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「拾ってはいけない財布」
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財布を拾った男の話をしよう。
いや、正確には「財布を拾ったせいでおかしなことに巻き込まれた男の話」だ。
何の変哲もない、ありふれた都市伝説のような話だが、これは単なる噂ではない。
少なくとも、僕は本人の口から直接聞いたのだから。
◇
その男――仮に「田村」としよう。
田村は平凡なサラリーマンだった。
特に怪奇現象を信じるわけでもなく、オカルトに興味があるわけでもない。
ただ、いつものように仕事を終え、家に帰ろうとしただけだ。
その日の帰り道、駅からの通りを歩いていると、交差点の信号のすぐ脇に財布が落ちているのを見つけた。
「誰かの落とし物だな」
それくらいの認識しかなかった。
道端に財布が落ちていれば、交番に届けるのが普通の対応だろう。
だから、田村は何の警戒心もなく、財布を拾い上げた。
◇
違和感に気づいたのは、その直後だった。
財布を拾った瞬間、彼の背後に強烈な視線 を感じた。
まるで、誰かが「ずっとそこにいたかのように」、突き刺さるような視線が背中に張り付く。
慌てて振り返ったが、そこには誰もいなかった。
いや、厳密に言えば、街には人がいた。
しかし、通りすがる人々は誰も田村を見ていなかった。
それなのに、視線の感覚だけが、確かにある。
まるで**「誰かが確実にこちらを見ている」**ような、あの嫌な感覚。
◇
気味が悪くなった田村は、財布を確認した。
黒い革製の財布。年季が入っているが、それなりに上等な品に見える。
中には一枚の千円札と、真っ白な紙 が入っていた。
紙を開いてみたが、そこには何も書かれていない。
住所や名前、カード類も一切ない。
「……なんだこれ?」
落とし主を特定できない以上、やはり交番に届けるしかない。
そう思いながら財布を持って歩き出そうとしたそのとき――
シャッ
耳元で、何かが擦れる音がした。
◇
田村はまた、視線を感じた。
そして、今回ははっきりと気づいた。
それは 「一点」 からの視線ではなかった。
複数の場所から、誰かが同時に見ている。
駅前のビルの上、街灯の陰、遠くの電柱の横――
田村は無意識にそれらの場所に目を向けた。
……何もない。
だが、彼は確信した。
そこに**「何か」** がいる。
◇
田村は怖くなり、財布を近くの公園のゴミ箱に捨てた。
しかし、家に帰った途端、玄関の前で財布が落ちていた。
同じ財布だった。
「……おかしい。捨てたはずなのに……」
恐怖を抑えながら、再び財布を開ける。
そこには、やはり 一枚の千円札と、白紙の紙。
だが、今回は違った。
白紙のはずの紙に、たった一行の文字 が浮かんでいた。
「ルール1 拾ったものは、責任を持って持ち帰ること。」
◇
この時点で、田村は完全に財布を手放すことができなくなっていた。
交番に持って行こうとしたが、なぜか交番の前に立つと、財布を渡すことができない。
手が硬直し、喉が詰まるような感覚に襲われる。
意識がぼやけ、気づけばその場を立ち去っていた。
「……なんだ、これは……?」
次第に田村は、財布がまるで意志を持っているように思えてきた。
◇
その後、彼は何度も財布を捨てようとした。
公園のゴミ箱、川の中、電車の座席の上――
だが、どこに捨てても、必ず翌朝には枕元に戻っている のだった。
そしてある日。
財布の中の紙に、こう書かれていた。
「ルール2 次は、お前を拾う番だ。」
◇
田村はパニックになり、どうすればいいのか分からなくなった。
彼は知人を頼り、最後に僕の元へたどり着いた。
彼の話を聞きながら、僕は淡々と質問を重ねた。
「その財布は、今どこに?」
田村は、震える声で答えた。
「……もう、ない。」
彼の部屋のどこを探しても、財布は見当たらなかったという。
そしてそれ以来、彼は自分の背後に視線を感じ続けている らしい。
◇
僕は最後に、田村にこう聞いた。
「君が拾ったのは、本当に『財布』だったのか?」
田村は何も答えなかった。
