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新しい朝が来た その2
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外に出ると路上に車が停めてあって彼はその前で呆然と立ち尽くしてしまった。真っ赤なボディの四人乗りの高級外車。フロントには見たことのある前足を上げた馬のエンブレムが輝いている。
「さ!乗ってクダサイ仙一郎!」
リザは呆気に取られている仙一郎をニコニコしながら助手席に押し込むとフレイラを睨みはきすてる。
「オマエは後だ!とっとと乗れナマクラ!」
フレイラはやれやれといった風で素直に従う。
「さ!イキましょうカ!」
リザが運転席に座りエンジンの重低音がわずかに響いて、やっと仙一郎は我に返った。
「この車は一体…」
「ああ!イタリア製v型十二気筒、排気量六千、最高出力六百九十馬力の…」
「そう言うことじゃなくて。」
「ほんの数千万円デスね!」
「そうでもなくて!これリザの車なの?」
「そうデース!色が気に入っテ衝動買いしましタ!赤兎馬号と呼んでますネ!」
仙一郎は思いもかけずこんな高級スポーツカーに乗る機会を得たことに興奮してリザが数千万円の車を所有していることもその変な愛称にも気が回らないほどだった。車に特別興味があった訳ではなかったがやはり高級スポーツカーは男の子の憧れである。上質な皮製セミバケットシートの座り心地の良さや滑らかでありながらあっという間に速度を上げるその加速力はひととき彼を少年のように夢中にさせ、リザが運転中に何か話していたのも二回ほど後部座席のフレイラと言い争いしていたのも上の空で気づいたときには大学に到着していた。
そして仙一郎は周りの学生がこちらをじろじろ見ているのに気づいて初めて我に返り自分の置かれている状況に顔色が青ざめた。はたから見れば自分は美女二人を連れて高級外車で登校するいけ好かない男にしか見えず、そう思われるのは極めて不本意だったからだ。到着すると彼は一刻も早くその場を離れたかったのでリザへの礼もそこそこに早足で校舎へと向かった。そして明日からの送り迎えは断ろうと固く心に誓うのであった。
その日、フレイラを伴って受けた午前中の講義もまた衆目を集めることとなった。凛とした雰囲気を感じさせる顔だちに艶やかな黒髪をなびかせた豊満な胸の彼女は地味なグレーのスウェットを着ていても際立つ存在で仙一郎がそばにいるにもかかわらず数人の男どもに声をかけられるほどだった。その度に彼女は丁寧に応じ揉めることなく彼らを引き下がらせたとはいえ、仙一郎はおちおち授業にも集中できず昼を迎える頃には身も心もくたくたに疲れ果てていた。
お昼時、学生で賑わう食堂のテーブルで食べかけのカレー丼を前に大きくため息をもらす仙一郎。出来るだけ目立たず平穏無事に日々過ごしたい彼としては、フレイラがどこへ行っても注目の的なので一緒にいる自分に向けられる好奇の眼差しが痛かった。
「学び舎までお供したのはご迷惑でしたか?」
対面に座るフレイラが心配そうな顔をみせる。
「いや!いや!そんなことは…」
「仙一郎様をお守りするために一度、学内を見ておこうと思いまして。半径五百メートル以内ならば気配を感じられますのでご迷惑なようでしたら付近の森にでも潜んで待機しようかと思いますが。」
「いや!いや!大丈夫だから!フレイラさんは全然悪くないから!」
仙一郎もさすがに彼女にそんなことをさせる訳にはいかないので慌てて否定する。
「そう…ですか…ありがとうございます。」
今一つすっきりしないといった表情のフレイラから目をそらすように仙一郎はカレーを掻き込む。
「ご迷惑ついでにひとつお願いしたいのですが…」
フレイラが申し訳なさそうに仙一郎の方を見る。
「なんです?」
「私のことを、さん付けで呼ぶのはお止めいただけませんか?敬語も必要ありません。仮ではありましても仙一郎様は私のーーー剣の持ち主なのですからフレイラとお呼び下さい。」
「なんだか落ち着いた大人っぽい雰囲気だからついさん付けしてしまうんだよなぁ…」
「お願いします!」
「じゃあ交換条件でのこと様付けで呼ぶのを止めてもらえますか?なんか凄くこそばゆいんで。」
「いえ。それはご勘弁下さい。」
仙一郎の提案をフレイラはにべもなく断る。
「主様を呼び捨てになど絶対に出来ません!仙一郎様は仙一郎様です。」
