夫の不倫相手に「妻の座を譲れ」と言われたので、譲る代わりに全部置いていきます 〜行き先は老舗旅館。追いかけてきても、もう遅いです〜 

なつめ

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第19話 瑠璃花の誤算


 久世家へ初めて足を踏み入れた日、汐見瑠璃花が最初に思ったのは、綺麗、だった。

 玄関の広さ。磨き込まれた床。壁に掛けられた控えめな絵。季節ごとに替えられる花。重たすぎず軽すぎもしない家具の並び。いかにも金持ちらしい露骨な趣味ではなく、きちんと手が入った家の匂いがした。あの時はそれが、自分が勝ち取るものの輝きに見えた。夫に飽きられた妻から、ふさわしい自分へ場所が移るだけ。そうなれば、この家も、この暮らしも、自動的に自分のものになるのだと、瑠璃花はどこかで本気で思っていた。

 きちんとした家に住み、綺麗な食器を使い、昼は優雅に過ごし、夜は昌親に選ばれた女として甘やかされる。

 少なくとも、そんなふうな未来を想像していた。

 だが、現実は思っていたよりずっと地味で、細かくて、終わりがなかった。

 朝、目を開ける。

 それだけで始まる。

 誰かの食事。誰かの薬。誰かの予定。来客。花。茶葉。洗濯。クリーニング。昼の買い足し。義母の機嫌。義父の体調。昌親の会食。会社関係の電話。使い終わった茶器。玄関の花の水。冷蔵庫の在庫。何をいつまでに使い切るか。何を切らすと義母が眉をひそめるか。どの皿を朝に出し、どの茶器を来客に使うか。

 華やかなものは、驚くほど少なかった。

 しかも、その少ない華やかさを成立させるための地味な管理ばかりが、絶えず足元へ積み重なっていく。

 瑠璃花は、それがたまらなく嫌だった。

 最初の数日は、まだ意地があった。澄乃がいた頃と同じにはできなくても、自分なりに笑っていれば、何とかなると思っていた。義母の小言も、古い家の年寄りの癖だろうと軽く考えていた。昌親も、いずれ落ち着けば、自分の側へ戻ってくると思っていた。少しばかり家の中がばたついても、そのうち慣れる。そう思っていた。

 だが慣れない。

 慣れる前に、次の面倒が来る。

 そして何より、誰も自分を「選ばれた女」として扱わない。

 そのことが、瑠璃花には一番堪えた。

 その朝も、目が覚めた時点で気分は重かった。

 カーテンの隙間から差す光はもう十分に明るいのに、寝室の空気はどこか湿って重い。ベッドサイドの時計は七時を過ぎていた。以前ならそれでも遅くなかった。昌親と会うのはたいてい夜だったし、昼前まで寝ていても特に困ることはなかった。会えば外で食事をして、ホテルへ行き、甘い言葉を少しだけ囁かれて、また別れる。そういう関係だった。

 今は違う。

 起きた瞬間から、もう何かに遅れている気がする。

 瑠璃花は乱暴に布団をはねのけ、髪をかき上げながら起きた。鏡を見ると、寝不足のせいか目元が少し荒れている。肌の調子もいまひとつだ。こんな顔で朝の食卓へ行きたくないと思ったが、義母は「朝が遅い」とすぐ嫌味を言う。いっそ行かないでしまおうかと一瞬思う。だが行かなければまた、それだけで何か言われるのだ。

 苛立ちながら階段を下りると、案の定、義母はすでにダイニングにいた。

 義父は新聞を広げている。昌親はコーヒーだけを前にスマートフォンを見ていた。食卓には、瑠璃花が無理やり作ったスクランブルエッグとトースト、それから昨夜の残りを温め直しただけのスープが並んでいる。見た目は悪くない。少なくとも瑠璃花はそう思った。だが義母の顔は、皿を見た瞬間から露骨に曇った。

