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第1部 ■■■■■■■ 第1章 運命の象徴
第6話 少女の誓い
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晩餐会から数日後。
朝の光が差し込む書斎で、クラリスは筆記練習の手を止めた。
扉の向こうから足音が近づき、執事アデルが銀の盆を携えて現れる。
「クラリス様、王宮よりお手紙です。」
その言葉に、クラリスは思わず背筋を伸ばした。
盆の上には、厚手の封筒。封蝋には、王家の紋章――双頭の獅子が刻まれている。
彼女はまだ七歳。だが、その重みは直感的に理解できた。
「……私に?」
アデルは静かに頷いた。
クラリスは両手で封筒を受け取り、慎重に開封する。
中には、羊皮紙に丁寧な筆致で綴られた文書が一枚。
《クラリス・ヴェルディア嬢の運命力に鑑み、第一王子レオニス・グランフェルドとの将来的な婚約をここに仮定し、正式な縁談として承認する。》
読み終えた瞬間、クラリスの胸に何かが落ちた。
それは喜びとも、驚きとも違う。
言葉にできない、重たい何かだった。
「おめでとうございます、クラリス様。」
アデルの声が、どこか遠くに聞こえた。
その後、父ヴァルターが書斎に入ってきた。
手紙の内容を確認すると、彼は満足げに頷いた。
「これで、我が一族の未来は保証された。お前はよくやった。誇りに思え。」
クラリスは頷いた。けれど、心の奥では何かがざわついていた。
晩餐会での王族の視線、父の期待、そしてこの手紙。
すべてが、自分を“道具”として扱っていた。
「私だから……選ばれたの?」
小さな声で呟いたその問いに、父は答えなかった。
ただ、彼女の頭に手を置き、静かに部屋を出ていった。
*
翌朝、クラリスは庭のベンチに座っていた。
膝の上には、昨日の手紙。
春の風がチューリップの花を揺らし、その揺れが彼女の心のざわめきと重なっていた。
「クラリス。」
静かな声が背後から届いた。
振り返ると、母リヴィアが立っていた。
いつも通りの落ち着いた身なり。けれど、その目は、何かを探るようにクラリスを見ていた。
「お母様……聞きましたか?」
クラリスは手紙を差し出した。
リヴィアはそれを受け取り、目を通すと、ゆっくりとベンチに腰を下ろした。
「ええ。昨夜、聞いたわ。」
クラリスはうつむいた。
「私だから、選ばれたんですよね……?」
リヴィアはしばらく黙っていた。
その沈黙が、クラリスには答えよりも重く感じられた。
「この国では、これから“運命力”がすべて。人の価値も、未来も、数字で決まる。
でもね、クラリス。それだけが、あなたのすべてじゃない。」
クラリスは言葉に詰まった。
晩餐会での王族の視線、父の期待、そしてこの手紙。
すべてが、自分を“道具”として扱っていた。
「お母様は……この制度、信じていないんですか?」
リヴィアは微笑んだ。
それは、どこか寂しげで、優しい笑みだった。
「信じていないわ。少なくとも、かわいい私のクラリスにこんな顔をさせているんですもの。」
クラリスは胸の奥が少しだけ軽くなるのを感じた。
誰かが、自分自身を見てくれている。
それが、母だったことに、ほっとした。
「でも……私はもう、王子の婚約者なんですよね?」
リヴィアは頷いた。
「そうね。だからこそ数字だけじゃない、あなた自身が婚約者、ひいてはこの王国の将来の妃として、ふさわしくならないといけないわ。」
クラリスはまた手紙を見つめた。
その文字は整っていて、まるで運命そのもののようだった。
「わかったわ。お母様。私、王子の婚約者としてふさわしいレディになってみせるわ。数字だけじゃない、私自身がふさわしいってことを見せつけてやるわ。」
その言葉はあの日からの急激な変化、自分自身のもやもやする感情に対する彼女の答えだった。
運命に導かれながら、でも自分を曲げないと心に誓ったのだった。
*
婚約が決まった日から、クラリスの世界は変わった。
屋敷の空気は一段と張り詰め、使用人たちの態度も微妙に変化した。
「第一王子の婚約者」として扱われるようになった彼女は、まだ幼いながらも、その肩書きの重さを肌で感じていた。
あの日から、学院の入学まで朝は礼儀作法の訓練、午後は王族式の言語教育、夜には運命理論などの講義。
遊びの時間は減り、笑顔も減った。
けれどクラリスは、黙ってそれを受け入れた。
幼い彼女には過酷な日々であったが、同時に少しずつ、でも確実に第一王子の婚約者としてふさわしい成長を遂げていった彼女にとっては、とても充実した日々であった。
