わたしはいない

白川 朔

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ここにいない

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 めぐりは今日一度も降りてきていないようだった。最近は私の仕事も忙しく、ほとんど顔を合わせることもなかった。合わせたがらないと言った方が正しいだろうか。最後に顔を見たのはいつだったか。めぐりも中学生なのだから毎日電話をかけたりもしなくなった。しばらく出張続きで、ろくに家にも帰っていなかったから機嫌を悪くしているのだろうか。
 私は家にいないことも多いので、家政婦を雇ってめぐりの面倒見てもらっている、めぐりに家のことで負担をかけないようにしているつもりだ。だが、妻が死んでしまってからはどうしても塞ぎ込みがちになってしまっているようだ。綺麗に片付けられている部屋は妙に生活感が無くて、空っぽの箱のように感じられる。
 それにしても、家が随分と静かだ。昨日は帰りが遅いせいだろうと思ったがそうでもなさそうだ。食卓の上に一通の封筒が置いてあった。
 ピンク色の封筒だったので、てっきりめぐり宛のものかと思ったが、切手も貼られていないそれの宛名は私になっていた。封を切ってみると、手紙が1枚だけ入っている。開いてみると確かにめぐりの字で書かれている。


お父様へ

 おかえりなさい、お父様。
 夏休みに入りました。2、3日友人のお宅に泊めていただくことになりました。昨日、お誘いを受けたものですから、事前にお父様にお伝えできず、手紙を書かせていただきました。心配しないでください。

めぐり


 最後に昨日の日付が書かれている短い手紙だ。せめてどの友人のお宅に行っているのかくらい書いておけ。電話番号も書いていないとは。もう起きているだろうか。携帯に電話をかけても出る気配がない。まだ寝ているのか、携帯を身につけていないのか。まぁいい帰ってきたら説教だ。
 最近は私に会いたくないのか、私が家にいる日はよく外泊しているようだった。課題があるとかなんとか言って、すぐ誰かの家へ泊まりに行く。私を嫌うのは一向に構わないがあまり外泊をされると外泊先にも迷惑だろうし、めぐりが家に帰りたがらなければ私の印象も悪くなってしまうではないか。めぐりは自分の立場がわかっていない。
 あとでもう一度電話をかけるとしよう。

 にしても、めぐりは何が不満なのだろうか、私に対する嫌がらせのつもりだろうか。携帯は繋がらない。手紙に書いてある通り2、3日もすれば帰ってくるだろう。私が仕事をしている間は家に帰ってきているのだろうか。妻がいた時は休みの日には、妻がいろんな料理を作ってくれたものだ。せっかくの休みには、買い物に付き合わされることも多かった。今は作り置きされているものを食べるだけ、味は妻が作ったものより美味しい。食べ比べたわけではないが、健康も考えて作られているらしい。
 今は夏だというのにこの家の中はとても寒い気がした。もしかしてと思い、リモコンを探すと、クーラーの設定温度が24度になっていた。通りで寒いわけだ。設定温度上げて、テレビをつけた。ニュースをつけても無責任なコメントが飛び交い、政治家の不正や汚職を非難する声ばかり。昔はこんなこと無かったのに。
 蝉の声が嫌に虚しく響いた。
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