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【第8話】塩と鉄の密貿易
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夜の闇は、雪原においては完全な黒にはならない。 月明かりが白い大地に反射し、世界を青白い微光で包み込んでいるからだ。
しかし、その美しさは死と隣り合わせだ。 気温は氷点下二五度。 呼吸をするたびに、鼻の奥が凍りつくような痛みが走る。
「……現在時刻、午前二時一五分。予定より八分遅れですね」
私は懐中時計の蓋をパチンと閉め、ガタガタと揺れる馬車の荷台で呟いた。 御者台では、エイアン将軍の腹心である古参兵のベルクが、無言で手綱を操っている。
「嬢ちゃん……いや、凜様。もう少しで『迷わずの森』だ。舌を噛まないように気をつけな」
「了解です。……ベルクさん、馬の息が荒い。ペースを少し落として、呼吸を整えさせてください。ここで馬が潰れたら、私たちはただの凍った肉塊になります」
「へっ、よく見てやがる。了解だ」
馬車の速度が少し緩んだ。 私は荷台の幌(ほろ)をめくり、積み荷を確認した。
藁(わら)の下に隠されているのは、黒鉄村で鋳造されたばかりの「鉄のインゴット」と、試作の「短剣」が数本。 これが、私たちの命綱だ。
帝国の法律では、西方諸国への鉄の輸出は重罪だ。 見つかれば、言い訳無用の死刑。 だが、今の北嶺には「正義」よりも「塩」が必要だった。
塩がなければ、人は生きられない。 神経伝達物質が働かなくなり、筋肉が痙攣し、思考力が低下する。 そして何より、塩気のない食事は、兵士の精神(モラール)を驚くほど削ぐ。
(ボルグ監査官は、そこまで計算して補給を止めたのでしょう。陰湿ですが、効果的な兵糧攻めです)
私は冷え切った手をこすり合わせた。 ボルグは今頃、ソフィアたちの接待と特製酒で、夢の中だろう。 彼が目覚める明日の正午までに、全てを終わらせて戻らなければならない。
「……見えてきたぞ」
ベルクの低い声。 前方に、黒々とした針葉樹の森が壁のように立ちはだかっていた。 国境線上に位置する、帝国の地図には載っていない空白地帯。
そこに、ポツン、ポツンと、蛍のような淡い光が見えた。
「あれが、闇市の灯りですか」
「ああ。金さえあれば親の骨でも売るっていう、ならず者たちの巣窟だ。……凜様、フードを深くかぶれ。顔を見られるなよ」
馬車が森の中へ滑り込む。 風の音が止み、代わりに鬱蒼(うっそう)とした木の匂いと、焚き火の煙の匂いが鼻をついた。
◇
森の開けた場所には、奇妙な空間が広がっていた。 粗末なテントが立ち並び、様々な言語が飛び交っている。 帝国語、西方語、北方の方言。 ここは、どの国にも属さない「聖域(サンクチュアリ)」であり、同時に無法地帯だ。
私たちの馬車が止まると、すぐに数人の男たちが近づいてきた。 彼らは皆、腰に剣や短剣を帯び、目つきが鋭い。
「……帝国の馬車か。珍しい客だな」
先頭の男が、帝国語で話しかけてきた。 左目に眼帯をした、大柄な男だ。
「商談に来ました。……『鉄』があります」
私が荷台から声をかけると、男たちは顔を見合わせた。
「鉄だと? 帝国の鉄なんざ、泥混じりの粗悪品だろう。そんなもん、薪割りにも使えねぇよ」
嘲笑(あざわら)うような声。 当然の反応だ。帝国の鉄の質の悪さは、国際的にも有名だからだ。
私は無言で荷台から一本の短剣を取り出し、男の足元に投げた。
ザシュッ!
