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学園祭大騒ぎ その2
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気づけば周りはずいぶん賑わい始めていた。客席はすべて埋まっているし部屋の外で順番待ちしている人もいて、三人は忙しなく駆け回り仙一郎に気を回す暇もないほどだった。客のほとんどがフレイラとリザに視線を注いでいる。おおかたバニーガール姿の美人ウエイトレスがいる模擬店があるとでもウワサが広まったのだろう。仙一郎はコーヒー一杯でいつまでも席を占拠しておくわけにもいかないし自分の絵の展示も確認しておきたかったので店を出ることにした。
フレイラから安全のため大学構内から出ないように釘をさされ、ひとり本校舎から坂を下って絵画棟へと向かう。人々で賑わっている模擬店やイベント会場と違って作品展示をしている絵画棟は人影もまばらで展示している部屋の中もゆっくり絵画を鑑賞する人が数人いるだけで静かなものだった。
仙一郎は自分の作品ーーー部屋の壁一面を覆うほどの大きさの夜桜の風景画を眺め、我ながらよく完成したものだと感心した。色々と面倒事に巻き込まれ集中して制作に取りかかれなかったせいで学園祭の直前はかなり無理することになってギリギリ完成したからだ。
「これ、お兄ちゃんが描いたの?」
突然、呼びかけられ隣を見ると、そこには変わった格好の小学生くらいの少女が立っていた。派手な蛍光色の風変りな原宿系ファッションに身をつつみ、さらに髪はエメラルドグリーンで目はスカイブルー、そして何より変わっていたのはシニヨンキャップで二つにまとめた髪からのぞく耳が尖っていたことだ。仙一郎が固まっていると
「綺麗な絵だけど地味で華が無いから一般ウケはしないよね。」
少女は容赦なく仙一郎の絵を批評する。まったくその通りなので彼はぐうの音も出ず黙り込んでいると。
「あ!ゴメン!私、つい本音が出ちゃうタイプだから。」
「別にイイよ。」
少女はしまったという様な表情をしながらも容赦ない追い打ちをかける。仙一郎が、なんなんだこの子はと思いつつもかろうじて冷静を保とうとしていると、後ろから自分の名前を呼ぶ声がした。
「早見君。」
声の主ーーー美術史の講義で見たことのある初老の教授はゆっくり近づいてくると、やにわに話を切り出す。
「早速だが、ちょっと頼まれてくれないかね?」
教授は、そう言うと彼の傍らにいた少女を指さす。
「その子は親戚の娘さんなんだけどね、将来アクセサリーデザイナーになるためウチの大学に入りたいらしいんだ。それで今日は学園祭を見学に来たんだが早見君、彼女に大学内を案内してやってくれんかね?」
「え、がですか?」
教授は授業で知った顔だったとはいえ突然そのようなことを頼まれるほど親しいわけでもなかったので仙一郎は怪訝そうな表情を見せる。
「それじゃあ、よろしく。」
「え?あ…」
教授は用件だけ言うと、まごつく仙一郎をおいてきびすを返してとっとと去っていた。
「そういうことで、よろしく!私はエーミュ。
」
「えいみゅうっ?」
あまりに奇妙な名前に仙一郎は思わず聞き返してしまう。
目の前にいる少女は、その名前にしても容姿にしても風変りすぎてどうにも理解しがたく、その怪しい雰囲気はアルマやリザの様な人外じみたものさえ感じられたが、もし彼女が危険人物なら今頃、フレイラが飛んできて目を吊り上げ剣を突きつけているであろうから、それは考えすぎなのだろうとは思った。
きっと、エーミュという名前は流行りのキラキラネームで、派手な恰好はともかく尖った耳は先天的なものかもしれないし病の一種なのかもしれないと思うと、どちらにしても無遠慮に訊ねる訳にもいかなかった。
「お兄ちゃん?」
しばらく固まっていた仙一郎を心配したエーミュの声で我に返る。押しつけられた格好になったとはいえ、このまま彼女を放っておく訳にもいかないので結局、彼は校内を案内することにした。
「まあ、とりあえず案内するよ。」
「ヨロシク!」
エーミュが微笑んで右手を差し出したので仙一郎は応じで握手すると
「この指輪、カワイイ!私にちょうだい!」
そう言ってエーミュは彼の右手を両手で握ると人差し指の指輪をじっと見つめる。銀製のケルティク・ノットとよばれる古代の網目文様が入った指輪がアクセサリーデザイナーを目指す彼女の琴線に触れたのか妙に興味を示す。
「これはちょっと…」
「ええっ!ちょうだい!ちょうだい!ちょうだいよぉ!」
