少年・少女A

白川 朔

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中学2年生

11.

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 「私たちの関係ってなんなんだろう。」
 愛佳との会話を思い出して聞いてみた。もちろん、恋人ではない。けれども、凪間くんはいつも私の望みに答えてくれる。
 私が短期間で成績を伸ばしたのは、凪間くんがたまに勉強を教えてくれるからだ。その勉強を、長谷川に教えて面倒な事になっているのはおかしな話だけど此処では苦しなった時に話に来たり私の殺し方についての相談だったりするが、今は私が充実した中学生でいるための成績維持の勉強会が1番の時間を占めている。
 それでもお母さんの小言の量は変わらない。「やれば出来るじゃない、さすが私の娘ね。」なんて言ってはまた、少し成績が下がると怒り出す。きっとヒステリックなんだ。
 それでも、授業でわからなかったところを話し、凪間くんがそれに対応したノートをまとめて持って来てくれる。そのノートは誰にも見つからないように自分の部屋でしか開かないようにしているが、とてもわかりやすくて凪間くんの成績の良さを身にしみて実感した。
 何度も二人で話していると言うのにいつまで経っても表情から顔を読み取ることができない。だけど、私たちの間にある信頼関係は中学生同士の恋愛感情なんかよりももっと濃いものだと思う。だからこそ気になってしまった。
「加害者と被害者。」
やはり、表情を読むことが出来ない彼は答える。この時初めて凪間くんは間違いを言った。
「違う。」
彼の間違いはとっても簡単なミス。けれどもその答えは私たちが最も嫌う大人たちに近づいてしまている証拠。
「何が違うんだ。」
認めたくがらない様子もまるで大人だ。いつもの様に片足をだけ伸ばした凪間くんが横に座った私を見た。目の奥が見えにくい。
「私は被害者じゃない。私は、凪間くんに罪を犯させようとしてる。自殺幇助って言うみたい。」
「僕は、少年Aになりたいんだ。」
自殺幇助という言葉が気に食わなかったらしい。目を逸らす。
「知ってる。だからその言い方をするなら、私は被害者で加害者なの。私は自分の命を計画的に奪おうとしている加害者でもあるの。」
自分でも何を言っているか分からなくなってきた。自分の両膝を抱えて、少し頭の中を整理する。
「私を少女Aにして。私と凪間くんは共犯者。」
それでも、考えが上手くまとまらず口から飛び出した共犯者という言葉が、自分の中にカチリと音をたててはまった。
「共犯者。」
「そう、そうでしょ。私は別に自殺するほど悲しいことがあるわけじゃない。私はただ、大人に見せつけたいだけなの。そのために私たちは私を殺すの。」
私たちは、どんなことよりも重い罪を犯そうとしてるんだ。大きな秘密を抱えた二人。そう簡単に切り離せる縁ではない。興奮気味に言った私は凪間くんに詰め寄っていた。距離を保とうとしない彼と私の距離はとても近く手を伸ばせば抱き寄せられる近さだ。
「篠原は篠原冬花をあやめたいんだね。」
凪間くんの声がいつもより近い。慌てて離れようとしたけどできなかった。凪間くんの手が私の腕を掴んでいた。
「冬花は、被害者だと思われたくない。」
「そうだけど。」
冷たい手で握られた腕を振り解こうとは思えなくて、そのまま正面から見据える。
「君の命は、僕に預けられてなんかない。」
少し考えた後は私に謝った。
「君は、誰かの物になんかならずに最後まで君自身のものでいてね。そうでないと僕が頑張る意味がなくなってしまう。」
彼が頑張るのは何のためだっけ。ちゃんと聞いた事がない。このまま、大人になりたくないと願っているのは私だけじゃない。凪間くんは自分の世界を壊すために、自分の世界を作ってしまっている事に気がついたみたいに、自分の握った腕が所有物じゃない分かって手放す。
「卓人って呼んで良い?」
ここでだけの秘密が欲しい。腕を離されても、少年の方を向いたまま座っていた。
「いいけど、なんで」
「ここでだけ、そうゆーのなんか共犯者ぽいでしょ。」
私はロマンチストの少女Aだから。
「冬花、僕らは共犯者だ。」
彼の手は私の首に触れる。冷たい彼の手に体はピクリとしても、怖くなかった。包み込まれた首の警戒を解いて、心拍数を伝える。座っていたけれどそのまま後ろに倒れ込む。
「決行はいつにしようか?冬花はいつが良い?」
今殺されるかも知れないと思ったし、それでも良いと思った。私の上にいる卓人の手は私に首を包んで居るだけ、その手首を握った。
「そうね。」
 世界を壊せるうちは、壊そうと思えるうちに。私たちの計画を実行しなくてはいけない。私たちが子供のうちに・・・。
「卒業式の前。」
大人になる前に私を連れて行って。15歳の間に居なくなろう。
「僕らは今日から、完璧な子供になろう。」
最高で最悪な私たちの夢。それでもいいの。私をどうかここから連れ出して。
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