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第二章 疑雲猜霧のファルザルク王国
第十話 『封印の儀』
しおりを挟む香澄は、年甲斐もなく、異世界や剣と魔法の国や王宮ロマンスが題材のお話が好きで、いろいろ読み漁っていた。
しかし、魔法やレベルについて詳しく解説された文章は、なんとなく斜め読みで飛ばしてきた。理由は、ゲームが作れそうなくらいの緻密な設定を、若くない脳が理解できないからだ。面白いよりも、面倒くさいが先に立ってしまう。
まるで、家電の説明書を読み込まない八十歳手前の母のようだ。認めたくないが、これも老化現象? デスヨネ …… 。
ああ ……! 認識阻害の魔術の影響なのか、深刻さが足りてない! 現実逃避? いや、元からわたしはこうだった ……!
その辺りの知識があやふやなので、魔術チートで解決なんて出来そうな気が全くしない。せっかく『落ち人』は魔力が多いそうだけど、宝の持ち腐れになりそう。そんな役目は、どちらかと言えば魔術師を極めている海野遊帆の役目だろう……。
わたしは、いったい何者になったの?
生まれて半世紀のこの年になって、自分探しをしなければならないなんて、途方にくれてしまう。
亜希子さんの言った通り、わたしが、この魔霧の森の問題解決の為に、歴代竜王の命と引き換えに召喚されたとしよう。本人の自覚が皆無なので、(仮)にしておく。
はたして、わたしに何が出来るのか? 直感とか、身の内に溢れる能力とか、自覚とか全く感じられないし、出来そうな要素がない!
皓輝という、少々病んだ従者がいるのが、この異世界での唯一の縁だろう。
「香澄」
「アレクシリスさん …… 」
香澄は、薄っすら涙まで浮かべて情けない表情でアレクシリスを見上げた。心の声は、亜希子さんの期待に応えられる要素が見つからない! アレクシリスさん、助けて! だった。
しかし、アレクシリスは、口もとをおさえて横を向いてしまった。また何かアレクシリスの笑いのツボを押したのか …… 香澄は、そう思った。アレクシリスは、赤い顔をして何かに耐えているだけで、頼りにならなかった。
「亜希子さん、そう言えば藍白はどうしていますか? 」
藍白は、良くも悪くも異世界転移したばかりの香澄に関わってきた。香澄もちょっかいを出されるのはうざいが、構われないのはさみしいと感じてしまうくらいには、藍白の存在は大きくなっていた。
亜希子は、困り顔でため息をついた。
「藍白、無事に戻ってくれればいいのだけど …… 」
「えっ? 亜希子さん、藍白に、何かあったのですか?!」
「あ~、 …… 大丈夫よ。命に関わるような、話じゃないから …… たぶん」
「?! 藍白は無事なんですよね?」
「ええ、大丈夫よ。蘇芳と黄檗がついてるもの …… 杜若と常盤もいるしね!」
「そんな …… みんなが付いていないといけないなんて、どう考えても大変じゃないですか! 大丈夫じゃないですよ …… 何があったのか教えてください!」
「亜希子さん、私も事態を把握していないのです。杜若と常盤までが駆けつけなければならないとは一体?」
アレクシリスが、急に険しい声で亜希子に詰め寄ったので、香澄は不安が増した。亜希子は、目を泳がせながら、あ~、う~、と唸っていた。しかし、誤魔化しきれないと思ったのか、ぼそぼそと話しはじめる。
「実は、香澄さんがファルザルク王国の大使館を出発する直前に、藍白が『成人の儀』を受けたの」
「藍白が『成人の儀』を?! まさか、あんなに嫌がっていたのに?」
いつも、冷静な態度を崩さないアレクシリスにしては珍しく動揺をあらわにしていた。
「アレクシリスさん、『成人の儀』って? 何か、危険な事をしなければならないのですか?」
「……『成人の儀』は、文字通り竜族が成人する為に受ける儀式です。本来なら、竜族の祭りの日に受けるのですが、藍白はずっと拒否してきたのです…… 」
