わたしはいない

白川 朔

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あのひのように

45.

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 ハルキがもう一つの家と読んでいる場所に連れてきてくれた。そこは見たことのある場所だった。お父様とお母様、お祖父様とそれからハルキも一緒に来た、あの別荘だ。家の中は昔と変わっていなかったから、本当に変わっていないから思い出せた。
「驚いた。」
ハルキはこれを見せるためにここに連れてきてくれたんだ。もう、ハルキの手にはマッチが握られていた。
「もう少しゆっくりしていく。思い出とかあるでしょ。」
ここにあるものは、確かに何も変わっていないから、今までおぼろげだった記憶もはっきりしてきた。この暖炉の前で大人たちが神妙な顔で話していた。小さい頃、お父様は聞かれたくない橋をするときにはお仕事の話をするからといって部屋から追い出したいた。あの時もお父様とお祖父様はお仕事の話をするから、春樹と一緒に星を見ていなさいと言って外にハルキと外に追い出されてから星を見ていた。仕事の話とは言っても多分、家同士の話だったんだ。あの頃はまだ小さかったから、仕事の話は聞いてはいけないと思っていたから、別になんとも思っていなかったけれど、あの時のお父様とお祖父様はもめているようにも見えていた。
「私、もしかしてもっとたくさんの知らないことがあるの。」
ハルキは何かを言いかけて口が音を出さずに震えた。
「知らなくてもいいんだよ。」
結局ハルキの口が動いて音になったのは、もったいぶったような台詞だった。今までとは違うのは、本当に聞かれたくないような低い声だった。私は、その声を知っていた。大人たちは聞かれたくない話をするときと同じ言い方なんだ。聞かなくてもいいこととはなんだろうか。考えが悪い方向へと流れていく。
「そんなに良くない話があるの。」
あの頃のハルキが今の私と同じくらいの時、ハルキはもう大人に見えていたんだ。本当に大人だったのかもしれない。家の中では聞きたくない話が飛び交い、自分にはあまり目を向けてもらえない。寂しいことを寂しいとは言えず、ずっと抱え込んでいた人なのだから、今更掘り返されたくない話もきっとあるだろう。
「聞いても、めぐりちゃんは嫌になったりしない。」
「何を。」
「家に帰ることとか、お母さんのこととか。」
一体何の話だ。今まで知らなかったことをここにきてから色々話してくれた。お母様が菅野の家のために白井家に嫁入りしていたこともその1つでハルキも同じような理由でお父様の秘書をやっている。それ以上のこととは何があるのだろうか。
「嫌にならないと思う。」
自信はないけれど、ハルキが嫌にならないで欲しいと思っているなら平気だと思う。ハルキだってずっといろんなことを見てきたのだから、話してくれるなら共有したい。
「なにから話そうかな。僕の家は昔は大きかったんだけど、今はもう家の力を失ってしまったという話はしたよね。それからめぐりちゃんのお母さんがその家を保つためにめぐりちゃんのお父さんとの縁談を受けたとも。でもね、少し問題があったんだ。息子ができないまま、子どもの産めなくなちゃったんだ。」
ハルキは深刻な顔をして、言葉を選んでいるのかゆっくりと話している。だけど、この話は以前にハルキが話している。ハルキの言葉はまだ終わらなかった。
「その後ね、白井家との関係が悪くなることを恐れた父さんは、僕を使って白井家との関係を繋げようとした。」
「その話は前に聞いたよ。そうやって今、秘書をしているって話でしょ。」
俯いて首を横に振った。
「まだ続きがあるんだよ。」
悲しみと怒りを堪えたような、絞り出した声だった。
「僕はめぐりちゃんが大きくなったら結婚するように言われてたんだよ。そんな約束をしていたんだよ。めぐりちゃんが成人するまでは言わないことになっていたんだ。初めは白井さんもかなり渋っていたらしいけど、仮として婚約をしていたんだよね。それで、僕はめぐりちゃんが大人になるまでの間は白井さんのもとで働くことになった。」
「私とハルキの結婚が決まっていた。」
「そう。でもね、めぐりちゃんを家同士の関係のために使って欲しくなかった。」
他にもっと選択肢があったのに、誘拐することを選んだ。それは、ハルキ自身もう家振り回されたくなかったんだろう。
「だけど、どうしてお父様はハルキを秘書として近くに置いたのかな。」
「僕と婚約させる前にどういう人か見極めたかったってところじゃないかな。」
本当にそうなのだろうか。何かが引っかかった。
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