短剣は凍った地面に突き刺さった。 その切れ味と、突き刺さった時の澄んだ金属音に、男の表情が変わった。
「……ほう」
男は短剣を引き抜き、焚き火の明かりにかざした。 刃こぼれ一つない。 刀身には、美しい波紋のような模様が浮かんでいる。
「……炭素含有量の調整と、焼き入れの温度管理を徹底しました。強度は帝国標準規格の三倍。西方の騎士剣にも劣りません」
私が告げると、男は眼帯のない方の目で、私をじろりと見た。
「……嬢ちゃん、ただの使いっ走りじゃねぇな? こいつは『ダマスカス鋼』に近い。……どこで手に入れた」
「商品に関する質問は受け付けません。取引をする気があるかどうか、それだけです」
私は毅然と言い放った。 舐められたら終わりだ。ここでは「弱さ」は「搾取」と同義語だからだ。
男はしばらく短剣を見つめていたが、やがてニヤリと笑った。
「いいだろう。……俺の名はガルス。ここの顔役だ。で、こいつと引き換えに何が欲しい?」
「『塩』と『小麦』。それから『乾燥野菜』。……この馬車に積めるだけ」
「ハッ、強欲だねぇ。この鉄の量じゃ、塩三樽が関の山だ」
ガルスは足元を見透かすように言った。 やはり、買い叩きに来たか。
「三樽? 冗談でしょう。西方の市場価格では、この純度の鉄一キロで、塩一〇キロと交換できるはずです。輸送コストを差し引いても、一〇樽は堅い」
「ここは市場じゃねぇ。闇市だ。リスク料ってのが上乗せされるんだよ」
「リスク? 帝国軍の制式装備よりも高品質な武器が、出所不明(ノーブランド)で手に入るのですよ? 貴方たちが西方の騎士団に転売すれば、五倍の利益が出る。……そのマージンを計算に入れないほど、私は馬鹿に見えますか?」
私は懐から、あらかじめ計算しておいた「想定利益表」を取り出し、ガルスの目の前で広げてみせた。
「見てください。この鉄を加工して槍の穂先にすれば、五〇〇本分。騎士団への納入価格は金貨一〇〇枚相当。対して、貴方が提示した塩三樽の仕入れ値は金貨五枚程度。……利益率一九〇〇%。暴利にも程がありますね」
数字の羅列を見せられたガルスは、目を白黒させた。
「な、なんだこの計算式は……」
「納得できないなら、このまま帰ります。隣のテントの商人に話を持っていくだけです」
私は馬車の幌を閉めようとした。 これは賭けだ。 彼らにここを襲われて奪われる可能性もある。 だが、彼らは商人だ。 「継続的な取引」のメリットを知っているはずだ。
「……待て、待て!」
ガルスが慌てて手を挙げた。
「わかった、わかったよ! 嬢ちゃんの勝ちだ。……塩八樽だ。それと小麦を五袋つけてやる。これが限界だ」
「……乾燥野菜もつけてください。ビタミン不足で兵士の肌が荒れていますから」
「……チッ。わかったよ! 持ってけ泥棒!」
商談成立。 私は心の中でガッツポーズをした。
ベルクと、ガルスの部下たちが積み荷の交換を始める。 鉄のインゴットが降ろされ、代わりにずっしりと重い塩樽と小麦袋が積み込まれていく。 その重みは、そのまま「命の重み」だ。
「……嬢ちゃん」
作業を見守っていた私に、ガルスが声をかけてきた。 彼は懐から、小さな革袋を取り出し、私に投げ渡した。
「おまけだ。……『カカオ』と『香辛料(スパイス)』だ」
「……これは、高価なものでは?」
「いい取引ができた礼だ。それに、あんたのその度胸が気に入った。……また良い鉄が入ったら、俺のところに持ってきな。次はもっと勉強してやる」
ガルスは歯を見せて笑った。 悪党面だが、不思議と嫌味のない笑顔だった。
「ええ。……御縁があれば」
私は革袋を懐にしまい、馬車に乗り込んだ。 予定時刻まであと四時間。 急がなければならない。
「出すぞ、ベルクさん!」
「おうよ!」
馬車が動き出す。 背後で、闇市の灯りが遠ざかっていく。 私たちは、命をつなぐ物資とともに、再び極寒の闇の中へと駆け出した。
