風に揺れた。

もう枯れ葉が身を寄せ合うに少し付いているだけで小さくカサカサと聞こえてくる。



日陰での冬の風は堪える。

体を縮みこませた格好のまま、公園側を向いたベンチではなく

景色が見えるベンチの方に座った。



微々たるものだが夕日の温かさと光に当たっていたかった。

まばゆいオレンジの光が下に見えるただ並ぶ住宅街を一枚絵にしていた。



こんな場所があったんだな...



そんな感慨に浸ってやっとスマホとメモを取り出した。

ずっとポケットに突っ込んでいた手がすぐに冷えてきた、

かじかんでしまう前に早く番号を打たなくては



SNSアプリ以外で電話など最近で覚えが無い。

慣れない手つきで慎重に打ち込んだ

呼び出し音が聞こえ始めた。



急に懐かしさに緩んだ気持ちが緊張した気分になる。



3回ほど同じ音を聞いた後にブツッと繋がった音がした



「あ、あの今朝会った渡辺ですがっ」



もしもし破棄の上に変にうわずった声が出た。



「...あ、渡辺くんですか?もう連絡くれたんですね」




電話越しでも耳がくすぐられるような声だ。



「ありがとう、それで要件なんですけど...」


「は、はい」



さあ、問題はここからだ......



「電話で長話も良くないと思いますし、今度うちに来てくれると嬉しいんですが...?」



「あ、はい...へえ!?」



思わず声を出すことが癖になっている。



「ご、ごめんなさい。何か問題ありましたか...?」



あっちが申し訳なそうにさせてしまった。



「い、いえ!喜んで行かせて頂きます!」



何かその返答も可笑しい気がしたが訂正など出来ない。



「大丈夫そうですか? 良かった...じゃあ場所は後でメッセージで送りますから、

 それで時間も合わせましょう」



「はい、了解ですっ」



「はい、じゃあ失礼します...」



「し、失礼します...」



目の前に相手もいないのにお辞儀をしてしまった、

それにこういう時あちらからさっさと切られないと

どちらが先に電話を切っていいものか悩む。



「...まだ何か質問ありますか?」



ああ、ちんたらしているから心配させてしまった。



「あ、いえ! えっと...」



そうやってあたふたしていると、



「さっさと切っちゃえば良いじゃん」



スマホを押し当てていない方の左耳からの声に



「わぁ!?」



腹から出た驚愕の声と共に通話を切ってしまった。


「あ...」


呆然とスマホを眺めた後、横を見るとそこには



「こんにちは...いや、こんばんは...かな?」



眼鏡を着けた黒田さんらしき人物が目の前にいた。

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