ただ――彼はもう、どこにも落ちているものを拾うことはなくなったらしい。
終
いや、正確には「財布を拾ったせいでおかしなことに巻き込まれた男の話」だ。
何の変哲もない、ありふれた都市伝説のような話だが、これは単なる噂ではない。
少なくとも、僕は本人の口から直接聞いたのだから。
◇
その男――仮に「田村」としよう。
田村は平凡なサラリーマンだった。
特に怪奇現象を信じるわけでもなく、オカルトに興味があるわけでもない。
ただ、いつものように仕事を終え、家に帰ろうとしただけだ。
その日の帰り道、駅からの通りを歩いていると、交差点の信号のすぐ脇に財布が落ちているのを見つけた。
「誰かの落とし物だな」
それくらいの認識しかなかった。
道端に財布が落ちていれば、交番に届けるのが普通の対応だろう。
だから、田村は何の警戒心もなく、財布を拾い上げた。
◇
違和感に気づいたのは、その直後だった。
財布を拾った瞬間、彼の背後に強烈な視線 を感じた。
まるで、誰かが「ずっとそこにいたかのように」、突き刺さるような視線が背中に張り付く。
慌てて振り返ったが、そこには誰もいなかった。
いや、厳密に言えば、街には人がいた。
しかし、通りすがる人々は誰も田村を見ていなかった。
それなのに、視線の感覚だけが、確かにある。
まるで**「誰かが確実にこちらを見ている」**ような、あの嫌な感覚。
◇
気味が悪くなった田村は、財布を確認した。
黒い革製の財布。年季が入っているが、それなりに上等な品に見える。
中には一枚の千円札と、真っ白な紙 が入っていた。
紙を開いてみたが、そこには何も書かれていない。
住所や名前、カード類も一切ない。
「……なんだこれ?」
落とし主を特定できない以上、やはり交番に届けるしかない。
そう思いながら財布を持って歩き出そうとしたそのとき――
シャッ
耳元で、何かが擦れる音がした。
◇
田村はまた、視線を感じた。
そして、今回ははっきりと気づいた。
それは 「一点」 からの視線ではなかった。
複数の場所から、誰かが同時に見ている。
駅前のビルの上、街灯の陰、遠くの電柱の横――
田村は無意識にそれらの場所に目を向けた。
……何もない。
だが、彼は確信した。
そこに**「何か」** がいる。
◇
田村は怖くなり、財布を近くの公園のゴミ箱に捨てた。
しかし、家に帰った途端、玄関の前で財布が落ちていた。
同じ財布だった。
「……おかしい。捨てたはずなのに……」
恐怖を抑えながら、再び財布を開ける。
そこには、やはり 一枚の千円札と、白紙の紙。
だが、今回は違った。
白紙のはずの紙に、たった一行の文字 が浮かんでいた。
「ルール1 拾ったものは、責任を持って持ち帰ること。」
◇
この時点で、田村は完全に財布を手放すことができなくなっていた。
交番に持って行こうとしたが、なぜか交番の前に立つと、財布を渡すことができない。
手が硬直し、喉が詰まるような感覚に襲われる。
意識がぼやけ、気づけばその場を立ち去っていた。
「……なんだ、これは……?」
次第に田村は、財布がまるで意志を持っているように思えてきた。
◇
その後、彼は何度も財布を捨てようとした。
公園のゴミ箱、川の中、電車の座席の上――
だが、どこに捨てても、必ず翌朝には枕元に戻っている のだった。
そしてある日。
財布の中の紙に、こう書かれていた。
「ルール2 次は、お前を拾う番だ。」
◇
田村はパニックになり、どうすればいいのか分からなくなった。
彼は知人を頼り、最後に僕の元へたどり着いた。
彼の話を聞きながら、僕は淡々と質問を重ねた。
「その財布は、今どこに?」
田村は、震える声で答えた。
「……もう、ない。」
彼の部屋のどこを探しても、財布は見当たらなかったという。
そしてそれ以来、彼は自分の背後に視線を感じ続けている らしい。
◇
僕は最後に、田村にこう聞いた。
「君が拾ったのは、本当に『財布』だったのか?」
田村は何も答えなかった。
ただ――彼はもう、どこにも落ちているものを拾うことはなくなったらしい。
終
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