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第一章 番外編 僕のかわいいお姫様( side アレクシリス )
第二話 僕の初恋
しおりを挟むそれから、僕はマリーと毎日一緒に遊んだ。
王妃宮の中庭はもちろん、王宮中の廊下を走ったり、使っていない部屋の中で探検をした。僕が、マリーを強引にひっぱりまわしていた。僕は、小さな妹に夢中だった。
マリーは、とても体が弱くて、よく熱を出した。それでも、僕はマリーと遊びたかった。
母上は、困った顔をして、ベッドに寝ているマリーに、絵本を読みきかせてあげなさいといった。
僕は、いつもは声に出して、本を読んだりしない。だから、母上のように、うまく読めなくてくやしかった。
でも、マリーは僕が話すのを、じっと見つめながらきいている。僕はうれしくてたくさん読んだ。
僕は第二王子だから、護衛騎士がいつも守ってくれる。
でも、ずっと見はられているのはいやだった。僕は、護衛騎士を廊下の曲がり角で引き離したり、母上が呼んでいるとウソをついたりして、マリーを部屋から連れ出して、二人だけで遊んだ。
僕は、遊びに夢中になると、よくマリーを置いて、先に走って行ってしまった。マリーは、体力がないし、一人で歩きまわると簡単に迷子になってしまった。
だから、マリーは僕からはぐれると、知らない人に見つからないように、廊下の柱の影や、部屋のカーテンの中にかくれていた。
僕は、マリーを探しに道をひき返して行く。僕が見つけると、マリーはとてもうれしそうに笑うのだ。僕は、それが見たくて、ワザとマリーを置いて行ったりした。
母上は、マリーがお気に入りだ。それがわかるのは、いつもほほえみながらそばにいるからだ。母上は、きらいな者には、かなり手きびしかった。
母上は、ちょっと不思議な人だった。
表舞台の母上は、完ぺきな王妃殿下だった。侍女は、母上は社交界の大輪の花だという。
僕の知っている母上は、どこか別の世界を見ている様に、ぼんやりとした瞳をしている。
母上は、『精霊の祝福』を持っているので、その力を使っていると、時々、何かを見つめたまま動かなくなる。何が見えるのかきいてみても、母上は笑っているだけで答えてくれなかった。
僕は、母上の『精霊の祝福』について、何も教えてもらえなかった。
最初、マリーはびっくりしていた。庭の東屋で、マリーの頭を撫でながら固まってしまったからだ。よく、お茶を飲むのに、カップを手にしたまま、しばらく固まってしまう時があった。
僕と侍女は、いつもの事だと気にしていなかった。
初夏の王宮の庭には、白い花が咲き乱れていた。
マリーは、母上に花冠の作り方を教えてもらって、出来上がった花冠を、僕の頭にかぶせた。
マリーは、じっと僕の目を見つめている。きっと、なんと言って渡せばいいのか分からなかったのだろう。
困った顔もかわいくて、僕はマリーにお礼をいった。
そして、僕はマリーと小さな『約束』をした。
「マリー、大きくなったら、僕とけっこんしよう」
あの頃の僕は、『結婚』の意味をよく知らなかった。ずっと一緒にいる『約束』だと思っていた。
だから、マリーが『約束』してくれて、うれしかった。
その夜、しおれてきた花冠を見て、僕は母上に泣きついた。
母上は、花冠に『状態保存の魔法』をかけてくれた。後で知ったのだけど、『状態保存の魔法』は、魔力がたくさんいるし、とてもむずかしいそうだ。
それから、マリーはどんどん明るく元気になっていった。
短い夏の終わり、母上から明日にはマリーの両親が帰国するときいた時、僕は本当に怒った。そして、異母姉上夫婦に、マリーをかえすのは、いやだと泣いたのは内緒の話だ。
母上と異母姉上は交流があるので、毎日じゃないけど、マリーにたくさん会えた。
次の春になったら、僕は五歳になる。僕は『王妃宮』から『王子宮』に移らなければならない。
母上は、その準備に追われながら、僕にむずかしい話をしてくれるようになった。
たとえば、マリーは、『精霊の姫君』といって、生まれながらに『精霊の種』がたくされているそうだ。マリーの魔力で新しい精霊が生まれてくるなんて、すごいと思う。
でも、僕はマリーの背中にあらわれる『精霊の祝福』が見えない。大きくなって、魔力の制御が上手くなれば、見えるようになるかもしれないそうだ。
それから、精霊のこと、父上のこと、お城のヒミツ、たくさんの話を僕にしてくれた。僕は、母上の話を一言も忘れないようにきいた。
ただ、母上はとても急いでいるようだった。
その年は、いつもより冬が早くやって来た。そして、流行り病がたくさんの人々を、二度と帰れない旅に連れて行ってしまった。
母上も、その一人になった。
僕は、母上と約束していたから、かなしくても泣かなかった。
きっと、母上は不思議な力で、自分の運命を知っていたのだろう …… 。
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