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プロローグ

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彼女の名前は桜井美咲。彼の名前は佐藤龍也。二人は同じ高校二年生で、同じクラスだった。美咲は学校一の美少女で、成績も優秀で、スポーツも得意で、性格も明るくて優しい。彼女に憧れる男子や友達になりたい女子は多かったが、美咲は誰とも深く付き合わなかった。彼女には秘密があったのだ。彼女は家庭の事情で、母親と弟と一緒に暮らしていたが、母親は病気で入院していて、弟は障害を持っていた。美咲は学校と家の往復で、自分の時間もなく、夢もなかった。



龍也は学校一の不良で、喧嘩やタバコやギャンブルが日常だった。彼は父親に虐待されて育ち、母親は彼を捨てて出て行ってしまった。龍也は誰も信じなくなり、自分のことしか考えなくなった。彼に興味を持つ女子や仲間になりたい男子は多かったが、龍也は誰とも関わろうとしなかった。彼にも秘密があったのだ。彼は実は優しい心の持ち主で、動物や子供が大好きだった。彼は自分の過去を忘れるために、不良になっていた。



二人はクラスメイトであること以外に何の関係もなかった。しかし、ある日、美咲は龍也の秘密を知ってしまう。それは放課後のことだった。美咲は弟のお迎えに行く途中で、公園に寄った。そこで彼女は驚くべき光景を目撃した。公園のベンチに座っている龍也の姿だった。彼は普段と違って笑顔で、手に持っている猫を撫でていた。その横には小さな女の子が座っていて、龍也と楽しそうに話していた。美咲は信じられないと思いながら、隠れて二人を見ていた。



「ねえねえ、お兄ちゃん。この猫ちゃんの名前は何?」



「名前? そうだなあ…」



「私が考えようか?」



「うん、考えてごらん」



「じゃあね…ミーちゃん!」



「ミーちゃん?」



「うん! だってね、ミーって鳴くから!」



「そうか…ミーちゃんか…」



「お兄ちゃんも好き?」



「うん、好きだよ」



「じゃあね、お兄ちゃんと私とミーちゃんで仲良くしようね」



「うん、仲良くしようね」



二人は笑顔で手を握った。その様子を見ていた美咲は、心の中で何かが動いた。彼は不良ではなく、優しい人だったのだ。彼に惹かれている自分に気づいた。しかし、彼は自分に気があるのだろうか? そんなことを考えていると、龍也がこちらに目を向けた。美咲は慌てて隠れたが、すでに遅かった。龍也は美咲の姿を見つけたのだ。



「おい、お前…」



龍也は猫と女の子に別れを告げて、美咲のもとに歩いてきた。美咲はどうしようと思ったが、逃げることもできなかった。龍也は美咲の前に立ち止まり、にらみつけた。



「お前、何見てんだよ」



「えっと…」



「俺のこと見てたろ」



「そ、そんなことないです」



「嘘つくなよ。俺はバカじゃないぞ」



「ごめんなさい…」



「お前、俺のこと笑ってんだろ」



「違います! そんなつもりは…」



「じゃあ何だよ。俺のこと好きなのか?」



「えっ!?」



美咲は驚いて顔を赤くした。龍也は冷ややかに笑った。



「冗談だよ。お前みたいな奴が俺のこと好きになるわけないだろ」



「そうですよね…」



「でもさ、お前には言っておくよ。俺のこと見るなよ。俺はお前みたいな奴と関わりたくないんだよ」



「わかりました…」



「じゃあな」



龍也はそう言って去って行った。美咲は涙がこぼれそうになったが、必死に我慢した。彼は自分に冷たくあたった。彼は自分を嫌っているのだ。それでも、彼の優しさを忘れられなかった。



その日から、美咲は龍也に惹かれていく一方だった。しかし、龍也は美咲に冷たくあたり続けた。美咲は彼の心を開くことができるのだろうか? そして、龍也は美咲の気持ちに気づくのだろうか? 二人の恋の行方はどうなるのだろうか?



