魔霧の森の魔女~オバサンに純愛や世界の救済も無理です!~

七瀬美織

文字の大きさ
25 / 84
第一章 五里霧中の異世界転移

第二十四話 状況整理

しおりを挟む
 翌朝、目覚めた香澄かすみは、ベッドの裾に黒い毛玉を見つけて飛びついた。香澄の真の癒し担当は、この黒いモフモフだ。
 子猫の皓輝こうきが無抵抗なのを良いことに、散々撫で繰りまわしてしまった。ふわもこの毛玉の体が、グッタリと伸びて、皓輝は疲れ果ててしまった様だが、香澄の体調は、全く問題ないようだった。

「ごめんね、皓輝。つい、モフり過ぎました」
『 …… うにゃあ』
「皓輝、その姿だと喋れないの?」
『うみゃあ、にゃあ、みゃあ』

 香澄は、子猫バージョンの皓輝に大変満足していた。だが、会話が一方通行になってしまうのは、かなり不自由だった。皓輝に聞きたい事が、まだまだ沢山あるので、一先ずお願いしてみる。

「皓輝、答えてもらいたい質問があるんだけど、話せる姿になれる?」

 子猫の姿がブワッと黒い霧に包まれて、少年の姿が現れる。全身、黒装束だった服装は、シャツだけ白に変わっていた。

『 …… 香澄様、如何いかがでしょうか?』
「うん。その姿も可愛いね」
『香澄様が、ご所望なら、どんな姿にでもなります。どうぞ、撫でまわして下さい。お好きにして下さいませ』

 皓輝は、ベッドの上で膝立ちになり、腕を広げて香澄に撫でまわされる準備をしている。はあ、はあ、若干、息が荒いのは、気のせいだと思いたかった。

「うん、それ以上はいいから! そんなつもりは無いから! 落ち着こう! 猫の姿とはいえ、撫でまわし過ぎました! ごめんなさい!」

 香澄は、頬を上気させ、紅い瞳を潤ませて見上げてくる皓輝に心から謝罪した。そして、感謝した。

「昨日は、助けてくれてありがとう」
『いいえ。もっと早くに、香澄様の危機を察知出来なかった、愚かなしもべをお叱りください。それと、香澄様をお助けしたのは、丸二日前です』
「ああ、そうなんだ。記憶にないのは丸一日以上は眠っていたんだね」

 香澄が、この世界に転移してから、普通に毎日を過ごせてないのは気のせいではない。香澄は、この数日間の出来事を整理してみた。

「まず、濃霧の朝、歩道橋から何故かダイブして、異世界転移したでしょう。それで、その時負った大怪我と魔素に適応するために、最低でも三日間は昏倒していたはずだよね。そして、深夜に目が覚めると、目の前にキラキラ王子様のアレクシリスさんがいたでしょう。翌日、遊帆ゆうほさんとメリラビアさんに出会って、間もなく藍白あいじろに管理小屋から拐われて、気絶したんだった。目覚めたら魔霧の森で、藍白とアレクシリスさんと杜若かきつばたさんと、森を脱出したらキプトの街で、竜族の長の蘇芳すおうさんや黄檗きはださん達と出会ったよね。翌日、皓輝にもキプトで出会ったんだよね。それから、『主従の誓約』で『誓約の女神』と『誓約の精霊』達に会ったね。今も、リーフレッドさんは近くにいるはずだよね  …… うん、ちょと遠くに感じるけどいた!」

 そして、ランスグレイル。と、記憶の中のリングネイリア …… 。

「ダメだぁ! 混乱して何日経ってるのさえわからない。多分、十日間ぐらいの出来事だよね。ハードだ! 精神的にとってもハードだ! 肉体的には超ハードだ!」
『香澄様、大丈夫ですか?あの、さっきから …… 』
すさむ、心が荒む …… 皓輝に心の癒しを求めても仕方ないよね!」

 香澄様は、膝の上に皓輝を乗せて抱きしめた。柔らかな茶髪の髪を撫でまわした。ほほを寄せ、グリグリと頭を擦りつけた。

『香澄様、あの …… 』
「香澄ちゃん、癒されたいなら、僕が癒してあげるよ。だから、それ、捨ててこよう!」

 藍白が、不穏な台詞を吐き出して、皓輝の首根っこを掴んで、コテンとベッドの端へ転がした。皓輝への扱いが、雑でひどい気がする。藍白は、爽やかな笑顔だ。しかし、目が全く笑っていない。
 香澄は、部屋に藍白が居るとは思ってなかったのと、皓輝とのやり取りを、どこまで見られていたのかと考えて悲鳴をあげた。

「ひゃあっ?! 藍白、いつ来たの?」
「ノックしても返事がないから、勝手に入ってきちゃった。ごめんね」

 藍白は、それだけ言って、神妙な顔をして押し黙ってしまった。

「藍白? どうしたの?」
「香澄ちゃん、ごめんなさい。治療するつもりが、重症にして、 …… 痛かったよね」
「藍白が助けてくれなかったら、それどころじゃなかったよ。助けに来てくれて、ありがとう!」

  藍白は、くしゃりと顔をしかめた。

「 …… 冷静に対応してれば、すぐに治療魔法が魔力の反発を起こしているの、わかったのに、その、どんどん傷が増えて、 …… 血が流れてきて、パニックになって、本当に、ごめんなさい」

 香澄は、ぽろぽろと涙を流す藍白を、最初から責める気は毛頭なかった。話しながら、泣きはじめた藍白の頭をポンポンした。香澄の膝の上には、戻ってきた皓輝が抱きつきうなっていた。

「藍白は、泣き虫さんだね。大丈夫だよ。もう、痛くないし、藍白は、わたしを助けてくれたんだよ。ありがとう。 …… こら、皓輝も威嚇しないの」
「香澄ちゃん、許してくれてありがとう」

 藍白は、素直に泣いたり、笑ったりして、身も心も美し過ぎる、この青年の事を身内認定していた。香澄の中で、年の離れた弟か甥っ子のようなポジションだと言ったら、藍白は怒るだろうか?