◇
帰路は、往路以上に過酷だった。 積み荷が重くなった分、馬の速度が出ない。 さらに、夜明け前の最も冷え込む時間帯が、私たちの体力を容赦なく奪っていく。
「……寒い」
私は自分の腕を抱きしめ、ガタガタと震えていた。 指先の感覚がない。 紙の服を着込んでいても、この冷気は骨の髄まで染み込んでくる。
(思考力が低下している……九九の七の段が、あやふやに……)
眠気が襲ってくる。 これは、ただの眠気ではない。死への誘惑だ。 ここで眠れば、永久に目覚めることはない。
「嬢ちゃん、寝るな! 歌でも歌え!」
ベルクが御者台から叫ぶ。 彼もまた、凍りつくような風を正面から受け、必死に意識を保っているのだ。
「う、歌なんて……知りません……」
「なんでもいい! 恋の歌でも、故郷の歌でも!」
故郷。 彩(サイ)国の歌。 ……幼い頃、母が歌ってくれた子守唄。 でも、それを思い出すと、心が折れてしまいそうになる。
私は別の歌を歌った。 幼い頃、算術の先生が教えてくれた「九九の歌」だ。
「いんいちがいち……いんにがに……いんさんがさん……」
震える声で、数字を紡ぐ。 それは歌というより、呪文のようだったかもしれない。 けれど、数字の規律(リズム)だけが、私の理性を現実に繋ぎ止めてくれた。
「……さんぱにじゅうし……さんく……にじゅうしち……」
意識が遠のきかけた、その時。
「――凜!!」
遠くから、私の名を呼ぶ声が聞こえた。 幻聴か? いいえ、違う。 この力強い、魂を震わせるような響きは。
私は重い瞼(まぶた)をこじ開け、前方を見た。
朝霧の向こうから、一騎の馬が疾走してくるのが見えた。 漆黒の軍馬。 その上に跨るのは、マントを翻したハク・エイアン将軍。
「将軍……?」
彼は私たちの馬車を見つけると、速度を緩めず一気に距離を詰めてきた。 そして、馬車と並走しながら、御者台のベルクに叫んだ。
「ベルク! 無事か!」
「へい! なんとか! だが、嬢ちゃんが限界です!」
エイアンは走りながら馬の鞍(くら)の上に立ち上がり、なんとそのまま馬車の荷台へと飛び移ってきた。
ダンッ!
馬車が大きく揺れる。 彼は幌を乱暴に開け、うずくまっていた私を見つけた。
「凜!」
「……どうして、ここに……ボルグの相手は……」
「うるさい! お前が遅いからだ!」
エイアンは私を抱き上げ、自分のコートの中に包み込んだ。 彼の身体は、信じられないほど熱かった。 ここまで、全力で馬を飛ばしてきたのだろう。 心臓の音が、私の耳元で激しく鳴っている。
「……生きてるな? 息はあるな?」
「……はい。計算通り、です」
「馬鹿野郎……! 計算通りなら、こんな氷みたいな身体になるわけがあるか!」
彼は私を強く、強く抱きしめた。 その熱が、私の凍えた身体に流れ込んでくる。 痛いほどに優しい熱。
「……戻ったぞ。塩も、麦も、全部だ」
私は彼の胸の中で、掠(かす)れた声で報告した。
「……ああ。よくやった。でかした」
彼は私の髪に顔を埋め、震える声で言った。
「だが、もう二度と行かせん。……お前がいなくなる恐怖に比べれば、塩がない食事など何でもない」
「……それは困ります。兵士の士気に関わりますから」
「屁理屈を言うな」
エイアンは苦笑し、私の額にコツンと自分の額を押し当てた。
「……帰るぞ。みんなが待っている」
馬車は朝日の中を走る。 私の意識は、彼の温もりの中で、ようやく安らかな微睡みへと落ちていった。
◇
城に戻った私たちは、人目を避けて裏口から物資を搬入した。 ソフィアたちが待機しており、手早く塩と小麦を倉庫の奥へ隠していく。
「おかえりなさい、凜! 無事でよかった!」 「ボルグはまだ寝てるわよ。私の色仕掛け、効きすぎちゃったみたい」
ソフィアがウインクをする。 どうやら、完全犯罪は成立したようだ。
その日の昼食。 食堂には、久しぶりに活気が戻っていた。
