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第一話:鉄の女の崩壊と、笑う聖女
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「コーデリア・エバハート。貴様との婚約を、只今をもって破棄する!」
王城の執務室。 分厚い樫の木の扉を閉ざした密室に、王太子レイモンド殿下の声が響き渡った。
私の目の前には、書類の山で埋もれた執務机。 その向こう側で、金髪を荒々しくかき上げたレイモンド殿下が、侮蔑の眼差しを私に向けている。
そして、その腕には小柄な少女がしがみついていた。 ピンク色のふわふわとした髪、大きな瞳、あどけない表情。 最近、王宮に出入りするようになった男爵令嬢、ミナだ。
彼女は怯えたように震える素振りを見せながら、上目遣いで殿下を見つめている。
「れ、レイモンド様ぁ……。私のせいで、そんな……」
「ミナ、君のせいじゃない。これは国益の問題だ。この『鉄の女』が、未来の王妃に相応しくないというだけの話なのだから」
私は、手に持っていた羽ペンを静かにインク壺に戻した。 指先が冷えている。 けれど、震えてはいない。 まだ、震えてはいけない。
私はゆっくりと立ち上がり、スカートの皺を伸ばしてから、完璧なカーテシーを披露した。
「……謹んで、拝命いたします」
私の声は、自分でも驚くほど平坦だった。 まるで、今日の天気を報告しているかのような抑揚のなさ。
それがさらに、レイモンド殿下の癇に障ったらしい。
「見ろ! その態度だ! 婚約破棄を突きつけられてなお、眉一つ動かさんその冷血さ! 貴様には人の心がないのか?」
「殿下。感情で国政は動かせません。此度の決定が殿下のご意志であり、国王陛下の内諾を得たものであるならば、一介の公爵令嬢である私に拒否権はございません」
「そういうところが! 可愛くないと言っているんだ!」
ドンッ! 殿下が拳で机を叩く。 積み上げられた書類の塔が、少しだけ崩れた。
その書類のすべてが、私が昨晩徹夜して仕上げた『西部国境地帯における冬季備蓄食料の輸送計画書』であることを、殿下はご存知ないのだろう。
「コーデリア、お前といると息が詰まるんだ。常に正論、常に数字、常に効率……。俺は王だぞ? お前の部下ではない!」
「王だからこそ、数字と効率が必要なのです。民は霞を食っては生きられません」
「黙れ! ミナを見習え。彼女は常に俺を癒やし、励ましてくれる。彼女の笑顔を見ているだけで、力が湧いてくるんだ。『聖女』としての力も確認されている。お前の小難しい理屈よりも、彼女の祈りのほうがよほど国を豊かにする!」
聖女。 確かに、教会が彼女をそう認定したという話は聞いている。 作物を少しだけ早く実らせたり、軽い怪我を治したりする力があると。
しかし。
「殿下。聖女の祈りで、枯渇した小麦倉庫が満たされるのでしょうか? 祈りで、壊れた橋が直るのでしょうか? 祈りで、隣国との関税交渉がまとまるのでしょうか?」
「……っ、貴様、ミナを侮辱するか!」
「事実を申し上げています」
「ひどい……っ! コーデリア様、どうしてそんな意地悪をおっしゃるんですかぁ? 私、ただ皆さんに幸せになってほしくて、一生懸命お祈りしてるだけなのにぃ……」
ミナが瞳に涙を溜め、レイモンド殿下の胸に顔を埋める。 殿下は彼女を抱き寄せ、私を睨みつけた。
「見たか、この健気さを! お前のように権力と義務に固執する女には理解できまい!」
権力と、義務。 私は小さく息を吐いた。
幼い頃から、王太子妃になるためだけに教育を受けてきた。 遊ぶ時間も、友人と語らう時間も、すべて削ぎ落として。 経済学、法学、帝王学、周辺諸国の言語、歴史、地理。
私の肌が白いのは、日差しの下で遊んだ記憶がないからだ。 私の目が悪いのは、蝋燭の灯りだけで書物を読み耽ったからだ。 私の表情が乏しいのは、個人的な感情を表に出すことは「未来の国母」として相応しくないと、厳しく躾けられたからだ。
