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第10話 彼女には想う男がいると聞いた
雪は、夜のあいだに思ったより積もっていた。
朝、東翼の窓を開けずに見ても分かるほど、庭は静かな白さに沈んでいる。石畳の継ぎ目はすっかり隠れ、薔薇廊の手すりにも綿を薄く被せたような雪が乗っていた。樹々の枝先は白をまとい、遠くの森は輪郭ごと霞んで見える。雪の日は音を吸う。人の足音も、扉の開閉も、遠くで鳴る鐘さえ、ひとつ布を挟んだように鈍くなる。
その静けさが、今日は妙に重たかった。
失われた書簡が見つかった翌日。
屋敷の中には、表立って何かが変わった気配はない。けれど、空気の底だけが確実に沈んでいる。東翼の侍女たちは必要以上に声を立てず、西翼の廊下では使用人たちが互いに視線を合わせる時間を短くしていた。北棟の書庫は封じられたまま、夜番も増やされたらしい。誰もが何かを知っているわけではないだろう。だが「屋敷の中で、何かまずいことが起きた」という気配は、雪と同じように静かに広がっていた。
レヴェティアはその朝も、私室で湯気の立つ茶杯を両手に包んでいた。
暖炉の火はやわらかく燃えている。だが窓辺の空気は冷たく、手元の白磁から立つ熱だけがひどく頼りない。昨夜はほとんど眠れなかった。失われた書簡。ゼルフェインが初めてそれを読み、自分の前で凍りついた顔。屋敷の中にあった悪意が、主寝室の鍵や書庫の焦げ跡だけでなく、もっと最初から二人のあいだに差し込まれていたのだという事実。
考えることをやめようとしても、頭のどこかが勝手にその輪郭をなぞる。
もし、最初から壊されていたのだとしたら。
その問いは、痛みと一緒にやってくる。
だがその答えがすぐに救いになるわけでもない。
壊されていたのなら、壊されていたで、失った四年が戻るわけではないからだ。
「奥様」
ティルザが控えめに声をかける。
「公爵様が、お時間をいただきたいと」
レヴェティアの指先が、茶杯の縁でわずかに止まる。
来ると思っていた。
来るしかないとも思っていた。
書簡が見つかった以上、あれを見なかったことにはできない。
けれど実際にその呼びかけを聞くと、胸の奥がひどく静かに強張る。
「どこで」
「小食堂ではなく、西翼の南応接にて、と」
南応接。
私的な話をするには重すぎず、公的な執務室ほど硬くもない部屋だ。冬場は日が差すと少し暖かく、窓からは南庭が見える。夫婦として使ったことはほとんどないが、屋敷の中でも比較的人目の少ない場所だった。
「……分かったわ」
レヴェティアは茶杯を置いた。
その音が、自分で思うより少しだけ乾いて聞こえた。覚悟ができていないわけではない。ただ、この先の会話がどこへ着地するのか、自分でも見えないだけだ。失われた書簡の存在は大きい。だがそれが分かったからといって、すぐ何かが解けるほど彼女の傷は浅くなかった。
着替えは、いつもより淡い色を選んだ。灰に近い薄藤色のドレス。首元は詰めすぎず、装飾も控えめ。華やかさはないが、冬の白い光にはよく馴染む。ティルザが髪を半分だけ結い上げる。銀糸の細い飾りをひとつ留める。鏡の中の自分は穏やかに見えた。そう見えることが、かえって少しだけ空しい。
南応接の扉の前で、レヴェティアは一度だけ呼吸を整えた。
扉の向こうは暖かかった。暖炉の火がよく入り、南向きの窓からの光が雪明かりをやわらかく反射している。厚手の緋色の絨毯が敷かれ、丸みを帯びた肘掛け椅子が向かい合わせに置かれていた。中央の低卓には茶器と湯気の立つポット、それからほんの少しだけ焼き菓子が用意されている。
ゼルフェインは窓辺に立っていた。
振り返った顔は、ひどく静かだった。感情を消した顔ではない。むしろ感情を押し込めすぎて、表面だけが静まっているような顔。ここ数日の彼は、整っていてもどこかずれている。レヴェティアにはもうそれが分かる。
「来てくれてありがとう」
低い声。以前の彼なら、わざわざそうは言わなかっただろう。
「お話があると伺いました」
「ああ」
ゼルフェインは短く頷き、椅子を示した。レヴェティアは座る。彼も向かいへ腰を下ろした。暖炉の火が小さく鳴る。窓の外の雪はまだ静かに降っていて、硝子越しに見える白が、部屋の中の色を少しだけ鈍くしていた。
しばらく、誰も口を開かなかった。