「成人になるのを拒否? でも、藍白はそろそろ自分も成人だって言っていました。もっと早くから藍白は成人する資格があったという事ですか?」
「そうです。しかし、藍白はそれを拒んでいました」
「竜族の掟について、アレクシリスはどこまで知ってるの? そもそも、どうして知ってるの? 竜族の禁忌にあたる話のはずなのに …… 」
亜希子が、驚きながらアレクシリスに尋ねた。
「杜若が『竜騎士の契約』を交わす前に、言いたい事が言えない時があるので、詳しく尋ねたことがあります。この寮が『囁きの森』と呼ばれる理由は『竜騎士の契約』の為に、契約竜は他族との会話に制限があるので、会話を聞き取れる範囲内に、他種族が立ち入ると発動する誓約だといっていました。しかし、本当の理由は、子竜のうちに受ける『封印の儀』の為だと、藍白に教えられました。藍白は『封印の儀』を受ける時、抵抗して封印が中途半端にしかされなかったそうです」
亜希子と珊瑚の三人でいた時に聞いた説明と、概ね合っていた。だが、『封印の儀』は初めて聞いた。
「竜族の掟について、子供の頃から藍白に少しずつ教えてもらいました …… 杜若も、藍白は『封印の儀』から古代竜の竜核に触れるのに拒否反応を示していたと、遠回しな言い方で教えてくれました。だから、私は少しだけ竜族の秘密に詳しいのです。そして、藍白が『成人の儀』を拒んでいた理由も知っています」
「そう …… 。藍白が『成人の儀』を急に受けたのは、香澄さんの為だと思うわ」
「えっ? わたしの?」
狼狽える香澄に、亜希子はゆっくりと丁寧に話しはじめた。
「竜族は、子竜のうちに一度能力を封印するの。これが『封印の儀』そして、成人に相応しい人格と精霊の加護を持てば、能力の解放と聖印を刻む『成人の儀』を受けるの。始祖の竜核を使った魔道具に触れて儀式を行うから、始祖に認められると成人になれると表現されるわ。竜族の掟が聖印として刻まれる代わりに、竜族の真の魔力が解放される。『成人の儀』は、十分な魔力や精霊の加護がたくさん無いと、耐えられない儀式だそうよ」
「竜族は、何の為にそんな儀式を受けなければならないのでしょうか?」
「魔力も力も寿命も最強の竜族が、好き勝手に生きれば、世界を壊しかねないから必要なのだそうよ。藍白は、始祖の竜核を使った魔道具に触れて倒れたの。魔道具に嵌め込まれていた竜核が砕けて、藍白が目を覚ましたら、自分は始祖の白竜王だって言ってるらしいの …… 始祖も白竜だったっていうわ。黄檗が、『藍白は、『白竜は唯一』という宿命を嫌っていたのに! なんで今更、竜核に支配されそうで怖いから『成人の儀』は受けないと言っていたのに!』そう言って取り乱してたわ」
「…… 『白竜は唯一』とは、どういう意味なんでしょうか?」
「竜族に白竜は、めったに生まれなくて、同時代に二人目は生まれないの。そして、白竜は一族で最強の魔力と統率力を持って生まれ、必ず竜族の長になり偉大な導き手となるとか ……? だから、『白竜は唯一』。そして、代々の白竜は始祖の転生体で、竜核に遺された魂の意志を引き継いでると信じてるらしいの。蘇芳も、『成人の儀』を受けると、今のチャラい藍白が消えちゃうかもしれないって言った。でも、あの藍白が消えるわけないわ。心配いらない。始祖の竜核が割れてしまったのも、年月が経ち過ぎたせいだし、藍白はその影響で混乱しているだけよ。きっと …… 」
『香澄ちゃん。僕はここに残って、やらなきゃいけない事がある。だから、それが済んだら …… 後から追いかけて行くよ』
香澄は藍白が別れ際に言っていた言葉を思い出した。その時の、藍白の見せた、儚げな笑顔を …… 。
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