それを、「可愛げがない」の一言で切り捨てられるとは。
「……わかりました。では、今後の引き継ぎについてお話しさせていただきます」
私は感情の蓋をさらに固く閉ざし、事務的なモードへと切り替えた。 ここで取り乱して泣き喚けば、少しは「可愛い」と思ってもらえるのだろうか? いいえ、今更そんなことはどうでもいい。
重要なのは、私が去った後も、この国の行政機能が麻痺しないようにすることだ。 それが、私を育ててくれた国への、最後の奉仕。
「引き継ぎだと?」
「はい。現在、私が管轄している案件は大きく分けて三つ。第一に、北部の飢饉対策としての緊急輸入ルートの確保。第二に、王都の下水道改修工事の予算折衝。第三に、帝国との通商条約の更新準備です」
私は机の上の書類を素早く分類し、三つの山を作った。
「特に急を要するのが、北部の飢饉対策です。例年よりも雪が早まる予報が出ています。あと一週間以内に輸送隊を出発させなければ、北部の二つの村が孤立します。手配は済ませてありますが、最終決裁の印が必要です」
私は書類を殿下の前に差し出した。
「ふん、そんなもの、ミナの聖女の力があればどうとでもなる」
殿下は書類を見ようともしなかった。
「……はい?」
「だから! ミナが北部に行って祈れば、雪も溶けるし作物も実るだろうと言っているんだ! わざわざ高い金を払って他国から小麦を買う必要などない!」
「殿下、聖女の力は万能ではありません。天候を操るなど、神話の領域です。それに、仮に雪が溶けたとしても、今から種を蒔いて収穫するなど間に合いません」
「うるさい! お前はすぐにそうやって否定する! やってみなければわからんだろう!」
「国家運営は博打ではありません!」
思わず声を荒らげてしまった。 殿下がビクリと肩を震わせ、すぐに顔を真っ赤にして怒鳴り返してくる。
「貴様……っ、王族に向かってなんだその口の利き方は!」
「レイモンド様ぁ……怖いよぉ……」
「よしよし、大丈夫だミナ。この女はもう、ただの平民以下だ。追放処分にするからな」
「……追放、ですか」
婚約破棄だけではなく、国外追放。 それは、私の存在そのものをこの国から抹消するという宣言。
「そうだ。王家を愚弄し、聖女を害そうとした罪だ。情けとして処刑は免じてやるが、二度とこの国の土を踏めると思うな。今すぐ出ていけ! 着の身着のままな!」
私は呆然と立ち尽くした。 着の身着のまま。 私財の持ち出しすら許されない。 それは、死ねと言われているに等しい。
しかし、私の心の中に湧き上がったのは、恐怖ではなかった。 諦めだ。
ああ、もう無理だ。 この人には、何を言っても通じない。
私が必死に積み上げてきたロジックも、計算も、予測も、すべて「可愛げがない」「小難しい」という感情論の前に敗北したのだ。
ガタン、と何かが外れる音がした。 それは、私の中でずっと張り詰めていた糸が切れる音だった。
「……承知いたしました」
私は深く頭を下げた。
「我がエバハート公爵家にも、すでに通達は?」
「ああ、してある。公爵もお前のことは勘当だと言っていたぞ。『王家の不興を買うような娘は我が家には不要だ』とな」
そうですか。 お父様らしい。 あの方にとって、私は「王妃になるための道具」でしかなかった。 道具が不良品だったと返品されれば、廃棄するのは当然の判断だ。
私は孤独だった。 これまでも、そしてこれからも。
「では、失礼いたします」
私は背を向けた。 机の上に残された、三つの書類の山。 これらが決済されなければ、国がどうなるか。 北部の民が飢え、王都が汚水にまみれ、帝国との関係が悪化し物流が止まる。
けれど、もう私には関係のないことだ。 私が口を出せば、また「可愛げがない」と罵られるだけなのだから。
「あ、待って、コーデリア様ぁ」
背後から、ミナの甘ったるい声が掛かった。 振り返ると、彼女は満面の笑みを浮かべていた。 それは勝利者の笑みであり、無邪気な悪意の塊だった。
