わたしはいない

白川 朔

文字の大きさ
28 / 70
あなたといっしょに

22.

しおりを挟む
「ハルキさん、今日はケーキを焼きました食べてみてください。」
夕食のあとめぐりちゃんはそう言って小さいケーキを持ってきた。昨日バターと薄力粉と生クリームを頼まれて帰りに買ってきた。何に使うか分からなかったけど、ケーキを作るためだったのか。
「すごいね自分で作ったんだ。」
こくりとうなづいて、フォークを差し出される。その手は少し震えていて、緊張しているようでもあった。
「話を聞いてもらえますか。」
気を落ち着かせるために、ケーキを口に運んでから話そうとする。
「聞くよ。」
見つめられた目を逸らさないように、真っ直ぐ見つめ返して言葉を待った。
「間違っていたら、教えてください。私がハルキさんとあった日のことです。」
めぐりちゃんは思い出していた。初めてあった日のこと、僕が声をかけた日のことを言葉を間違えないように話している。初めてあった時のめぐりちゃんは今よりもっと無邪気に笑って楽しそうだった。あの時の無邪気で無垢なめぐりちゃんに戻って欲しい、それだけなんだ。
「だから、ハルキさんは血縁者だと思うんです。どうですか。」
「大体あっているよ。」
話し終えた後、僕はまだ一口も手をつけていなかったケーキをフォークで刺した。
「分からないんです。」
「何が。」
「ハルキさんは誰なんですか。」
目を逸らすことを許さない、めぐりちゃんは目に光を宿し、好奇心ではない何かから知りたがっている。
「僕は、めぐりちゃんの従兄弟だよ。」
目は大きく見開かれて、こちらを見ている。手にはフォークを握ったまま、次の言葉を考えられずにいるようだった。
「めぐりちゃんのお母さんのお兄さんの息子なんだ。菅野家の次男なんだよ。だから、従兄弟なんだよ。」
「でも、初めてあった日は一人でしたよね。」
「あの日は、確か学校の冬休みの宿題で天体観測があって、あの別荘に行っていたんだ。僕も両親は忙しそうだったからね。」
そうなんですかと、もうクリームがわずかに残るだけの皿のクリームを集めるようにフォークを滑らす。それは、今までの話と記憶をかき集めているように見えた。
「ハルキさんがなぜお父様の秘書をなさっているのですか。」
「家同士の問題なんだよ。」
「どう言うことですか。」
聞くときは目を見て言う。
「話して置こうかな。落ち着いて聞いてね。」

 菅野家はもともと大きな家だったんだけどお祖父様の代から力が弱くなっていたんだ。めぐりちゃんのお母さん、おば様は菅野家の長女だったんだけど、ある時白井家の長男との縁談が持ち込まれた。家は長男である僕の父さんが継ぐことになり、菅野家安泰のため力のある白井家との縁談を受けることにした。お祖父様は古い人だったから政略結婚を受け入れた。でも、おば様は結婚を嫌がっていたのに、家のために結婚を受け入れたんだ。僕はおば様のことが本当のお母様のように慕っていたから。白井さんのことが好きではなかった。でも、おば様を幸せにしてくれるならとも思った。
 なのに、白井さんは娘を生んでから息子の産めなかったおば様を愛していなかった。体が弱く、病気を持っていたのに見向きもせず白井さんは仕事に励んでいた。おば様を幸せにするどころか、おば様は辛い目にあっていた。おば様が亡くなってしまった日もだ。だから僕は白井さんのことが好きではなかった。そのあと、お祖父様は菅野家と白井家の関係が切れてしまうことを恐れた。だからお祖父様は、大学出てすぐの僕を白井さんの秘書にしたんだ。

「だから、秘書なんだよ。全部政略なんだ。僕も秘書になるときに全て聞かされて苦しくなった。」
「そんな。」
きっと、めぐりちゃんが大人のやり方を知るには早すぎた。
「めぐりちゃんを連れ出した理由は、おば様を失っても泣かなかった白井さんのへの嫌がらせでもあるんだ。くだらないだろ。」
めぐりちゃんは首を横に振り否定をした。
「ハルキさんが連れ出してくれたから、寂しくなくなったんです。だから、ハルキさんには感謝しています。」
「そっか。」
「だから、捕まらないようにもっとずっと一緒にいたいです。」
一緒に居ることなんてできないのに、僕はそれが嬉しかった。いつか僕が捕まる日まで一緒に居よう。いつの間にか、僕のお皿も空になっていた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

あなたへの愛を捨てた日

柴田はつみ
恋愛
公爵夫人エステルは、冷徹な夫レオニスを心から愛していた。彼の好みを調べ、帰宅を待ちわび、献身的に尽くす毎日。 しかし、ある夜会の回廊で、エステルは残酷な真実を知る。 レオニスが、未亡人クラリスの手を取り囁いていたのだ。 「君のような(自立した)女性が、私の隣にいるべきだった」 エステルは悟る。自分の愛は彼にとって「重荷」であり、自分という人間は彼にとって「不足」だったのだと。その瞬間、彼女の中で何かが音を立てて砕け散る。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

✿ 私は夫のことが好きなのに、彼は私なんかよりずっと若くてきれいでスタイルの良い女が好きらしい 

設楽理沙
ライト文芸
累計ポイント110万ポイント超えました。皆さま、ありがとうございます。❀ 結婚後、2か月足らずで夫の心変わりを知ることに。 結婚前から他の女性と付き合っていたんだって。 それならそうと、ちゃんと話してくれていれば、結婚なんて しなかった。 呆れた私はすぐに家を出て自立の道を探すことにした。 それなのに、私と別れたくないなんて信じられない 世迷言を言ってくる夫。 だめだめ、信用できないからね~。 さようなら。 *******.✿..✿.******* ◇|日比野滉星《ひびのこうせい》32才   会社員 ◇ 日比野ひまり 32才 ◇ 石田唯    29才          滉星の同僚 ◇新堂冬也    25才 ひまりの転職先の先輩(鉄道会社) 2025.4.11 完結 25649字 

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

二十年以上無視してきた夫が、今さら文通を申し込んできました

小豆缶
恋愛
「お願いです。文通から始めてもらえませんか?」 二十年以上会話もなかった夫――この国の王が、ある日突然そう言ってきた。 第一王妃マリアは、公爵家出身の正妃。だが夫はかつて、寵愛する第三王妃の話のみを信じ、彼女を殴ったことがある。その事件が原因で、マリアは男性恐怖症が悪化して、夫と二人きりでは会話すらできなくなっていた。 それから二十年。 第三王妃はとある事故で亡くなり、夫は反省したらしい。だからといって――今さら夫婦関係をやり直したいと言われても遅すぎる。 なのに王は諦めない。毎日の手紙。花を一輪。夜食の差し入れ。 不器用すぎる求愛に振り回されるうち、マリアの中で止まっていた感情が少しずつ動き始める。 これは、冷えきった政略夫婦が「文通」からやり直す恋の話。 ※本作は「存在されていないことにされていた管理ギフトの少女王宮で真の家族に出会う」のスピンオフですが、単体で読めます。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...