魔霧の森の魔女~オバサンに純愛や世界の救済も無理です!~

七瀬美織

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第二章 疑雲猜霧のファルザルク王国

第三十三話 魔法少女はやめてほしい

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 海野遊帆は、秘密というよりも、仮面の下に真実を押し隠したような男だと香澄は思っていた。一筋縄ではいかない、中々の曲者だと思っている。
 元の世界で医師だったファルザルク王国の国家魔導師。『落ち人』としてファルザルク王国に保護された当時の悲惨な過去。遊帆とメイラビアとの因果な距離感も気になる。

 香澄は、遊帆に魔法と魔術の基礎知識を簡単に教わっている。要点を言えば、この世界は魔法と魔術にはっきりとした区別をつけていないそうだ。

 先ず、大前提として、世界の全てに存在する魔素がある。その魔素に影響を与えて事象を起こす精霊が存在する。人間は、魔素から固有の魔力を生み出し、精霊に捧げる事で魔法を行使する。それが魔法であり、高度で複雑な効果を発揮するのは、魔術だという事らしい。

 遊帆の説明は、とても分かりやすかった。香澄が疑問に思うことを丁寧に教えてくれる。医師は、インフォームド・コンセントの為に丁寧に説明する技術も必要なはずだ。遊帆は、きっと優秀な優しい医師だったのだろう。 

「『落ち人』は、魔力量が多いから魔法をわりと簡単に使えるようになる。ただし、この世界の人間のように、先天的に魔力を持っていて、成長によって魔力量が増加するのと違い、いきなり膨大な魔力を得るために、魔力感知やコントロールが未熟で、魔力暴発を起こす危険がある。だから、『落ち人』は、充分な環境と指導者なしで魔法を行使するのは危険なんだ」
「なるほど、魔力暴発の話を聞いてから、怖くて魔法を試してみたいと思いませんでした。でも、私には契約した皓輝がいますから本当は大丈夫なんですよね」
「おや、それは初耳だな」

 香澄は、言ってしまった後で少しマズかっただろうか不安になった。だが、別に隠す必要のある話ではないので、気にしないでいいだろうと、気持ちを立て直した。

「皓輝は、全てにおいて私を優先して行動するのが使命だと思っているんです。皓輝に直接言われた訳じゃありませんが、直感的に知ったというか、感覚を共有しているというか、繋がりがあって信頼できるというか……。とにかく、皓輝は私の身体の不調はもちろん、魔力の流れもメンテナンスしてくれているようです」
「それは、皓輝が香澄ちゃんの魔法もサポートするのかい?」
「そうらしい……です」
「つまり、ハイスペックな皓輝と『主従の契約』をした恩恵で魔力暴発の危険は無いのか……。なるほど、藍白の治療が裏目に出たあと、俺が調整しなくても、アレクシリスの治療だけで完治した訳だ……。だったら、……なるほど、つまり、……うん。そうか……可能性は高いな……」

 遊帆は、顎に手を当ててブツブツと小声で呟きながら、考え込んでしまった。

「……あの、遊帆さん?」
「よし! 香澄ちゃん! だったら、実践してみよう!」
「えっ? 何をですか?」
「魔法少女デビューだよ!」
「ま、魔法……少女って歳じゃないですよ。私は……」
「中身はともかく、見た目は美少女だから大丈夫!」
「遊帆さん。言い方……! まあ、事実ですけどね」

 自分の姿を頭の中で正しく現在の姿で思い浮かべられるようになっていないので、『美少女』と言われても違和感しかない。ただ、外見よりも重大な中身を、ともかくとは失礼が過ぎると思う。
 人は見た目が重視されるのか? されるのだろうな……。

「まあ、ラノベにありがちな感じに、魔法はイメージが大事だ。あとは、魔力を制御出来るどうかだが、香澄ちゃんの話を聞くと大丈夫そうだからやってみよう!」
「そんな、いきなりアバウトな!」
「あはは! 大丈夫。塔の実験場は、新開発した特大攻撃系魔術をぶっ放しても、ビクともしない特殊な魔術空間なんだ。安心して……先ずは、やってみよう!」

 遊帆は、クルリと片手で中空に円を描いた。淡く光る魔方陣が浮かび上がり、遊帆がその場で押し出すように放つと、百メートルくらい先に同心円がいくつか描かれた的が現れた。半透明なので、実際に何か物体があるわけではなさそうだ。

「さあ、香澄ちゃん。あの的に、何か攻撃系の魔法をぶつけてみてくれ。イメージしやすいものなら何でもいいから」
「えーと。ま、いいか? いいのか? いいよね」

 香澄は自問自答を繰り返しながら、魔力を使って攻撃系の魔法をイメージしてみた。スルリともつれた何かが解けるような感覚がしたので、そのまま的に向かって放った。

 バシュッ! ーーーードウウッッ!
 