「今までお疲れ様でしたぁ。これからは、私がレイモンド様を支えていくので、安心してくださぁい。難しい書類とかよくわかんないけどぉ、愛があればなんとかなりますよね?」
「そうとも! 愛と信仰こそが国を富ませるのだ!」
二人は見つめ合い、世界に入り込んでいる。 そこには、現実的な問題など存在しないかのような、お花畑のような空気が漂っていた。
私は何も言わずに部屋を出た。
バタン、と重厚な扉が閉まる。
廊下に出た瞬間、張り詰めていた気が抜けた。
「……はぁ」
ため息が漏れる。 視界が少し揺れた。
王城の廊下は、いつも通り静まり返っている。 衛兵たちが、直立不動で私を見送る。 彼らの視線には、困惑と、ほんの少しの同情が混じっているように見えた。 おそらく、中の怒鳴り声は筒抜けだったのだろう。
私は胸を張り、背筋を伸ばして歩き出した。 これが、この城での最後の歩みだ。 「鉄の女」と呼ばれた公爵令嬢として、最後まで無様に泣き崩れる姿など見せてはならない。
カツ、カツ、カツ。 ヒールの音が冷たい石床に響く。
城の出口までが、ひどく遠く感じられた。
すれ違う侍女たちが、慌てて道を開けて頭を下げる。 彼女たちが着ている制服のデザインを一新し、動きやすく丈夫な生地に変えたのは私だ。 廊下の窓ガラスを、断熱性の高いものに取り替えるよう手配したのも私だ。 冬場の城内が以前より暖かいのは、私が薪の調達ルートを見直したからだ。
至る所に、私の仕事の痕跡がある。 私の人生のすべてが、この城と、この国の機能維持に捧げられてきた。
けれど、それも今日で終わり。
私がしたことは、無駄だったのだろうか? あんな愚かな王太子のために、睡眠時間を削り、視力を落とし、肌を白くしてまで尽くしたことは。
「コーデリア様……!」
通用口の近くで、初老の男性が駆け寄ってきた。 財務大臣のバートン伯爵だ。 数少ない、私の仕事ぶりを理解し、協力してくれていた実務派の貴族。
「バートン様」
「追放とは、まことですか!? いったい殿下は何をお考えなのか! 今、貴女にいなくなられては、来年度の予算編成が……!」
彼は顔面蒼白で、脂汗を流している。 そうだろう。 実務を担当している人間ならば、私が抜けることの穴の大きさを理解できるはずだ。 私が一手に引き受けていた調整業務がすべて停止すれば、現場は大混乱に陥る。
「申し訳ありません、バートン様。決定は覆りません」
「そ、そんな……。陛下は? 陛下はなんと?」
「殿下の決定を内諾されたそうです」
「馬鹿な……! 国王陛下も、最近は判断力が……くそっ、あの『聖女』が現れてから、城の空気がおかしいのです!」
バートン伯爵は悔しげに拳を握りしめた。
「コーデリア様、どうにかして……」
「無理です。私はもう、一般人以下の追放者ですから」
私は寂しげに微笑んだ。 こんな風に笑うのは、いつぶりだろうか。
「バートン様。北部の件、備蓄倉庫の鍵は管理官に預けてあります。ですが、輸送の許可が降りなければ鍵は開きません。……どうにか、殿下を説得してください」
「……善処いたします。ですが、貴女なしで、あの殿下を説得できる自信が……」
「貴方ならできます。この国の屋台骨を、どうか支えてください」
私はそう言い残し、バートン伯爵の横を通り過ぎた。 これ以上話していると、情が湧いてしまう。 未練が残ってしまう。
城門を出ると、すでに粗末な馬車が一台用意されていた。 御者台には、無愛想な兵士が一人。 王家の紋章も入っていない、荷運び用の馬車だ。 これが、元・王太子婚約者への待遇か。
「乗れ。国境まで送る」
兵士が短く告げる。 従者も、護衛もいない。 着替えも、金銭も、宝石もない。 身につけているのは、今着ている地味な紺色のドレスと、母の形見であるロケットペンダントだけ。
私は黙って馬車に乗り込んだ。 椅子は硬く、車内は薄暗い。 カビ臭い匂いが鼻をつく。
「出します」
