猫のランチョンマット

七瀬美織

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第八話 学校生活②

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 ちょっとした波風が立ったのは、沙保里が風邪で学校を休んだ日の事だった。

 私は、お昼休みにクラスの女子グループに囲まれた。ボッチでお弁当を食べてただけなのに、びっくりしたよ! 何事……⁈

「榊原さん、迷惑なら迷惑だって武内さんにはっきり言った方がいいよ。言えないなら、私たちも協力するから!」
「……えっ⁈」

 クラスの女子グループで、どちらかといえば控えめな性格のメンバーだ。十人近くいるから、二グループぐらいいるのかもしれない?

「榊原さんは、物静かで大人しいから、武内さんにいいように、パシリに使われているみたいで、私たち心配してたの」
「……は?」

 誰が? 私が? 物静かで大人しいと……? パシリ⁈

「武内さんに弱味でも掴まれてる? もしそうなら、相談に乗るから!」
「ええっ⁉︎」

 …………ショックだ!

 つまり、彼女たちから見た私は、沙保里の対等な友人と思われていないのだ。
 私は沙保里のパシリだと思われているらしい。いや、どっちかっていうと、私の方が沙保里に色々と頼んでパシリにしている気がする。よく、自販機の格安ジュースを買ってきてもらったり、惣菜パンをついでに頼んだりしている。沙保里って、姉御肌というか、とっても男前な性格だから、頼ると喜んでくれる。私も、そんな沙保里に甘えているのだ。

「何か、誤解があるようだけど、私と沙保里はそんなんじゃないよ! 本当にお互い友達だと思ってるし、パシリなんかじゃないよ!」
「「「「えっ⁈」」」」

 集団で目が点になった人たちを初めて見た。

「榊原さん、……本当に?」
「いや~。私、入学したての頃は、クラスの中で友だちとかつくる気なかったんだよね。バイトが忙しいし、私って昼友やトイレ友だちも要らないって思ってたから……。どちらかって言えば、私の方が心閉ざしてました!」
「あれ? じゃあ、榊原さんは武内さんに無理矢理付き合わされてない……の?」
「対等な立場の友だちだよ。皆んなが、心配してくれるのはとってもありがたいけど、沙保里は見掛け倒しで中身は超世話焼きおばちゃんだから!」

 張りつめた空気が、一気にゆるんだ。

「ブッ。世話焼きおばちゃん?」
「あの武内さんが?」
「榊原さんって、こんな感じの人だったの……」

 周りの表情が、どんどん柔らかくなっていくのを見て、どれだけみんなが緊張して話しかけてくれたのかがわかった。

「沙保里は、誤解されやすいけど、良い子だよ」
「榊原さんがそう言うなら……」
「みんなで心配してたの……なかなか声がかけられなくて、ごめんなさい」

 なんだか、みんな良い子達だなぁ。

「そっか。思わぬところで心配かけちゃってたのか……。みんな優しいね!」

 高校生になっても、イジメとか無視とか無いわけじゃないだろけど、このクラスはみんな仲が良い方だ。入学式からすぐに、仲良しグループは決まっていたけど対立とか無かった。

「これからは、沙保里にも声かけてあげて、色々面白いから……」
「面白い……」
「なんだか意外……。だって、榊原さんって尊いっていうか……。その、近寄りがたい雰囲気が……話してみると、くだけて気さくな感じ……」
「……ん?」

 みんな、口々に何か言い合っていたが、何やら話がまとまったららしい。

「……ごめんなさい。私たち、色々誤解してたみたい」
「こっちこそ、誤解させてごめんなさい。これからも、無視する気は全然無いから、声かけてくれたらうれしいかな」

 スマイルゼロ円。クラスメイトも近所づきあいも笑顔で挨拶が大事だよね。

 なんだろう。みんなが一斉に赤面してキャラキャラしだしたよ。最後は求められるままに、全員と握手してそのまま解散した。あれ? 何で握手会みたいになってるの? ……解せぬ。

 午後の授業前に、背後の席の大野くんに背中をトントン突かれた。振り返ると、大野くんは小声で尋ねてきた。

「彩奈っち、なんかお昼に女子に囲まれてたけど、大丈夫だった?」
「大丈夫だったよ。何か、女子の中の誤解があったけど、色々と解けたようで、めでたし、めでたし?」
「プッ。何それ? まあ、大丈夫だったらいいけど……」

 大野くんは、沙保里と仲のいい男子グループのメンバーだ。ツンツンの茶髪で入学の時から、耳にピアスを何個も付けている。たまに話すけど、彼も見た目ほどチャラくない。
 ただ、ヘビメタが好きなだけらしい。中条先輩とウマが合いそうだ。

「沙保里と仲良いいと、他の女子と浮くだろう?」
「いや、逆に精神的に最初から女子から浮いてたのは私の方だよ……。沙保里のおかげで、私の捻くれた性格が矯正されて、本当に感謝してるんだよ」
「彩奈っちって、なんかもう、難しく考えるんだな。お、先生来た!」

 大野くんとの会話も考えさせられる。

 なんだろう。自分が考えてるより、周りは私に関心を持ってくれていて、優しいんだなって知った気がする。

 何かと難しく考え過ぎるのは、私の欠点だろう。もっと単純で素直な性格だったら、一人暮らしなんかしないでいたのかな……。お母さんの事も……。

 んにゃ、それとこれとは別の話だと思う。

 翌日、沙保里は元気になって登校してきた。

「聞いたよ! 私が休んでる時に面白い事があったって?」
「別に、面白くなんかないよ」

 ああ、沙保里に話したのは大野くんかな? 沙保里とはスマホのメッセージでやりとりするけど、業務連絡並みに短文だ。ごめんね、長文でやりとりは難しい。

「ねえ、私といるの、彩チンが迷惑なら……」
「沙保里がいないと、学校がつまらなくなっちゃうから、責任取って一緒にいてね!」
「…………うん!」


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