捨てられ(予定)令嬢奮闘記

由友ひろ

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第1章婚約破棄編

第6話婚約破棄

「可愛いアンネ、君にプレゼントを持ってきたよ。ほら、君みたいに可愛らしい花だろう」

 あれからミカエルは、頻繁にうちに来るようになった。忙しい中顔だけ見に来たという体で、来る度に花束を持ってくるのだ。しかも、温室で育てるような華やかな花ではなく、野原に咲いているような素朴な花々を。

「ありがとう、可愛らしいわ」

 私は笑顔で受け取るが、内心は「ケッ!」と唾でも吐きたい気分だ。下品だからやらないけど。
 明らかにアン・ガッシのところで買い占めた花々を、適当にブーケにしました感が半端ない。

 そして、お父様がミカエルの調査を命令したうちの諜報機関からは、私に会いに来る前にミカエルはアン・ガッシの家を毎回訪れており、すでに数回体の関係をもったことが確認されていた。

 なぜ、そんなことが確認できたのか。それは、アン・ガッシの家の隣の家の住人に家具付きの大きな家を貸し与え、隣の家には諜報員が毎日つめていたかららしい。
 婚約破棄するまでとはいえ、他人の情事の出歯亀をしないといけないなんて、諜報員の人もご苦労さまなことだ。

 しかし、そのおかげで、ミカエルがアンに会うタイミングはわかった。

 ミカエルは、私に花を買うという名目をつけて、アンと逢瀬を楽しんでいるのだ。前は、月に一回デートをするかどうかくらいだったのが、今は二~三日に一度、花束を渡してすぐに帰って行く。
 
 ミカエルの浮気を知らないほとんどの侍女達は、素直に「良かったですね」と浮かれているが、カモフラージュに使われているだけという事実に、言われた私の頬は引き攣りっぱなしだ。

「ミカ、次はいついらっしゃるの?」
「うーん、なかなか忙しくて顔しか出せないんだけど、明後日ならば少し時間が空きそうだよ」

 いや、ただの子爵の次男の何がそんなに忙しいのか聞いてみたいよ。
 学園だって、今は試験期間でもなければ、大きな行事が近々あるという訳でもない。

 第一、学園は午前中だけである。勉強したい人は午後に選択授業を入れる場合もあり、私も最近は目一杯選択授業を入れているが、ミカエルは基本授業しかとっていない筈だ。

 私が選択授業をとりだしたのは、もちろん特待生狙いだからだ。授業の後も、先生達を捕まえては質問している。学園の先生に聞けばただで教えてくれるのだから、有効活用しない手はない。

 私がこうして勉強している間に、ミカエルはアンとの密会を楽しんでいる訳だ。やれやれ……。

「明後日ですね。楽しみに待ってます」

 ミカエルは、サラッと別れの挨拶をすると、名残惜しい様子も繕わずに帰って行った。

「塩をまきましょうか」
「いや、塩がもったいないから止めとこう」

 メアリーが塩壺を持って現れたが、私はその壺を取り上げた。

「ミカ、明後日またうちに来るらしいわ」
「ならば、明後日が決行ですかね。旦那様に確認してまいります」

 メアリーが部屋を出て行き、私は塩壺を抱きしめて(たまたま持っていたからだけど)ため息をつく。

 アンネローズには申し訳ないけれど、愛のない結婚をしても幸せにはなれないし、何よりも来年にはこの場所から追い出されるのだから、ミカエルとの別れが一年早くなっただけだと諦めて欲しい。

 そうして日にちは過ぎて、ミカエルが私に会いに来ると言った日になった。

 この日、私は午前中だけで午後の選択授業はキャンセルして屋敷に帰宅した。そして家で待機していた両親と伯爵家の馬車ではなく、なんちゃって辻馬車(見た目だけ平民使用の辻馬車で、内装その他は伯爵家馬車と同じ物を使用)で目的の場所に向かった。
 衣服も、貴族らしいスーツやドレスでは目立ってしまうので、お父様は白シャツにズボン、お母様と私は簡素なワンピースを着用した。

 長屋の近くまで馬車で向かい、最後は歩いて長屋に入った。とりあえず、誰にも見られずにホッとする。
 部屋には、諜報員が二名常駐していた。

「先程、ミカエル・ブルーノ様が隣の部屋に入られました」

 私達は壁の近くに寄り、隣の声に耳を澄ませた。

『……ミカエル様、アン……アッ』

 うわ、聞いていて恥ずかしくなるような声が聞こえてくるんですけど……。隣にいるのが両親とか、気まずさが半端ない。
 しかも、壁の向こうでお色気たっぷりな声を上げているのが、両親は知らないだけであなた達の実の娘なんです。