鞭の音が響き、馬車が動き出した。 ガタゴトと車輪が石畳を転がる振動が、お尻に直接伝わってくる。
窓の外を流れる王都の景色。 整備された大通り。 活気のある市場。 整然と並ぶ街路樹。
これらもすべて、私が都市計画に関わり、整備したものだ。 あの噴水の広場も、子供たちが安全に遊べるようにと設計させた。 あの市場の屋根も、雨の日でも商売ができるようにと設置させた。
民衆は、誰も知らないだろう。 誰がこの快適な生活基盤を作ったのか。 「鉄の女」「冷血公爵令嬢」と陰口を叩かれている私が、彼らの生活の細部に至るまで気を配っていたことを。
でも、それでいいと思っていた。 評価など要らなかった。 王太子を支え、国を富ませることが私の使命であり、喜びだったから。
……嘘だ。
本当は、認めてほしかった。 「よくやったね」と、誰かに頭を撫でてほしかった。 「ありがとう」と、笑顔で言われたかった。
レイモンド殿下に。 お父様に。 誰でもいいから、私という人間を見てほしかった。
馬車が王都の門をくぐる。 見慣れた景色が遠ざかっていく。
私の視界が、急に滲んだ。
ポタッ、と膝の上に雫が落ちる。 一つ落ちると、もう止まらなかった。
「……あっ」
声が漏れる。 喉の奥が熱い。
私は両手で顔を覆った。 今まで必死に抑え込んでいた感情が、決壊したダムのように溢れ出してくる。
悔しい。 悲しい。 虚しい。
私の18年間は、なんだったの? あんな、書類一つ読もうとしない男のために。 「可愛い」というだけの理由で聖女を選んだ男のために。 私のすべてを捧げてきたというの?
馬車の中で、私は声を押し殺して泣いた。 プライドの高い「鉄の女」が、子供のようにしゃくりあげて泣いた。
誰にも聞こえない。 誰にも見られない。 だからこそ、私は初めて自分自身のために泣くことができた。
馬車は北へ向かう。 雪深い、帝国との国境へ。
寒さが、ドレスの薄い生地を通して肌を刺す。 私は自分の体を抱きしめ、震えを止めようとした。
寒い。 心も、体も。
これから私は、どうなるのだろう。 野垂れ死ぬのか。 狼の餌になるのか。 それとも、敵国である帝国の兵士に見つかり、辱められて殺されるのか。
どちらにせよ、私の人生はここで終わったのだ。
……いいえ。 本当に、終わったの?
ふと、涙を拭った私の脳裏に、ある情報が浮かんだ。
帝国。 我が国の北に位置する軍事大国。 国土は痩せているが、圧倒的な武力と、豊富な鉱物資源を持つ国。
私は、帝国との通商条約の更新準備をしていた。 その過程で、帝国の内情を徹底的に調べ上げていた。
帝国の若き皇帝、ジークハルト。 「氷の皇帝」と恐れられる彼は、完全実力主義者であり、無能な貴族を次々と粛清し、有能な人材であれば平民でも登用しているという。
そして、帝国は今、深刻な問題を抱えている。 急速な領土拡大に伴う、物流システムの欠陥。 物資が前線や僻地に行き届かず、兵站が崩壊寸前であること。
それは、私が最も得意とする分野だ。
私の手は、まだ震えていた。 けれど、それはもう悲しみによる震えだけではなかった。
もし。 もしも私が生き延びて、その能力を必要としてくれる場所があるならば。
私は窓の外、鉛色の空を見上げた。
「……後悔させてやる」
誰にともなく、呟いた。
私を捨てたレイモンド殿下。 私を見放した父。 私を嘲笑ったミナ。 そして、私を「鉄の女」と呼び、理解しようとしなかったこの国すべて。
貴方たちが捨てたものが何だったのか。 思い知らせてやる。
私が組んでいた物流システム。 私が抑えていた予算。 私が繋いでいた外交ルート。
それらがすべて失われた時、この国がどうなるか。 私は誰よりも正確にシミュレーションできる。
「見ていなさい……」
涙はもう乾いていた。 瞳に宿るのは、冷たく燃える復讐の炎。
馬車は雪道を往く。 その先で待つのが、地獄か、それとも新たな運命か。
私はまだ知らない。
国境の峠を超えた時、視界を埋め尽くす銀世界の中に、黒い影の群れが見えた。