メニューはいつも通りの「麦粥」と「野菜の煮込み」。 だが、一口食べた兵士たちの表情が、一斉に輝いた。
「……う、美味い!」 「なんだこれ!? 味がするぞ!」 「塩だ! 塩が効いてる!」 「野菜も甘い! これ、カボチャか?」
食堂中に歓声が広がる。 たかが塩。されど塩。 適切な塩分濃度は、素材の旨味を引き出し、疲れた身体に活力を与える。
「……生き返るなぁ」
古参兵の一人が、涙ぐみながらスープを飲み干した。 その横で、若い兵士がおかわりを求めて列を作っている。
私は食堂の隅で、その様子を眺めながら、エイアンと共に昼食をとっていた。 私の皿にも、たっぷりと塩の効いたスープがある。
「……美味いな」
エイアンが静かに言った。
「ただの塩味だが、どんな宮廷料理よりも美味く感じる」
「それは、労働(リスク)というスパイスが効いているからですよ」
私はスプーンでスープをすくいながら、小さく笑った。 ガルスからもらった香辛料も少し入れたのだ。身体が芯から温まる。
「……お前のおかげだ、凜。この笑顔を守れたのは」
エイアンがテーブルの下で、私の手をそっと握った。 その手は大きく、温かく、そして力強かった。
「……公私混同です、将軍」
私は顔を赤らめながらも、その手を振り払わなかった。
そこに。 食堂の扉がバンッ!と開き、不機嫌そうな顔をしたボルグが入ってきた。 髪は乱れ、顔色は二日酔いで青白い。
「……騒がしいな。なんだこの騒ぎは」
ボルグは頭痛をこらえるようにこめかみを押さえながら、兵士たちの列を見た。
「なんだ、やけに嬉しそうじゃないか。補給が止まって、泥水のような粥をすすっているはずだろう?」
彼は近くの兵士のテーブルに近づき、残っていたスープの鍋を覗き込んだ。
「……ん?」
ボルグが眉をひそめる。 そして、鍋に残っていた汁を指ですくい、舐めた。
その瞬間。 彼の表情が凍りついた。
「……しょっぱい?」
彼は信じられないという顔で、もう一度舐めた。
「塩だ。……しかも、精製された上質な塩だ。……岩塩ではない。西方の湖塩(こえん)か?」
ボルグの目が、ギロリと私たちの方を向いた。
「おい、将軍! これはどういうことだ!」
彼は私たちのテーブルに大股で歩み寄ってきた。
「在庫の塩は尽きかけていたはずだ! それがなぜ、こんなにふんだんに使われている!? どこから湧いて出た!?」
エイアンは平然とスプーンを口に運び、飲み込んでから答えた。
「……ああ、それか。倉庫の奥から、先代の将軍が隠していた『古漬けの塩樽』が見つかってな。ラッキーだったよ」
「嘘をつけ! そんな報告は受けていない!」
「帳簿の記載漏れだろう。古い城だ、よくあることだ」
エイアンは肩をすくめた。 その堂々たる嘘つきぶりに、私は吹き出しそうになるのを必死でこらえた。
「……ふざけるな。そんな子供騙しが通用するとでも……!」
ボルグは私の顔を睨みつけた。
「貴様か。……凜。昨夜、貴様の姿が見えなかったが、何をしていた?」
「将軍の看病ですわ。……夜通し、つきっきりで」
私は妖艶に微笑んでみせた。 意味深な言い方に、周囲の兵士たちが「ヒューッ!」と冷やかす。
「ぐぬぬ……ッ!」
ボルグは顔を真っ赤にして、言葉を詰まらせた。 証拠はない。 塩はあるが、それが密輸品だという証明はできない。
「……いいだろう。今は見逃してやる」
ボルグは吐き捨てるように言った。
「だが、覚えておけ。帝都の監査局は甘くない。必ず尻尾を掴んでやるからな!」
彼はマントを翻し、食堂を出て行った。 その背中からは、敗北感と、より一層深まった憎悪が立ち上っていた。
「……危ないところでしたね」
私が息をつくと、エイアンがニヤリと笑った。
「ああ。だが、あいつは気づいていない」
「え?」
「塩の味に気を取られて、俺たちが『鉄』を売ったことには気づいていない。……これで、西方の騎士団とのパイプもできた。次はもっと大掛かりなことができるぞ」