茶は注がれているのに、どちらも手をつけない。湯気だけが白く立ち、細くほどけていく。応接の静けさはやさしいのに、そのやさしさがかえって二人のあいだの沈黙を際立たせていた。
やがて、ゼルフェインが口を開く。
「昨日の手紙の件だが」
レヴェティアは頷く。
「ええ」
「……あれで一つ、はっきりしたことがある」
彼は一度だけ視線を伏せ、それからまっすぐ彼女を見た。逃げないように、自分へ言い聞かせるような目だった。
「私は、結婚前からずっと一つの話を信じていた」
レヴェティアは息を浅くする。
「どのようなお話ですか」
「君には、昔から心を決めた男がいると聞いた」
その言葉が落ちた瞬間、レヴェティアの中で何かが止まった。
暖炉の火の音も、窓の外の雪も、応接の空気も、すべてが一拍遅れて遠のく。何を言われたのか、意味自体は分かる。だがあまりにも唐突で、あまりにも現実味がなくて、理解が感情へ落ちてくるまでに時間がかかった。
「……は」
声がうまく出ない。
喉の奥がひどく乾く。ゼルフェインは視線を逸らさない。彼がこの言葉をどれほど重く持ってきたかは、そのまなざしだけで分かった。
「結婚の話がまとまる少し前だ。君には学問を通じて親しくしている男がいて、本心ではその相手を望んでいたと聞かされた」
レヴェティアは瞬きすら忘れていた。
そんなものは、ない。
そう言い切れるのに、あまりにも突拍子がなくて、すぐには口にならない。頭の中でいくつかの名前が流れ、すぐに一つで止まる。
アスヴェル。
学者仲間のアスヴェル・ロドミア。
王都の文書保管院で何度か議論を交わし、古文書や水利史について情報交換をしていた相手。
親しかったのは事実だ。
けれど、それは恋ではない。
「……アスヴェルのこと、ですか」
ようやく出た声は、自分でも驚くほど薄かった。
ゼルフェインの眉がわずかに動く。
「名は言われなかった。だが学問仲間で、昔から親しい男だと」
レヴェティアは、ゆっくりと息を吐いた。吐いたはずなのに、胸の奥の詰まりは消えない。
「完全な虚偽です」
その一言は、ひどくはっきり出た。
ゼルフェインの顔が、わずかに強張る。
「アスヴェルは確かに親しい学者仲間でした。でも、それだけです。古文書の読みや地誌の話をする相手ではありましたけれど、心を決めたなどということは一度もありません」
「……そうか」
低く、短い返答。
けれどその一言の中に、彼の中で何かがまた重く沈む音が聞こえる気がした。レヴェティアは視線を逸らせない。今まで聞いたどんな話よりも、この話はあまりに根本を揺らしている。
「では、公爵様は」
自分でも知らないうちに、指先が膝の上で布を強くつまんでいた。
「その話を信じて、距離を置いていらしたのですか」
ゼルフェインはすぐには答えなかった。
暖炉の火が一度だけ強く弾ける。応接の壁に火影が揺れ、彼の横顔の線が一瞬だけ鋭く浮き上がる。
「……そうだ」
やがて彼は言った。
「無理に夫として振る舞うことは、君への侮辱だと思っていた」
レヴェティアは呆然とした。
侮辱。
その単語の意味が、すぐには胸へ落ちてこない。
自分がずっと、拒絶と無関心だと思ってきた距離が、彼にとっては“配慮”のつもりだったと言われている。
あまりにも噛み合っていない。
あまりにも、馬鹿げている。
そしてその馬鹿げたすれ違いの間に、四年がある。
「……そんな」
笑いたいのか、泣きたいのか、怒りたいのか、自分でも分からない。胸の奥で感情が混ざり合って、うまく言葉にならない。
「そんな話を、誰が」
「言わないほうがいいと思っていた」
「どうして」
「君を傷つけると思ったからだ」
その返答に、レヴェティアは思わず目を閉じた。
傷つけないために黙っていた。
その沈黙こそが、結果として自分を四年傷つけたのだと、彼は分かっているのだろうか。
いや、今の彼はたぶん分かっている。
だからこそ、こんなにも言葉が重くなっている。
「私は……」
レヴェティアは目を開く。
「私は、最初の一年、ずっと公爵様に近づきたくて手紙を書いていたのです」
その言葉に、ゼルフェインの喉がひどく静かに動く。
「温室の花を見ていただきたかった。北域の習わしを教えてほしかった。隣に立つだけの妻ではなく、この家に相応しいあり方を知りたかった。……それなのに」
少しだけ声が掠れた。
「それなのに、公爵様は私に想う男がいると思っていらしたのですね」