フレイラが絶対に譲らないという固い意志を感じさせる強い眼差しを向けてくるので仙一郎は即座に白旗を上げた。
「分かりま…分かった。フ…フレイラ。」
「ありがとうございます仙一郎様。」
彼女は深々と頭を下げた。
ちょうどその時、聞きなれた声がする。
「やっぱり先輩だ。」
見るとそこには川相が立っていた。高校の後輩で同じ大学に通う彼女はいつも以上にニコニコしながら仙一郎の肩をポンポンと叩く。
「学内で凄い美人がさえない男と連れ立って歩いてるってウワサが広まってたから、もしかしてと思ったけどやっぱり先輩だったんですね!」
「さえない男ってとこでのこと思い出した訳?ひどいなぁ…」
「ははは!ごめん!ごめん!」
川相は彼の肩をさらに叩きながらケタケタと笑う。付き合いの長い仙一郎は彼女が機嫌が悪い時ほど陽気になることを知っていたので慌ててフレイラのことを言い訳しようとするが、まさか彼女は剣ですとは言えないので言葉につまる。
「お隣に住んでいらっしゃる川相さんですよね?初めまして!フレイラと申します。」
フレイラがすかさず川相に話しかける。彼女のこともアルマから事前に聞いていたのであろう。
「あ!初めまして!」
「ちょっとよろしいですか?」
フレイラは川相を呼び寄せると耳打ちする。
「え!ふむふむ。なるほど…うんうん!」
川相はぼそぼそと小声でささやくフレイラの話に相槌をうつ。
「…という事ですので。この話は内密に。」
「分かりました!まっかせておいて下さい!」
フレイラの話が終わると川相は胸を叩き仙一郎に向き直ると
「先輩!くれぐれも失礼がないように!頑張って下さいね!」
そう告げるとあっさりと去っていったので拍子抜けした仙一郎はフレイラにたずねる。
「何、言った…の?」
「私が某国の姫様でお忍びで日本の庶民の生活を学ぶために仙一郎様に案内してもらってるって。」
「そんな分かりやすいウソを…」
「むしろこの場合、荒唐無稽な話の方が信じやすいんです。おそらく数日中にはこの話が広まって、ちょっかいを出してくる輩も減るでしょう…」
「そこまで考えてたんだ。」
彼女を説き伏せた上、口外しないように念を押す事で逆に噂話として広まることまで考え、さらにお忍びの某国の姫であると嘘をつくことで話しかけずらくするというフレイラのそつのない策略に、ただ驚くばかりの仙一郎であった。
「さ!乗ってクダサイ仙一郎!」
リザは呆気に取られている仙一郎をニコニコしながら助手席に押し込むとフレイラを睨みはきすてる。
「オマエは後だ!とっとと乗れナマクラ!」
フレイラはやれやれといった風で素直に従う。
「さ!イキましょうカ!」
リザが運転席に座りエンジンの重低音がわずかに響いて、やっと仙一郎は我に返った。
「この車は一体…」
「ああ!イタリア製v型十二気筒、排気量六千、最高出力六百九十馬力の…」
「そう言うことじゃなくて。」
「ほんの数千万円デスね!」
「そうでもなくて!これリザの車なの?」
「そうデース!色が気に入っテ衝動買いしましタ!赤兎馬号と呼んでますネ!」
仙一郎は思いもかけずこんな高級スポーツカーに乗る機会を得たことに興奮してリザが数千万円の車を所有していることもその変な愛称にも気が回らないほどだった。車に特別興味があった訳ではなかったがやはり高級スポーツカーは男の子の憧れである。上質な皮製セミバケットシートの座り心地の良さや滑らかでありながらあっという間に速度を上げるその加速力はひととき彼を少年のように夢中にさせ、リザが運転中に何か話していたのも二回ほど後部座席のフレイラと言い争いしていたのも上の空で気づいたときには大学に到着していた。
そして仙一郎は周りの学生がこちらをじろじろ見ているのに気づいて初めて我に返り自分の置かれている状況に顔色が青ざめた。はたから見れば自分は美女二人を連れて高級外車で登校するいけ好かない男にしか見えず、そう思われるのは極めて不本意だったからだ。到着すると彼は一刻も早くその場を離れたかったのでリザへの礼もそこそこに早足で校舎へと向かった。そして明日からの送り迎えは断ろうと固く心に誓うのであった。
その日、フレイラを伴って受けた午前中の講義もまた衆目を集めることとなった。凛とした雰囲気を感じさせる顔だちに艶やかな黒髪をなびかせた豊満な胸の彼女は地味なグレーのスウェットを着ていても際立つ存在で仙一郎がそばにいるにもかかわらず数人の男どもに声をかけられるほどだった。その度に彼女は丁寧に応じ揉めることなく彼らを引き下がらせたとはいえ、仙一郎はおちおち授業にも集中できず昼を迎える頃には身も心もくたくたに疲れ果てていた。
