私のかわいそうな王子様

七瀬美織

文字の大きさ
49 / 55
第一章 初恋

第二十九話 それぞれの告白 ②

しおりを挟む

 私の身仕度が整うと同時に、父上が到着した。私は、父上の顔色と目の下に居座るクマさんを見つけて、これから話す事で更に負担をかけそうだと心配になった。

「父上、あまり寝ていないのではありませんか? お疲れなのお呼びして、ごめんなさい」
「いいえ、マリー。呼んでくれて、ありがとう。サンドラと約束していて、区切りがつくまで、マリーの部屋を訪ねられなかったのです」
「シマッタ! 母上がスネてしまう!」
「大丈夫。今夜あたり、サンドラがマリーの寝室に泊まりに行くでしょう」
「それは、うれしいです」

 それから、私はソファで父上の膝に乗せられて、頭を撫でられていた。父上は、かなりお疲れのようだ。少しでも父上の癒やしになれますように …… と、私は心の中で祈った。
 すると、身体からふわりと何かが流れた気がした。

「マリー?!」
「? 父上、どうかしましたか?」
「 …… いや、まさか?!」

 父上は、眉間にしわを寄せて、しばらく考え込んでいた。
 エルシアが、お茶を入れ終わると父上は目配せだけで彼女を下がらせた。そして、私を膝から下ろして隣りに座り直した。

「マリー、何かあったのですか?」
「はい。父上は『妖精の庭』をご存知ですか?」
「『妖精の庭』ですか?」
「本当は、違う名前かもしれないのですが、不思議な蝶の群れを追いかけると行ける、雨の日でも、いつも晴れた庭です」
「!! 『いしずえの庭』と呼ばれる場所ですね」
「父上、『妖精の庭』の方が素敵だと思います」
「ははは、そうですね」

 父上は、笑顔で私の頭を優しく撫でた。

まれな事ですが、その、『妖精の庭』の精霊が『精霊の祝福』を授けて招かれる者がいるそうですね …… マリーは、庭の精霊と会ったのですか?」
「私は、招かれているだけです。庭の精霊に会った事はありません」
「それでは、庭の精霊と約束や契約をしているわけでは無いのですね」
「私は、『精霊の姫君』だから必要ないそうです」
「なるほど、精霊の庭の契約者は、そう教えてくれた人物なのですね」
「父上、意地悪な聞き方です。その人が、庭の契約者かどうかは知りませんが、『竜の鉤爪』の『鳶色の魔王』である父上に、事情を話して協力してもらえと、助言して下さいました」
「 ! マリー、詳しく聞かせて下さい」

 父上が、『竜の鉤爪』の『鳶色の魔王』と私が口にした一瞬、周りの温度が一気に下がって怖かった。でも、すぐに普段の父上に戻った。娘に恥ずかしい二つ名を知られて動揺したのかな? いや、いや、そんな脳天気な理由じゃないってわかってますとも!

 私は、『妖精の庭』から霧の湖に紛れ込んでだ事、霧の中で、アレクシリスの暗殺という、恐ろしい計画を聞いた話しをした。話している途中で、計画の恐ろしさに身体が震えてきたけど、父上が膝に乗せてくれて抱きしめてくれたから、最後まで話すことが出来た。

「わかりました。過去に城内で交わされた会話の記録か、庭の精霊の警告、と、いったところでしょうか …… 」
「父上、大丈夫でしょうか?」
「マリー、話してくれてありがとう。あとは、私に任せて下さい」
「はい。父上」

 父上に話せて良かった。私は、握りしめて汗ばんだ、自分の小さな手を広げて見つめた。
 私は、自分が無力だと知っている。シンシアを守れなかった記憶が戻って、特にそう思った。今の私は、誰かを守ることも、自分を守ることすら出来ない。

「しばらく、忙しくなりそうですね。終わったら、色々お話ししましょう。例えば、マリーの記憶とか、『精霊の種』のこととか、庭の契約者についてじっくりとね」
「ち、父上。父上も、『竜の鉤爪』と『鳶色の魔王』について、教えてくださいね」
「それは、忘れて下さい」
「ええっ!?」
「マリー、いい子だから、忘れて下さいね」
「は、はい」

 父上の笑顔でのごり押しは、半端なく怖かったので、一応は忘れることにした。『鳶色の魔王』に逆らってはいけないと、心に刻んだ。あれ? これじゃ、忘れられないよね。



 数日後、アレクシリスは、母親の実家のハイルランデル公爵家を訪ねる事になった。お祖父様の公爵に、後見人の変更と竜騎士の契約者になる為に誓約をした経緯を直接お会いして説明する為だ。公爵は、王都から馬車で半日程の別宅で静養していた。

