わたしはいない

白川 朔

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あのひのように

46.

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「お父様は本当に、見極めるためにハルキを秘書にしたのかな。」
「どういうこと。」
僕は今までずっとそういうものだと思っていたから、そこにそこに疑問を抱いたことがなかった。今まで噛み合っていたものがなにか異物を噛まされてしまったように気持ち悪かった。
「だって、お父様は小さい頃からハルキのことを知っていたのに、わざわざ秘書として側に置く必要がないと思うの。」
大学生の時、白井さんの秘書として働くように言われた。その時は叔母様が死んでしまったばかりで、やりたいことなんか無かった。父さんも母さんも叔母様について深く悲しむ様子は無かった。それも悔しかったが、慕っていた人がいなくなってしまうというのはぽっかり穴が空いてしまったようで、光をなくしてしまったようでもあった。そんな時に僕は、白井家との関係を保つために卒業後の進路を決められた。将来10歳年下のめぐりちゃんと結婚するために、めぐりちゃんが16歳を越えるまでは、その婚約を認めるかを判断するためのに白井さんのそばで働くように言われた。
「僕のことを見極める以外の理由。」
僕はこれだけ聞かされていた。家の中でも家の外でも大人の社会の暗いところばかり見せられていたように思う。
「きっと何かあるよ。お父様は効率的なことが好きだから、ハルキのことを大学を卒業してからすぐに秘書として雇うなんてこと考えないよ。」
大卒仕立ての頃は、家も白井さんのことも嫌いなくせに自信過剰だったから変には思わなかった。だけど一般に考えておかしな話だったんだ。考えてもわからない気がした。暖炉の前の椅子に腰掛けて火の付いていない暖炉を見つめる。火のついていない暖炉は音も立てずに記憶の中の暖炉に重なった。
「どっちにしろ、僕はもうめぐりちゃんとは結婚できないんだし。」
沈黙に耐えかねたのは僕の方だった。
「そんな悲しいこと言わないでよ。」
悲しい顔をするめぐりちゃんは不安そうに俯いていた。下を向いているめぐりちゃんの頭頂部が自然とこちらを向いていて、自然に手が伸びていた。
「僕は幸せなんだよ。」
めぐりちゃんに向けて言うのと同時に自分にも言い聞かせる。僕は幸せなんだと。
「誘拐した時はめぐりちゃんのことをただ、可哀想な子としか思っていなかった。でも、ダメだってわかっているけど、ずっと一緒に居たいと思えるようになったんだ。」
なって、しまったんだ。自分のことが嫌になってしまう。
「私もね、初めはよくわからないところに連れてこられて何をされるのかわからなかったからすごく怖かった。でもね、ハルキはいつも優しいから怖いなんて思わなくなってたんだ。」
甘い言葉は溶け合ってもっと暖かいなにかを作りだす。
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