少年・少女A

白川 朔

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中学2年生

12.

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 私はなぜか呼び出しを受けた。今朝、学校に着いた時に下駄箱の中に紙切れが入っていたのに気がついた。
 ノートの切れ端みたいなもので、誰かにゴミを入れられたのかと思って、捨てようとしたけどよく見ると、紙には別に綺麗なとは言えない字で放課後に教室で待っていて欲しいと書かれていた。見覚えのある字だ。
「おはよー、冬花!」
愛佳にいきなり肩を叩かれて、落としそうになった紙を慌ててポケットに押し込んだ。
 放課後になって、待たずに帰っても別に良かったのだろうが、それも悪い気がしてしまった。
「誰もいない教室で嘘をついていも仕方ないか。」
 今日は部活も塾の授業もないからあの場所に行くまでの時間潰しが必要だった。放課後の教室は静かでグラウンドで部活している声だけが鮮明に耳に入ってくる。
 ただ放課後とだけ書いてあったのが不親切で、いつまで待っていいものかわからない。ただ一人残された教室で、カバンからノートを取り出す。やることもないし、今なら誰かに見られる心配もない。卓人が丁寧にまとめてくれたノートを広げて読み返す。
 平面に書かれた立体図形、1枚にまとめられた100年間。学校の事だけじゃ無くてまだ教えられていない部分の先取りまでまとめてある。
 秒針の音が大きくなっていくのを感じながら自分のノートと見比べて、わからなくなっていた部分を照らし合わせる。
 気がかりで落ち着かなかいのは、あの手紙の最後に「ユート」と書いてあった事だ。間違いなく長谷川だ。週に一回だけ、部活のない日に勉強を教えているから、彼の字は見れば分かる。
 2学期から教えているから、もう数十回は教えてるかな。毎回終わった後にありがとうと笑顔で言ってくれる。成績も少し良くなったと、成績も発表の放課後はジュースを奢ってくれた。長谷川はいつもキラキラしていた。
 時計が4時50分を回った頃遠くから走ってくる足音が響いた。広げていたノートの一冊をそっと鞄の中に戻して、問題集をといて数秒を過ごす。私を長いこと待たせていた人は汗をかいて、息も上がっている。部活から抜け出して来たようだった。
「本当に待っててくれると思わなかった。」
謝るよりも先に、ありがとうと言ってくる彼は、前髪が風で跳ねたのを直している。
「あのさ、篠原って彼氏とかいるの。」
息が整いきらないのは緊張のせいだからだろうか、余裕が全く感じられない様子で早口に続ける。
「休憩時間に抜け出して来たんだ。この時間なら教室誰もいないし、落ち着いて話せると思ってさ。その、」
早口になったり言い淀んでいたり、メトロノームのように時を刻む秒針がよく響いている分テンポの違いが目立つ。
「俺、篠原の事が好きです。」
私のことを好きと言い放った人は、教室にいるときの私しか知らない。愛佳に言わせれば優しくてかっこいいらしいけれども、きっと私が心を開けばもれ以上近づいてこないだろう。
 今も不安そうに私の答えを待っている長谷川はしきりに手を組んだり解いたりしている。
「えっと。」
私は、どうしたいんだろ。断ってしまった方がいいのは明らかだ。別に長谷川のことが好きと感じた事はないし、何せ女子に人気の相手と付き合っても、上手くいかない事は目に見えている。
 だけど、ここで起きたことを誰にも話さない確証なんてないじゃないか。誰にも言わないようにといきなりキスをして来た人間を除いて私にも長谷川にもそんな事はきっとできない。
だったら、私が勇気を持って告白して来た人気者を振ったという噂が立つ方がよっぽどの問題かもしれない。
「ごめんね。困らせるつもりじゃなかったんだ。」
彼が私に告白しようとしていることを前もって愛佳は知っていたのだ。他に知っている女子がいてもおかしくない。どう転んでも、きっと明日にはクラス中に広がっていることを覚悟した方が良さそだ。
「告白されるのなんて初めてで。」
言葉選びが難しい。
「いつも明るくて、一生懸命に頑張ってるところとか見ててすごいなって思ってて、もし良かったら、付き合ってもらえないかな。」
それは、尊敬での好きなのかもしれない。もしも私がこの人と付き合ったとして、周りから見れば充実した中学生に見えるだろうか。
 そんなことばかり考えてしまう。後悔しないように選択したいからこそゆっくり考える。
「篠原、すぐに答えを出さなくてもいいんだ。あ、これ俺の電話番号。携帯電話だし、篠原の気持ち聞かせてよ。」
休憩時間に抜け出して来たというのは本当らしい。時計を気にしながら、終始早口で出て行ってしまった。
 やっと引いてくれた長谷川の背中が見えなくなって足音も聞こえなくなってから、コートのポケットに入っていた紙切れを取り出す。
 また一人になった教室で朝の紙切れと電話番号の書かれた紙を握ったまま呟いた。

「自分勝手。」
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