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第八十五話 彼女と私は似ている
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「…大丈夫でしたか?突然、割り込んでしまってごめんなさい。…申し遅れました。私はリエル・ド・フォルネーゼと申します。」
リエルが声を掛けると、子爵令嬢は頭を下げた。それは最上級のお辞儀であり、美しい所作だった。
「ゾフィー・ド・ロンディと申します。五大貴族であるフォルネーゼ伯爵令嬢にお目にかかれて光栄至極に存じます。」
五大貴族を前にしても下級貴族である娘のゾフィーは臆した様子もなく、堂々と挨拶をした。成程。あのロンディ家の令嬢か。
「まあ、ロンディ家の…、お噂はかねがね聞いています。ロンディ商会の取り扱う布や生地はとても上質な物ばかりで…、それに商品として売られているドレスのデザインもとてもセンスが良いと評判ですわね。ゾフィー嬢の手腕は素晴らしいものですわ。」
ゾフィーが驚いた様に目を見開いた。
「私の事を…、ご存知なのですか?商会の事も…?」
「ええ。勿論ですわ。ロンディ家は財政が厳しいため、長女であるゾフィー嬢が家を立て直す為に商会を立ち上げたのでしょう?家族の為、領民の為にそこまでできるなんて立派な事ですわ。誰にでもできることではありません。」
ゾフィー・ド・ロンディ。彼女の存在はリエルも知っていた。財政難である子爵家を立て直す為に彼女は異国の布や生地、絹を取り扱う商会を立ち上げ、見事に成功を収めた。
だが、ゾフィーの行動は貴族界では蔑まれるものだった。女の身で働くなどはしたない。金の亡者。奥ゆかしさの欠片もない女…、そう噂されている。だが、リエルはその噂に賛同できなかった。むしろ、ゾフィー嬢の行動は称賛に値されると思った。
貴族令嬢は結婚で人生が決まるといっていい。だからこそ、彼女達は自分の評判を少しでもいいものにしようとする。だが、ゾフィー嬢はその評判を貶めてでも行動した。それはきっと、家族の為、領民の為にしたことだろう。それは、強い覚悟と決意がないとできることではない。それをできる人間が果たしてこの貴族にどれだけの人がいるだろうか。褒められるこそすれ、疎まれるいわれはない。
「…ありがとうございます。」
ゾフィーは目を細め、微笑んだ。その花が咲いたような微笑みに思わず目が奪われた。
「ゾフィー嬢は侯爵邸のお茶会は初めてですの?」
「…ええ。私はそもそも、お茶会にあまり参加したことがありませんので。…本当はお断りするつもりだったのですが商会でも贔屓にして頂いている侯爵家に礼を欠くことはできませんから。」
「そうでしたの。では、私と同じですね。」
「え?」
「私も欠席する予定だったのに姉が勝手に出席の返事の手紙を出してしまい、強制的に参加する羽目になったのですの。…今頃は孤児院の子供達とレモンパイを食べていた頃でしたのに。」
リエルの言葉にゾフィーは思わず笑った。
「レモンパイ、ですか…。フォルネーゼ伯爵令嬢は領民から慕われていると評判ですけど…、本当なのですね。」
「あなたもそうでしょう?」
「…そう、かもしれません。私の味方は彼ら位です。」
そう言って、悲し気に笑うゾフィーにリエルは自分に似たものを感じた。
「あなたの家族は…、味方ではないのですか?」
「両親は可愛げのない私よりも可愛い妹や跡継ぎの弟にしか関心がありませんの。私は家の恥でしかありませんから。」
リエルは目を見開いた。まさか、自分が助けた筈の家族からもあの貴族達と同じように疎まれているのだろうか。信じられない。彼女のお蔭で今も子爵家は財政を保てているというのに。
―ああ…。そうか。似ているのだ。彼女と私は。
何故、彼女に惹かれたのか分かった。ゾフィーとリエルは似ているのだ。母親に愛されなかった自分と家族に認められずに疎まれているゾフィー。この寂しい目は愛されることを諦めた目だ。リエルは思わず、口に出した。
「ゾフィー嬢。どうぞ、名前で呼んでくださいませんか?私、あなたともっと仲良くなりたいのです。」
「え?わ、私がですか?」
「…駄目、でしょうか?」
「いえ…!とんでもない!…とても嬉しいです。ですが、私は子爵令嬢の身分。五大貴族のあなた様とはあまりにも身分が…、」
「そんなこと気にしないで下さい。友達になるのに爵位など関係ありません。」
「友達…。」
「ええ。私、ゾフィー嬢と友達になりたいのです。私には貴族令嬢にはあまり友人と呼べる方がいなくて…、」
近付いてくるのは五大貴族の娘であるリエルに取り入り、甘い汁を啜ろうとする下心のある令嬢達ばかりだ。そんな人たちと友達とはいえない。
「はい…。私でよければ喜んで。」
リエルはゾフィーの言葉に微笑んだ。
「アルバート。今度、オペラに行ってみない?最近、オペラでは身分違いの男女の恋物語が…、」
セリーナの話に耳を傾けながらもアルバートはふと、会場の隅でチョコレート色の髪の…、リエルを見つけた。リエルは一人ではなかった。緋色の髪の令嬢と楽しそうに話している。