さすがにフラガラッハの指輪をあげる訳にもいかないので難色を示すとエーミュは駄々っ子のように大声を上げ握った手をぶんぶんと振った。
「勘弁してくれよぉ…」
そう仙一郎が言うとエーミュは口をとがらせ不満そうな顔を見せ
「じゃあ、色々案内してっ!」
と言い仙一郎の手を引っ張って行った。
フレイラから安全のため大学構内から出ないように釘をさされ、ひとり本校舎から坂を下って絵画棟へと向かう。人々で賑わっている模擬店やイベント会場と違って作品展示をしている絵画棟は人影もまばらで展示している部屋の中もゆっくり絵画を鑑賞する人が数人いるだけで静かなものだった。
仙一郎は自分の作品ーーー部屋の壁一面を覆うほどの大きさの夜桜の風景画を眺め、我ながらよく完成したものだと感心した。色々と面倒事に巻き込まれ集中して制作に取りかかれなかったせいで学園祭の直前はかなり無理することになってギリギリ完成したからだ。
「これ、お兄ちゃんが描いたの?」
突然、呼びかけられ隣を見ると、そこには変わった格好の小学生くらいの少女が立っていた。派手な蛍光色の風変りな原宿系ファッションに身をつつみ、さらに髪はエメラルドグリーンで目はスカイブルー、そして何より変わっていたのはシニヨンキャップで二つにまとめた髪からのぞく耳が尖っていたことだ。仙一郎が固まっていると
「綺麗な絵だけど地味で華が無いから一般ウケはしないよね。」
少女は容赦なく仙一郎の絵を批評する。まったくその通りなので彼はぐうの音も出ず黙り込んでいると。
「あ!ゴメン!私、つい本音が出ちゃうタイプだから。」
「別にイイよ。」
少女はしまったという様な表情をしながらも容赦ない追い打ちをかける。仙一郎が、なんなんだこの子はと思いつつもかろうじて冷静を保とうとしていると、後ろから自分の名前を呼ぶ声がした。
「早見君。」
声の主ーーー美術史の講義で見たことのある初老の教授はゆっくり近づいてくると、やにわに話を切り出す。
「早速だが、ちょっと頼まれてくれないかね?」
教授は、そう言うと彼の傍らにいた少女を指さす。
「その子は親戚の娘さんなんだけどね、将来アクセサリーデザイナーになるためウチの大学に入りたいらしいんだ。それで今日は学園祭を見学に来たんだが早見君、彼女に大学内を案内してやってくれんかね?」
「え、がですか?」
教授は授業で知った顔だったとはいえ突然そのようなことを頼まれるほど親しいわけでもなかったので仙一郎は怪訝そうな表情を見せる。
「それじゃあ、よろしく。」
「え?あ…」
教授は用件だけ言うと、まごつく仙一郎をおいてきびすを返してとっとと去っていた。
「そういうことで、よろしく!私はエーミュ。
」
「えいみゅうっ?」
あまりに奇妙な名前に仙一郎は思わず聞き返してしまう。
目の前にいる少女は、その名前にしても容姿にしても風変りすぎてどうにも理解しがたく、その怪しい雰囲気はアルマやリザの様な人外じみたものさえ感じられたが、もし彼女が危険人物なら今頃、フレイラが飛んできて目を吊り上げ剣を突きつけているであろうから、それは考えすぎなのだろうとは思った。
きっと、エーミュという名前は流行りのキラキラネームで、派手な恰好はともかく尖った耳は先天的なものかもしれないし病の一種なのかもしれないと思うと、どちらにしても無遠慮に訊ねる訳にもいかなかった。
「お兄ちゃん?」
しばらく固まっていた仙一郎を心配したエーミュの声で我に返る。押しつけられた格好になったとはいえ、このまま彼女を放っておく訳にもいかないので結局、彼は校内を案内することにした。
「まあ、とりあえず案内するよ。」
「ヨロシク!」
エーミュが微笑んで右手を差し出したので仙一郎は応じで握手すると
「この指輪、カワイイ!私にちょうだい!」
そう言ってエーミュは彼の右手を両手で握ると人差し指の指輪をじっと見つめる。銀製のケルティク・ノットとよばれる古代の網目文様が入った指輪がアクセサリーデザイナーを目指す彼女の琴線に触れたのか妙に興味を示す。
「これはちょっと…」
「ええっ!ちょうだい!ちょうだい!ちょうだいよぉ!」
さすがにフラガラッハの指輪をあげる訳にもいかないので難色を示すとエーミュは駄々っ子のように大声を上げ握った手をぶんぶんと振った。
「勘弁してくれよぉ…」
そう仙一郎が言うとエーミュは口をとがらせ不満そうな顔を見せ
「じゃあ、色々案内してっ!」
と言い仙一郎の手を引っ張って行った。
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