悪役令嬢は黒の森の守護者に拾われる

柘榴アリス

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第6話

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美しい緑と光に満ち溢れた森…。森に流れる川も透き通って美しく、魚が優雅に泳ぎ、跳ねている。
背中に羽根の生えた妖精や生き物が飛び交い、人間ではない種族が共存して生きている。
木には瑞々しい果実が鳴り、鳥の歌声が聞こえる。日の光が反射して水面がキラキラと輝き、神秘的な光景が広がっていた。そこは、まるで楽園だった。
光と生気を感じさせ、森が生きているかのようだった。

やがて、景色が移り変わる。森の奥地へと景色が変わった。そこには今までの森に生えていた木とは比べものにならない位に大きな木が一本あった。見たことのない黄金の果実に銀の葉が生えた美しい木…。その木の真ん中には空洞があり、空洞の中には大きな光を放つ石のようなものが埋め込まれていた。
光り輝く石は神々しく輝き、それはただの石でも宝石でもないのだと一目で分かる神聖さを感じさせるものだった。
不思議な石の正体はこの森を司る母体の礎であった。まるで感情を持っているかのように石は色が変わる特性があった。天気や季節、朝日や夜明け等の時間になると色が変化していった。

そして、いつも一日に一度は必ずその石が埋め込まれた大木の前に翼を生やした妖精が訪れた。
他の妖精と違い、人間と変わない背丈をしている。人間の外見に近ければ近いほど、それだけ魔力量があるということだ。つまり、その妖精は魔力の高い知性があるということだ。
日に一度、必ず石の様子を見に来て、祈りを捧げている。
やがて、走馬灯のように景色が移り変わる。年数が経てば大木に訪れる妖精の顔ぶれも変わった。

恐らく、この人達は森の守護者や責任者のような役割を担っているのだろう。だから、いつも森の母体である石の状態を確認し、守っているのだと見て取れた。

ある時、石を守護する女の妖精が森で一人の青年と出会った。人間の若い男だった。
青年は傷だらけでもう歩けない程に疲労困憊していた。
彼女は魔力で男の傷を癒した。男は何やら事情があるようで国には帰れないと口にした。
行く当てのない男を彼女は森にいることを許し、住まいの場所も食事も提供した。
そこから、二人は交流を重ねた。男は彼女に愛を請い、彼女はそれを受け入れた。
恋人同士になった二人は甘く蕩ける日々を送った。
しかし、夢の時間は終わりを迎える。

女はあの石が埋め込まれた大木に行く時は、いつも一人で行っていた。
だが、恋人の男がある時から自分もその石を見たいと言い出した。人間の世界では伝説の石と呼ばれているその石を見てみたいのだと。女は断った。あそこは神聖な場所だから私以外は足を踏み入れてはいけないと。
けれど、男が何度も何度も懇願し、少しだけでいい一目だけでいいからと言い募る為、少しだけならという条件付きで同行を許した。大木の周辺には結界魔法が張られている。その結界は女がかけたものだった。
自分以外は誰も入らないようにしていたのだ。その結界を解き、恋人を連れて大木に案内した。
一目見るだけ…。そう約束した筈だった。
だが、大木に埋め込まれた石を見せたその瞬間…、いきなり男が女の腕を掴み、その腕に鉄の手錠をかけた。

女は悲鳴を上げ、その場に崩れ落ちた。鉄は妖精の弱点だった。
鉄に触れると火傷を負い、魔法が使えなくなり、身体から力が抜けて身動きが取れなくなるのだ。
妖精の中でも力の強い女でもそれは例外ではなかった。力の弱い妖精と違って火傷は負わないし、魔法も全く使えないというわけではない。けれど、動きが制限され、使える魔法も弱くなる。

女が地面に膝をつき、何とか起き上がろうとする。
しかし、女が起き上がり、立ち上がった時には埋め込まれた石を無理矢理奪い取った愛する男の姿があった。
女は漸く理解した。この男の狙いは始めから、これが目的だったのだと。
女はギリッと唇を噛み締めた。
やっと、手に入れた!と狂喜乱舞する男に石を今すぐ返すように女は男に叫んだ。
しかし、男はそれを拒否した。これがあれば、自分は無敵だ!何も恐れるものはない!
この力で自分は王になれるのだと目を爛々と輝かせて叫んだ。男は狂気に囚われていた。

女は男から力ずくで石を取り戻そうと魔力を放った。しかし、石の力を手にした男はその魔力を跳ね返した。
鉄で拘束され、本来の力を発揮できない女は無力だった。いや。例え、本来の力を持ってしても石の魔力を手にした敵を相手にすれば同じことだっただろう。
炎の攻撃を浴び、女はそのまま吹き飛ばされた。
そのまま男は石を手にして女の前から走り去った。

「この…、裏切り者…!」

女はよろめきながらも立ち上がり、男の去った方向を怒りと憎しみで歪んだ表情を浮かべ、男の後姿を見つめた。
石の守護を失った森に徐々に変化が訪れる。森がざわつき、闇が森を覆っていく、光が失われていく。
やがて、それは森全体を覆い、あれだけ美しく光と緑に満ち溢れた森は輝きを失った。森は黒い瘴気に覆われ、薄気味悪く、日の光の射さない森へと変貌した。

「裏切った!彼は私を裏切った!愛しているって言ったのに!私に生涯の愛を誓ったのに…!それは全て…、嘘だった!…許さない!許さない…!私は彼を…、人間を…、決して許しはしない…!」

女の絶叫が森に響き渡った。鉄の拘束を自力で抜け出し、女は尚も男を呪った。

「私達、一族にとって誓いは神聖なもの。例え、それが人間であれ、誓いを破った者には死よりも恐ろしい罰を受ける!…あなたはいずれ、その代償を受けるでしょう。」

女は狂ったように笑いながら、叫んだ。

「人間が私達からこの森の宝を奪った…。この恨み…、絶対に許しはしない!
情けをかけ、恩を受けたにもかかわらず‥!
恩を仇で返し、我々に牙を剥けた!私達から全てを奪ったのだ!人間は我らの敵!憎むべき種族ぞ!
この森の守護者の一族である私、アーウェンがここに宣告する!私は…、私達一族は…、人間を決して許しはしない!この先、人間を目にしたら決して容赦はするでない!金輪際、この森に人間は立ち入ることを禁じる!」

強力な魔力を持つ森の守護者である女の呪いの言葉が森中に響き渡った。

それが黒の森と呼ばれるようになった全ての始まりだった。

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