帝国の紋章を掲げた、重装騎士団。
彼らは、まるで誰かを待ち構えていたかのように、私の馬車の前に立ちはだかった。
王城の執務室。 分厚い樫の木の扉を閉ざした密室に、王太子レイモンド殿下の声が響き渡った。
私の目の前には、書類の山で埋もれた執務机。 その向こう側で、金髪を荒々しくかき上げたレイモンド殿下が、侮蔑の眼差しを私に向けている。
そして、その腕には小柄な少女がしがみついていた。 ピンク色のふわふわとした髪、大きな瞳、あどけない表情。 最近、王宮に出入りするようになった男爵令嬢、ミナだ。
彼女は怯えたように震える素振りを見せながら、上目遣いで殿下を見つめている。
「れ、レイモンド様ぁ……。私のせいで、そんな……」
「ミナ、君のせいじゃない。これは国益の問題だ。この『鉄の女』が、未来の王妃に相応しくないというだけの話なのだから」
私は、手に持っていた羽ペンを静かにインク壺に戻した。 指先が冷えている。 けれど、震えてはいない。 まだ、震えてはいけない。
私はゆっくりと立ち上がり、スカートの皺を伸ばしてから、完璧なカーテシーを披露した。
「……謹んで、拝命いたします」
私の声は、自分でも驚くほど平坦だった。 まるで、今日の天気を報告しているかのような抑揚のなさ。
それがさらに、レイモンド殿下の癇に障ったらしい。
「見ろ! その態度だ! 婚約破棄を突きつけられてなお、眉一つ動かさんその冷血さ! 貴様には人の心がないのか?」
「殿下。感情で国政は動かせません。此度の決定が殿下のご意志であり、国王陛下の内諾を得たものであるならば、一介の公爵令嬢である私に拒否権はございません」
「そういうところが! 可愛くないと言っているんだ!」
ドンッ! 殿下が拳で机を叩く。 積み上げられた書類の塔が、少しだけ崩れた。
その書類のすべてが、私が昨晩徹夜して仕上げた『西部国境地帯における冬季備蓄食料の輸送計画書』であることを、殿下はご存知ないのだろう。
「コーデリア、お前といると息が詰まるんだ。常に正論、常に数字、常に効率……。俺は王だぞ? お前の部下ではない!」
「王だからこそ、数字と効率が必要なのです。民は霞を食っては生きられません」
「黙れ! ミナを見習え。彼女は常に俺を癒やし、励ましてくれる。彼女の笑顔を見ているだけで、力が湧いてくるんだ。『聖女』としての力も確認されている。お前の小難しい理屈よりも、彼女の祈りのほうがよほど国を豊かにする!」
聖女。 確かに、教会が彼女をそう認定したという話は聞いている。 作物を少しだけ早く実らせたり、軽い怪我を治したりする力があると。
しかし。
「殿下。聖女の祈りで、枯渇した小麦倉庫が満たされるのでしょうか? 祈りで、壊れた橋が直るのでしょうか? 祈りで、隣国との関税交渉がまとまるのでしょうか?」
「……っ、貴様、ミナを侮辱するか!」
「事実を申し上げています」
「ひどい……っ! コーデリア様、どうしてそんな意地悪をおっしゃるんですかぁ? 私、ただ皆さんに幸せになってほしくて、一生懸命お祈りしてるだけなのにぃ……」
ミナが瞳に涙を溜め、レイモンド殿下の胸に顔を埋める。 殿下は彼女を抱き寄せ、私を睨みつけた。
「見たか、この健気さを! お前のように権力と義務に固執する女には理解できまい!」
権力と、義務。 私は小さく息を吐いた。
幼い頃から、王太子妃になるためだけに教育を受けてきた。 遊ぶ時間も、友人と語らう時間も、すべて削ぎ落として。 経済学、法学、帝王学、周辺諸国の言語、歴史、地理。
私の肌が白いのは、日差しの下で遊んだ記憶がないからだ。 私の目が悪いのは、蝋燭の灯りだけで書物を読み耽ったからだ。 私の表情が乏しいのは、個人的な感情を表に出すことは「未来の国母」として相応しくないと、厳しく躾けられたからだ。
それを、「可愛げがない」の一言で切り捨てられるとは。
「……わかりました。では、今後の引き継ぎについてお話しさせていただきます」