 その道中、アレクシリスの一行は賊に襲われた。でも、事前に護衛騎士を増強していたのと、偶然・・上空を通過していた竜騎士団からも、援護があったので、アレクシリスは傷一つ負うことはなかった。

 それから、王都の貴族街で廃墟が火災で全焼した。どういう訳か、廃墟に居合わせた数人の貴族が亡くなったそうだ。

 アレクシリス暗殺未遂事件の主犯は、未だに判明していない。





 ーーーー 今日は、雨だった。

 葬儀の始まりを知らせる鐘の音が、暗く沈んだ王宮の隅々まで鳴り響いた。

 葬儀? …… 誰の葬儀なのだろう?

 冷たい雨の中、沢山の人々が参列している。

 竜騎士団の契約竜達も並んでる。私は、その中に、杜若かきつばたの姿を探したがみつからない。杜若は、まだ契約者を持っていない竜族の騎士、準竜騎士に叙任されて、竜騎士団と行動していたからだ。

 気がつくと、藍白が私の横に立っていた。

「杜若は、来ないよ。あいつは、ファルザルク王国には二度と近づかない。二人の誓約は、すでに破棄された。でも、あいつは、二度と竜騎士の契約はしないだろう。それが、アレクシリスを守れなかった償いのつもりらしい …… 」

 私は、藍白の話を聞いていたが、鼓膜を震わす音に意味を感じなかった。何を聞いても、どうでもよかった。ただ、気になったので聞いてみた。

「アレクシリスが、どうかしたの?」

 藍白の眉間にしわが寄り、痛ましいものを見るように表情が歪んだ。せっかく綺麗な顔をしているのに勿体無もったいない。藍白は、どうしてそんな目をして、私を見つめるのだろう?

「藍白殿、マリーは彼の死を理解しようとししないのだよ …… 」

 父上の大きな手が、私の肩を包むように置かれた。温かくて重たい手だった。

 私は、何か忘れているなような、何かを思い出せないもどかしさを感じていた。私は藍白に尋ねた。

「今日は、だれの葬儀なの?」
「 …… アレクシリスだよ」
「え …… ? 」

 ーーーー 嘘だ。これは、本当じゃない。夢だ。きっと、これは夢だ!



『そう …… これは、夢。かつて、現実だった、ある日の残像 …… 」









しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

冷徹公爵の誤解された花嫁

柴田はつみ
恋愛
片思いしていた冷徹公爵から求婚された令嬢。幸せの絶頂にあった彼女を打ち砕いたのは、舞踏会で耳にした「地味女…」という言葉だった。望まれぬ花嫁としての結婚に、彼女は一年だけ妻を務めた後、離縁する決意を固める。 冷たくも美しい公爵。誤解とすれ違いを繰り返す日々の中、令嬢は揺れる心を抑え込もうとするが――。 一年後、彼女が選ぶのは別れか、それとも永遠の契約か。

幼馴染の許嫁

山見月 あいまゆ
恋愛
私にとって世界一かっこいい男の子は、同い年で幼馴染の高校1年、朝霧 連(あさぎり れん)だ。 彼は、私の許嫁だ。 ___あの日までは その日、私は連に私の手作りのお弁当を届けに行く時だった 連を見つけたとき、連は私が知らない女の子と一緒だった 連はモテるからいつも、周りに女の子がいるのは慣れいてたがもやもやした気持ちになった 女の子は、薄い緑色の髪、ピンク色の瞳、ピンクのフリルのついたワンピース 誰が見ても、愛らしいと思う子だった。 それに比べて、自分は濃い藍色の髪に、水色の瞳、目には大きな黒色の眼鏡 どうみても、女の子よりも女子力が低そうな黄土色の入ったお洋服 どちらが可愛いかなんて100人中100人が女の子のほうが、かわいいというだろう 「こっちを見ている人がいるよ、知り合い?」 可愛い声で連に私のことを聞いているのが聞こえる 「ああ、あれが例の許嫁、氷瀬 美鈴(こおりせ みすず)だ。」 例のってことは、前から私のことを話していたのか。 それだけでも、ショックだった。 その時、連はよしっと覚悟を決めた顔をした 「美鈴、許嫁をやめてくれないか。」 頭を殴られた感覚だった。 いや、それ以上だったかもしれない。 「結婚や恋愛は、好きな子としたいんだ。」 受け入れたくない。 けど、これが連の本心なんだ。 受け入れるしかない 一つだけ、わかったことがある 私は、連に 「許嫁、やめますっ」 選ばれなかったんだ… 八つ当たりの感覚で連に向かって、そして女の子に向かって言った。

処理中です...