 香澄は無意識のうちに片手を上げて、的に向かって魔力を放った。香澄からは見えていなかったが、手のひらに魔方陣が浮かび上がり、中心の一点から強烈な光の矢が放たれて、一瞬の内に的の中心を撃ち抜いて的ごと消えた。

「……えっ?」
「……あ、出来た。遊帆さん、なんとなくですが、出来ました!」

 遊帆は、呆然としている。香澄は、その様子に不安げに首を傾げて遊帆を見つめた。

「あの? 何かマズかったですか?」

 遊帆は、音がしそうな感じにハッとして現実に戻ってきた。

「香澄ちゃん。…………無詠唱」
「あ、呪文的なものを叫びながらって、ちょっと恥ずかしかったものですから……」
「魔力、放つの抵抗とか、違和感とか……」
「えっと、特には……」
「何をイメージして……」
「的を消滅させたい……ですかね。こんな気持ちのいい草原を、焼いたり、抉ったり、環境を壊したりしたくなかったから……遊帆さん⁈」

 遊帆は膝から崩れ落ちて地面に両手をついてガックリと項垂れた。

「香澄ちゃんがチート過ぎる……」
「チートなのは、多分皓輝のおかげです。今も、皓輝のサポートがあったから微調整が必要なかったから、イメージ通りの結果が得られたんです」
「皓輝が側にいなくても?」
「分身的なものが、いつも一緒ですから……」

 香澄の肩からピョンと黒い塊が弾み出てきた。

『チュン』

 小鳥と言うより、丸々としたボールの様な姿の小鳥皓輝だ。

「お、それが皓輝の一部……鳥?」
「護衛の小鳥皓輝です」
「羽毛で作ったボールみたいな姿だな。隠匿? 認識阻害的な能力か? さっきまで全く気がつかなかった……」
「小鳥皓輝が一緒って、言わなくてごめんなさい。何か引っ付いてるのが当たり前になってきて、私も存在を忘れてました」
「いや、いいよ。それは、周りにも知らせる必要はない。魔術師だって従魔持ちは当たり前に一緒に行動するし、精霊の加護があれば、精霊が常に一緒にいるからな」

 香澄は遊帆の側に『聖なる茨の精霊』の姿を探してみた。今は居ないようだが、よく考えてみると『茨の塔』に居る限り、かの精霊の内側にいるようなものなのだろう。

「良かったです。皓輝は、私に色々と護衛手段を増やそうと頑張ってしまうので……勝手な事はしないように制限するのが大変なんです」
「……やっぱ、香澄ちゃんがチート過ぎる……」

 漸くして遊帆が復活したので、今度は別の方向から魔法を使ってみるようだ。

「今度は、飲める水を一リットルくらい球体で出してみて……。うん。鑑定で飲料水っていうより、純水レベルが出来てるな。今度は、温度を上げて、沸騰直前まで……。よし、今度は徐々に温度を下げて……もっと下げて、氷になるまで……これも問題無しか……。皓輝のおかげなのか? だとしても、そうじゃなくてもスゲエかも……。氷を砕いて、あの的目掛けて投げつけて……。おおー!」

 香澄は、一度に色々細かい事をさせられて、多少精神的に疲れた。体力や魔力に問題はない。

「香澄ちゃん。今のやってる時、物理法則を考えたりした?」
「物理法則ですか? うーん。特には何も……」
「だよなぁ……。普通の魔術師だと大抵の場合は、沸騰させようとすると失敗する」
「え、どうしてですか?」
「沸騰した水はどうなる?」
「えっと、水が沸騰すると、水蒸気になる。つまり、気化します」
「そう。気化して体積が増える。球体に固定した水よりも増えてしまう。すると、結界に包んで空間に固定した水の体積が増えるし、水蒸気の逃げ道を考えないといけない」
「全然、考えていませんでした」

 香澄は、遊帆に指示された通りにイメージを反映させただけで、難しい事は何も考えていなかった。

 遊帆は、懐からナイフを取り出すと、なんの躊躇いもなく左手首を切りつけた。遊帆の左手首から、ダラダラと血が流れる。香澄は蒼白になって叫んだ。

「遊帆さん! 何をやってるんです!」

 香澄が慌てて駆け寄って手首を押さえようとすると、サッと身を引いて平然としている。

「うん。香澄ちゃん、この傷を治せるか試してみて?」
「……………………こ、この、……アホがー‼︎」
「ええっ⁈」

 香澄は、怒鳴りながら遊帆の左手首を傷を避けて掴むと魔力を放った。光の粒子がモヤモヤと傷口を包んで消えると、傷口も血の跡すら消えてしまった。

「遊帆さん! いくらご自身でも治癒魔法が使えるといったって、練習の為に自分の手首を切るなんて、馬鹿ですか‼︎」

 香澄は、びっくりしたのもあってボロボロと泣き出した。あまりに躊躇いなく切った遊帆に驚き過ぎて感情が壊れた。

「あー。ごめんなさい……。あー。そりゃ驚いて当然だよな。泣かせるつもりはなかったんだ」

 遊帆は、やり過ぎたと反省している様にだが、自分の行動よりも香澄を泣かせたの事を悪かったと思っているようだ。それは、香澄の望む反省ではない。

「遊帆さんは、自分の身体をもっと気づかってください! メイラビアさんが、目を離すと徹夜や食事を抜いたり、倒れる寸前まで無茶をするって心配してましたよ! いい大人なんだから、そんな心配を周りにさせないでください! もっと、自分を大切にして下さい!」

 香澄は、ボロボロ泣きながら遊帆を叱った。そんな義理は無いかもしれないが、くどくどと叱りつけた。遊帆はひたすら平謝りだった。

 遊帆を叱りながら、香澄は『聖なる茨の精霊』の守護を持っていても、自傷行為が出来るのかと冷静に分析する自分に気づいた。遊帆を心配しながらも、別の思考をしてしまう自分自身に、一気に疲労が増した。

「ところで、香澄ちゃん。さっきの魔道具の精霊と何か密談して隠匿とかしてない?」

 ほら、やっぱり海野遊帆は油断ならない魔導師だ。


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