エイアンの瞳には、かつてのような閉塞感はなかった。 あるのは、逆境を楽しむような野心的な光。
「……ほどほどにしてくださいね。私の計算が追いつきませんから」
「頼むぞ、相棒。……お前の計算が、俺の剣だ」
私たちは顔を見合わせ、共犯者の笑みを交わした。
窓の外では、雪解けの水音が聞こえ始めていた。 春は近い。 そして、春と共にやってくる「本当の敵」との決戦も、刻一刻と迫っていた。
しかし、今の私たちには恐れはなかった。 塩の効いたスープと、隣にいる信頼できるパートナーがいる限り、どんな冬も乗り越えられる。 そう確信できるだけの強さを、私たちは手に入れていたのだから。
しかし、その美しさは死と隣り合わせだ。 気温は氷点下二五度。 呼吸をするたびに、鼻の奥が凍りつくような痛みが走る。
「……現在時刻、午前二時一五分。予定より八分遅れですね」
私は懐中時計の蓋をパチンと閉め、ガタガタと揺れる馬車の荷台で呟いた。 御者台では、エイアン将軍の腹心である古参兵のベルクが、無言で手綱を操っている。
「嬢ちゃん……いや、凜様。もう少しで『迷わずの森』だ。舌を噛まないように気をつけな」
「了解です。……ベルクさん、馬の息が荒い。ペースを少し落として、呼吸を整えさせてください。ここで馬が潰れたら、私たちはただの凍った肉塊になります」
「へっ、よく見てやがる。了解だ」
馬車の速度が少し緩んだ。 私は荷台の幌(ほろ)をめくり、積み荷を確認した。
藁(わら)の下に隠されているのは、黒鉄村で鋳造されたばかりの「鉄のインゴット」と、試作の「短剣」が数本。 これが、私たちの命綱だ。
帝国の法律では、西方諸国への鉄の輸出は重罪だ。 見つかれば、言い訳無用の死刑。 だが、今の北嶺には「正義」よりも「塩」が必要だった。
塩がなければ、人は生きられない。 神経伝達物質が働かなくなり、筋肉が痙攣し、思考力が低下する。 そして何より、塩気のない食事は、兵士の精神(モラール)を驚くほど削ぐ。
(ボルグ監査官は、そこまで計算して補給を止めたのでしょう。陰湿ですが、効果的な兵糧攻めです)
私は冷え切った手をこすり合わせた。 ボルグは今頃、ソフィアたちの接待と特製酒で、夢の中だろう。 彼が目覚める明日の正午までに、全てを終わらせて戻らなければならない。
「……見えてきたぞ」
ベルクの低い声。 前方に、黒々とした針葉樹の森が壁のように立ちはだかっていた。 国境線上に位置する、帝国の地図には載っていない空白地帯。
そこに、ポツン、ポツンと、蛍のような淡い光が見えた。
「あれが、闇市の灯りですか」
「ああ。金さえあれば親の骨でも売るっていう、ならず者たちの巣窟だ。……凜様、フードを深くかぶれ。顔を見られるなよ」
馬車が森の中へ滑り込む。 風の音が止み、代わりに鬱蒼(うっそう)とした木の匂いと、焚き火の煙の匂いが鼻をついた。
◇
森の開けた場所には、奇妙な空間が広がっていた。 粗末なテントが立ち並び、様々な言語が飛び交っている。 帝国語、西方語、北方の方言。 ここは、どの国にも属さない「聖域(サンクチュアリ)」であり、同時に無法地帯だ。
私たちの馬車が止まると、すぐに数人の男たちが近づいてきた。 彼らは皆、腰に剣や短剣を帯び、目つきが鋭い。
「……帝国の馬車か。珍しい客だな」
先頭の男が、帝国語で話しかけてきた。 左目に眼帯をした、大柄な男だ。
「商談に来ました。……『鉄』があります」
私が荷台から声をかけると、男たちは顔を見合わせた。
「鉄だと? 帝国の鉄なんざ、泥混じりの粗悪品だろう。そんなもん、薪割りにも使えねぇよ」
嘲笑(あざわら)うような声。 当然の反応だ。帝国の鉄の質の悪さは、国際的にも有名だからだ。
私は無言で荷台から一本の短剣を取り出し、男の足元に投げた。
ザシュッ!