「また卵なの」

 椅子へ座るなり、そう言う。

 また。たったそれだけの一言なのに、瑠璃花の神経を逆撫でした。

「朝なんだから、卵くらい普通じゃないですか」

「普通、で済ませるならいいけれど」

 義母はパンへも手をつけず、スープを一口飲んで眉をひそめる。

「塩が強いわね」

「ちゃんと味見しましたけど」

「あなたの舌で、でしょう」

 言い方がいちいち気に障る。瑠璃花は笑顔を作る余裕もなくなっていた。

「そんなに嫌なら、お義母さまが作ればいいじゃないですか」

 言った瞬間、食卓の空気が凍った。

 義父が新聞から目を上げる。昌親がようやくスマートフォンから顔を離す。義母はゆっくりと瑠璃花を見た。怒鳴るわけではない。ただ、その視線の冷たさがひどかった。

「この家で、そういう言い方をするの」

「だって」

「作るのが嫌だと言ったのはあなたでしょう」

「嫌だなんて言ってません」

「では何」

 義母は声を荒げない。だからこそ、余計に瑠璃花は追い詰められる。

「簡単に済ませていいと考えているようにしか見えないのよ。義父の体調も考えず、朝から毎回同じようなものを出して、しかも味の調整もできない。そのくせ、指摘すると拗ねる」

 昌親がそこで低く言った。

「母さん、朝からやめろ」

「やめないわよ」

 義母はすぐに返した。

「私が黙っていれば済む話じゃないもの」

 瑠璃花はぎり、と奥歯を噛んだ。黙っていれば済む話じゃないのは、こっちだと思う。毎朝こうして品定めみたいに皿を見られ、味に文句を言われ、澄乃さんなら、という名前を出される。耐えられるわけがない。

 だが昌親は、その場で母を止めてくれない。

 それが何より腹立たしかった。

 昔は、少なくとも自分の味方でいてくれたはずなのに。瑠璃花が嫌な思いをすれば、少しは宥めてくれた。甘いわけではなくても、こっちの気分を損ねないようにはしてくれた。けれど今の昌親には余裕がない。家のことと会社のことが重なっているせいか、朝からずっと眉間に皺が寄っている。瑠璃花の不満を受け止めるだけのゆとりが、あきらかにない。

「今日、午後の電話は?」

 義母がパンを切り分けながら言う。

「宮ノ脇さんのところへ、例の件のお礼をきちんと入れておいて」

 瑠璃花は眉を寄せた。

「それ、私がやるんですか」

「やらないの」

「だって、私、向こうの奥さまのこと何も知らないし」

「だから覚えるのよ」

「私、秘書じゃないんですけど」

 思わずそう言うと、義母が口元を引き結ぶ。

「秘書ではないわね」

 静かに言ったあと、視線がすっと冷えた。

「でも、妻にはそのくらいのことができて当然なのよ」

 その言葉に、瑠璃花の胸の中で何かがぶち、と鳴った気がした。

 妻。

 その座さえ手に入れば、自分は勝ちだと思っていた。正しい相手に選ばれた、自分のほうが似合う、そういう物語の中にいたつもりだった。なのに、実際に渡されたのはこんなものだ。義母の電話。義父の減塩食。社交相手への礼状。花の水。菓子の手配。誰が好きでそんなことをするのだろう。

 いや、澄乃はしていたのだ。

 黙って。

 顔色一つ変えずに。

 そう思うと、瑠璃花は妙に苛立った。できていた人間がいたから、自分だけが余計に無能みたいに見える。あの女がいなければ、最初からこういう家なのだと諦めもついたかもしれない。けれど現実には、「前はもっとちゃんとしていた」という比較が、家じゅうの空気にこびりついている。

 その比較の中にいるのが、耐えられない。

 朝食のあと、義母はさっさと席を立ち、義父もほとんど何も言わずに出ていった。残ったのは昌親と瑠璃花だけだった。ダイニングには中途半端に食べられたトーストと、ほとんど残ったスクランブルエッグが載っている。トーストの端は冷えて固くなり始め、スープの表面には薄い膜が張っていた。

