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第一章 五里霧中の異世界転移
第二十二話 ランスグレイル=ダリウス=ファルザルク
しおりを挟む「藍白達にも聴いたのですが、貴女を襲った者は、私に良く似た少年だったのですね?」
「 …… はい」
香澄は、あの少年を思い出そうとすると、複雑な感情が湧き出してきた。そして、記憶が蘇ってきて、喉の痛みに息を詰まらせた。
「彼は、貴女に名乗りましたか?」
香澄は、アレクシリスの言葉に固まった。こんな時に、香澄の記憶力を試さないでもらいたかった。中年期の脳は、若い頃と比べて信じられないくらい鈍っているのだ。
よく、香澄は物忘れをすると、大学生の姪から、そんなことも思い出せないのかと、呆れられたものだった。さらに、遠慮も情け容赦も無い言葉で、香澄は傷付けられたのだった。香澄は、その度に思ったものだ。
あんただって、わたしの年齢になれば、嫌でもそうなるのよ …… !
香澄は、彼の事を考えると、喉を締め付けられた恐怖と息苦しさも、同時に思い出しそうになった。その部分に蓋をして、慎重に彼の事を思い出した。
「 ………… 確か、ランス、グレイル=ダ、リウス=ファルザルク。ハア、あ、覚えてました」
「そうですか …… 。香澄、本当に申し訳ございません。彼は、私の姉の子です。そして、私の直属の部下でもあります」
「アレクシリスさんの、血縁者、なのですね」
叔父と甥の関係ならば、容姿が似ていても不思議ではないだろう。
「彼は、リア、リングネイリアって、ハア、わたしが殺したって言ってました。彼、泣いてました。わたしが『鍵』だって …… 短剣を、手にしてましたが、殺意が曖昧で、どこか …… 不自然に感じました」
アレクシリスは、香澄の瞳をじっと見詰めた。深い海を思わせる青い瞳の真剣な眼差しに、年甲斐もなく、香澄は心拍数が上がってしまった。香澄の手が、アレクシリスの大きな手に、さらにぎゅっと握りこまれた。
「 …… リングネイリアは、蘇芳に次ぐ長老で、竜族の竜王でした。そして、ランスグレイルの契約竜でした。二人は、ファルザルク王国の竜騎士でした」
「 …… 竜騎士、アレクシリスさんと、杜若さんみたい …… な?」
アレクシリスは、ふわりと微笑み頷いた。そして、言葉を選ぶようにゆっくり話しだした。
「そうです。ランスグレイルは、見習いから正式に、竜騎士に叙任されたばかりでした。彼が、私の直属の部下に配属されて、初めての任務中、魔霧の森の外れに貴女が落ちてきたのです」
香澄は、息を飲んだ。初めてアレクシリスから、自分が異世界転移をしてきた状況を聞いたからだ。香澄は、目が覚めてからずっと、ゆっくり慎重に呼吸をして、痛みを反らしていた。動揺して身動ぎしてしまい、ズキッっと、あちこち身体中が痛み呻き声をあげた。
「香澄、無理をしてはいけない。話しはまた後にして、今は眠った方がいい」
「 …… 大丈夫です。話して下さい。 …… お願いします。ハア、アレクシリスさん …… 」
香澄は、アレクシリスに握られた手に力を込めて、真っ直ぐに見つめ返した。
「香澄、身体が辛くなったら言って下さい。約束ですよ」
「 …… はい」
香澄は、アレクシリスが話す気になってくれて、ほっとした。本当は、あちこち痛みで辛いが、我慢していた。この機会を逃したら、いつ教えてもらえるのかわからない気がしたからだ。
「 …… 香澄が異世界から落ちてきた日、リングネイリアは突然亡くなったのです。我々は、それと同時に瀕死の状態の貴女を発見しました。あの時、貴女を救うには、大量の魔力か必要でした。竜は、魔力の塊の様な存在です。我々は、リングネイリアの亡骸に宿る魔力を利用して、貴方に治癒魔法を施術施術したのです。 …… 今考えると、ランスグレイルへの配慮が、全く足りませんでした。貴女の容姿が変化したのも、リングネイリアの、竜族の魔力の影響でしょう。貴女の姿は、彼女の面影が確かにあります」
なんという事だろう。香澄が助かった経緯に、リングネイリアが、こんな形で関わっていたのだ。
「そんなに …… リングネイリアさんと、今のわたしは、似ているのですか? 顔や、髪の色とか?」
「髪や瞳の色彩は、全くちがいます。リングネイリアは、金褐色の髪に、水色の瞳でした。身長も女性の平均より低くて、顔もあどけなくて、成人したばかりの少女にしか見えませんでした」
香澄は、やはりそうなのかと思った。目覚める直前まで見た夢は、夢ではなくリングネイリアの記憶の一部なのかもしれない。彼女の記憶なので、彼女の姿まではっきりとわからなかったのだ。
「ランスグレイルは、リングネイリアの死に、深く傷ついたのも理解できます。『竜騎士の契約』は、人も竜族も生涯一度しか結べない『精霊誓約』です。ランスグレイルは、契約竜を失ってしまった。その時点で、竜騎士の資格を失ってしまいました。なので、近衛騎士団への入団を、奨めたばかりでした。昨日、貴女の庇護について、竜族と話し合いをする為、陛下に指示を仰ぐために、一旦、本国に戻りました。その時、ランスグレイルが行方不明になった事を知りました …… 。しかし、ランスグレイルは、逆恨みなどする様な男ではありません。それが、こんな事をするなんて …… 」
アレクシリスは、言葉を詰まらせた。握られた手からは、相変わらず優しい魔力が流され、不思議な熱を香澄に感じさせていた。
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