短剣は凍った地面に突き刺さった。 その切れ味と、突き刺さった時の澄んだ金属音に、男の表情が変わった。
「……ほう」
男は短剣を引き抜き、焚き火の明かりにかざした。 刃こぼれ一つない。 刀身には、美しい波紋のような模様が浮かんでいる。
「……炭素含有量の調整と、焼き入れの温度管理を徹底しました。強度は帝国標準規格の三倍。西方の騎士剣にも劣りません」
私が告げると、男は眼帯のない方の目で、私をじろりと見た。
「……嬢ちゃん、ただの使いっ走りじゃねぇな? こいつは『ダマスカス鋼』に近い。……どこで手に入れた」
「商品に関する質問は受け付けません。取引をする気があるかどうか、それだけです」
私は毅然と言い放った。 舐められたら終わりだ。ここでは「弱さ」は「搾取」と同義語だからだ。
男はしばらく短剣を見つめていたが、やがてニヤリと笑った。
「いいだろう。……俺の名はガルス。ここの顔役だ。で、こいつと引き換えに何が欲しい?」
「『塩』と『小麦』。それから『乾燥野菜』。……この馬車に積めるだけ」
「ハッ、強欲だねぇ。この鉄の量じゃ、塩三樽が関の山だ」
ガルスは足元を見透かすように言った。 やはり、買い叩きに来たか。
「三樽? 冗談でしょう。西方の市場価格では、この純度の鉄一キロで、塩一〇キロと交換できるはずです。輸送コストを差し引いても、一〇樽は堅い」
「ここは市場じゃねぇ。闇市だ。リスク料ってのが上乗せされるんだよ」
「リスク? 帝国軍の制式装備よりも高品質な武器が、出所不明(ノーブランド)で手に入るのですよ? 貴方たちが西方の騎士団に転売すれば、五倍の利益が出る。……そのマージンを計算に入れないほど、私は馬鹿に見えますか?」
私は懐から、あらかじめ計算しておいた「想定利益表」を取り出し、ガルスの目の前で広げてみせた。
「見てください。この鉄を加工して槍の穂先にすれば、五〇〇本分。騎士団への納入価格は金貨一〇〇枚相当。対して、貴方が提示した塩三樽の仕入れ値は金貨五枚程度。……利益率一九〇〇%。暴利にも程がありますね」
数字の羅列を見せられたガルスは、目を白黒させた。
「な、なんだこの計算式は……」
「納得できないなら、このまま帰ります。隣のテントの商人に話を持っていくだけです」
私は馬車の幌を閉めようとした。 これは賭けだ。 彼らにここを襲われて奪われる可能性もある。 だが、彼らは商人だ。 「継続的な取引」のメリットを知っているはずだ。
「……待て、待て!」
ガルスが慌てて手を挙げた。
「わかった、わかったよ! 嬢ちゃんの勝ちだ。……塩八樽だ。それと小麦を五袋つけてやる。これが限界だ」
「……乾燥野菜もつけてください。ビタミン不足で兵士の肌が荒れていますから」
「……チッ。わかったよ! 持ってけ泥棒!」
商談成立。 私は心の中でガッツポーズをした。
ベルクと、ガルスの部下たちが積み荷の交換を始める。 鉄のインゴットが降ろされ、代わりにずっしりと重い塩樽と小麦袋が積み込まれていく。 その重みは、そのまま「命の重み」だ。
「……嬢ちゃん」
作業を見守っていた私に、ガルスが声をかけてきた。 彼は懐から、小さな革袋を取り出し、私に投げ渡した。
「おまけだ。……『カカオ』と『香辛料(スパイス)』だ」
「……これは、高価なものでは?」
「いい取引ができた礼だ。それに、あんたのその度胸が気に入った。……また良い鉄が入ったら、俺のところに持ってきな。次はもっと勉強してやる」
ガルスは歯を見せて笑った。 悪党面だが、不思議と嫌味のない笑顔だった。
「ええ。……御縁があれば」
私は革袋を懐にしまい、馬車に乗り込んだ。 予定時刻まであと四時間。 急がなければならない。
「出すぞ、ベルクさん!」
「おうよ!」
馬車が動き出す。 背後で、闇市の灯りが遠ざかっていく。 私たちは、命をつなぐ物資とともに、再び極寒の闇の中へと駆け出した。
◇
帰路は、往路以上に過酷だった。 積み荷が重くなった分、馬の速度が出ない。 さらに、夜明け前の最も冷え込む時間帯が、私たちの体力を容赦なく奪っていく。
「……寒い」
私は自分の腕を抱きしめ、ガタガタと震えていた。 指先の感覚がない。 紙の服を着込んでいても、この冷気は骨の髄まで染み込んでくる。