「ねえ」

 瑠璃花は我慢できずに声をかけた。

「いつまでこうなの」

 昌親はネクタイを締め直しながら、面倒そうに言った。

「こうって何だよ」

「毎日毎日、私ばっかり責められてるじゃん」

「責められてるって、お前だって」

「私だって何?」

 瑠璃花は椅子を引く音をわざと大きくした。

「知らないことばっかりなんだよ。こんな家のルールも、あんたの母親の機嫌の取り方も、会社の相手のことも、最初から全部分かるわけないでしょ」

 昌親はそこでようやく真正面から瑠璃花を見た。苛立ちの色が、はっきり浮かんでいる。

「だからファイル見ろって言っただろ」

「見たよ。でもファイルに書いてあるだけで全部できるわけじゃないじゃん」

 それは実感だった。文字はある。注意事項もある。だが、それが具体的にどの場面でどう使われるかは、実際にその場へ立たないと分からない。しかも立ったところで、義母の言い方は常に一つ上からで、少しでも違えばすぐ顔に出る。

 瑠璃花は苛立ちを隠さず続けた。

「そもそも、なんで私がそこまでやらなきゃいけないの」

「は?」

「だってさ、私、こんな使用人みたいなことするためにここに来たわけじゃないし」

 その一言に、昌親の顔が変わった。

「使用人?」

「そうじゃん」

 言い出したら止まらなかった。

「朝から食事のこと言われて、昼は電話して、菓子だ花だってずっと言われて、会社の見舞い品まで気にしろって。何なのそれ。家政婦と秘書と嫁をまとめてやれって言われてるみたい」

「……お前、自分が何言ってるか分かってるか」

「分かってるよ」

 瑠璃花は胸の前で腕を組んだ。

「私、もっとちゃんと愛される側のつもりだったんだけど」

 口にしてから、自分でも少しだけ空気が変わったのが分かった。

 愛される側。

 それは本音だった。少なくとも、恋愛として選ばれたのだから、そういう位置にいられると思っていた。澄乃の代わりに働かされるためではなく、自分だから大事にされるのだと。けれど実際に昌親は、最近ほとんど優しくない。家の中での瑠璃花は「新しい女」ではなく、「ちゃんと回っていない部分の象徴」にされつつある。それがたまらなく腹立たしい。

「愛される側って何だよ」

 昌親の声が低くなる。

「自分でここへ来たんだろ」

「そうだよ。でも、こんなふうだとは思わなかった」

「何を期待してたんだ」

「少なくとも、毎日お前の母親に小言言われて、家のことで責められて、それでお前まで不機嫌になるとか思わないでしょ」

 昌親は一歩だけ近づいた。怒鳴りはしない。だが、その視線は明らかに苛立っていた。

「不機嫌にもなるだろ。実際、回ってないんだから」

「私のせいみたいに言わないでよ」

「お前のせいだけじゃない」

「だけじゃないってことは、私のせいでもあるんじゃん」

 そこで、二人のあいだに短い沈黙が落ちた。

 瑠璃花は自分の胸がひどく速く上下しているのを感じた。怒っているのか、悔しいのか、自分でもよく分からない。ただ、こんなはずじゃなかった、という思いだけが喉元までせり上がってくる。

 昌親は結局、深く息を吐いた。

「今日はこれ以上はやめろ」

「逃げるんだ」

「そうじゃない」

「じゃあ何。私が困ってるの見えてるでしょ」

「困ってるのはお前だけじゃない」

 その一言が、瑠璃花には決定的だった。

 そうなのだ。この男はもう、自分だけを見ていない。前なら、困っている瑠璃花へ少しは気を向けてくれた。いまは違う。会社、義母、義父、茶会、見舞いの品、朝食、ファイル。そういうものに追われていて、その中で瑠璃花は「さらに面倒を増やす人間」に近い位置へ押しやられている。