私は感情の蓋をさらに固く閉ざし、事務的なモードへと切り替えた。 ここで取り乱して泣き喚けば、少しは「可愛い」と思ってもらえるのだろうか? いいえ、今更そんなことはどうでもいい。
重要なのは、私が去った後も、この国の行政機能が麻痺しないようにすることだ。 それが、私を育ててくれた国への、最後の奉仕。
「引き継ぎだと?」
「はい。現在、私が管轄している案件は大きく分けて三つ。第一に、北部の飢饉対策としての緊急輸入ルートの確保。第二に、王都の下水道改修工事の予算折衝。第三に、帝国との通商条約の更新準備です」
私は机の上の書類を素早く分類し、三つの山を作った。
「特に急を要するのが、北部の飢饉対策です。例年よりも雪が早まる予報が出ています。あと一週間以内に輸送隊を出発させなければ、北部の二つの村が孤立します。手配は済ませてありますが、最終決裁の印が必要です」
私は書類を殿下の前に差し出した。
「ふん、そんなもの、ミナの聖女の力があればどうとでもなる」
殿下は書類を見ようともしなかった。
「……はい?」
「だから! ミナが北部に行って祈れば、雪も溶けるし作物も実るだろうと言っているんだ! わざわざ高い金を払って他国から小麦を買う必要などない!」
「殿下、聖女の力は万能ではありません。天候を操るなど、神話の領域です。それに、仮に雪が溶けたとしても、今から種を蒔いて収穫するなど間に合いません」
「うるさい! お前はすぐにそうやって否定する! やってみなければわからんだろう!」
「国家運営は博打ではありません!」
思わず声を荒らげてしまった。 殿下がビクリと肩を震わせ、すぐに顔を真っ赤にして怒鳴り返してくる。
「貴様……っ、王族に向かってなんだその口の利き方は!」
「レイモンド様ぁ……怖いよぉ……」
「よしよし、大丈夫だミナ。この女はもう、ただの平民以下だ。追放処分にするからな」
「……追放、ですか」
婚約破棄だけではなく、国外追放。 それは、私の存在そのものをこの国から抹消するという宣言。
「そうだ。王家を愚弄し、聖女を害そうとした罪だ。情けとして処刑は免じてやるが、二度とこの国の土を踏めると思うな。今すぐ出ていけ! 着の身着のままな!」
私は呆然と立ち尽くした。 着の身着のまま。 私財の持ち出しすら許されない。 それは、死ねと言われているに等しい。
しかし、私の心の中に湧き上がったのは、恐怖ではなかった。 諦めだ。
ああ、もう無理だ。 この人には、何を言っても通じない。
私が必死に積み上げてきたロジックも、計算も、予測も、すべて「可愛げがない」「小難しい」という感情論の前に敗北したのだ。
ガタン、と何かが外れる音がした。 それは、私の中でずっと張り詰めていた糸が切れる音だった。
「……承知いたしました」
私は深く頭を下げた。
「我がエバハート公爵家にも、すでに通達は?」
「ああ、してある。公爵もお前のことは勘当だと言っていたぞ。『王家の不興を買うような娘は我が家には不要だ』とな」
そうですか。 お父様らしい。 あの方にとって、私は「王妃になるための道具」でしかなかった。 道具が不良品だったと返品されれば、廃棄するのは当然の判断だ。
私は孤独だった。 これまでも、そしてこれからも。
「では、失礼いたします」
私は背を向けた。 机の上に残された、三つの書類の山。 これらが決済されなければ、国がどうなるか。 北部の民が飢え、王都が汚水にまみれ、帝国との関係が悪化し物流が止まる。
けれど、もう私には関係のないことだ。 私が口を出せば、また「可愛げがない」と罵られるだけなのだから。
「あ、待って、コーデリア様ぁ」
背後から、ミナの甘ったるい声が掛かった。 振り返ると、彼女は満面の笑みを浮かべていた。 それは勝利者の笑みであり、無邪気な悪意の塊だった。
「今までお疲れ様でしたぁ。これからは、私がレイモンド様を支えていくので、安心してくださぁい。難しい書類とかよくわかんないけどぉ、愛があればなんとかなりますよね?」