すべては自分自身のために。”数字”だけじゃないと見せつけるために。
そして、3年の月日が流れた。
朝の光が差し込む書斎で、クラリスは筆記練習の手を止めた。
扉の向こうから足音が近づき、執事アデルが銀の盆を携えて現れる。
「クラリス様、王宮よりお手紙です。」
その言葉に、クラリスは思わず背筋を伸ばした。
盆の上には、厚手の封筒。封蝋には、王家の紋章――双頭の獅子が刻まれている。
彼女はまだ七歳。だが、その重みは直感的に理解できた。
「……私に?」
アデルは静かに頷いた。
クラリスは両手で封筒を受け取り、慎重に開封する。
中には、羊皮紙に丁寧な筆致で綴られた文書が一枚。
《クラリス・ヴェルディア嬢の運命力に鑑み、第一王子レオニス・グランフェルドとの将来的な婚約をここに仮定し、正式な縁談として承認する。》
読み終えた瞬間、クラリスの胸に何かが落ちた。
それは喜びとも、驚きとも違う。
言葉にできない、重たい何かだった。
「おめでとうございます、クラリス様。」
アデルの声が、どこか遠くに聞こえた。
その後、父ヴァルターが書斎に入ってきた。
手紙の内容を確認すると、彼は満足げに頷いた。
「これで、我が一族の未来は保証された。お前はよくやった。誇りに思え。」
クラリスは頷いた。けれど、心の奥では何かがざわついていた。
晩餐会での王族の視線、父の期待、そしてこの手紙。
すべてが、自分を“道具”として扱っていた。
「私だから……選ばれたの?」
小さな声で呟いたその問いに、父は答えなかった。
ただ、彼女の頭に手を置き、静かに部屋を出ていった。
*
翌朝、クラリスは庭のベンチに座っていた。
膝の上には、昨日の手紙。
春の風がチューリップの花を揺らし、その揺れが彼女の心のざわめきと重なっていた。
「クラリス。」
静かな声が背後から届いた。
振り返ると、母リヴィアが立っていた。
いつも通りの落ち着いた身なり。けれど、その目は、何かを探るようにクラリスを見ていた。
「お母様……聞きましたか?」
クラリスは手紙を差し出した。
リヴィアはそれを受け取り、目を通すと、ゆっくりとベンチに腰を下ろした。
「ええ。昨夜、聞いたわ。」
クラリスはうつむいた。
「私だから、選ばれたんですよね……?」
リヴィアはしばらく黙っていた。
その沈黙が、クラリスには答えよりも重く感じられた。
「この国では、これから“運命力”がすべて。人の価値も、未来も、数字で決まる。
でもね、クラリス。それだけが、あなたのすべてじゃない。」
クラリスは言葉に詰まった。
晩餐会での王族の視線、父の期待、そしてこの手紙。
すべてが、自分を“道具”として扱っていた。
「お母様は……この制度、信じていないんですか?」
リヴィアは微笑んだ。
それは、どこか寂しげで、優しい笑みだった。
「信じていないわ。少なくとも、かわいい私のクラリスにこんな顔をさせているんですもの。」
クラリスは胸の奥が少しだけ軽くなるのを感じた。
誰かが、自分自身を見てくれている。
それが、母だったことに、ほっとした。
「でも……私はもう、王子の婚約者なんですよね?」
リヴィアは頷いた。
「そうね。だからこそ数字だけじゃない、あなた自身が婚約者、ひいてはこの王国の将来の妃として、ふさわしくならないといけないわ。」
クラリスはまた手紙を見つめた。
その文字は整っていて、まるで運命そのもののようだった。
「わかったわ。お母様。私、王子の婚約者としてふさわしいレディになってみせるわ。数字だけじゃない、私自身がふさわしいってことを見せつけてやるわ。」
その言葉はあの日からの急激な変化、自分自身のもやもやする感情に対する彼女の答えだった。
運命に導かれながら、でも自分を曲げないと心に誓ったのだった。
*
婚約が決まった日から、クラリスの世界は変わった。
屋敷の空気は一段と張り詰め、使用人たちの態度も微妙に変化した。
「第一王子の婚約者」として扱われるようになった彼女は、まだ幼いながらも、その肩書きの重さを肌で感じていた。
あの日から、学院の入学まで朝は礼儀作法の訓練、午後は王族式の言語教育、夜には運命理論などの講義。
遊びの時間は減り、笑顔も減った。
けれどクラリスは、黙ってそれを受け入れた。
幼い彼女には過酷な日々であったが、同時に少しずつ、でも確実に第一王子の婚約者としてふさわしい成長を遂げていった彼女にとっては、とても充実した日々であった。
すべては自分自身のために。”数字”だけじゃないと見せつけるために。
そして、3年の月日が流れた。
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