お昼時、学生で賑わう食堂のテーブルで食べかけのカレー丼を前に大きくため息をもらす仙一郎。出来るだけ目立たず平穏無事に日々過ごしたい彼としては、フレイラがどこへ行っても注目の的なので一緒にいる自分に向けられる好奇の眼差しが痛かった。
「学び舎までお供したのはご迷惑でしたか?」
対面に座るフレイラが心配そうな顔をみせる。
「いや!いや!そんなことは…」
「仙一郎様をお守りするために一度、学内を見ておこうと思いまして。半径五百メートル以内ならば気配を感じられますのでご迷惑なようでしたら付近の森にでも潜んで待機しようかと思いますが。」
「いや!いや!大丈夫だから!フレイラさんは全然悪くないから!」
仙一郎もさすがに彼女にそんなことをさせる訳にはいかないので慌てて否定する。
「そう…ですか…ありがとうございます。」
今一つすっきりしないといった表情のフレイラから目をそらすように仙一郎はカレーを掻き込む。
「ご迷惑ついでにひとつお願いしたいのですが…」
フレイラが申し訳なさそうに仙一郎の方を見る。
「なんです?」
「私のことを、さん付けで呼ぶのはお止めいただけませんか?敬語も必要ありません。仮ではありましても仙一郎様は私のーーー剣の持ち主なのですからフレイラとお呼び下さい。」
「なんだか落ち着いた大人っぽい雰囲気だからついさん付けしてしまうんだよなぁ…」
「お願いします!」
「じゃあ交換条件でのこと様付けで呼ぶのを止めてもらえますか?なんか凄くこそばゆいんで。」
「いえ。それはご勘弁下さい。」
仙一郎の提案をフレイラはにべもなく断る。
「主様を呼び捨てになど絶対に出来ません!仙一郎様は仙一郎様です。」
フレイラが絶対に譲らないという固い意志を感じさせる強い眼差しを向けてくるので仙一郎は即座に白旗を上げた。
「分かりま…分かった。フ…フレイラ。」
「ありがとうございます仙一郎様。」
彼女は深々と頭を下げた。
ちょうどその時、聞きなれた声がする。
「やっぱり先輩だ。」
見るとそこには川相が立っていた。高校の後輩で同じ大学に通う彼女はいつも以上にニコニコしながら仙一郎の肩をポンポンと叩く。
「学内で凄い美人がさえない男と連れ立って歩いてるってウワサが広まってたから、もしかしてと思ったけどやっぱり先輩だったんですね!」
「さえない男ってとこでのこと思い出した訳?ひどいなぁ…」
「ははは!ごめん!ごめん!」
川相は彼の肩をさらに叩きながらケタケタと笑う。付き合いの長い仙一郎は彼女が機嫌が悪い時ほど陽気になることを知っていたので慌ててフレイラのことを言い訳しようとするが、まさか彼女は剣ですとは言えないので言葉につまる。
「お隣に住んでいらっしゃる川相さんですよね?初めまして!フレイラと申します。」
フレイラがすかさず川相に話しかける。彼女のこともアルマから事前に聞いていたのであろう。
「あ!初めまして!」
「ちょっとよろしいですか?」
フレイラは川相を呼び寄せると耳打ちする。
「え!ふむふむ。なるほど…うんうん!」
川相はぼそぼそと小声でささやくフレイラの話に相槌をうつ。
「…という事ですので。この話は内密に。」
「分かりました!まっかせておいて下さい!」
フレイラの話が終わると川相は胸を叩き仙一郎に向き直ると
「先輩!くれぐれも失礼がないように!頑張って下さいね!」
そう告げるとあっさりと去っていったので拍子抜けした仙一郎はフレイラにたずねる。
「何、言った…の?」
「私が某国の姫様でお忍びで日本の庶民の生活を学ぶために仙一郎様に案内してもらってるって。」
「そんな分かりやすいウソを…」
「むしろこの場合、荒唐無稽な話の方が信じやすいんです。おそらく数日中にはこの話が広まって、ちょっかいを出してくる輩も減るでしょう…」
「そこまで考えてたんだ。」
彼女を説き伏せた上、口外しないように念を押す事で逆に噂話として広まることまで考え、さらにお忍びの某国の姫であると嘘をつくことで話しかけずらくするというフレイラのそつのない策略に、ただ驚くばかりの仙一郎であった。
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