「藍白、アレクシリスさんは?」
「ファルザルク王国に戻って、女王陛下に直に報告するって、僕と入れ替わりに出発したよ。去り際に、意味のない反省は止めて、私が留守の間は、香澄を守れだなんて、アレクシリスのやつ、何様のつもりなんだよね」
「『落ち人』の『管理者』かな?」

 香澄は、冗談ぽくふざけて言ったつもりだった。それなのに、藍白はとても真面目な顔をして言った。

「香澄ちゃんは、『落ち人』ではないよ。おそらく、リングネイリアにこの世界に召喚されたんだ」
「わたしを、召喚した?」
「うん」
「藍白は、世界の為の『鍵』って、なんのことか分かる?」
「それは、竜族の竜王だけが行える『禁断の秘術』って事しか知らない」
「そう、 …… 蘇芳さんなら知っているかな? すぐにでも会えないかな?」
「後にしよう? 蘇芳も会いたいって言っていたから伝えておくよ。香澄ちゃんは、まず朝食を食べて、お風呂だよね。食欲はある? 体調は大丈夫?」
「そういえば、お腹すいた!」

 香澄は、藍白の用意した朝食をしっかり食べた。そして、次はお風呂だと準備して入ろうとして、藍白に呼び止められた。

「香澄ちゃんの体調が心配だから、お風呂は、一緒に入ろう?」
「ふっ、やっと藍白らしくなってきて良かった。皓輝、藍白と外で待っててね。洗面所の扉を死守して下さいね」
「え~?! じゃあ、もしも具合が悪くなったら、すぐに呼んでね」
『香澄様、不埒な白トカゲの監視は、お任せ下さい』
「誰が、トカゲだ!」
『さあ、来い! 香澄様のお邪魔をするな、白馬鹿トカゲ!』

 香澄は、言い争いをする二人を見ながら、藍白と皓輝は、案外仲良しかもしれないと思った。







しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

おばさんは、ひっそり暮らしたい

蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

オマケなのに溺愛されてます

浅葱
恋愛
聖女召喚に巻き込まれ、異世界トリップしてしまった平凡OLが 異世界にて一目惚れされたり、溺愛されるお話

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

なりゆきで妻になった割に大事にされている……と思ったら溺愛されてた

たぬきち25番
恋愛
男爵家の三女イリスに転生した七海は、貴族の夜会で相手を見つけることができずに女官になった。 女官として認められ、夜会を仕切る部署に配属された。 そして今回、既婚者しか入れない夜会の責任者を任せられた。 夜会当日、伯爵家のリカルドがどうしても公爵に会う必要があるので夜会会場に入れてほしいと懇願された。 だが、会場に入るためには結婚をしている必要があり……? ※本当に申し訳ないです、感想の返信できないかもしれません…… ※他サイト様にも掲載始めました!

巻き込まれ異世界召喚、なぜか俺だけ竜皇女の推しになった

ノラクラ
ファンタジー
俺、霧島悠斗は筋金入りの陰キャ高校生。 学校が終わったら即帰宅して、ゲームライフを満喫するのが至福の時間――のはずだった。 だがある日の帰り道、玄関前で学園トップスターたちの修羅場に遭遇してしまう。 暴君・赤城獅童、王子様系イケメン・天条院義孝、清楚系美少女・柊奏、その親友・羽里友莉。 よりによって学園の顔ぶれが勢ぞろいして大口論!? ……陰キャ代表の俺に混ざる理由なんて一ミリもない。見なかったことにしてゲームしに帰りたい! そう願った矢先――空気が変わり、街に巨大な魔法陣が出現。 赤城たちは光に呑まれ、異世界へと召喚されてしまった。 「お~、異世界召喚ね。ラノベあるあるだな」 そう、他人事のように見送った俺だったが……。 直後、俺の足元にも魔法陣が浮かび上がる。 「ちょ、待て待て待て! 俺は陰キャだぞ!? 勇者じゃないんだぞ!?」 ――かくして、ゲームライフを愛する陰キャ高校生の異世界行きが始まる。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

最弱白竜ですが、なぜか学園最強の銀竜に番認定されました

めめめ
恋愛
竜の血を引く者だけが貴族になれるこの世界で、白竜は最も格の低い竜の証。 白竜の男爵令嬢リーゼロッテは、特待生として国内最高峰の王立竜騎学園に入学する。待っていたのは上位貴族からの蔑みと、学園を支配する四人の御曹司「四竜」。 その筆頭、銀竜公爵家の嫡男ルシアンに初日から啖呵を切ったリーゼは、いじめと嫉妬の嵐に巻き込まれていく。 それでも彼女は媚びない、逃げない、折れない。 やがてルシアンはリーゼから目が離せなくなり―― 白竜の少女が、学園と王国の運命を変える。 身分差×竜×学園ラブファンタジー、開幕。

処理中です...