のじゃロリ吸血鬼さんはチューチューしたい3

かま猫

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アルマとフレイラ その1

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 それは吸血鬼アルマが仙一郎と出会う数十年前、世界規模の大きな戦争が末期に差しかかり世の中に不穏な空気が流れはじめていた頃の事。街から遠く離れた深い森をひとり散策するアルマは今と全く変わらぬ十五六才ほどの少女の姿で、白い半袖の開襟シャツに濃紺で膝上丈のフレアスカートの古めかしい質素な姿だけが時代を感じさせた。
 時刻は深夜、月明りが仄かに射し込んでいるとはいえ木々が鬱蒼と生い茂る森の中は夜目が利く吸血鬼でなければ普通に歩くことさえままならないほど暗く、そして虫の音どころか葉擦れの音さえ聞こえぬほど静まりかえっていた。夏であったが深夜の森の空気はひんやりと肌に心地よく、今では通る人も無く獣道と化した遊歩道を長い黒髪を揺らしながら積もった落ち葉をサクサクと音をたてその感触を感じながら歩いていると何とも心地よく、いつしか戦争などという厄介な雑事もすっかり忘れるほどだった。
 そもそも彼女がこの森の奥に建つ古い洋館に隠遁しているのもそんな騒がしくなってきた世間の情勢に嫌気がさしたからなのだ。吸血鬼である彼女にとって人間なぞただの食料に過ぎなかったが、それでも狂信と憎悪に踊らされ勝手に数を減らしていく食料達の姿を目の当たりにし続けることにさすがに辟易していたので、逃げ込んだこの静かな場所は彼女にとって安息の地となっていた。

 数少ない楽しみでのひとつである夜の散歩を心行くまで堪能する彼女は足取りも軽くなおも森を歩む。苔むした岩を渡り倒木を飛び越え僅かに残るその昔、道であった痕跡をたどりたどり歩いているとわずかに開けた場所へと出る。そこは三本の道が交わった広場で端にはかつて道しるべとして使われていたであろう苔むした石碑が射し込む月明りに照らされていた。
「さて…」
 アルマは腰に手を当て分岐する左右の道を交互に見ながらどちらに進もうか思案した。別にどちらを選んでも構わなかったが、だからこそよく考えることは大切だと思った。ふと見上げると木々が途切れてポッカリと夜空が広がり、星がキラキラと美しく輝いているのが目に入ったので翼を出してここからは空の散歩と洒落込もうかと考えたが今日は普通の服を着てきたことを思い出す。翼を出すには背中の部分を破るか、シャツを後前に着直すかしないといけないので一苦労だ。どうしたものかと思案していると不意に森の奥から禍々しい気配が近づいて来るのを感じる。
「まったく!厄介な!」
 アルマはウンザリといった表情で大きくため息をついた。たまに下等な魔物が彼女の強大な妖力に引き寄せられ、その力を手に入れようと分もわきまえず襲ってくることがあった。そこそこ力のある魔物であれば自らとの力の差があまりにも大きいことを悟って最初からちょっかいは出さないし、万が一出会ってもそそくさと逃げだすなりして、戦いは始まる前に終わってしまうのだが理性を持たない小物は後先考えずに襲いかかって来るので始末が悪い。不老不死の吸血鬼にとって、そんな魔物を倒すことなど造作もないことであったがおっくうなことに変わりなかった。
「今月、何匹目じゃったかのぉ…」
 独り言を呟きアルマが気配のする方角に左手を突き出すと彼女の手は力がみなぎるようにボーっと仄かに発光する。魔物はなおも近づき、それはすでに気配だけにとどまらず木々がへし折られ落ち葉がガサガサと掻き分けられる音となり眠りを妨げられた鳥達がギャアギャアと叫び声を上げて飛び立ち静かだった森はにわかに騒がしくなる。暗い森の奥から響く音は激しさを増し、突として木々の間から黒い塊が飛び出し空を覆い彼女に襲い掛かる。
 アルマが迎え撃とうとした次の瞬間、一陣の風が巻き起こったかと思うと黒い塊は一瞬で粉微塵に切り刻まれ地面にボトボトと降り注ぎ、広場一面に肉塊が散らばり地面は血だまりで真っ赤に染まった。そしていつの間に現れたのかアルマの目の前には背を向け仁王立ちする人影があった。地味なエプロンドレス姿のその少女の右手には西洋の長剣が握られており、その赤く染まった刀身からは血が滴り落ちていた。少女は周りを警戒するように剣を下段に構えたまましばらく動かなかったが、あたりに静寂が戻ると持っていた剣は突然消え去り、やにわに振り返るとアルマに詰め寄った。
「アルマ様!あれほど一人で出かけないようにと言ったじゃないですか!」
 声を荒げ怒る少女。長い黒髪をポニーテールにまとめ年恰好も顔だちもアルマと瓜二つで双子と言っても過言でもないほど似ていたが、その全体から感じる雰囲気はまったく異なった。それはアルマを氷に例えるなら彼女は炎のようであった。
「別に近くを散歩してただけじゃ!問題無かろう?フレイラは頭が固いのぉ…」
 とアルマが言い訳するとフレイラと呼ばれるその少女は
「その結果がコレですよ?」
 と、地面に転がる肉片を指さした。
「別にその程度の小物、予の敵ではないのじゃ!」
「そういう問題ではありません!アルマ様をお守りするのは私の仕事であり義務なのですから、あまり勝手な事はお控え下さい!」
 アルマがぷいっと横を向いて不満げに言うとフレイラは教え諭すように返しさらに続けた。
「それにアルマ様!かなり危ない術で攻撃しようとしてましたよね!」
「あれは千分の一の威力で加減するつもりだったのじゃ!問題あるまい?」
「千分の一でも大問題です!ご自分の力をお考えになって!この前だってそれで噴火口みたいな大穴を作ったのをお忘れですか?あの時は、すわ敵の新型爆弾かと麓の村が大騒ぎになりましたよね?」
「それは…」
 アルマが反論しようとすると
「それだけじゃありませんよ!その前だって…」
 フレイラは言葉をさえぎって説教を始め、それは延々と続く。こうなると始末におえない。さすがに無敵の吸血鬼アルマでも、このくどくどと続く精神攻撃には音を上げた。
「悪かったよ…それよりこのデカい奴はなんじゃ?」
 アルマは何とか話を逸らそうと、話題をついさっきまで彼女を襲おうとしていた魔物の件に変えた。
「ああ!この森の主の大百足ですよ。知能は無いに等しいのでお屋敷には近づかないようけん制はしていたんですけど…」
「ムカデっていうとあの足がいっぱいある薄気味悪い奴か?」
 アルマは眉をしかめる。フレイラが一瞬で跡形も無く肉片にしてしまったので彼女は自分を襲ってきた魔物の姿をはっきりと解らなかったのだが、改めて死体を見れば肉片の中にはちぎれた細長い足が何本も転がっておりまだピクピクと不気味に動いていた。
「ええ…アルマ様を守るためとは言え申し訳ないことに…」
 フレイラは地面に転がる魔物の死体に向き直ると目を閉じ手を合わせた。
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