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第四章 もう一度、流行りますか?
第七話 歳の差婚は流行りますか?
しおりを挟む私は、権力者を手玉に取る様な、傾国の美女になってやる!
…………あっーははははは!
いや、まだ大丈夫だよ。私の精神は壊れてないからね。ちょっと、ストレスを感じているだけだ……。
睨むように私を見つめる黒髪に黒い瞳の青年は、隣国アキツムラクモの国王陛下。私を見下ろしている眼つきが怖い……。
今世で、バジェリアード帝国の強力な隣国になったアキツムラクモ王国。ひとえに、青年国王の努力の賜物だった。彼は、壮絶な王位継承争いに名乗りを上げて、一年余りで他の継承者を蹴落として王位に就き、『奴隷解放』をきっかけに、『農業改革』『貿易改革』『税制改革』を見事に成し遂げた賢王だ。自国の改革だけでは王国の発展が手詰まりになると、周辺諸国も巻き込んで、挙句に武力を最小限に留めながら、侵略戦争で属国を増やしている。
まるで、前々世のバジェリアード帝国のようだった。だけど、属国にも人道的に対応しているから、帝国の様に嫌われていない。
国王は、現在二十五歳だ。おい……! 二十歳差はないでしょう?! 父親と同じくらいの年齢だなんて! いくら、国王が独身でもありえない! 政略結婚ではありな条件ですか? ああ、『セイシロウ』様は、私を見下ろしながら、頬の辺りをヒクつかせた。
「なるほど。皇女は私と釣り合いの取れる年齢では無いようだ。しかし、二国間同盟の為の政略結婚ならば致し方ないか……?」
「陛下、本音ダダ漏れっス」
「うるさい!」
「カノン皇女様、こんな感じな陛下ですが、婚約して、十年後くらいに嫁に来てやって下さい」
「十年後?」
「アキツムラクモ王国は、男女共に成人は十五歳です。十年くらいなら、我慢させますから!」
「貴様! 何を我慢させる気だ!? 幼女に何を言ってる?!」
「陛下こそ、何言っちゃってるんです? 意味も分からない幼女相手に、男の事情を説明する気ですか? 馬鹿じゃないの?」
「ぐっ! 貴様こそ、王に馬鹿とか言うな!」
「はい。はい。失礼いたしました」
国王陛下に、ぽんぽんタメ口でやり込めているのはアキツムラクモ王国の宰相閣下だ。二人は乳兄弟で、アキツムラクモ王国の改革は、この宰相閣下無しでは成し得なかったそうだ。王国の最重要人物が、揃って出国してても平気なのかな? とにかく、いくら幼女とはいえ、帝国皇女と婚約の顔合わせで、態度も言動もぶっちゃけ過ぎじゃない? 同席した母親様と乳母のルビスも、顔はにこやかでも、オーラが怒りと呆れに揺らめいてませんか?
前々世で『セイシロウ』様は、前王だった。アキツムラクモ国は、帝国との戦争に敗北した。帝国は『セイシロウ』国王を処刑して、属国にしたのだ。幼い『ジュンイチロウ』王子を即位させて、摂政として帝国から宰相を送り込んでいた。
アキツムラクモ王国関係の歴史が、全然違う。色々時間もずれてる。『ジュンイチロウ』様は、生まれていないのかな? いずれ生まれたとしても、私と釣り合いの取れる年齢じゃないかも。もしかしたら、私が『ジュンイチロウ』様のお母様になるのかしら? うわぁ、歴史が、運命が、違いすぎて……。
アキツムラクモ王国と政略結婚が成立すると、私は神様の婚約者から外されるそうだ。十六歳で『セイシロウ』様に嫁ぐ予定だったが、一年早くなりそうだ。『神の花嫁』は、異母姉上様のイリス皇女になる。神殿よりも、隣国へ嫁ぐ方が重要らしい。
「はじめまして。カノン=コナ=ケアロ=バジェリアードです」
「ジュンイチロウ=エルネスト=クロダだです。カノン皇女、五歳のお誕生日、おめでとう。我が国の名産品、ルルントを気に入っていただけたそうですね」
アキツムラクモ国は、例のルルントを名産品としてレシピを秘匿していた。それを、私が気に入ったという事で一部のレシピを婚約を機に献上してくれるそうだ。
「はい。フィオル兄上様のお茶会で、いただいて、とても美味しかったです」
「それは、良かった。貴方は、私の将来の妻になる方です。我が国のお菓子を気に入ったように、我が国の事もお気に召していただけると良いのですが……」
わぁ、完璧な王様の仮面です。さっきまで、宰相閣下と話してた人が中身だと思えない。
「あの様な美味しいお菓子のある国です。きっと、好きになれると思います」
「嬉しいことをおっしゃる。ところで、ルルントは何味がお好きですか?」
「はい、あの……」
ああ、会話が途中まで同じだった。でも、彼は転生ではない。『ジュンイチロウ』様ではないのだから……。
「あの、どれも、おいし、美味しかったで、す……」
「カノン皇女?」
私はポロポロ涙を零していた。『ジュンイチロウ』様に会えないと、はっきりわかったのがショックだった。
セイシロウ様は、私と目線の高さを合わせるために跪いた。私の頬の涙を指先でそっと拭ってくれた。あたたかい大きな手が、私の頬を包み込んでいた。
「泣くなよ。十年後がどうなっているか、お互い分からんが、嫁に来たら大切にする。だから、いい女に育てよ?」
そう言って、セイシロウ様は、ニヤリと笑った。私は、王様らしくない物言いにビックリして涙が引っ込んだ。そして、心臓がドクンと跳ねた。
ーーーー ピコン! 『観察眼が対象物を観察し、以下の解析結果が出ました』
【解析結果】
名前 セイシロウ=エルレイン=クロダ
性別 男性
年齢 二十五歳三ヶ月?時間?分??秒
寿命 ???
生命力 ???/???
精神力 ???/???
身体能力 ??? ???
職業 アキツムラクモ王国国王
外見的特徴 黒髪 黒目 美形 長身 細マッチョ
性格 ??? ??? ???
特技 ??? 国家運営及びそれに伴う侵略行為 ???
能力 剣豪 ??? ???
趣味 ???
心の声 『五歳の美幼女と結婚? 有り無しで、無しだが、十年後ならば、理想の女に育てていけば……有りか……』現在、カナンと政略結婚と、バジェリアード帝国侵略の足掛かりを前向きに検討中。
何? 何故? 『セイシロウ』様が解析されてるの? ええっ! 『観察眼』スキルのせいなの!? 遠くがよく見えるだけじゃなかったの? 近いと解析出来るの? いや、出来てるし! うわぁ! 心の声が危ない!
ーーーー ピコン! 『観察眼スキル初級レベル』が、レベルアップしました。解析内容が対象物の内面に及びます。
ーーーーピコン! 初級レベルは、上限値に達しました。神ポイントを消費して、中級レベルを取得しますか?
なんてこった! ポペラ星人を観察する為に前世で貰った『神スキル』が有効なの?
しかも、レベルアップ? 神ポイントって、何それ?
ーーーー ピコン! カノンの神ポイントは、一億一千九百四十四ポイント。現在、上位神の管理下にあり使用可能なポイントはありません。使用許可を申請しますか?
しません! しないよ! 申請して、許可されて、神ポイント使ってどうしろっていうの?
前世の神様! 役目のない普通の人生に、『神スキル』は必要ないでしょう? 外しといて! うわぁん!
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