運命力ゼロの悪役令嬢

黒米

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第2章 王立ルミナス学院 1年目

第11話 最初の学力試験

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学院生活が始まってから数週間が経過し、もうすぐ夏を迎えようとしていた。
教室の窓から差し込む光が、机の上のノートを柔らかく照らしていた。

クラリスはいつもの席に座り、制服の袖を整えていた。
隣にはロジーナが座っており、静かに筆箱を開いている。

教室の空気は、少しだけ張り詰めていた。

入学してから数週間。生徒たちは少しずつ学院の空気に慣れてきていたが、今日は何かが違う。

扉が開き、担任のミス・カレナが入ってくる。
黒髪をきっちりとまとめた彼女は、いつも通りの冷静な表情で教壇に立った。

「皆さん、着席を。今日は大事な連絡事項があります。」
ざわめきが止まり、教室が静まり返る。

「来週、春学期の学力試験を実施します。筆記試験は二日間にわたり、王国史、運命力理論、論理的思考、一般教養の四科目です。」

クラリスは背筋を伸ばし、ノートに軽くメモを取った。
ロジーナは小さく息を飲んだ。

「この試験は、皆さんの基礎学力を測るだけでなく、進級時のクラス分けや特別講義の選抜にも関わります。例外はありません。」

その言葉に、教室の視線が自然とクラリスに集まる。
クラリスは視線を感じながらも、表情を変えずにノートを取り続けた。

「試験結果は、学院掲示板にて公開されます。順位も含めてです。」

ざわめきが広がる。

「順位って……全員分?」
「恥ずかしいな……」
「俺より順位低かったら罰ゲームな」
「勝手に決めないでくれる?」

ミス・カレナは一瞥をくれただけで、冷静に続けた。
「試験に向けて、今週から補講も始まります。希望者は申請を。以上です。」

クラリスは、ロジーナの方をちらりと見た。
ロジーナは小さく頷いた。
「クラリス様、頑張りましょうね。私、補講、受けてみようかな。」

クラリスは微笑んだ。
「ええ、私は受けるわ。実力を見せつけないといけませんから。」

その言葉に、ロジーナは嬉しそうに笑った。

*

試験勉強が始まってから、数日が経った。

学院では、試験までの一週間、午前中で授業が終わる特別日課が組まれていた。
午後は自由時間――けれど、生徒たちは誰も遊んではいなかった。

図書室、自習室、寮の個室。

それぞれが静かな場所を選び、試験に向けて勉強をしていた。

クラリスもその一人だった。

補講がある日は、ロジーナと一緒に小教室へ向かい、先生の話を真剣に聞いた。

補講には他にも数名の生徒がいたが、クラリスと同じクラスの生徒はロジーナだけだった。

他の生徒たちは、少し年上の上級生や、別の推薦枠の子たち。

クラリスは、彼らの視線に少し緊張しながらも、毎回きちんとノートを取り、質問にも答えた。

「クラリス様、今日の論理問題、すごく分かりやすかったです」
ロジーナがそう言ってくれるたび、クラリスは少しだけ照れながらも嬉しくなった。

週末には、図書室でロジーナと勉強会を開いた。
長い机にノートを広げ、静かな空気の中で、クラリスがロジーナに教える形になった。
「ここは、王国史の中でも大事なところよ。」
「わぁ、クラリス様って、ほんとに物知りですね」
「ふふ、勉強したからよ。ロジーナも、ちゃんとできているわ」

ロジーナは、クラリスの言葉にぱっと笑顔を見せた。
その笑顔が、クラリスの胸をぽっと温かくした。

図書室の窓から差し込む光が、ノートの文字を優しく照らしていた。

「試験、クラリス様のおかげでいい点数が採れるかもしれないです」
ロジーナがぽつりと呟いた。

「そうね。私も。特待生だからこそ、ちゃんと頑張ってるってところ見せなくちゃ」

その言葉に、ロジーナはまた笑った。
「クラリス様は、もう十分凄いです。でももっと凄くなりそうです。」

クラリスは、少しだけ胸を張った。
「ありがとう。ロジーナも、一緒に頑張りましょう」

こうして、クラリスの試験勉強の日々は、静かに、でも確かに充実していった。

*

試験初日の朝。

クラリスは制服の襟を整えながら、鏡の前で深呼吸をした。
「今日から、試験が始まる。」

窓の外には、春の光が差し込んでいる。

教室の中は、いつもと違う空気に包まれていた。机が整然と並び、生徒たちは静かに着席している。

試験官が歩きながら、用紙を配っていく。クラリスは、ロジーナと少し離れた席に座っていた。

隣の席には誰もいない。それが、少しだけ心細かった。
「試験開始まで、あと三分です。筆記具の確認をしてください。」

クラリスは鉛筆を並べ、消しゴムを置いた。手のひらが、少し汗ばんでいる。
「大丈夫。ちゃんと勉強したから。」

試験官の声が響く。
「では、始めてください。」

*

最初の科目は、王国史。
クラリスは、問題を見てすぐにペンを走らせた。
(第三次北方戦争の英雄は……レイモンド・カスティール。)

補講で習ったことを思い出しながら、丁寧に書き進める。文章の構成も、練習した通りに。
(制度の始まりは、戦争の中で生まれた。でも、それがすべてじゃない。人の努力も、ちゃんと残っている。)

*

次は、運命力理論。
クラリスは、少しだけ苦手だった。
「でも、ロジーナと一緒に練習したから、大丈夫。」

問題文を読み、頭の中で順番を整理する。
「もし運命力が高い人だけが選ばれるなら、低い人はどうなるの?」

クラリスは、答えを書きながら、心の中で考えていた。
“選ばれたことにも、選ばれなかったことにも、ちゃんと意味がある。
それを忘れちゃいけない。”と。

*

2日目は、論理的思考――つまりは作文。
テーマは「わたしが大切にしていること」。
クラリスは、少しだけ迷った。でも、すぐに懐中時計を見て、決めた。

“私は、数字だけじゃなくて、自分の気持ちを大切にしたい。
理由は…”

彼女は、ゆっくりと、でも確かに文章を綴っていった。

*

最後は、一般教養。
これは、入学前の3年間でみっちりやってきたことだった。
クラリスは、落ち着いて問題を解いていった。

*

試験が終わった日、クラリスは講堂を出て、ロジーナと顔を見合わせた。

「どうでした?」
ロジーナが聞く。
クラリスは、少しだけ笑った。
「ええ。ちゃんと書けたと思うわ。緊張しましたけど……。」

ロジーナも笑った。
「私もです。クラリス様が教えてくれたおかげです。」

二人は並んで歩きながら、夕暮れの中庭を通り過ぎた。
風が、チューリップを優しく揺らしていた。

「今日の私は、ちゃんと頑張ったわ。」
確かな手ごたえとともに、クラリスは試験結果が発表されるのを楽しみに待つのであった。
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