責めるつもりではなかった。だが言葉はどうしても、責めの響きを帯びる。責めずにいられるほど、これは軽い誤解ではない。手紙が届いていなかっただけではなく、その向こう側には最初から別の偽りが置かれていたのだと、今この瞬間、ようやく共有されている。
ゼルフェインは拳をゆるく握ったまま言う。
「結婚前、君のことを調べる過程で耳にした」
「誰から」
「直接ではない。家同士のやり取りの中で、さりげなく」
「さりげなく」
レヴェティアはその言葉を繰り返し、乾いた笑いが喉の奥で引っかかるのを感じた。
さりげなく吹き込まれた偽り。
そのさりげなさが、どれほど致命的だったことか。
「アスヴェルは、文書保管院で何度か議論した相手です」
レヴェティアはできるだけ感情を整えながら言葉を紡ぐ。
「同じ古文書や地誌に関心がありましたから、研究会や閲覧室で顔を合わせることは多かった。王都の婦人たちには、それが親しそうに見えたのかもしれません。でも私は、彼に恋愛感情など一度も抱いたことはありません」
「彼のほうは」
ゼルフェインの問いは短かったが、その奥にあるものは簡単に読み取れた。知りたいのだ。いまさらでも、知ってしまった以上、徹底的に。
「分かりません」
レヴェティアは正直に答える。
「好意があったのかもしれません。でも少なくとも、私に何かを望むような態度を取ったことはありません。私も、そのように受け取ったことはないわ」
静かな返答。
その静けさの中で、ゼルフェインは初めて、レヴェティア自身の口からアスヴェルの存在を聞く。嫉妬より先に来たのは、自分が信じていた話の薄っぺらさへの嫌悪だった。学問仲間。それだけの相手。しかも本来なら、確認しようと思えば本人に確かめられたことだ。だが彼は確かめなかった。確かめれば、距離を置くという名目が崩れるから。相手を思いやるふりをして、実のところ自分が傷つかない道を選んでいたのだと、今の彼には痛いほど分かる。
「……君に訊けばよかった」
その言葉は、独白に近かった。
レヴェティアは一瞬だけ視線を揺らす。
訊けばよかった。
たったそれだけのことを、四年のあいだ誰もしなかった。
彼は訊かなかった。
自分は、彼が訊かない理由を“無関心”だと思った。
そのあいだで、手紙は届かず、距離は固まり、悪意だけが静かに育っていった。
「ええ」
レヴェティアは答えた。
「訊いてくださればよかったのです」
今度の言葉は、まっすぐだった。責めでもあり、事実でもあり、どうしようもない悔しさでもある。
「私も、訊いてほしかった」
その一言で、応接の空気がわずかに震えた気がした。
ゼルフェインは目を閉じることもできず、ただ彼女を見つめる。レヴェティアの顔は穏やかだ。怒鳴っているわけでも、泣いているわけでもない。なのに、その穏やかさの中に、彼がこれまで逃してきたものが全部詰まっているように見える。
「私はずっと」
レヴェティアは続けた。
「どうして公爵様が私へ距離を置くのか分かりませんでした。嫌われているのか、興味がないのか、それとも本当に別に想う方がおられるのか。何一つ教えていただけなかったから、私は勝手に理由を探すしかなかった」
ティルザや回覧誌が運んでくる噂。主寝室の閉じた扉。返事のない手紙。夜会だけ完璧な夫。サルヴェナの名。その全部を、彼女は「必要とされていない証拠」として自分の中へ積み上げてきたのだ。
「ですが公爵様は、私に想う男がいると思っていらした。……では私たちは、最初から」
そこでレヴェティアは言葉を切る。
喉の奥が熱かった。泣きそうだからではない。現実があまりにも馬鹿げていて、どう整理してよいか分からなかったからだ。
「最初から、誰かに壊されていたのですね」
その結論が落ちた時、応接の中のすべてが少しだけ色を変えたように思えた。
暖炉の火。
窓の外の雪。
テーブルの上の茶器。
四年間の沈黙。
全部の背後に、最初から差し込まれていた悪意が、ようやく二人のあいだで共有されたのだ。
ゼルフェインは返事をしなかった。
できなかった。
だが沈黙そのものが答えだった。
最初から壊されていた。
手紙は届かなかった。
偽りの噂は吹き込まれていた。
距離は思いやりのつもりで選ばれ、相手には拒絶として届いた。
そのすべてが今、一つの線でつながっている。
つながってしまった以上、もう知らなかったでは済まされない。