 華やかな略奪愛のつもりだったのに。

 現実は、終わりのない管理業務と、不機嫌な男と、小言ばかりの義母だ。

 どこにも甘さがない。

 むしろ、澄乃がいなくなったことで露出した面倒ばかりが、自分の足元へ落ちてくる。

 瑠璃花はその日一日、義母からも昌親からも、少しずつ距離を置かれたまま過ごした。何をしてもずれる。花の向きを直せば、葉がこちらを向きすぎると言われる。菓子皿を拭けば、布の選び方が悪いと言われる。電話を取れば、言葉が軽いと言われる。だったら何もしないでいると、気が利かないと見られる。八方塞がりとは、たぶんこういうことを言うのだろう。

 昼過ぎ、義母が親しい婦人と電話をしている声が廊下へ漏れた。

『ええ、ええ、今ちょっと落ち着かなくて。前のようにはいかないわね』

 前のようにはいかない。

 その言葉が、瑠璃花の胸に重く沈んだ。

 前とは、澄乃がいた頃だ。

 つまり、今の自分は「前より劣るもの」として家の中に存在している。

 それを誰も隠そうとしない。

 夕方、昌親が会社から戻る頃には、家の空気はさらに険悪だった。受付花の件で父に叱られ、見舞い品の差し替えでも手間取り、会食先への確認でも小さなミスが出たらしい。帰宅した時の顔には、露骨な疲れと苛立ちがあった。

「おかえり」

 瑠璃花が声をかけても、昌親は靴を脱ぎながら「……ああ」としか返さない。

「今日、どうだった?」

「最悪」

 短い一言だった。その言葉が自分へ向いているような気がして、瑠璃花は反射的に言い返した。

「こっちだって最悪だよ」

 昌親が顔を上げる。

「何でそうなる」

「何でそうなるって、全部でしょ。お義母さまの機嫌は悪いし、電話は分かんないし、花はダメ、茶器はダメ、何してもダメ。私、ここで何してればいいの」

「知らないなら覚えろよ」

「簡単に言うなって言ってるじゃん」

 また同じ言い争いが始まる。しかも今回は、朝よりもっと冷たい。もう互いに相手を慰める気がない。華やかな略奪愛の残り香は、いつの間にか家の中のどこにもなかった。残っているのは、管理されていなかった現実だけだ。

 瑠璃花はふと、澄乃が最後まで怒鳴らなかった理由を少しだけ理解しかけた。

 この家は、声を荒げるだけ無駄なのだ。

 怒鳴っても、泣いても、面倒は減らない。むしろ細かな管理業務のほうが、黙って積み上がって首を絞める。

 だからこそ澄乃は、全部置いて出ていったのかもしれない。

 そんな考えが一瞬よぎって、瑠璃花はさらに苛立った。あの女の理解者になったみたいで嫌だった。嫌なのに、家の中の綻びを見るたび、結局あの女の不在ばかりが目につく。

 久世家の亀裂は、もう隠せないところまで来ていた。

 義母は瑠璃花を受け入れない。義父はあからさまに不機嫌だ。昌親は余裕をなくし、瑠璃花の機嫌を取るどころか、面倒の一部として見始めている。瑠璃花自身も、ここへ来れば愛されると思っていた自分の見通しの甘さを認めたくないまま、怒りだけを募らせていた。

 “妻の座”を手に入れれば、豊かな暮らしと愛情が自動的についてくる。

 そう思っていたのは、完全な誤算だった。

 手に入ったのは、地味で終わりのない管理と、誰も褒めないくせに少しでもずれれば責める家と、余裕を失っていく男の不機嫌だけだった。

 そしてその現実は、これからもっとはっきりした形で、久世家のあちこちに裂け目を広げていくのだろう。

 瑠璃花はその夜、鏡の前で口紅を引き直しながら、自分の顔が以前より少しきつくなっているのに気づいた。華やかな勝者の顔ではない。思うようにならない現実へ苛立ちを向ける女の顔だ。

 こんなはずじゃなかった。

 その言葉だけが、夜の化粧台の前で、何度も胸の中に沈んでいった。



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