(思考力が低下している……九九の七の段が、あやふやに……)
眠気が襲ってくる。 これは、ただの眠気ではない。死への誘惑だ。 ここで眠れば、永久に目覚めることはない。
「嬢ちゃん、寝るな! 歌でも歌え!」
ベルクが御者台から叫ぶ。 彼もまた、凍りつくような風を正面から受け、必死に意識を保っているのだ。
「う、歌なんて……知りません……」
「なんでもいい! 恋の歌でも、故郷の歌でも!」
故郷。 彩(サイ)国の歌。 ……幼い頃、母が歌ってくれた子守唄。 でも、それを思い出すと、心が折れてしまいそうになる。
私は別の歌を歌った。 幼い頃、算術の先生が教えてくれた「九九の歌」だ。
「いんいちがいち……いんにがに……いんさんがさん……」
震える声で、数字を紡ぐ。 それは歌というより、呪文のようだったかもしれない。 けれど、数字の規律(リズム)だけが、私の理性を現実に繋ぎ止めてくれた。
「……さんぱにじゅうし……さんく……にじゅうしち……」
意識が遠のきかけた、その時。
「――凜!!」
遠くから、私の名を呼ぶ声が聞こえた。 幻聴か? いいえ、違う。 この力強い、魂を震わせるような響きは。
私は重い瞼(まぶた)をこじ開け、前方を見た。
朝霧の向こうから、一騎の馬が疾走してくるのが見えた。 漆黒の軍馬。 その上に跨るのは、マントを翻したハク・エイアン将軍。
「将軍……?」
彼は私たちの馬車を見つけると、速度を緩めず一気に距離を詰めてきた。 そして、馬車と並走しながら、御者台のベルクに叫んだ。
「ベルク! 無事か!」
「へい! なんとか! だが、嬢ちゃんが限界です!」
エイアンは走りながら馬の鞍(くら)の上に立ち上がり、なんとそのまま馬車の荷台へと飛び移ってきた。
ダンッ!
馬車が大きく揺れる。 彼は幌を乱暴に開け、うずくまっていた私を見つけた。
「凜!」
「……どうして、ここに……ボルグの相手は……」
「うるさい! お前が遅いからだ!」
エイアンは私を抱き上げ、自分のコートの中に包み込んだ。 彼の身体は、信じられないほど熱かった。 ここまで、全力で馬を飛ばしてきたのだろう。 心臓の音が、私の耳元で激しく鳴っている。
「……生きてるな? 息はあるな?」
「……はい。計算通り、です」
「馬鹿野郎……! 計算通りなら、こんな氷みたいな身体になるわけがあるか!」
彼は私を強く、強く抱きしめた。 その熱が、私の凍えた身体に流れ込んでくる。 痛いほどに優しい熱。
「……戻ったぞ。塩も、麦も、全部だ」
私は彼の胸の中で、掠(かす)れた声で報告した。
「……ああ。よくやった。でかした」
彼は私の髪に顔を埋め、震える声で言った。
「だが、もう二度と行かせん。……お前がいなくなる恐怖に比べれば、塩がない食事など何でもない」
「……それは困ります。兵士の士気に関わりますから」
「屁理屈を言うな」
エイアンは苦笑し、私の額にコツンと自分の額を押し当てた。
「……帰るぞ。みんなが待っている」
馬車は朝日の中を走る。 私の意識は、彼の温もりの中で、ようやく安らかな微睡みへと落ちていった。
◇
城に戻った私たちは、人目を避けて裏口から物資を搬入した。 ソフィアたちが待機しており、手早く塩と小麦を倉庫の奥へ隠していく。
「おかえりなさい、凜! 無事でよかった!」 「ボルグはまだ寝てるわよ。私の色仕掛け、効きすぎちゃったみたい」
ソフィアがウインクをする。 どうやら、完全犯罪は成立したようだ。
その日の昼食。 食堂には、久しぶりに活気が戻っていた。
メニューはいつも通りの「麦粥」と「野菜の煮込み」。 だが、一口食べた兵士たちの表情が、一斉に輝いた。
「……う、美味い!」 「なんだこれ!? 味がするぞ!」 「塩だ! 塩が効いてる!」 「野菜も甘い! これ、カボチャか?」
食堂中に歓声が広がる。 たかが塩。されど塩。 適切な塩分濃度は、素材の旨味を引き出し、疲れた身体に活力を与える。
「……生き返るなぁ」
古参兵の一人が、涙ぐみながらスープを飲み干した。 その横で、若い兵士がおかわりを求めて列を作っている。