ある日、美咲は弟のお迎えに行く途中で、龍也と再び出会った。今度は動物病院の前だった。龍也は手に包帯を巻いていて、血が滲んでいた。美咲は心配して声をかけた。



「大丈夫ですか?」



「お前…」



龍也は美咲を見て驚いた。美咲は彼の手を見てさらに驚いた。



「その手はどうしたんですか?」



「なんでもないよ」



「そんなことないでしょ。病院に行ったほうがいいですよ」



「別にいいよ。俺は強いから」



「そんなこと言わないでください。痛いでしょう」



「痛くないよ」



「嘘つかないでください。私に見せてください」



美咲は龍也の手を掴んで、包帯を剥がした。そこには深い傷があった。美咲は息を呑んだ。



「これは…どうしたんですか?」



「喧嘩したんだよ」



「喧嘩…?」



「ああ、俺の仲間と一緒に不良とやり合ったんだよ。俺は強かったから勝ったけど、相手がナイフを持っててさ…」



「ナイフ…!?」



「まあ、大したことないよ。俺は怖くなかったから」



「そんなこと言わないでください。危ないじゃないですか」



「危なくないよ。俺は死なないから」



「そんなこと言わないでください。私は…私は…」



美咲は言葉に詰まった。彼に自分の気持ちを伝えたかったが、勇気が出なかった。龍也は美咲の顔を見て、不思議そうに首を傾げた。



「お前は何?」



「私は…私は…」



美咲は涙が溢れてきた。彼に拒絶されるのが怖かった。彼に失望されるのが怖かった。彼に関係ないと言われるのが怖かった。



「私は…あなたのことが好きです!」



美咲はついに告白した。龍也は目を見開いた。



美咲は彼のことが好きだと言った。彼は信じられなかった。彼は彼女のことを嫌っていたはずだった。彼は彼女のことを関係ないと思っていたはずだった。彼は彼女のことを忘れようとしていたはずだった。なのに、なぜか、彼女の言葉に心が揺れた。彼女の涙に心が痛んだ。彼女の笑顔に心が惹かれた。



「お前…本気で言ってるのか?」



「はい…本気です」



「なんでだよ。俺なんか好きになる理由なんてないだろ」



「理由なんてありません。私はあなたのことが好きです。あなたの優しさに惹かれました」



「優しさ? 俺にそんなものあるかよ」



「ありますよ。私は見ました。あなたが猫や子供に優しくしているところを見ました」



「それだけで?」



「それだけじゃありません。あなたが学校で頑張っているところも見ました。あなたが友達を助けているところも見ました。あなたが笑っているところも見ました」



「笑ってる? 俺が?」



「はい。あなたは笑顔が素敵ですよ」



「そうか…」



龍也は美咲の言葉に戸惑った。彼女は自分のことを褒めてくれた。彼女は自分のことを理解してくれた。彼女は自分のことを受け入れてくれた。それでも、彼は自分の気持ちに素直になれなかった。彼は自分に自信がなかった。彼は自分に価値がないと思っていた。彼は自分に幸せが許されないと思っていた。



「でもさ、お前…俺みたいな奴と付き合っても幸せになれないよ」



「そんなことありません。私はあなたと一緒にいれば幸せです」



「お前、本当にそう思ってるのか?」



「本当です」



「じゃあ、俺がお前を傷つけても許してくれるのか?」



「許します」



「俺がお前を裏切っても許してくれるのか?」



「許します」



「俺がお前を捨てても許してくれるのか?」



「…許します」



美咲は涙を流しながら答えた。龍也は美咲の顔を見て、悲しそうに笑った。



「お前…バカだよ」



「バカでもいいです。私はあなただけが好きです」



美咲は龍也に抱きついた。龍也は美咲を抱きしめ返した。



「お前…本当に俺のこと好きなのか?」



「本当です」



「じゃあ…俺も…お前のこと…好きだよ」



龍也はついに告白した。






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