「そうとも! 愛と信仰こそが国を富ませるのだ!」
二人は見つめ合い、世界に入り込んでいる。 そこには、現実的な問題など存在しないかのような、お花畑のような空気が漂っていた。
私は何も言わずに部屋を出た。
バタン、と重厚な扉が閉まる。
廊下に出た瞬間、張り詰めていた気が抜けた。
「……はぁ」
ため息が漏れる。 視界が少し揺れた。
王城の廊下は、いつも通り静まり返っている。 衛兵たちが、直立不動で私を見送る。 彼らの視線には、困惑と、ほんの少しの同情が混じっているように見えた。 おそらく、中の怒鳴り声は筒抜けだったのだろう。
私は胸を張り、背筋を伸ばして歩き出した。 これが、この城での最後の歩みだ。 「鉄の女」と呼ばれた公爵令嬢として、最後まで無様に泣き崩れる姿など見せてはならない。
カツ、カツ、カツ。 ヒールの音が冷たい石床に響く。
城の出口までが、ひどく遠く感じられた。
すれ違う侍女たちが、慌てて道を開けて頭を下げる。 彼女たちが着ている制服のデザインを一新し、動きやすく丈夫な生地に変えたのは私だ。 廊下の窓ガラスを、断熱性の高いものに取り替えるよう手配したのも私だ。 冬場の城内が以前より暖かいのは、私が薪の調達ルートを見直したからだ。
至る所に、私の仕事の痕跡がある。 私の人生のすべてが、この城と、この国の機能維持に捧げられてきた。
けれど、それも今日で終わり。
私がしたことは、無駄だったのだろうか? あんな愚かな王太子のために、睡眠時間を削り、視力を落とし、肌を白くしてまで尽くしたことは。
「コーデリア様……!」
通用口の近くで、初老の男性が駆け寄ってきた。 財務大臣のバートン伯爵だ。 数少ない、私の仕事ぶりを理解し、協力してくれていた実務派の貴族。
「バートン様」
「追放とは、まことですか!? いったい殿下は何をお考えなのか! 今、貴女にいなくなられては、来年度の予算編成が……!」
彼は顔面蒼白で、脂汗を流している。 そうだろう。 実務を担当している人間ならば、私が抜けることの穴の大きさを理解できるはずだ。 私が一手に引き受けていた調整業務がすべて停止すれば、現場は大混乱に陥る。
「申し訳ありません、バートン様。決定は覆りません」
「そ、そんな……。陛下は? 陛下はなんと?」
「殿下の決定を内諾されたそうです」
「馬鹿な……! 国王陛下も、最近は判断力が……くそっ、あの『聖女』が現れてから、城の空気がおかしいのです!」
バートン伯爵は悔しげに拳を握りしめた。
「コーデリア様、どうにかして……」
「無理です。私はもう、一般人以下の追放者ですから」
私は寂しげに微笑んだ。 こんな風に笑うのは、いつぶりだろうか。
「バートン様。北部の件、備蓄倉庫の鍵は管理官に預けてあります。ですが、輸送の許可が降りなければ鍵は開きません。……どうにか、殿下を説得してください」
「……善処いたします。ですが、貴女なしで、あの殿下を説得できる自信が……」
「貴方ならできます。この国の屋台骨を、どうか支えてください」
私はそう言い残し、バートン伯爵の横を通り過ぎた。 これ以上話していると、情が湧いてしまう。 未練が残ってしまう。
城門を出ると、すでに粗末な馬車が一台用意されていた。 御者台には、無愛想な兵士が一人。 王家の紋章も入っていない、荷運び用の馬車だ。 これが、元・王太子婚約者への待遇か。
「乗れ。国境まで送る」
兵士が短く告げる。 従者も、護衛もいない。 着替えも、金銭も、宝石もない。 身につけているのは、今着ている地味な紺色のドレスと、母の形見であるロケットペンダントだけ。
私は黙って馬車に乗り込んだ。 椅子は硬く、車内は薄暗い。 カビ臭い匂いが鼻をつく。
「出します」
鞭の音が響き、馬車が動き出した。 ガタゴトと車輪が石畳を転がる振動が、お尻に直接伝わってくる。
窓の外を流れる王都の景色。 整備された大通り。 活気のある市場。 整然と並ぶ街路樹。