―あの女…、
アルバートはすぐに誰だか分かった。ロンディ家の令嬢だ。確か、あれは姉の方。アルバートは思わず目を細めた。
リエルが声を掛けると、子爵令嬢は頭を下げた。それは最上級のお辞儀であり、美しい所作だった。
「ゾフィー・ド・ロンディと申します。五大貴族であるフォルネーゼ伯爵令嬢にお目にかかれて光栄至極に存じます。」
五大貴族を前にしても下級貴族である娘のゾフィーは臆した様子もなく、堂々と挨拶をした。成程。あのロンディ家の令嬢か。
「まあ、ロンディ家の…、お噂はかねがね聞いています。ロンディ商会の取り扱う布や生地はとても上質な物ばかりで…、それに商品として売られているドレスのデザインもとてもセンスが良いと評判ですわね。ゾフィー嬢の手腕は素晴らしいものですわ。」
ゾフィーが驚いた様に目を見開いた。
「私の事を…、ご存知なのですか?商会の事も…?」
「ええ。勿論ですわ。ロンディ家は財政が厳しいため、長女であるゾフィー嬢が家を立て直す為に商会を立ち上げたのでしょう?家族の為、領民の為にそこまでできるなんて立派な事ですわ。誰にでもできることではありません。」
ゾフィー・ド・ロンディ。彼女の存在はリエルも知っていた。財政難である子爵家を立て直す為に彼女は異国の布や生地、絹を取り扱う商会を立ち上げ、見事に成功を収めた。
だが、ゾフィーの行動は貴族界では蔑まれるものだった。女の身で働くなどはしたない。金の亡者。奥ゆかしさの欠片もない女…、そう噂されている。だが、リエルはその噂に賛同できなかった。むしろ、ゾフィー嬢の行動は称賛に値されると思った。
貴族令嬢は結婚で人生が決まるといっていい。だからこそ、彼女達は自分の評判を少しでもいいものにしようとする。だが、ゾフィー嬢はその評判を貶めてでも行動した。それはきっと、家族の為、領民の為にしたことだろう。それは、強い覚悟と決意がないとできることではない。それをできる人間が果たしてこの貴族にどれだけの人がいるだろうか。褒められるこそすれ、疎まれるいわれはない。
「…ありがとうございます。」
ゾフィーは目を細め、微笑んだ。その花が咲いたような微笑みに思わず目が奪われた。
「ゾフィー嬢は侯爵邸のお茶会は初めてですの?」
「…ええ。私はそもそも、お茶会にあまり参加したことがありませんので。…本当はお断りするつもりだったのですが商会でも贔屓にして頂いている侯爵家に礼を欠くことはできませんから。」
「そうでしたの。では、私と同じですね。」
「え?」
「私も欠席する予定だったのに姉が勝手に出席の返事の手紙を出してしまい、強制的に参加する羽目になったのですの。…今頃は孤児院の子供達とレモンパイを食べていた頃でしたのに。」
リエルの言葉にゾフィーは思わず笑った。
「レモンパイ、ですか…。フォルネーゼ伯爵令嬢は領民から慕われていると評判ですけど…、本当なのですね。」
「あなたもそうでしょう?」
「…そう、かもしれません。私の味方は彼ら位です。」
そう言って、悲し気に笑うゾフィーにリエルは自分に似たものを感じた。
「あなたの家族は…、味方ではないのですか?」
「両親は可愛げのない私よりも可愛い妹や跡継ぎの弟にしか関心がありませんの。私は家の恥でしかありませんから。」
リエルは目を見開いた。まさか、自分が助けた筈の家族からもあの貴族達と同じように疎まれているのだろうか。信じられない。彼女のお蔭で今も子爵家は財政を保てているというのに。
―ああ…。そうか。似ているのだ。彼女と私は。
何故、彼女に惹かれたのか分かった。ゾフィーとリエルは似ているのだ。母親に愛されなかった自分と家族に認められずに疎まれているゾフィー。この寂しい目は愛されることを諦めた目だ。リエルは思わず、口に出した。
「ゾフィー嬢。どうぞ、名前で呼んでくださいませんか?私、あなたともっと仲良くなりたいのです。」
「え?わ、私がですか?」
「…駄目、でしょうか?」
「いえ…!とんでもない!…とても嬉しいです。ですが、私は子爵令嬢の身分。五大貴族のあなた様とはあまりにも身分が…、」
「そんなこと気にしないで下さい。友達になるのに爵位など関係ありません。」
「友達…。」
「ええ。私、ゾフィー嬢と友達になりたいのです。私には貴族令嬢にはあまり友人と呼べる方がいなくて…、」
近付いてくるのは五大貴族の娘であるリエルに取り入り、甘い汁を啜ろうとする下心のある令嬢達ばかりだ。そんな人たちと友達とはいえない。
「はい…。私でよければ喜んで。」
リエルはゾフィーの言葉に微笑んだ。
「アルバート。今度、オペラに行ってみない?最近、オペラでは身分違いの男女の恋物語が…、」
セリーナの話に耳を傾けながらもアルバートはふと、会場の隅でチョコレート色の髪の…、リエルを見つけた。リエルは一人ではなかった。緋色の髪の令嬢と楽しそうに話している。
―あの女…、
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