運命力ゼロの悪役令嬢

黒米

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第3章 王立ルミナス学院 2年目

第31話 2年目の終わりに

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王立ルミナス学院の講堂には、冬の柔らかな光が差し込んでいた。
高い天井から吊るされた銀の燭台が、冷たい空気の中で静かに揺れている。

クラリスは、制服の襟を整えながら、前列の席に静かに座っていた。
包帯はすでに外れ、課外演習で負った傷は完全に癒えている。

だが、彼女の表情には、どこか引き締まった静けさがあった。

壇上では、学院長エルマー・グレイヴが立ち、終業式の挨拶を始めていた。
「今年も、皆さんは制度にふさわしい努力を重ねてくれました。特に、2年生の課外演習においては、とても素晴らしい行動で王国に希望を示しました」

その言葉に、講堂の空気がわずかにざわめいた。

クラリスが、暗に讃えられていることは誰の目にも明らかだった。

クラリスは、静かに目を伏せた。
(私は……本当に“象徴”としてふさわしいのかしら)

そのとき、隣の席に座っていたセレナが、そっとクラリスの袖を引いた。
「姉様……私、試験の結果、出たの」

クラリスは顔を上げ、妹の瞳を見つめた。
「どうだった?」

セレナは、少しだけ唇を噛んでから答えた。
「学力は……上位だったの。先生が褒めてくれた。でも……実技は、あまり良くなかったみたい。弓術、的に全然当たらなくて……」

クラリスは、微笑みながらセレナの手を握った。
「よく頑張ったわ。数字だけじゃない。あなたの努力は、ちゃんと伝わってる」

セレナは、少しだけ目を潤ませながら頷いた。
「ありがとう、姉様。でも……私、もっと強くなりたい。姉様みたいに、誰かを守れるように。だから、私に剣を教えて」

クラリスは、その言葉に少し驚きながらも、静かに微笑んだ。
「いいわ……私が教えてあげる。剣を握る覚悟があるなら、ね」

セレナの瞳が、ぱっと輝いた。
「ほんとに……?ありがとう、姉様!」

講堂の鐘が鳴り、終業式は静かに幕を閉じた。

*

石畳の通りには白い霜が残り、街路樹の枝には雪の名残がちらほらと見える。
人々は厚手のマントを羽織り、カフェのテラスには湯気の立つ紅茶と焼き菓子が並んでいた。

クラリスとセレナは、学院からの帰路の途中、馬車を少し遠回りさせて王都の中心街を歩いていた。

「寒いけど……空気が澄んでて気持ちいいね」
セレナはマフラーをぎゅっと巻き直しながら、クラリスの隣を歩いていた。

「冬の王都は静かで好きよ。人の声も、馬車の音も、全部が少し控えめになるから」
クラリスは、懐中時計の蓋を指先でなぞりながら答えた。

二人は広場の掲示板の前で足を止める。
そこには、王国の最新の制度関連の情報が貼り出されていた。

《運命力ランキング・冬期更新》
《制度の象徴グッズ、王都中央市場で販売開始》
《“運命力で選ばれる未来”特集:王都新聞》
《低運者向け特別講座》

セレナは眉をひそめる。
「……なんか、変な感じ。数字ばっかり。みんな、誰が何位かばかり気にしてる」

クラリスは静かに頷いた。
「制度は便利。でも、それがすべてじゃない。数字で見られることに慣れてしまうと、自分の本当の価値を忘れてしまうわ」

セレナは、クラリスの横顔を見つめながら言った。
「姉様は、数字だけじゃないって、みんな知ってるよ。いままでも、そうだもん」

クラリスは少しだけ微笑んだ。
「ありがとう。でも、私はまだ足りない。もっと強くならなきゃ。制度の象徴としてもだけど、私自身として」

二人は広場を離れ、通りのカフェに立ち寄った。
店内は暖炉の火が灯り、甘い香りが漂っている。

「クラリス様、セレナ様、いらっしゃいませ」
店主が丁寧に頭を下げる。二人は奥の窓際の席に案内された。

紅茶と焼きリンゴのタルトが運ばれてくると、セレナは少しだけ真剣な顔になった。
「姉様……私、やっぱり剣を握りたい。誰かを守れるようになりたいの。学院で、ユリウス様が言ってたの。“隣に立てる人が必要だ”って。私も、そうなりたい」

クラリスは、紅茶の湯気越しに妹の瞳を見つめた。
その瞳には、迷いのない光が宿っていた。

「……分かったわ。あなたがその覚悟を持っているなら、私が教える。剣は、誰かを守るためにあるもの。あなたがその理由を忘れない限り、私は全力で支える」

セレナはぱっと笑顔になり、両手でカップを包み込んだ。
「ありがとう、姉様。私、がんばる」

窓の外では、雪がちらちらと舞い始めていた。
王都の冬は、静かに、そして確かに、姉妹の新たな一歩を見守っていた。

*

冬の王都を後にしたクラリスとセレナを乗せた馬車は、雪の積もる郊外を抜け、ヴェルディア邸へと向かっていた。

車窓の外には、白銀の野原と凍った小川が広がり、空は淡い灰色に染まっている。

邸宅の門が開かれると、使用人たちが一斉に頭を下げた。
玄関前には、父ヴァルターと母リヴィアが並んで立っていた。

「おかえり、クラリス。よくやったな」
ヴァルターは、クラリスの姿を見るなり、満足げに頷いた。

「セレナも、試験はまずまずだったと聞いた。来年はもっと努力しろ」
その言葉に、セレナは少しだけ肩をすくめた。

「おかえりなさい、二人とも」
リヴィアは微笑みながら、クラリスの髪をそっと撫でた。
「寒かったでしょう。中へ入りなさい。暖炉を焚いてあるわ」

邸内は暖かく、銀の燭台に火が灯り、食堂には果物と焼き菓子が並べられていた。

クラリスとセレナは、家族と共に久しぶりの夕食を囲んだ。

*

その夜、クラリスが書斎で懐中時計を磨いていると、扉がそっと開いた。

「姉様……少し、いい?」
セレナが、少しだけ緊張した面持ちで立っていた。

「もちろん。どうしたの?」
クラリスは椅子から立ち上がり、妹を迎え入れた。

セレナは、書斎の窓辺に並んで立ち、外の雪景色を見つめながら言った。
「本当に、剣を教えてくれる?」

クラリスは黙って頷いた。

「ありがとう、姉様。私、がんばる」

クラリスは、窓の外に目を向けた。

雪は静かに降り続けている。

「明日から始めましょう。まずは、構えから。剣は、気持ちがぶれたらすぐに崩れるわ。だから、心を整えるところからよ」

セレナは頷いた。
「うん。姉様の隣に立てるように、私、強くなる」

その言葉に、クラリスは静かに微笑んだ。
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