私は食堂の隅で、その様子を眺めながら、エイアンと共に昼食をとっていた。 私の皿にも、たっぷりと塩の効いたスープがある。
「……美味いな」
エイアンが静かに言った。
「ただの塩味だが、どんな宮廷料理よりも美味く感じる」
「それは、労働(リスク)というスパイスが効いているからですよ」
私はスプーンでスープをすくいながら、小さく笑った。 ガルスからもらった香辛料も少し入れたのだ。身体が芯から温まる。
「……お前のおかげだ、凜。この笑顔を守れたのは」
エイアンがテーブルの下で、私の手をそっと握った。 その手は大きく、温かく、そして力強かった。
「……公私混同です、将軍」
私は顔を赤らめながらも、その手を振り払わなかった。
そこに。 食堂の扉がバンッ!と開き、不機嫌そうな顔をしたボルグが入ってきた。 髪は乱れ、顔色は二日酔いで青白い。
「……騒がしいな。なんだこの騒ぎは」
ボルグは頭痛をこらえるようにこめかみを押さえながら、兵士たちの列を見た。
「なんだ、やけに嬉しそうじゃないか。補給が止まって、泥水のような粥をすすっているはずだろう?」
彼は近くの兵士のテーブルに近づき、残っていたスープの鍋を覗き込んだ。
「……ん?」
ボルグが眉をひそめる。 そして、鍋に残っていた汁を指ですくい、舐めた。
その瞬間。 彼の表情が凍りついた。
「……しょっぱい?」
彼は信じられないという顔で、もう一度舐めた。
「塩だ。……しかも、精製された上質な塩だ。……岩塩ではない。西方の湖塩(こえん)か?」
ボルグの目が、ギロリと私たちの方を向いた。
「おい、将軍! これはどういうことだ!」
彼は私たちのテーブルに大股で歩み寄ってきた。
「在庫の塩は尽きかけていたはずだ! それがなぜ、こんなにふんだんに使われている!? どこから湧いて出た!?」
エイアンは平然とスプーンを口に運び、飲み込んでから答えた。
「……ああ、それか。倉庫の奥から、先代の将軍が隠していた『古漬けの塩樽』が見つかってな。ラッキーだったよ」
「嘘をつけ! そんな報告は受けていない!」
「帳簿の記載漏れだろう。古い城だ、よくあることだ」
エイアンは肩をすくめた。 その堂々たる嘘つきぶりに、私は吹き出しそうになるのを必死でこらえた。
「……ふざけるな。そんな子供騙しが通用するとでも……!」
ボルグは私の顔を睨みつけた。
「貴様か。……凜。昨夜、貴様の姿が見えなかったが、何をしていた?」
「将軍の看病ですわ。……夜通し、つきっきりで」
私は妖艶に微笑んでみせた。 意味深な言い方に、周囲の兵士たちが「ヒューッ!」と冷やかす。
「ぐぬぬ……ッ!」
ボルグは顔を真っ赤にして、言葉を詰まらせた。 証拠はない。 塩はあるが、それが密輸品だという証明はできない。
「……いいだろう。今は見逃してやる」
ボルグは吐き捨てるように言った。
「だが、覚えておけ。帝都の監査局は甘くない。必ず尻尾を掴んでやるからな!」
彼はマントを翻し、食堂を出て行った。 その背中からは、敗北感と、より一層深まった憎悪が立ち上っていた。
「……危ないところでしたね」
私が息をつくと、エイアンがニヤリと笑った。
「ああ。だが、あいつは気づいていない」
「え?」
「塩の味に気を取られて、俺たちが『鉄』を売ったことには気づいていない。……これで、西方の騎士団とのパイプもできた。次はもっと大掛かりなことができるぞ」
エイアンの瞳には、かつてのような閉塞感はなかった。 あるのは、逆境を楽しむような野心的な光。
「……ほどほどにしてくださいね。私の計算が追いつきませんから」
「頼むぞ、相棒。……お前の計算が、俺の剣だ」
私たちは顔を見合わせ、共犯者の笑みを交わした。
窓の外では、雪解けの水音が聞こえ始めていた。 春は近い。 そして、春と共にやってくる「本当の敵」との決戦も、刻一刻と迫っていた。
しかし、今の私たちには恐れはなかった。 塩の効いたスープと、隣にいる信頼できるパートナーがいる限り、どんな冬も乗り越えられる。 そう確信できるだけの強さを、私たちは手に入れていたのだから。
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