これらもすべて、私が都市計画に関わり、整備したものだ。 あの噴水の広場も、子供たちが安全に遊べるようにと設計させた。 あの市場の屋根も、雨の日でも商売ができるようにと設置させた。
民衆は、誰も知らないだろう。 誰がこの快適な生活基盤を作ったのか。 「鉄の女」「冷血公爵令嬢」と陰口を叩かれている私が、彼らの生活の細部に至るまで気を配っていたことを。
でも、それでいいと思っていた。 評価など要らなかった。 王太子を支え、国を富ませることが私の使命であり、喜びだったから。
……嘘だ。
本当は、認めてほしかった。 「よくやったね」と、誰かに頭を撫でてほしかった。 「ありがとう」と、笑顔で言われたかった。
レイモンド殿下に。 お父様に。 誰でもいいから、私という人間を見てほしかった。
馬車が王都の門をくぐる。 見慣れた景色が遠ざかっていく。
私の視界が、急に滲んだ。
ポタッ、と膝の上に雫が落ちる。 一つ落ちると、もう止まらなかった。
「……あっ」
声が漏れる。 喉の奥が熱い。
私は両手で顔を覆った。 今まで必死に抑え込んでいた感情が、決壊したダムのように溢れ出してくる。
悔しい。 悲しい。 虚しい。
私の18年間は、なんだったの? あんな、書類一つ読もうとしない男のために。 「可愛い」というだけの理由で聖女を選んだ男のために。 私のすべてを捧げてきたというの?
馬車の中で、私は声を押し殺して泣いた。 プライドの高い「鉄の女」が、子供のようにしゃくりあげて泣いた。
誰にも聞こえない。 誰にも見られない。 だからこそ、私は初めて自分自身のために泣くことができた。
馬車は北へ向かう。 雪深い、帝国との国境へ。
寒さが、ドレスの薄い生地を通して肌を刺す。 私は自分の体を抱きしめ、震えを止めようとした。
寒い。 心も、体も。
これから私は、どうなるのだろう。 野垂れ死ぬのか。 狼の餌になるのか。 それとも、敵国である帝国の兵士に見つかり、辱められて殺されるのか。
どちらにせよ、私の人生はここで終わったのだ。
……いいえ。 本当に、終わったの?
ふと、涙を拭った私の脳裏に、ある情報が浮かんだ。
帝国。 我が国の北に位置する軍事大国。 国土は痩せているが、圧倒的な武力と、豊富な鉱物資源を持つ国。
私は、帝国との通商条約の更新準備をしていた。 その過程で、帝国の内情を徹底的に調べ上げていた。
帝国の若き皇帝、ジークハルト。 「氷の皇帝」と恐れられる彼は、完全実力主義者であり、無能な貴族を次々と粛清し、有能な人材であれば平民でも登用しているという。
そして、帝国は今、深刻な問題を抱えている。 急速な領土拡大に伴う、物流システムの欠陥。 物資が前線や僻地に行き届かず、兵站が崩壊寸前であること。
それは、私が最も得意とする分野だ。
私の手は、まだ震えていた。 けれど、それはもう悲しみによる震えだけではなかった。
もし。 もしも私が生き延びて、その能力を必要としてくれる場所があるならば。
私は窓の外、鉛色の空を見上げた。
「……後悔させてやる」
誰にともなく、呟いた。
私を捨てたレイモンド殿下。 私を見放した父。 私を嘲笑ったミナ。 そして、私を「鉄の女」と呼び、理解しようとしなかったこの国すべて。
貴方たちが捨てたものが何だったのか。 思い知らせてやる。
私が組んでいた物流システム。 私が抑えていた予算。 私が繋いでいた外交ルート。
それらがすべて失われた時、この国がどうなるか。 私は誰よりも正確にシミュレーションできる。
「見ていなさい……」
涙はもう乾いていた。 瞳に宿るのは、冷たく燃える復讐の炎。
馬車は雪道を往く。 その先で待つのが、地獄か、それとも新たな運命か。
私はまだ知らない。
国境の峠を超えた時、視界を埋め尽くす銀世界の中に、黒い影の群れが見えた。
帝国の紋章を掲げた、重装騎士団。
彼らは、まるで誰かを待ち構えていたかのように、私の馬車の前に立ちはだかった。
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