 お父様は、聖女の肖像画を外すと、覗き穴から隣を見て確認する。

 あの声と、怒りで人相の変わったお父様の横顔を見れば、ミカエル達が何をしているか想像はつく。

 お父様はしばらくまんじりともしなかったが、肖像画を元に戻すと、小さな声で言った。

「乗り込むぞ」

 さすがに最中は気まずいから、少し落ち着いたのを見計らったんだろうなと予想した私は、お父様の後について歩き出す。

 戸には鍵がかかっているだろうにどうやって?と考えていたら、お父様は鍵をおもむろに取り出してアン・ガッシの家の鍵穴に鍵を差し込んだではないか。
 カチャリと小さな音がなって、戸の鍵が外れた。

 え?なんで合鍵持っているの?

 後で聞いた話、この日の為にこの長屋をゴールドバーグ家で買い取っていたらしい。家主なら、合鍵くらい持つよね。

 部屋に踏み込むと、お母様が慌てて私の目を覆った。

 一瞬ですけどね、しっかり見えてしまいましたからね。ベッドの上で裸でからみつくミカエルとアンの姿が。まぁ……説明がいらないくらい最中でしたよ。

「え……?」
「あ……キャアッ!」

 見えない中でドタバタと音が聞こえ、多分……ミカエルがベッドから落ちたみたいね。見えなくて良かった。素っ裸であそこ丸出しでみっともなく床に転がる姿なんて、百年の恋も冷めるだろう。もう冷めているけど。

「みっともない姿をさらすな!すぐに衣服を着ろ!」

 お父様の怒声が響き、やはりバタバタと音が聞こえる。しばらくして音が止み、私の目からお母様の手が外れた。

「伯爵様……これは……」
「この後、ブルーノ子爵には私から事の仔細を伝える。私の目が見た全てのことと、我がゴールドバーグの諜報機関が調べた全てをな。二度とアンネローズには近づくな。私の目の前に現れたら、命はないと思え」
「こ……婚約は?!」
「破棄に決まっているだろう!何か弁明はあるか!」
「……ありません」

 ガックリと項垂れるミカエルは、伯爵家との婚約破棄に衝撃は受けているようだが、私との婚約破棄に対しての後悔はないようで、一度も私を見ることはなかった。
 弁明がないということは、アンが本物のアンネローズ・ゴールドバーグであることにはまだ気がついてもいないのだろう。

「アンネ、おまえはお母様と屋敷に戻りなさい。私はブルーノ子爵家に行ってくるから」
「そうね。あなた、ブルーノ子爵にはしっかりとミカエルの処罰を求めてくださいね。あと、その平民の女も。貴族の婚約破棄の原因になったのですから、鞭打ちなどでは手ぬるいです。男好きなようですから、うちへの賠償金をしっかりとって、払えない分はその体で払えばいいわ」

 ブラックお母様が降臨?!あの優しいお母様の言葉とは思えない言葉がその口から飛び出した。

 駄目、駄目!もしそんなことになったら、後で私のせいで娘が娼館堕ちしたとか言われそうじゃない?体で払えって言ったのはお母様だとしてもよ。

「お母様、そんなことは私は求めていません。賠償金もいりません。どうか、婚約破棄だけですませてください。ミカ……ミカエル様とどうかお幸せに。お母様、行きましょう」

 この三人、小説の中で初めて会った時は、一目見るなり親子だとわかったみたいなノリだったけど、やっぱり予備知識がなければただの他人だったんだな。誰もお父様達とアンが親子だって、気が付かないみたいだ。

 私とお母様だけが部屋を出て、護衛を引き連れて馬車に戻った。

 お母様と向かい合って馬車に乗り、改めてお母様を見てみたが、そんなに言うほどアンに似ているかな?と思う。
 同じ系統の美女ではあるけど、髪色はお母様の方が淡い金髪だし、瞳の色も微妙に明るさが違う。
 まぁ、そのうちアンのお母さんの日記と看護婦さんの証言も出てくるから、たいした違いじゃないのかもしれない。

 今日、婚約破棄が成立した。

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