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第一章 初恋
第二十九話 それぞれの告白 ②
しおりを挟む私の身仕度が整うと同時に、父上が到着した。私は、父上の顔色と目の下に居座るクマさんを見つけて、これから話す事で更に負担をかけそうだと心配になった。
「父上、あまり寝ていないのではありませんか? お疲れなのお呼びして、ごめんなさい」
「いいえ、マリー。呼んでくれて、ありがとう。サンドラと約束していて、区切りがつくまで、マリーの部屋を訪ねられなかったのです」
「シマッタ! 母上がスネてしまう!」
「大丈夫。今夜あたり、サンドラがマリーの寝室に泊まりに行くでしょう」
「それは、うれしいです」
それから、私はソファで父上の膝に乗せられて、頭を撫でられていた。父上は、かなりお疲れのようだ。少しでも父上の癒やしになれますように …… と、私は心の中で祈った。
すると、身体からふわりと何かが流れた気がした。
「マリー?!」
「? 父上、どうかしましたか?」
「 …… いや、まさか?!」
父上は、眉間にしわを寄せて、しばらく考え込んでいた。
エルシアが、お茶を入れ終わると父上は目配せだけで彼女を下がらせた。そして、私を膝から下ろして隣りに座り直した。
「マリー、何かあったのですか?」
「はい。父上は『妖精の庭』をご存知ですか?」
「『妖精の庭』ですか?」
「本当は、違う名前かもしれないのですが、不思議な蝶の群れを追いかけると行ける、雨の日でも、いつも晴れた庭です」
「!! 『礎の庭』と呼ばれる場所ですね」
「父上、『妖精の庭』の方が素敵だと思います」
「ははは、そうですね」
父上は、笑顔で私の頭を優しく撫でた。
「稀な事ですが、その、『妖精の庭』の精霊が『精霊の祝福』を授けて招かれる者がいるそうですね …… マリーは、庭の精霊と会ったのですか?」
「私は、招かれているだけです。庭の精霊に会った事はありません」
「それでは、庭の精霊と約束や契約をしているわけでは無いのですね」
「私は、『精霊の姫君』だから必要ないそうです」
「なるほど、精霊の庭の契約者は、そう教えてくれた人物なのですね」
「父上、意地悪な聞き方です。その人が、庭の契約者かどうかは知りませんが、『竜の鉤爪』の『鳶色の魔王』である父上に、事情を話して協力してもらえと、助言して下さいました」
「 ! マリー、詳しく聞かせて下さい」
父上が、『竜の鉤爪』の『鳶色の魔王』と私が口にした一瞬、周りの温度が一気に下がって怖かった。でも、すぐに普段の父上に戻った。娘に恥ずかしい二つ名を知られて動揺したのかな? いや、いや、そんな脳天気な理由じゃないってわかってますとも!
私は、『妖精の庭』から霧の湖に紛れ込んでだ事、霧の中で、アレクシリスの暗殺という、恐ろしい計画を聞いた話しをした。話している途中で、計画の恐ろしさに身体が震えてきたけど、父上が膝に乗せてくれて抱きしめてくれたから、最後まで話すことが出来た。
「わかりました。過去に城内で交わされた会話の記録か、庭の精霊の警告、と、いったところでしょうか …… 」
「父上、大丈夫でしょうか?」
「マリー、話してくれてありがとう。あとは、私に任せて下さい」
「はい。父上」
父上に話せて良かった。私は、握りしめて汗ばんだ、自分の小さな手を広げて見つめた。
私は、自分が無力だと知っている。シンシアを守れなかった記憶が戻って、特にそう思った。今の私は、誰かを守ることも、自分を守ることすら出来ない。
「しばらく、忙しくなりそうですね。終わったら、色々お話ししましょう。例えば、マリーの記憶とか、『精霊の種』のこととか、庭の契約者についてじっくりとね」
「ち、父上。父上も、『竜の鉤爪』と『鳶色の魔王』について、教えてくださいね」
「それは、忘れて下さい」
「ええっ!?」
「マリー、いい子だから、忘れて下さいね」
「は、はい」
父上の笑顔でのごり押しは、半端なく怖かったので、一応は忘れることにした。『鳶色の魔王』に逆らってはいけないと、心に刻んだ。あれ? これじゃ、忘れられないよね。
数日後、アレクシリスは、母親の実家のハイルランデル公爵家を訪ねる事になった。お祖父様の公爵に、後見人の変更と竜騎士の契約者になる為に誓約をした経緯を直接お会いして説明する為だ。公爵は、王都から馬車で半日程の別宅で静養していた。
その道中、アレクシリスの一行は賊に襲われた。でも、事前に護衛騎士を増強していたのと、偶然上空を通過していた竜騎士団からも、援護があったので、アレクシリスは傷一つ負うことはなかった。
それから、王都の貴族街で廃墟が火災で全焼した。どういう訳か、廃墟に居合わせた数人の貴族が亡くなったそうだ。
アレクシリス暗殺未遂事件の主犯は、未だに判明していない。
ーーーー 今日は、雨だった。
葬儀の始まりを知らせる鐘の音が、暗く沈んだ王宮の隅々まで鳴り響いた。
葬儀? …… 誰の葬儀なのだろう?
冷たい雨の中、沢山の人々が参列している。
竜騎士団の契約竜達も並んでる。私は、その中に、杜若の姿を探したがみつからない。杜若は、まだ契約者を持っていない竜族の騎士、準竜騎士に叙任されて、竜騎士団と行動していたからだ。
気がつくと、藍白が私の横に立っていた。
「杜若は、来ないよ。あいつは、ファルザルク王国には二度と近づかない。二人の誓約は、すでに破棄された。でも、あいつは、二度と竜騎士の契約はしないだろう。それが、アレクシリスを守れなかった償いのつもりらしい …… 」
私は、藍白の話を聞いていたが、鼓膜を震わす音に意味を感じなかった。何を聞いても、どうでもよかった。ただ、気になったので聞いてみた。
「アレクシリスが、どうかしたの?」
藍白の眉間に皺が寄り、痛ましいものを見るように表情が歪んだ。せっかく綺麗な顔をしているのに勿体無い。藍白は、どうしてそんな目をして、私を見つめるのだろう?
「藍白殿、マリーは彼の死を理解しようとししないのだよ …… 」
父上の大きな手が、私の肩を包むように置かれた。温かくて重たい手だった。
私は、何か忘れているなような、何かを思い出せないもどかしさを感じていた。私は藍白に尋ねた。
「今日は、だれの葬儀なの?」
「 …… アレクシリスだよ」
「え …… ? 」
ーーーー 嘘だ。これは、本当じゃない。夢だ。きっと、これは夢だ!
『そう …… これは、夢。嘗て、現実だった、ある日の残像 …… 」
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