「……ああ」
ようやく出た声は、掠れていた。
「そうだ。最初からだ」
認めた瞬間、レヴェティアは不思議な感覚に襲われた。救われたわけではない。苦しみが消えたわけでもない。ただ、自分一人だけが意味の分からない空白に閉じ込められていたのではなく、その空白そのものが誰かの手で作られていたのだと分かると、四年の痛みの輪郭が少しだけ変わる。
自分が愚かだっただけではない。
自分が足りなかっただけでもない。
何かが最初から、確かに壊していた。
その事実は、優しさではない。
けれど、ただの絶望とも少し違った。
「アスヴェルのことも」
ゼルフェインが低く言う。
「……確認する必要がある」
「公爵様」
レヴェティアは思わずその言葉を遮った。
「彼は関係ありません」
その声音には、初めて明確な強さが乗っていた。
「巻き込まないでください。彼はただ、同じ本を読む相手だっただけです」
ゼルフェインは一瞬だけ押し黙る。だがやがて、短く頷いた。
「分かった」
その「分かった」が本当にどこまで理解した上でのものかは、まだ分からない。けれど今はそれでよかった。これ以上別の名前を増やせば、事実まで濁る気がしたからだ。
しばらく誰も言葉を継がなかった。
雪はまだ降っている。硝子越しの白は少し濃くなり、南庭の低木が輪郭を失い始めている。ティルザもヴァルメトも、この場にはいない。暖炉の前にいるのは二人だけ。なのに今さら初めて、本当に二人だけで話している気がした。
ゼルフェインが静かに息を吐く。
「私は、君を傷つけないつもりで距離を置いた」
その告白は、言い訳ではなく自白に近かった。
「だが結果として、一番ひどい形で傷つけた」
レヴェティアは何も言わない。
その通りだと思う。
だが「そうですね」と返してしまうには、あまりにも単純すぎる。
この四年を、正しさひとつで裁けるなら苦労しない。
「私も」
レヴェティアは少しだけ間を置いて言った。
「公爵様に想う方がおられるのだと思っていました」
ゼルフェインの目が動く。
「噂がありましたから。サルヴェナ様のことも。夜会の後の距離も。手紙への返事がないことも。主寝室が閉じたままだったことも」
ひとつひとつ並べると、その全部があまりにくっきりとそこにある。誤解だったと片づけるには、材料が多すぎる。
「だから、離縁を望みました」
その一言を、レヴェティアは自分の口で改めて置く。
最初から壊されていた。
それでも、自分が離縁を望んだ事実は消えない。
それは今さら変えられない。
ゼルフェインも、その重さを理解したのだろう。彼はすぐには何も言わず、ただ椅子の肘掛けへ置いた手にわずかに力を込めた。
「……分かっている」
ようやくそう言った声は、雪の日の空みたいに重かった。
「だからこそ、私は」
そこで言葉が止まる。
だからこそ、何だと言うつもりだったのか。引き止めたいのか。取り戻したいのか。真実を明らかにしたいのか。全部かもしれないし、まだ何一つうまく言葉になっていないのかもしれない。
レヴェティアはそれを待たなかった。待てば、また期待になる。
「公爵様」
彼女は静かに言う。
「少なくとも一つだけ、今はっきりしたことがあります」
「何だ」
「私たちは、最初から何もかもを誤解していたわけではありません。誤解するように、誰かに仕向けられていた」
それは、救いではなく事実だった。
けれど事実が見えたことで、少なくとも「自分だけが足りなかった」と思い続ける必要はなくなる。そこにあるのは、空白そのものではなく、壊された空白だ。誰かの手で形を与えられたものだ。
ゼルフェインはその言葉を、正面から受け止めるように頷いた。
「ああ」
低く、短く。
「最初からだ」
その返答で、ようやく二人は同じものを見たのだと思った。
愛ではない。
和解でもない。
だが確かに、一つの真実を。
暖炉の火がまた小さく爆ぜる。
窓の外では雪が、相変わらず静かに降り続いていた。
その白さの中で、二人のあいだに横たわる四年はまだ長く、深い。
失われた時間は戻らない。
それでも今日、初めて共有されたものがある。
私たちは最初から壊されていた。
その事実だけが、重く、冷たく、そして不思議なほどまっすぐに、二人のあいだへ置かれていた。
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