わたしはいない

白川 朔

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あなたといっしょに

15.

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 昨日、ハルキさんの帰りが遅くて、退屈していた。どうしても抜けられない要件もあるだろうし、ハルキさんはお父様の秘書だと言っていたから振り回されても仕方ないと思っていた。遅くなるのも我慢できた。お父様の仕事が忙しいのを分かっている。
 なのに、ハルキさんは遅くなってしまったことを謝り、日中は上で生活することを許してもらった。寂しい思いをさせてごめんねと、言うハルキさんの方が目を伏せて悲しそうだった。
 だから今日は、上でハルキさんが帰ってくるのを待っていた。せっかくなのでハルキさんのために何かを作ってあげたいと思ってキッチンをあさっていた。ここはあまり生活感がない。さらに変なのは食器も食材もほとんどないのだ。いつも食事はハルキさんの手作りだったはずでなのに、何もないのだ。冷蔵庫に至ってはコンセントが入っていなかった。ここには暮らしていた跡がない。家具は揃っているけど、そこにあるだけで使われていない。家の中を見てまわると、不自然なほど綺麗だった。シワの全くないソファー、埃の目立つ階段。この家には2階があった。行ったことはないけれど、ハルキさんの寝室は2階にあるものと思っていた。でもこの階段はしばらく使われていない様子だった。
 ハルキさんのために何かできないだろうか。何もない家の中は不意に冷たく感じてしまった。すごく暖かい場所のように感じていたのに、変な気もする。でも多分この部屋の暖かさはハルキさんのもたらすものなんだ。もうすぐハルキさんが帰ってくる。地下のあの部屋で待っていようか。キッチンでぽっかり空いた穴を見つめる。この穴から冷たい風が吹いている。目を瞑りその風を感じてみる。
 コツコツと、音が聞こえる。規則正しい音が続いて、段々と大きくなっている。足音だろうか。この奥にだれかいる。穴から離れてじっと息を殺して、ちらりと覗く。
 何かが出てきた。冷蔵庫の陰に隠れる。何かが出てきて、近づいてくるのが分かる。息を呑んだで顔を伏せる。
「めぐりちゃん、こっちに居たんだね。ただいま。」
顔を上げると、そこにハルキさんがいた。笑って顔を覗き込んでいた。
「おかえりなさい。」
「ごめん、びっくりさせちゃったかな。」
「びっくりしました。」
怖かった。穴から知らない人が出てきたらどうしようかと思って。
「言ってなかったからね。」
そうだ。穴の先にはあの部屋しかないはずなのに、ハルキさんはどこからきたの。
「この先には何があるのでしょうか。」
「知りたいの。」
「はい、知りたいです。」
ハルキさんは説明してくれた。
この家は、少し離れたもう一つの家に繋がっていて、その地下道が通路になっている。
たしかにこの近くに車が通れるような道はないし、ここから仕事に行くのも徒歩では無理だろうから車がないのは変だったんだ。
「もう一つの家に車を停めて、家の中にある地下道を通ってきているから、僕らの秘密の家だね。」
そのハルキさんの笑顔はずっと前に見た覚えがあった。
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